「自然!? 自然文明からここまで来たってこと!?」
「スノーフェアリー……!? ヒューマノイドじゃねえの!? そんなにヒューマノイドそっくりなのに!?」
「……ってか、スノーフェアリーってなに?」
漸く起き上がった小さな客人を前に、紅戦線一同はわらわら質問を投げかけてくる。当のポップルは「あの……あたしだって聞きたいんですけれど……」と、さすがにその勢いに、少々気圧されがちだ。
「あの……ここは、どこなんですか?」
「火山要塞ヴァル。オレたちの本拠地だよ」
返答したのはゲットだ。「火山要塞……」物々しいその響きは、自然文明の住民である彼女には聞きなれない。
「で……皆さんが、ヒューマノイド、なんですか……?」
「うん」と、ミサイルボーイ。
「でも、信じられません……皆さん、生き物じゃないみたい……!!」
ヒューマノイドは生まれたときは生身だが、体を改造する種族である、と言う知識はポップルも持っていた。けれどスノーフェアリーの里で話されるお話しや絵巻のそれと、目の前のそれは大きく違っている。自然文明で聞いていたのは、せいぜい手を鎌や剣にしているとか、体に鎖を埋め込んでいるとか、そんなレベルのものだった。けれど、現実はそれどころではない。ゲット以外は体の半分以上、いや、特に背の高い大人たちはほぼ全身を金属で覆っていて、とても生まれた時点では生身だったなんて思えない。まるで、初めからこう言った生き物のようだ。手につけている筒状のもの……要するに銃なのだが……も、鎌などの刃物とは似ても似つかない。
「いや、そうは言っても、ほんとだぜ」タイラーが口を挟みつつ、ゲットの頭に手を置きながら言った。「オレ達も、子供のときはこいつみたいな感じだよ。大人になってから肉体をどんどん改造して、こうなるんだ」
「へー……すごいです……」
紅戦線の一同にとっては、どちらかと言えばこんなことを驚かれる方がすごい、と言う感想が浮かんできていた。彼らにとっては、生身の体を改造することなど当たり前の事だったのだから。
「自然は闘いが好きじゃないって聞いてたけど、ほんとなんだね」ミサイルボーイが、ホーバスにぼそりと言った。
「改造……ってことは、勝手になるんじゃないですよね。やっぱり、魔法をかけてそうなるんですか!?」
「まほう……って、何言ってんだ?」今度はゲット。「手術するに決まってんだろ」
「へえ……? 火文明では、魔法の事をシュジュツっていうの? 呪術じゃなくて?」
「ジュジュツ?」
「キリがねえや、一旦、その話はやめとこうぜ」
そう割って入って来たのは、マイキーだった。そして、後ろには……ボーグが付いてきている。
「えーっと……ポップルちゃん、だったかな。コイツが、この基地の隊長だから。まず、こいつと話しときなよ」
「隊長さん!」
ポップルは慌ててベッドの上で姿勢を正し、ぺこりと頭を下げる。
「こんにちは、お邪魔してます。あたし、スノーフェアリーの春風妖精ポップルって言います。で、こっちが……」
ポップルは腕に抱いているクルトを起こしてみたが、目をバッテンにしてまだ気絶したままだ。
「まだ起きてないんですけど、あたしのお友だちの、予言者クルトさんです」
予言者? その響きにゲットやマイキーは一瞬ピクリとなるも、とりあえずもボーグは落ち着き払い、「……不死身男爵ボーグだ。さっき言って貰ったが、この基地の隊長をやっている」と自己紹介し返した。
「まあ、まずは……目が覚めて何よりだ」
「はい、ありがとうございます!」
「礼なら、こっちのゲットとマイキーに言え。特に、漂着してたお嬢ちゃんを助けたのは、ゲットだからな」
ボーグは立ったまま、ポップルに話しかける。
「状況を手短に説明させて貰うと……そいつから聞いたかもしれねえがここは火文明、ヒューマノイドの本拠地、火山要塞ヴァル、オレ達紅戦線の基地だ。お嬢ちゃんは海岸に倒れてたのをうちのゲットとこのマイキーが保護して……ここに連れて帰ってきた、と言うわけだ」
やっぱり、それには間違いないらしい。ポップルは言葉を一言一句、飲み込む。
「まず聞かせて貰いてえのが、お嬢ちゃんは何者か、ってことだ。ここは自然文明とは国境近くでもねえ。それに……スノーフェアリーなんて種族、聞いたこともねえ。何で、何のために、火文明の海岸に流れ着いていたんだ?」
「えっと……あたし、冒険家になるのが夢なんです! それで……冒険家の先生に、火文明までお船で連れて来てもらってたんです! けど、船が壊れて、先生とはぐれちゃって……」
ポップルはとりあえずも、つらつらと聞かれるがままに説明した。盗賊の盾に連れられて来たことから遡り、リキッド・ピープルに追われていることも、里から離れて自然文明をさまよっていたことも。そして……火は光と縁が深いと聞いたことがない以上、隠す必要もないのではないかと判断し、クルトの事、クルトがガーディアンに追われているということも、時間をかけて全て話した。最も隠そうとしても、ボーグはしぶとく全部聞こうとしていたかもしれない。何にせよ先のようなことがある以上、彼らにとって光文明は警戒しておきたい存在なのだから、「予言者」がなぜここにいるかは、知っておきたいところだったろう。
ともかくも、ポップルの身の上話があらかた終わった頃。
「……すっげー!」
と、ゲットが口を開いていた。
「ポップルって、すげーんだな! そんなにいろいろ旅してるんだ!」
「ほ、ほんと!?」ポップルも、その言葉にパッと嬉しくなる。「あたし、すごい!?」
「すげぇ! すげぇよ! オレ、一人でそんな旅とかしたことねえもん!」
「分かる分かる、そりゃすげぇわ」ムラマサも話に割り込んできた。「オレもガキの頃は野宿して生活してたからな、大変さはよく分かるぜ。そんな小っちゃいのに、大したもんじゃんか」
「えへへ……」ポップルは照れて笑う。なんだか自分が本格的に、冒険家として少し認められたような気分だ。
ゴホンと咳払いを一つし、ボーグは話を元に戻す。
「まあ……ウソはついてないみてえだな。怪しいもんじゃねえのは分かった」
「いや……そんなん、見てわかるじゃん」と、ミサイルボーイ。「どう見てもこの二人、ヤバそうじゃないよ」
「見た目で判断する奴ぁ、痛い目見るぞ、ミサイル。相手を見くびらないのも戦士には必要なこった」
ボーグは釘を刺してからポップルに向き直り、「これから、どうするつもりだ?」と言った。
「先生は……凄い冒険家ですから、たぶん大丈夫です。だから先生と合流して一緒に自然文明に帰れたら、とは思ってるんですけど……」
「どうにしても、すぐは危険だぞ」と発言したのは、マイキーだ。
「君の体が治りきったって保証もねえし……お嬢ちゃんみたいなのが一人でうろつけるほど、いろんな意味でここはガラのいい土地じゃねえんだ。それにそのリキッド・ピープル達も心配だしよ」
「……ま、確かにな」と、ボーグ。ちらりと横を見れば、マイキーも横目で何か言いたげである。
「マイキー。てめえもうちに留まるつもりか?」
「まあな。乗りかかった船だからよ」
「……お嬢ちゃん。もしいいってんなら、暫くうちにおいてやるぜ。ほっぽり出すのも、目覚めが悪ぃ。この医者のマイキーも、一緒にいてくれるってよ。……お嬢ちゃんの先生とやらも、お嬢ちゃんが動き回ってるよりはひと所にいた方が探しやすいだろ」
「ほ、本当ですか!」ポップルはパッと顔を明るくして言った。「ありがとうございます! ヒューマノイドの皆さん……優しいんですね!」
実際……スノーフェアリーの里にいたままだったら、ヒューマノイドが優しい、なんて思うこともなかっただろう。ポップルはひしひしと、その事実をかみしめて感激していた。
自然文明のお話に出てくるヒューマノイドをはじめとする火文明と言うのは、闇にも負けないくらいに欲張りで、乱暴で、秩序を無視する困り者。でもそんな面だけじゃなく、乱暴であってもどこか気風が良くて気持ちよさのある存在……と盗賊の盾からも聞いていたが、こんなにも親切だなんて、思っても見なかった。それこそコートニーやポコペンが彼女らを怖がらせるために語るお話しなら、彼女をドラゴンの餌にしてしまおう、などと話している所だったろう。……仮にそんなことをするとしてもどちらかと言えばドラゴノイドだろうが、ヒューマノイドとドラゴノイドの文化の違いも、自然文明には全く周知されていないのである。
「……同じくらいのガキがいるのも、ゲットのいい刺激になんだろ」
横目で自分の方を見ながらさりげなくガッツポーズをするマイキーの姿を確認しつつ、ボーグはそう呟く。「んじゃ、そう言うことだから」と、マイキーも口を開いた。
「起きたんなら、ひとまず無事かどうか改めて診察させてもらうよ。種族が違うんならなおさら念入りにしなきゃだし……その玉っころのせいで、気絶してるうちはろくすっぽできなかったから」
「え……あ、すみません」
「いや、いいって。よっぽど大切な友達なんだな」マイキーは後ろを振り返って言う。「だから君ら、ひとまず出てけよ。女の子相手だぜ」
そう言われてぞろぞろ出て行こうとする紅戦線のメンバーに、きょとんと首を傾げるポップル。
「え……あれ、なんで皆さん出てくんですか? ヒューマノイドのお話、もっと聞きたいのに……」
「いや、なんでって……」と、マイキー。「小っちゃくても女の子なんだから、男が大勢いる中で診察できるわけないだろ」
それにポップルは、なおさら驚いた様子で言い返した。
「え、皆さん、女の人でしょ!?」
……その言葉に、一斉に固まる紅戦線一同。そして次の瞬間……。
「はぁ!? 誰が女の子だよっ! オレは! 男だぞっ!!」と怒りだすゲット。
「だっひゃひゃっひゃ! オレ達が……オレ達が女って……!!」と笑いだすムラマサ。
「くっくく、ゲットだけならまだしも、オレたちまでもか……これは、まいったな」と笑うホーバス。それに対してもゲットは「おいっ!」と抗議する。
「嘘でしょ~!? スノーフェアリーの女の子ってオイラたちみたいなの!? そんなにゴッツいの!?」と驚くミサイルボーイ。
「あのな……! 悪気なくても、そう言うの結構ショック受けるから、やめてやってくれ……」と、ゲットをなだめながら言うジョー。
「……」ボーグはてんやわんやの中、ぽかんとしていた。そりゃそうだ。生まれてこの方女に間違われたことなんてない。そしてもう一人……タイラーも、何か考え事をしている様子。
「えっ……」
その反応を見て、ポップルも自分の思っていた事が間違いだったと察した。
「わーーー! すみません、すみませんっ!! あのっ……あたしたちの種族って、男の人は皆女の人と姿が違うんです……! 皆さんみんな、元はあたしと似たような姿ってことは女の人の姿だなって思って、つい、そうなのかなーって……!!」
「オレ達だって、結構姿違うと思うけどな……? 体つきとか……」ポップルの脈を測りながら、マイキーがそう呟く。
「いえ、全然そんなんじゃないんです! あたしと皆さんくらいどころじゃなくて……スノーフェアリーの男の子って、まず皮も肉もありませんし、体が雪と氷だけですし……」
「え、なにそれ!? それで生きてんの!?」ゲットは驚いて言い返した。
「う、うん……あたしたちの里では、それが当たり前だったし……」
「ハイハイ、異文化交流は後で……ひとまず、今は君の健康が第一だから」
とりあえずもその場を収めて、他を全員追い出すマイキー。ポップルを寝かせていた小部屋のドアが閉まった。
「……あのよ、ボーグ」
そのタイミングで口を開いたのが、タイラーだった。
「なんだ?」
「スノーフェアリーって聞いて、思い出した。オレ、聞いたことがあるぜ。あの子は……マジで保護した方が、いいと思う」
「ほう。元チンピラのお前がそんな博識だとはな、意外だ」ホーバスが憎まれ口を叩く。
「ま、坊ちゃん育ちのてめーには縁のない情報だろうぜ」
「なんだと……?」
言い合いになる前に、ボーグが咳払いし、あわててタイラーは話を元に戻す。
「ま……むしろ、ホーバスの言う通りなんだ。オレ、ここに来る前は大分荒れてたからよ、結構やべー界隈にも片足突っ込んでた頃もあるんだが……そん時に聞いたことあるんだ。スノーフェアリー……もう何百年も昔からめっきり見なくなっちまったけど、昔から奴隷商人の間ではすげえ高値で取引されてた種族らしい」
その急に飛び出た生々しい単語に、一同はいっせいにしんと固まる。タイラーは続けた。
「全然、聞いた情報とおんなじなんだ。自然文明の奥の方に住んでいて、男は生きて動くでっかい雪や氷の塊で、女はオレ達ヒューマノイドの女と見た目は全然変わらねえ、美人ばっかりの種族だって。しかも……特に女の中には『春』の力を持って生まれるのがいて、それにはプレミア級の価値が付いたんだとよ。……めったに見なくなった今ならそれこそどれほどの値段がつくか、見当もつかねえらしい」
「……あの子、春風がどうとか言ってたな」と、ホーバスもうなずく。
「なるほど」ボーグもうなずいた。「リキッド・ピープルに追われてるってのは、要はそう言うことだったのか……理解できたぜ。水の奴ら、ガメついらしいからな」
「……??」一人だけ理解できずきょとんとしているのが、ゲットだった。その様子を見たジョーが「ま、お前は分かんなくていいんだよ……」と、頭をポンポン叩く。
「えっ、なんでだよ! ずりぃ! オレも知りたい!」
「いいのいいの、ガキは知らなくていいの」タイラーにそう流されて、よりムキになるゲット。
「でもつまり、あいつ水の奴らにいじめられてるってこと!?」
「うんまあ、そんなとこでいいよ」と、ジョーも言う。
「オレ、水、大っ嫌いだ! ガーディアン達も! 決めた! あいつはオレが守ってやる!」
そうぷりぷり怒りながら張り切るゲットをなだめるジョーを尻目に、ボーグも腕を組んで考える。
「こいつぁ確かに……お前の言う通りだな、タイラー。水の奴らだけじゃねえ。オレ達ヒューマノイドだって皆が皆、仁義気にしてるばかりじゃねえもんな……見つけたのがゲット達でよかったぜ。ちっ、胸糞悪ぃこった」