Saga of Creatures   作:hinoki08

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紅戦線の来客 6

 

 ボーグは今一度、目の前に現れた男をじろじろ見回す。ひとまず屋内に通されて、座っているその身のこなしからも、自分達とは全く違う気品を感じる。

 ハウクス、と名乗ったその男は機嫌よさそうに、ボーグに向かって話しかける。

「さすがは戦いに生きる火文明の、その中でもトップクラスに立たれるお方……我ら闇文明とはまた違った闘志なるものが、たたずまいからも感じ取れようと言うものです」

「そりゃ、どうも……お構いもできねえで、悪いな」

 ボーグもひとまず、どっかり椅子に座ってハウクスに向かい合う。

「で? 闇のお貴族さんが何の用だ?」

「おや、さっそく話に入らせていただけるとは、ありがたい」ハウクスはクスクス笑って告げた。

「先ほども申しましたが、わたくしは闇文明から参りました。ここ数か月、火文明の各地を転々と旅させていただいた次第です。光や水のような連中は貴方方を野蛮と蔑むでしょうが……我々の観点からすれば、貴方方火文明の素晴らしさは、疑いようがありません」

 数か月。なるほど。マイキーが又聞きしたと言う謎の男の情報も恐らく、彼か。ボーグはその口ぶりからそう察する。

「確かに貴方方は、科学技術は光、水より先んじるとは言え難い。自然文明のように豊かに暮らすすべや、魔術への素養もございません。しかし……ある種、生きるにあたって何よりも必要な物、この惑星の生物の根源ともいえる物を貴方方は誰よりも持ち、そしてその重要性に自覚的です。科学にせよ魔法にせよ、技術は所詮それらを思い切り動かすためのものにすぎなかったのです……闘争本能というものを」

 さっそく話に、とは言いつつ、ハウクスは中々に話題を焦らした。ボーグは神妙に聞き続ける。いずれにしても、この男が怪しくない気は全くしない。最終的に言うであろうことは予想がついている。……ヴァルバロス軍が噂していた、別部隊に言ったこと。それを、自分達にも要求するつもりなのだろう。

「生きるためには戦う。全ての基本とも言えるその原理の素晴らしさを知り、その価値を知っているのは我々闇を措いては、貴方方しかありますまい。いえ……むしろその一点においては、貴方方の方が上なのではと感じるほどです。闇文明を代表して申しますには……我々は本当に、貴方達の戦いにかけるその熱意、水文明との技術差をもひっくり返す戦争の経験、それらに舌を巻いているのです」

「そりゃあ、どうも……」

「しかし惜しくらむは……貴方方火文明には、支配体制と言うものが欠けている点です」

 ハウクスは人差し指をピンと立てて告げた。

「戦争と言うものに誰よりも長けているにもかかわらず、文明単位でのまとまりが存在しない。今まではむしろ、そのあり方が一番貴方方に合っていたのでしょう。文明内で内戦を絶え間なく繰り広げることこそが、その闘争本能を磨き上げてきたのですから。しかし、今や事情は変わったのです。文明内だけではもう、賄いきれなくなってきましたでしょう。我々闇も、水も、自然も……光すら、今は文明単位での戦争を意識しております。そのような中……戦争に長けた貴方方が、文明単位での戦争に必須とも言えよう、文明全体の支配体制。それに欠けているという一点のみのおかげで後れを取るのは、余りにも惜しい!」

「……なるほど。一理ある。オレたちゃ徒党の民。あんたらほど上下関係のはっきりした文化じゃねえ。したがってそんな考えも持てなかったからな……。いや、たいそう、参考になる意見だ」

「いえいえ、出過ぎたことを申しまして」

「それで……あんたらダークロード、闇文明が、オレ達の上に立って、オレ達をまとめ上げると言うのはどうだ……そう言いたくて、わざわざここまで来てくれたのかい?」

 ハウクスはふっと笑い「おやおや」と呟く。

「お察しが早くて、助かります。さすがに歴戦の戦士は、相手の意図を読むことにも冴えるものですな」

「ご光栄だな」ボーグは腕組みし、ハウクスをまっすぐ睨みつけながら言う。

「オレ達を舐めるんじゃねえ。足もとが明るいうちに、帰んな」

 しかし、ハウクスもそれに全く怯む様子を見せない。かえってなおも面白そうに笑う。挑発の笑みと言うにはまた違うそれは……彼が自分たちのような戦士とは違う、まさにやんごとなき貴族と言う存在なのだろうと、ボーグに推し量らせた。

「お気遣いなく。我らは地底の民。暗所を歩くには、慣れております。まあ、しかし今日の所は……そのご好意は、ありがたく受け取りましょう」

 ハウクスは静かに立ちあがり、勝手に出口に向かう。

「しばらく、このあたりに逗留します。貴方がうんと言うまで、参らせていただくつもりですよ」

 そう言って彼は見送る様子も見せないボーグを放っておき、勝手知ったるように帰っていった。

 

「……闇と火が、接触だと? ばかな」

 そして天井裏からそれを聞いていたのが、アクア・エージェントだった。

「世界情勢にかかわる重大事項ではないか……!! 今回の任務とは別件だが、諜報員として、目を光らせておかねばなるまい。闇侯爵ハウクス、か……」

 

「予言者サマ、どうしたんだい?」

 クルトは先程から、震えている。震えながらちらちら部屋の外を見ている。 マイキーはそんな彼のお守りをしていた。

「もう、あのダークロードは帰ったみたいだぜ」

「ほんト?」と震えたままのクルト。

「なんか、怖いヨぉ、あの人……大丈夫? もう、帰ったノ?」

「帰ったってば」

「なんなのこの子ー。光文明なのに、甘えっ子ねぇ……」と呟くクウザ。けれどクルトはそれに言い返す様子でもなく「ポップルちゃん、早く帰ってきてヨぉ……」と言っていた。

「なんだろうね……やっぱり光は、闇が怖いのかい?」と、彼をなだめるマイキー。しかし、彼も、クルト自身も、頭の中から抜けていた。予言ができないとはいえ、クルトはライトブリンガー。

 ハウクスと言うダークロードの抱える思い、それが齎す事をわずかながらも本能的に予知出来ようと、おかしくなかったのだ。

 

 

 ●

「もうすぐ鉱脈につくぞ」

 ボルザード連山を上っていく一同。ボルザード連山は火文明に多くある連山の一つ。ドラゴノイドが本拠地とするボルシャック渓谷と対になるとされている連山だ。本当にそうなのかどうかは誰も知らないが、ドラゴノイドの言い伝えによればボルザード連山の山並みは、ボルシャック渓谷のへこみとぴったりと一致するらしい。

 ガラガラとアーマロイド達が移動する中、彼らはアーマロイドに乗り込んで談笑中だ。

「昨日、楽しかったー! あたし、あんな本格的なキャンプって初めてなんだ」

「へー! オレ達は全然よくするぜ。遠征のときはキャンプが基本だから、慣れてないといけないしよっ!」

 等と、ポップルとゲットも仲良く会話中。ポップルはテントを張ったり、野営食を食べたりなどは初めてだったので、昨日も話が盛り上がったと言ったら。それにも飽き足りないのかポップルは遠征の事情などを聴き、ゲットも嬉しそうに次から次へと話す。とにかく、一番子供扱いされるだけだった自分が物知り扱いされているのが嬉しいのだ。

「おい、物知りな勇者さま」ホーバスが話に入ってきた。

「ついでだ、もうじき鉱脈だ。道具の使い方の一つでも教えてやったらどうだ。女の子に掘り出せるほど、火文明の土地は柔じゃないからな。ボルザード連山なら尚更だ」

「はいはーい」

 とは言いつつ、ゲットとポップルは出発時のような不満そうな表情を見せない。かえって顔を見合わせて、何やらにやにや笑うばかり。ホーバスも少し不審には思ったが、アーマロイド達の操縦に戻る。彼は紅戦線の中でも、アーマロイドの扱いに長けているのだ。

 実のところ、ゲットとポップルは先夜こっそり約束したのだ。ゲットは、ポップルの魔術を知っている。彼女がマナを道具など使わずとも呼び出せるのだと言うことも察している。だから、いっそギリギリの時まで秘密にしていよう、と。

『で、ギャフンと言わせてやんだよ。特にホーバスを』

『ギャフンとね! 特にホーバスさんをね!!』

 その会話をお互い思い出し、むふふと笑いあう。そうこうしているうちに、輸送用アーマロイド達の動きが止まる。山頂だ。

 

 

「わー! 素敵な眺め!」

「だろ!? だからオレ、マナの採掘って大好きなんだ! 山っていいよな!」

 ボルザード連山のマナの鉱脈は、山頂近くにあった。さすがに高くまで登ってくると空気も澄んでいて、乾いた火文明の土地がどこまでも、どこまでも一望できた。岩山の中に見える、金属な基地達すらもちっぽけに見える。樹に包まれていない火文明の土地をポップルは物寂しいもののように思っていたが、とんでもない。このような絶景は火文明ならではだろう。何も遮るものがなく、大地がその赤茶けた色を顕わにしているからこそ、ひたすらに広く、広く、世界が広がって見える。

 と、ずしん、と道具が握らされた。

「はい、ハンマーとツルハシ。使い方は分かる? 大丈夫?」

 道具を運んできたミサイルボーイだった。ホーバスはもう、とっくに彼女のことは無視してジョーと共に採掘に入っている。ハナからポップルに期待などしていないのだ。

「あのね、兄貴のこと、悪く思わないでね。ちょっと嫌味なだけで本当に悪い人じゃないから……」

「大丈夫ですよ。後、道具も大丈夫です。そんなの、いりませんから」

 えっ? と振り向くミサイルボーイ。ポップルはわざと、その声を大声で言った。ホーバスにも聞こえていたらしく「ほう」と彼も顔を上げる。ゲットは先ほどから、にやにやしていた。

「たいした自信だな……」

 だが、ホーバスがそう言いかけた時。ポップルはすでに態勢に入っていた。感じる。なるほど、彼らがマナの採掘場所だと言うだけのことはある。

 物凄いマナの奔流が、唸っているのだ。おまけにマナの採掘技術が未発達な火文明だからだろうか、新鮮で純度の高いマナがほぼギュウギュウ詰めになり、いっそのこと苦しそうだ。

 うん、このマナなら、きっと食料不足の火文明の助けにもなってくれるはず。マナの方も、自分たちに干渉してくる力を察したのだろうか。早く出せよ、外に出たいよ、乱暴な火文明のマナだからこそ、そう思っていることが感じられる。自然のマナを呼び出すよりも、簡単な事。

 杖を持つ、そして念じる。呪文を詠唱する。スノーフェアリーの里に伝わる童謡、『春の歌』。

「……お芽々がぽっこり~……雪からにょっきり~」

 感じる。マナの波動。自分の歌声を聞きつけて、マグマのように押し寄せる熱気。

「《フェアリー・ライフ》!」

 そして、次の瞬間。

 目をチカチカさせるほどの真紅のマナが、ポップルの目の前から、間欠泉のように大量に噴出した。

 

 

「……すげー!!! 凄くきれーー!!!」

 ゲットがその様子に、大興奮で言った。

 土地から取り出すと、やはりどうしても不純物が混ざってしまうのだ。マナの魔術師に直接呼び出されるマナが、この世界で一番新鮮で純度の高いマナ。

 新鮮なマナは、色も透き通って鮮やかだ。ゲットは今まで、これほど真紅のマナを見たことがなかった。

 それがおびただしい量吹き出し、たちまち辺りをふわふわ漂い始める。「皆さん、早くとって!」と、ポップルが言うなり、ゲットは「まかせろ!」とさっそく3、4個一気に抱え込み、輸送用アーマロイドの籠に乗せた。他のメンバーも、大慌てだ。

「どうですか! ホーバスさんっ!!」

 えへんと得意げなポップルを前に、ホーバスもさすがに言葉が出ない様子。無言のままマナをかき集めているが、顔を全部覆っていても分かる、居心地の悪そうな雰囲気。

「どうだっ! やっぱり、魔法ってすげーだろ!」

「ああ、大したもんだな、マナにあっちの方から来てもらえんのか……こりゃ、便利だ」

 ジョーも高くまで飛び上がってしまったものをひょいひょいヨーヨーで捕まえながら、町でのポップルとの会話で感じた、自然文明とのマナの使い方の差を理解した様子。こんな純粋なマナをこんなに楽に採取できるなら、そりゃ他のエネルギー源など使わない。少しの事にも、マナを利用するに決まっている。石油や石炭などの代替エネルギー源も、所詮マナには劣るのだから。

「オイラ、こんなに真っ赤なマナ見るの初めて!! ボルザード連山のマナは確かに、綺麗な色してるけど……!!」

「これが本当のマナの色ですよっ! ここにはまだまだ、とり切れないくらいこんなマナが眠ってるんです」

 へーと、舌を巻くミサイルボーイ。マナの魔術師と言う存在としては新米と言えども、少なくとも今この場においては、ポップルが一番マナに詳しい人物であることは疑いようがなかった。自分たちの仕事は本当に、出てきたマナをかき集めるだけだと言うことも。

 その空気を流石に感じ取り……ホーバスも口を開いた。

「……分かった!! 認める!! ろくに話も聞かずに足手まとい扱いして、悪かったよ!!」

 その言葉にゲットとポップルは顔を見合わせ、小さくぱちんとハイタッチした。ホーバスもそれを見逃さなかったのか、何かと察した模様。

「全く……このオレが素直に敗北を認めるなど、ろくろくないことだぞ!」

「いや、それは大人としてどうなんだよお前。しかも得意げに言う事かよ」

 とジョーが突っ込みを入れて、とうとう他のメンバーも耐え切れずに大笑い。……その後は、諸々さっぱり水に流してみんな仲良く、マナの採集を行った。

 輸送用アーマロイドの籠はみるみるうちに埋まり、溢れんばかりになっていく。

「本当にすげえな。まだまだいくらでも採れるんじゃねえのか?」と、ジョー。

「はい、まだまだ全然、余裕ありますよ! この山、本当にマナだらけです! 信じられないくらい!」

 通常は、マナの魔術師はひとところからマナを採りすぎない。森の実りと同じだ。マナを採りすぎてしまってはその土地は枯れ果てるばかり。実りも、新たなマナも産まなくなる。一時の欲張りのために永劫にその土地の実りを奪うことは、自然文明が良しとする秩序ではない。

 しかしボルザード連山は、例外に入れていい事例だった。火の中では珍しくマナを生みやすい、むしろ生みやす過ぎる土壌なのだろう。豊富なエネルギーがうなっているのが、ポップルには感じられる。火文明のマナ採掘技術がそのスピードに追い付かないおかげで、慢性的な飽和状態なのだ。

「今度は、あっちで出して見ますね!」

 ポップルはふわふわ飛ぶマナの間を潜り抜け、少し離れた岩場へ。

 

 ……と、その時。

「キャーッ!!」

 彼女の悲鳴が聞こえた。

「どうしたんだ!? ポップル!!」

 いの一番に反応したのはゲット。持っていたマナを放り出して動き出した彼に、他の三人も続く。そこには……。

 

「見てくださいよっアニキ! すっげえマナ!! これ全部持って帰ったら、当分マナには困りませんよ~!!」

「アヒヒヒヒヒすっげえ赤色! キレーーーだなぁ!! こんなキレーーーなマナ見たことねえよっ!! ほんとキレーーーだなぁ!! ボルザード様の魂だなあこれはきっとよ!!! ボルザード様の魂が!! オレ達を待っててくれたんだなぁ!! アヒャッヒャヒャッヒャ!! なんかもう感激!! サイコーに感激!! 戦ってる時と同じくらい感激!!」

「なーなーお嬢ちゃん、ヒューマノイドだろ!? どうやってこんなにたくさん取ったんだよ、俺達にも教えろよ~!! ここは俺達、ドラゴノイドの聖地なんだぜ!?」

 ……ドラゴノイドがいた。

《猛爆軍曹ボンバット》にブレイズ・クロー。そしてポップルを捕まえて抱えているのが、エグゼドライブ。

 そう、ボルザード連山は、ドラゴノイドの本拠地ボルシャック渓谷と対になるとも言われており、ドラゴノイドにとってはまた非常に重要な土地の一つだ。最もヒューマノイド基地からもだいぶ近いので、ヒューマノイドもお構いなしにマナの供給地にしているのだが。

「……えっ、もしかしてお兄さんたちが、ドラゴノイドですか!? すごい! 本当にトカゲさんが立って歩いてるみたい!!」 

「あん? 君、ドラゴノイド見たことないわけ?」

 最もポップルの方は、ドラゴノイドと名乗られて恐怖より好奇心の方が勝ってしまったようだが。

「みーてくださいよー! アニキ、コレぇ!! もーすっげえキレーでしょっ!? ヒューマノイドの血よりキレーでしょっ!? サイコーっすよ!!」

 マナに包まれてはしゃいでいたブレイズ・クローが思い出したように振り返った先には「……うむ、確かに!」と言うドラグストライク。彼はマナを一つ手に取り、触って確かめていた。

「ここまで純粋なマナが出るとは……素晴らしい! 流石は伝説のドラゴン様の眠る連山……! 良い鉱脈を見つけたな、ヒューマノイドの少女よ」

 いずれにしても彼らからすれば、ボルザード連山の良質なマナなど自分たちが取るのが当たり前。ドラグストライクはエグゼドライブに抱え上げられている彼女に詰め寄りかけた。その時。

 

「何してんだ! ポップルに乱暴すんな、トカゲ野郎ー!!」

 ゲットがローラースケートで加速しながらやってきて、エグゼドライブを突き転がした。

 

 

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