「……と、言うわけですので、アクア・レンジャーさん、アクア・グラップラーさん。至急、アカシック3にお戻りください。後はわたくしが受け持ちますので」
「……いや、というか、誰だお前」
ガル海岸沖の水中。待機を命じられていたレンジャーとグラップラーの前に、一人のリキッド・ピープルが現れた。
「申し遅れました。わたくしは《アクア・エージェント》。本職は諜報部勤務ですが、臨時でブル―グレー商会へ雇われて参りました。以後、よろしくお願い致します」
ぺこりと頭を下げる見慣れない彼を前にまだ戸惑っている様子のアクア・グラップラー。
「アクア・エージェント……コードAGよ、名前は聞いたことがあるぞ。諜報部のエリートだとか」
「言われるほどではございません」
「つまり……なんだ。オレ達はもう仕事を下ろされたのか?」
と、問うアクア・グラップラーにてきぱきと返すアクア・エージェント。
「いえ、ターゲットが内陸で保護された可能性が大きい以上、わたくしが情報収集、および経過観察を任されたと言うだけの話にすぎません。アクアン様からはアカシック3に戻り待機するように、と言付かっております」
「……わかった」
アクア・レンジャーはまだ腑に落ちなさそうな相方を抑えてそう答える。面白くないのは自分も同様だが、アクアンの命令なら逆らうわけにはいかない。
「かたじけない。では、よろしく頼む」
「はい、お任せを」
アクア・エージェントとそう挨拶を交わし、その場を離れる二人。彼らを見送ったのち、アクア・エージェントは腕に付けた端末からマップを展開する。目標は……火山要塞ヴァル。
●
「ボーグ! ちょっとこっち来てくれよ!」
火山要塞ヴァルにて、ボーグを呼びとめたのは、ムラマサだった。彼に手招きされるままに辿りついたのは、デューンゲッコーの飼育舎。
ムラマサ・リザードの前にたどりついた彼は、ムラマサ・リザードの寝そべっている藁をばさりと散らばす。
「見てくれよ! オレのリザード、全然卵産まなくなっちまったんだよ!」
ムラマサ・リザードは戦闘用種としても申し分ないが、優秀な繁殖種のメスでもある。普段の彼女は一年に何度も、彼女同様に優秀なデューンゲッコーを産む。紅戦線のデューンゲッコーの繁殖の立役者だ。
その彼女が、ここの所さっぱり卵を作らなくなってしまったのだ。健康面の方もどこかぐったりとしてしまい元気がない。紅戦線に所属する前から彼女をパートナーにして生きてきたムラマサは、心底心配そうだ。
「マイキー先生に診てもらったんだけどよ、病気じゃないって……でも、明らかに普通じゃねえよ、心配だよ……」
ボーグは頭を抱えた。ムラマサやリザードの事も勿論心配であるし、もっと世知辛い点でも気がかりだ。デューンゲッコーが卵を産みづらくなったのは彼女だけに限った事ではなくあちこちで起こっているらしい事で、食肉や騎乗用の種の獲得が困難になるのは、時間の問題だ。
例の大爆発でも、火山噴火に慣れている自分達火文明はあまり被害を被らなかった、と思っていた。しかし、環境の変動はやはりじわじわと自分たちの生活を蝕んできているのだ。
地殻変動の影響でマナの純度が下がり、ただでさえ痩せた土地なのに作物や家畜は元気をなくし、実りを産まなくなってきている。いくら山肌に生きる民とは言っても、岩石や石油を食べて生きるわけにはいかない。食料問題は深刻だ。マナの採掘場にも不純物が多くなだれ込み良質なマナを発掘できる場所が限られてきたため、マナの奪い合いも激化している。
水文明のような瞬間的被害ではないにしろ、火文明もじわじわと、変わってしまった世界に苦しめられている。そう、ボーグは自覚していた。
ところで、紅戦線の兵士は今日も今日とて訓練。射撃の音や、組手の掛け声がこだまする演習場の隅……倉庫の裏で、ポップルも魔術の鍛錬に励んでいた。
いつものように浮遊結晶を生成しようと念じる。念じるだけで親切に力を貸してくれる自然文明のマナを使っての魔術とは少し勝手が違う分、より一層精神力が問われる思いだ。それでも最近、火文明のマナとは少しずつ仲良くなれている気がしていた。手ごたえを感じる。杖の先に、何かが放出され……。
ごく小さな霧がふわりと一瞬立ち込めて、消えた。凍り付くまでには至らなかったらしい。
それでも形にできただけでも進歩だ。
「あ! なんか出たじゃなイ! やったネ!!」隣で地べたに座って見守っていたクルトが、パチパチ手を叩いてくれた。
「うん、よかった……!」
そう言いながら、魔力をかなり使ってしまい疲れて、ポップルは少し休憩することに決めた。
手ごたえから思ったのだが、火文明のマナは性格が違うだけではない。こう言ってしまうのも何だが、純度が悪いのだ。マナたちもそれを気持ちよくは思っていないらしいが、ポップルにはどうもできない。純度の下がったマナは当然、エネルギー源としての力は格段に落ちる。浮遊結晶が簡単にできないのは、そう言う事情もあったのだ。
もっとも、良いマナを使えば簡単に強い魔術が使えるのは当たり前。一流の魔術師ほど、どんなマナからでもその力を借り、魔術を繰り出せるらしいのだが。
クルトを抱き上げて、火山要塞ヴァルの中を少しぶらりと散歩する。みんな、忙しそうだ。
入り口近くに来た時、門が開いて一人のヒューマノイドが入ってくるのが見えた。アーマロイドに乗せた大きなかごを運んでくる。タイラーが、ちょうどそれに応対していた。食料の搬入とのことだったが……ポップルはそれを横から見て驚く。あれが食物?
ひょいひょい取り出される芋や野菜、自然文明でみる物の三分の一ほどの大きさしかない。卵も半分ほどの大きさ。自然文明の物と質が変わらないのは、水文明の領域で生きているフィッシュくらいだ。
ただ、タイラーもそれを見て「小さくなったなぁ」と溢していたあたり、少なくともあれが火文明の標準ではないらしい。
「オレだってそう思ってるよ、でも今はこんなんばっかだぞ」
農家らしいヒューマノイドがそう言い、タイラーもそれ以上文句は言えなかったのだろう。食料は倉庫に運ばれていく。
「今、火文明って、食べ物が足りないのかも」と、それを見てポップルは言った。もしもマナが不純なのが元からでなく最近そうなっていると言うなら、大地からマナのエネルギーを受けて育つ作物に影響があるのは当たり前だ。家畜も、質の落ちた餌を食べさせられれば元気もなくなる。
「そうなんダ……あんまり食いしん坊しちゃ、ダメってこト……?」
「それもあるけど」と、ポップルはまた、歩きながら話す。
「なんだかヴァルの皆さんに悪いなあって。自分たちも大変なのに、面倒みてもらって……」
孤高の願や盗賊の盾同様、ゲットを始め、火山要塞ヴァルの面々はとても親切に自分を匿ってくれる。……けれどもただでさえ食料不足なのに、居候させてもらっているというのも、なんだか非常に悪い気がしてくる。
「そうなノ? うーん、それもそうなノかなア……」と、クルトも考え込む様子。
「なにか、あたしもお手伝いできないかな……」と、ポップルは呟いた。
そして、一時間後。
自然文明では、仕事は皆で分けあってするのが普通だ。子供も、子供なりの仕事をこなす。
だけれども、火文明は少し勝手が違うのかもしれない、とポップルは思った。
裏方仕事をしているヒューマノイドたちに手伝いたいと言っても、皆に笑って断られたのだ。「気持ちは嬉しいけれど、これ、キミが持ったら潰れちゃうだろ」など。「それに雑用も下積みの一環だからさ。お客さんに手伝ってもらうわけにはいかねえんだ。ボーグにどやされちまう」などなど。
ポップルは手持無沙汰にうろうろするばかりだ。「うーん……」と考え込みながら。
「お手伝いできること、ないね……」
「そうだネ」
「これで、いいのかなぁ……」
腑に落ちなさそうなポップルに「いいんじゃないノ……?」と、こちらもこちらで腑に落ちなさそうなクルト。クルトも、一応はライトブリンガー。同種族の中でははみ出し者とはいえ光文明全体からすれば上げ膳据え膳の身分、ガーディアンやイニシエートに身の回りの事をしてもらうのが当たり前の種族なのだ。大変な中無条件で養ってもらうわけにもいかない、何か手伝わないと、と言う彼女の気持ちは、否定もしなかったが完全には分かりかねる所もあった。
「よくないよー。大変な時にはみんなで助け合うのが自然の秩序だって、教わったよ」
「あ、そっかァ……」
でも、実際自分にできる仕事がないのも確かだ。浮遊結晶も作れない今、ヒューマノイドの戦士がするような力仕事なんて自分にはできるはずもないし、掃除も料理も、得意じゃない。
なにか、自分にもできる仕事がないだろうか……そう思ってた矢先、ポップルは廊下の先にゲットを見かけた。
「あ、ゲット!」
彼は、リュックサックの中に荷物を背負っていた。ツルハシや、ハンマー。自然文明で見るそれよりも、重くて強そうな印象を受けた。特にハンマーは自然文明では大体石作りなのに、火文明のそれは丸ごと黒光りする鉄の塊だ。
「凄い荷物だけど、どっか行くの?」
「おう! マナの採掘だぜ! すぐ帰るからな!」
「マナ……? え、マナを、採掘するの? そんな道具を使って?」
「え? マナが無かったら、何もできねえじゃん」
勿論、そんな話ではない。
自然文明なら、どんなに小さな集落でもマナの魔術師が一人はいて、マナを必要なだけ呼び出してくれる。なんなら、地面から勝手にマナが湧き出てくる場所すらあるから、住む場所によっては魔術師すらいらない。惑星中のどこよりも大量の生命を抱えるフィオナの森は、抱えるマナの量もぶっちぎりで世界一。自然文明にとってマナは、わざわざ力仕事をして採掘する対象ではないのだ。
しかし、他文明ではそうではない。マナは地中深くに眠っているものを直接取り出し、採取するものだ。特に固い岩肌の大地の火文明なら、その作業は過酷を極める。ゲットの話を聞いて、ポップルもようやくそのあたりの事情を理解した。そして、気分が明るくなる。自分も、新米とはいえマナの魔術師の一人だ。
「ねえ、あたしも連れてってよ!」
「え、ポップルちゃんが付いてくの?」
と言ったのは、ミサイルボーイだった。今日採掘に行くのはゲットとジョー、それにホーバスとミサイルボーイ。すでに外にアーマロイドを待たせ、出発準備をしていた。
「はい! 絶対お役にたちます!」
「気持ちは嬉しいが、無理だろ」ホーバスがバッサリ言った。
「そんなことないです! あたしも大したことはほんとに何もできませんけど……マナを呼びだすなら出来ます!」
「マナの採掘はオレたちのトレーニングも兼ねてる重労働だぞ。訓練してるわけでもねえ女の子には無理に決まってる。なんなら足手……」
「あのねぇ! 自然文明に帰るまでに体壊したら、元も子もないと思うんだ! 先生も心配するし!!」
流石に嫌味なホーバスにこれ以上言わせてはいけないと思ったのか、ミサイルボーイが慌てて遮った。
「自然文明では土が柔らかいのかもしれないけど、火じゃ難しいと思うよ!」
「あのっ……そんなんじゃなくて、あたし、そもそも……」
「オイラたちに遠慮しなくていいからさっ!! ね!? 自分のえーっと、魔術だったかな、その修行の方に集中してよ!」
ホーバスが余計なことを言わないかと神経を張りつめつつ、とにかく早く彼女に帰ってほしげなミサイルボーイ。そんな彼に、ポップルも押され気味でなかなか言葉を挟む隙がない。
だが、その状況を破ったのがゲットだった。
「おいっ! いーかげんにしろよっ、ミサイル! ポップルはな、オレ達と同じぐらいすげーんだぞ! 魔術ってのは、マジで信じらんねーことができるんだからな! マナなんてちょちょいのちょいだぜ!」
「ゲ、ゲット……その……あたしはほんとに、そこまでは全然すごくないんだけど……」
「ホーバスの言うことなんか気にすることないからな! こいつ、すっげー照れ屋だからいっつも悪口しか言えねえんだよ!」
「ハ、ハアッ!? オレのどこが照れ屋だとっ!?」
「顔全部覆っちゃってんのは照れ屋だからだろ!?」
「冗談じゃねえ! 顔覆ってるなんて珍しくもなんともねえだろ!」
「ジョーはオレの味方だろ!? なっ!? ポップルも、一緒に来てもいいだろ!?」
怒涛の勢いで抗議し倒すゲット。やはり紅戦線メンバーと長く暮らしている分、話し方も自然と身についているのだ。
「……兄貴ぶれるのが嬉しくってしょうがないんだぜ、ゲットの野郎」ぼそりとホーバスが、ミサイルボーイに言う。ミサイルボーイは苦笑い。ジョーはその間、じっと考え込んでいた。
「……いや、すまん、ゲット。オレも、やっぱり無理だと思う」
「はぁ!?」
怒ってジョーの髪を引っ張るゲットに、あわてて「まっまて! 落ち着け!」と言葉を返すジョー。……ポップルは自分の事なのに、おろおろしている以外出来なかった。
「いや、ポップルちゃんが仕事できるかどうこうとかよりよ! 今日行く所どこだったか思い出してみろ!」
「えーっと……灼熱ドゥル山脈だろ! それがどうか……あっ」
「……理解できたろ」
ようやく少し落ち着いたらしいゲットを見て、ため息をつくジョー。ポップルは勿論、理解できない。
「えーっと……それって……?」
「火文明の中で有数の活火山地帯なんだよ。マナは活火山でよく取れるし、うちの基地からはあそこが一番近いんだ」と、ジョーが説明する。
「そうなんですか」
「でな……マグマが活性化してるから、火文明の中でもすっげー暑いの。ポップルちゃん、ロック・ビーストの熱さにあたって倒れた位なんだから、そんな所に行くのは危ないだろ」
「そ、そうなんですか……で、でもあたし、大丈夫ですよ、そろそろ火文明の暑さにも慣れてきましたし……」
「ちなみに、平均気温は80度な。火口近くは100度も珍しくねえ」
「……無理かも、です……」
信じられない数値を聞いて、さすがに縮こまるポップル。そんな中に当たり前に行こうとするヒューマノイドは、やはり違う種族なのだと実感させられる。
男性と違って雪と氷の体はしていなくても、やはり雪の妖精である自分は暑さには弱いのかもしれない、とここの所思い知らされる。一年中寒い土地でしか暮らさないから、分からなかった。
縮こまってしまったポップルに膝をついて目線を合わせ、「ま、そう言うことだからさ。気持ちはありがたく受けとっとくよ。無茶してまで気を遣わなくて大丈夫だから」と、ジョーは話した。
……と、そんな中。
「いいんじゃねえのか、ここまで言っているんだ、付き合ってもらえ」と入ってくる声があった。……ボーグの声だ。後ろには、マイキーも付いている。
「あっ、ボーグさん!」と、ポップル。
「他の奴らが言ってるぜ。何やら、手伝いたいって言ってくれてるってな」と、ボーグは彼女に向けて話す。
「そこまで言うなら、マナに対して自信もあるんだろう。自然はマナの扱いに長けているって言うしな……ちょうど、いいマナが足りねえんだ。手伝ってくれるなら、オレ達としては嬉しい」
「ほ、ほんとですか……ありがとうございます!」
「手伝う側が礼言うなって……」
ボーグの意外な一言に、面食らう紅戦線の若い一同。けれど一方で、彼はもともと実力主義だ。それに見合うだけの力があるなら、やらせてみるのもいい、と思う方だ。これは表には出ていない心情だが、ゲットが水文明相手に手柄を上げた時から、その気持ちもひとしお。まあ、それに加え……ポップルの居心地の悪さも、なんとなく察してくれたのだろう。
「勿論、ドゥル山脈は危険だから許可は出せねえけどな」と、後ろのマイキーが言う。
「ちょっと遠出になるが、行き先を変更してボルザード連山なんかどうだ? マナの採掘場の中では珍しく、気温が低めだからな」
「え、ボルザード!? ……いや、良いが行くのに一日以上かかる距離では……」と、ホーバス。それに、ボーグは返答する。
「ま、それもいいだろ。最近近場でしか採ってねえし……遠征に行くとなれば長距離輸送はこんなもんじゃ済まねえ、訓練だと思って行って来い」
「はあ、うん……分かったよ、ボーグ」
「……それとだな、偉そうにゲットが兄貴分ぶれるのがどうこう言ってたが」と、ボーグはさらにホーバスに詰め寄る。
「ミサイルが入ってきててめえに懐き始めたら、すげえ張り切って兄貴分ぶったのはどこのどいつだっての、ったく」
「なっ……い、今そんなこと言わないでもいいだろう!? ってかちょっと待て、いつから話聞いていたんだ!」
そう狼狽える姿を見て、ポップルも悪いとは思いつつ、つい笑みがこぼれる。もしかして彼は本当に、照れ屋なだけかもしれない。ミサイルボーイも苦笑して「まあ、そんな兄貴がオイラはずっと好きだよ!」と、声をかけていた。
装備を整え、アーマロイドを動かして無事出発していく一行。その中にはしっかり、ポップルもいる。クルトは留守番だ。ボーグに片手で担がれながら、アーマロイドの上に興味深そうに座るポップルに向かって手を振っている。
「じゃあネ、いってらっしゃーイ!」
「いってきまーす! 神様、あんまり食べ過ぎちゃダメだよー!」
そのような言葉を残し、やがて彼らは見えなくなり、紅戦線の門も閉じた。やれやれ、とボーグは一息つき、また訓練に戻ろうとする。マイキーと、隣合わせに歩きながら会話した。
「オレがガキの頃にゃ雑用なんて逃げたかったもんだがよ、自然の奴らの感覚は違うのかね」
「ん、そうか? オレはむしろ、自然って平和主義って聞くけど、あの子は根っこはオレ達と似てるなあ、って思ったけどね」
マイキーの言葉に怪訝そうに振り向くボーグ。彼に連動して、クルトも振り向くことになる。
「雑用からは逃げてもよ、戦場にはまだ行けねえよって言われてるうちから行きたがってたろ、オレたち。どっちかってと、そのイメージにかぶって見えたけどな」
「……まいったね、ゲットが肩入れするわけだ。似た者同士なんだな」
「どっちも動いてなきゃ、落ち着かねえタチなんだろ。一緒一緒」
ははは、と笑うマイキー。そんな二人を慌てて呼び止める声。……タイラーだ。
「ボーグ! ボーグに客だぜ」
「あん? 誰だ?」
クルトをマイキーの方に任せて、歩み出るボーグ。マイキーは一足先に、建物の中に戻っていった。
「それが、なんか変な感じの奴で……オレ達ヒューマノイドに似てるんだけど、ちょっと違くてよ……ポップルちゃんの先生でもなさそうだし……とにかく、話はボーグと会ってからって言ってたから、オレはなんとも……」
不審に思いつつ、ボーグは言う。
「分かった。ひとまず会ってみるぜ。……通しな」
●
「ここか、火山要塞ヴァル」
スタン、と塀の上に立つアクア・エージェント。諜報活動のプロだけあって、その気配の殺し方は流石である。紅戦線の面々は、誰も気づいてはいない。
「ターゲット本人は見当たらないが、ターゲットの名前が発言されているのを見るに、保護されているのは間違いない様子。ここに数日間潜伏を……む?」
はっと彼は、門が開いてやってきた姿に目を奪われる。火文明においては異質極まる、その姿。骨か死体のような不吉な白色の、むくむく不自然に膨れ上がった不気味な体、体中に空く穴からのぞくのは、絶望をそのまま形にしたような漆黒。
そこには、キマイラがいた。そして……凶暴極まるはずのそれに、家畜のように騎乗する人型種族。キマイラを手懐けられる種族なんて、この世にたった一つしかない。……ダークロードだ。
何故、闇文明がここに……? アクア・エージェントは息をのむ。
「お会いできて光栄です、不死身男爵ボーグ殿」
そのキマイラ……《ギガスタンド》からひらりと飛び降り、彼は恭しくお辞儀をした。目の前の彼は体の作りこそヒューマノイドに似通っているが、全身から発する雰囲気がまるで違っていた。自分たちのような情熱と闘争心とは無縁な……いうなれば死と絶望の雰囲気を纏い、それでいて無気力であるどころか、ぎらぎらとした野心と途方もない誇りを、たたずまいからして感じさせる種族だった。身長も、ヒューマノイドの平均よりずっと高い。ヒューマノイドの中でも特別に大柄なボーグは、なんとか彼を上回っていたものの。
その男……火文明のものとは少し違う黒い鎧と数房に分かれた独特な赤いマントを羽織った男は、ボーグを前に恭しくお辞儀をする。
「わたくしは闇文明から参りました、ダークロードの闇侯爵ハウクスと申します。ヒューマノイド一の部隊を率いられるとお噂の貴方様に……ぜひともお会いしたく、遥々やってまいりました」