「い~っやほおおおっっっ!!!」
海岸線に火文明の最初の援軍が到着した。アーマロイド《突神兵ドカーン》に騎乗したミサイルボーイとタイラーが大声で叫びながら、ガル海岸に一番乗りだ。
「スゲー、本物のロック・ビーストだ! ……なんて感激できる状況でもなさげだけど」
「こいつぁ水文明の仕業か?」ステンドグラスに覆い隠されのたうつボマーザルスの横で、タイラーが言った。
「しかしどこだよ、そのゾロゾロやってきた水文明たちは……」
その時だ。
ひゅん、とドカーンを貫く、水の銃撃。そして更にひゅっ、と後ろから、タイラーに襲い掛かってくる水の腕。
「おいでなすったか!」
タイラーは撃たれたドカーンの衝撃を逆にバネにして飛び上がって身を翻し、自分を攻撃しようとした兵士に一発、銃撃を入れた。たちまち飛び散る、青い液体状のボディ。
全体像すら見ずに撃ったが、ひょろ長い体をしていた、赤い目を持つ兵士だった。
「なんだ、張合いのねえ……」
その時、着地すると同時にタイラーは気が付いた。自分がぶちまけたその兵士の液体のボディが動き出し、組み合わさって、なんとまた細長い兵士の姿に再生した。兵士、こと《アクア・ソルジャー》は痛みも何もないと言った体でスッ、と格闘の構えを取る。
「何度でも、かかってこい。お前たちは喧嘩好きだと聞いている」
「ほー」タイラーは口笛を鳴らした。「もやし野郎のくせに、根性だけはたいしたもんだ」
「オイラを攻撃した奴はそこかー!?」
ミサイルボーイはドガーンを海岸に向けて動かした。大きな突進にあちらも対抗せんとばかりに水しぶきが吹き上がり、銃撃兵《アクア・シューター》が現れる。
「標的、二体を確認……」
シューターはそういうと、銃を内蔵していなかった方の腕もドカーンとミサイルボーイに向かって差し出す。すると、一瞬でその片腕も銃になった。気が付けば彼の後ろに控えながら援護射撃をするゲル・フィッシュ……これまたサイバーロードの被造物たる人造の魚兵士……《プラズマ・チェイサー》の群れもいつの間にやら現れている。
「後ろの奴らから倒してやるぜ!」ミサイルボーイは背中のミサイルの照準を、プラズマ・チェイサーたちに合わせた。
「レディーズ、アンド、ジェントルメン。ふっとびな!」
そして発射……されたと思えば、その瞬間。アクア・シューターが飛び上がり、姿を変えた。
「攻撃を確認。防御態勢に移行する」
彼の両手の銃が瞬時に巨大なゼリー状の盾に姿を変える。そして、ミサイルボーイのミサイルを包み込んだ。
減速し、冷却されたミサイルは、勢いを失って空しく水の下に沈んでいく。
リキッド・ピープルたちの不定形の体は変幻自在。彼らはプログラムによりその能力を替えるのだ。
「へえ……」ミサイルボーイも、タイラーと同じように笑う。「やるじゃん。水なんて頭でっかちなだけかと思ってたぜ」
その時だ。空が轟き、炎が降ってくる。
「紅戦線の奴らだ!」という声までともに降ってくる。
「ちっ、先を越されたか」と言ったのは、騎兵曹長キュラトプス。ドラゴノイドたちもアーマード・ワイバーンに騎乗して水文明との戦争に駆け付けたのだ。
「なんだ、あのトカゲども」タイラーが言う。「邪魔すんな、こいつは俺らの獲物だ!」
「そいつはどうかな」と、キュラトプス。
「ゆけ、《メタルウイング・ワイバーン》!」
キュラトプスの騎乗するワイバーンが、大きなエンジン音を轟かせ、凄まじい勢いで水の軍隊に向かって砲撃する。だが、それを止める者が現れた。
ゲル・フィッシュの防衛部隊たちが、水中から跳ね上がって攻撃を封じ込める。両肩にリボルバーを背負った《リボルバー・フィッシュ》が、リボルバーの一撃でメタルウイング・ワイバーンの砲撃を打ち消したのだ。
「負けるか!」メタルウイング・ワイバーンは再び砲撃、今度はリボルバー・フィッシュの一匹を撃ちぬく。緑の体が轟沈され沈んでいくが、だが、いかんせん相手の方が数が多い。
暫く砲撃を繰り返すも、分が悪いと判断したキュラトプスは一度後方に引き返そうとする。だが、その時。複数のゲル・フィッシュが高く飛び上がり、空中を泳ぐようにしてメタルウイングを追撃しだした。プラズマ・チェイサーの別部隊だ。彼らはチェイサーの名前通り自動追尾システムを搭載されたゲル・フィッシュ……これでは逃げるのもままならない。
「いいよいいよ、いいかんじ!」トロピコは後方でほくそ笑む。
火文明のタイマン好きであまりチームワークを重視せず、また心底戦い好き故に不利な状況ならば喜んで打開したいと考える戦闘スタイル、そして更に二種族のライバル心に目を付けた、作戦名『ディープ・オペレーション』。一体の敵を必ず複数で相手し、「自分一人でこの状況を打開したい、大嫌いな相手に自分たちの強さを見せつけるためにも」という思考回路に誘導し、相手方に数以上の力を出させない作戦だ。
「じゃあ、ここらへんでボクのしんはつめいのとうじょうかなっ!」
●
「ピコラ、これ直せる?」
一方、火山要塞ヴァルで留守番中のゲットとピコラ。彼らは今、紅戦線のメンバーが残して言った武器の修理をしていた。
「簡単簡単。叩けば直るよ」
そう言ってピコラが、ハンマーに角度をつけつつ数回ガンガンと叩く。それで本当に直るのだから、マシン・イーターの技術も大したものだ。
「これで大体終わりかな、休憩しよう!」
ピコラが、まだむくれたままのゲットのコートの裾を引っ張る。「ぼくのおやつ、あげるよ!」
「ありがと……」
しっかりと袋に入ったビスケットは貰いつつ、ゲットはやっぱり不機嫌そうだ。
「ゲットは、本当に戦いたいんだね」
「あったりまえだろ!」彼は胸を張った。「オレは将来機神装甲を着たいんだもんよ!」
ゴーグルの奥の目をキラキラ輝かせて、ゲットは言った。ヒューマノイド戦士なら、誰もが見る夢を。
「下積みも大事だよ。ボーグさんにだってきっと、君みたいな時があったよ」
「ボーグに?」
「そうだよ。ボーグさんだって、生まれた時から強かったわけじゃないでしょ?」
「そっか……」ゲットは彼の言葉を聞いて、少しの間考え込んでいた。
「でも、やっぱり戦場に行きてーな……」と、ぼそりと呟きながら。
実際に戦場で腕を振るいたいのもあるのだろうが、それ以上に、仲間だと思っている戦士たちから仲間はずれにされているようで、寂しいのだろう。と言うところまで、ピコラは良く分かっていた。ピコラの短い腕ではゲットの肩には届かないので、代わりに腕をよしよしと撫でて、ピコラは言う。
「ゲットはがんばってるもん、すぐに二つ名ももらえるし、戦場にも行かせてもらえるよ」
●
トロピコがボタンを一つ押す。すると、彼の乗るカプセルを支えていたゲル・フィッシュの頭部が急に外れた。
「あばれてこい」
トロピコはその新発明のゲル・フィッシュ、《ソーサーヘッド・シャーク》に命令する。細長い胴体部だけになったソーサーヘッド・シャークはきらりとした光線を放ちながら、猛烈な勢いで戦場の中に突っ込んでいった。
「ソーサーヘッド・シャークだ!」沖合から突っ込んできたしぶきを見てリキッド・ピープル達は叫ぶ。
「総員、一時退避!」
彼らはそう言って、海の中に飛び込み、あっという間に海水と一体化して見えなくなる。何事か、と思ったヒューマノイドとドラゴノイド軍の中に単身飛び込んできたソーサーヘッド・シャークは、大量の光線を無差別にふりまき、暴れ始めた。
「うわっ!」
もろに喰らってしまったミサイルボーイは、そのままステンドグラスに飲み込まれているロック・ビーストに激突して、気絶してしまった。ソーサーヘッド・シャーク、トロピコの生み出した無差別大量破壊兵器の力を前に。
「おのれっ、よくもミサイルを!」
ホーバスがソーサーヘッド・シャークに照準を合わせる。だが不規則に激しく動き回るソーサーヘッドにはなかなか照準は合わない。そのくせ、不規則に見えても計算されつくしているのだろうか、ヒューマノイド、ドラゴノイド双方から浴びせられる銃撃の雨を彼は楽々と躱しつつ、破壊光線を振りまいていた。
不意に、きらり、とした光がホーバスの鎧越しの目に届いたとき位は、もう遅かった。急いで放った砲撃はせいぜいダメージの軽減程度にしかならず、光線の威力を打ち消すには及ばない。ホーバスもソーサーヘッドの攻撃を喰らい、地面に倒れ伏した。
「メタルウイング、砲撃だ!」
上空からキュラトプスも命令する。メタルウイング・ワイバーンの両の翼に設置された砲台から、散弾銃が一気に発射された。だが、その時。ゲル・フィッシュ部隊が水上から飛び上がり、一糸乱れぬ統率でソーサーヘッドの身を守る。
そして、きらりと一閃。次の瞬間ソーサーヘッドの光線がワイバーンの背中に乗るキュラトプスを見事打ち抜き、空中に落とした。
無念。その思いが、キュラトプスの頭によぎる。
自分はここで、死ぬのか。
このような無様な死に方をしては、ドラゴンへの転生もかなわなかろう。
そう思い、空中にふわりと身が舞った。メタルウイングの、主を思う鳴き声が聞こえた気がする。しかし、次の瞬間。彼は急に体を支える力を感じた。
「ユーカーンさん!」
目を開けると、ユーカーンが自分のワイバーン《ストームジャベリン・ワイバーン》に乗り、キュラトプスを助け出したのだ。
「良くやった、キュラトプス。後は後方で休んでいろ。あの追跡部隊がいない今がチャンスだ」
「ユーカーンさん、ふがいないです……」
「後は、我々に任せておけ」
ユーカーンはキュラトプスを一人のドラグライドに任せると、自分でソーサーヘッドに向かっていった。ソーサーヘッドが破壊光線を放つ、まさにその方向に。
彼は破壊兵器として造られたゲル・フィッシュ。怯むこともなく、砲撃は行われた。だがユーカーン、ドラゴノイドの王は真っ向からそれを受け止め、弾き返した。
「愚かな! この赤き鎧に、そのようなちゃちな攻撃は効かん!」
頭のないソーサーヘッドに、その事実や言われている事は分かっているのだろうか。だが分かっていずともどうでもいい。ユーカーンは砲撃の姿勢を取る。それを見透かしたかのようにやはり水中から飛び上がってくるゲル・フィッシュ部隊。虹色の鱗の《ファントム・フィッシュ》とリボルバー・フィッシュ達だ。だがドラゴノイドの勇士と認められたユーカーンの攻撃は、そんな魚ごときに遮られるものではない。輝くゲル・フィッシュの体は、砲撃を止めつつも次々飛沫の如く四散していった。
「舐められっぱなしってわけにもいかねえな」
紅戦線からも兵士が一人、立ちあがった。どうやら悠長にしている暇はないらしい、とボーグも判断した。
ガシャガシャと音を立てて、鎧が変形する。戦場に、機神装甲ヴァルボーグが舞い降りた。
「ヴァルボーグだ!」今までボーグと戦闘していたリキッド・ピープル部隊は慌てふためく。だが、ボーグはもはや彼らなど相手ではないとばかりに、容赦なしに鉄球を振り下ろし、リキッド・ピープル達は一瞬で一斉に吹っ飛んで行く。
「来やがれ、てめえはオレの獲物だ!」
ボーグはソーサーヘッド・シャークに向かっていき、鉄球を振り下ろす。だが、それがユーカーン、まさに今ソーサーヘッドと交戦中の彼の癪に障った。
「邪魔をするな!」
ユーカーンにとっては、死にかけた部下の仇討。憎いヒューマノイドの隊長に邪魔をされることは、全くもって面白くない。もちろんボーグとて部下を傷つけられたことは同じだが……。
「下がっていろ、トカゲ野郎!」
「こちらの台詞だ、機械野郎!」
そう彼らが言い合っている隙に、ソーサーヘッドは急に動きを止めた。『もう、いいかな、かえっておいで』と、沖合でトロピコが出した指示が、彼らに聞こえていたはずもない。戦場を滅茶苦茶に乱すだけ乱したソーサーヘッドは一瞬で海に向かい、消えていった。
『おまえたちっ! でぃーぷ・おぺれーしょん、さいかいっ!』
そして混乱冷めやらぬ中、再び海上から湧き上がるリキッド・ピープルとゲル・フィッシュの群れ。アクア・ソルジャーも再びタイラーと剣のように鋭利な腕を交わした。
「どうした? まさか逃げたと思ったではあるまいな」
「ふ、ふっざけんじゃねえ……!」
倒しても倒しても復活する相手。彼一人に構っているのが時間の無駄だとは百も承知だったが、火文明の戦士としてのプライドが、タイラーに逃げ、とも見える行動を許さなかった。頭でっかちのもやし野郎、と見くびっていた水文明の兵士がしないのならば、なおの事。
そしてそう考えているのはタイラーだけではない。お互いがお互いの相手と共に消耗戦を繰り広げる。それこそ作戦名・ディープ・オペレーションの掌の上。
そのうちソーサーヘッド・シャークの胴体部は、主人のもとに帰った。トロピコは自分が乗り込む頭部を操作し、胴体部にドッキングする。うんうん、と彼は満足げにうなずいた。
「やっぱり、とうぶにどっきんぐするのはおとこのろまんだよな!」
「爆勇士ユーカーンを発見。特別、大人数で当たれ」リキッド・ピープル達は口々にそう言う。
リキッド・ピープルの兵士《アクア・ナイト》がゲル・フィッシュ部隊を従え、ユーカーンと、彼の護衛につくドラグライド《襲撃者エグゼドライブ》と戦っている。
アクア・ナイトはアクア・ソルジャーと同じだった。攻撃してもしても、飛び散った水しぶきから再生する。
「このままじゃ埒があかねーですよ、ユーカーンさん!」
「気弱になっている場合ですか?」アクア・ナイトはまたしてもずるずると復活しながら、彼らを挑発した。
「あなたは、水の中にいる」
「え?」
「あなたに、水が襲いかかる」
怪訝に思ったエクゼドライブと、彼の愛用のワイバーン《エクゼズ・ワイバーン》の背後から、不意に鎌のような腕を携えたリキッド・ピープルが猛烈な勢いでとびかかって来た。エクゼドライブ達はそのまま、地上に落下していく。
「ありがとうございます、《アクア・スナイパー》」
「ユーカーン。お前の攻撃など、全て通らぬと思え」ナイトに礼を言われた兵士、アクア・スナイパーはにやりと笑って告げた。
「ふざけるなっ……!」
ユーカーンが砲撃を加えると、それをさっとアクア・ナイトが受け止める。倒しても倒しても復活する彼の方が。アクア・スナイパーはまたしても水の中に隠れてしまう。
こんな相手に構っていてもどうしようもない。仲間たちを援護しなくては。そうは思っても、水文明の防衛部隊に防がれてしまうのだ。
「ユーカーンやヴァルボーグへの援護を許すな!」防衛指揮を取るリキッド・ピープル《アクア・ガード》は、ゲル・フィッシュ部隊に叫ぶ。
「ディープ・オペレーションを実行するのだ!」