Saga of Creatures   作:hinoki08

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紅戦線の来客 8

 

「ポップルちゃーン!! おかえリー!!」

 基地に入るなり、そんな声が聞こえてきた。そして廊下を、もたもた這いつくばって進んでくるクルト……見かねたマイキーがさっさと拾い上げて、ポップルのもとに運んでくれた。

 漸く彼女に会えて安心したのか、ぎゅっと抱きついて安堵の表情を浮かべるクルト。

「あーン……ポップルちゃんいなくて、さみしかッタァ……」

「ほんっと、イヤな子! 甘えんぼ!」そんな彼を見て、クウザはどうもご機嫌ななめの様子。

「アタシたちの隊長がずーっとつきっきりだったのに、ずっとポップルちゃんがいいポップルちゃんがいいってわがまま言いっぱなしだったんだから!!」

 ぷりぷり怒って言うクウザ。「え、そうなの!?」と、ポップル。

「神様、ごめんね、置いてけぼりにしちゃって……それに……マイキーさん達も、ごめんなさい。せっかく面倒見てくれたのに」

「いや、いいんだよ、オレは気にしてないから。クウザはちょっと焼き餅焼きでさ。オレが予言者サマに構いっぱなしなのが気に食わなかったんだよ」

 マイキーはそう言いつつ、自分の隣のクウザの頭を撫でる。クウザは気持ちよさそうだ。

「それに、ただ君を恋しがってたわけじゃなくってな。君が出てった直後、ここに客が来てよ、そっからだな。予言者サマが不安定になったのは」

「えっ、お客?」

「おう。予言者サマは、そいつが怖くてしょうがなかったみたいなんだ。昨日今日会ったばかりのオレじゃ、安心しきれなかったんだろ」

「客って、どんな?」と、基地に入ってきたゲットも聞いてくる。マシン・イーター達やホーバス達はまだ外でマナの整理だ。マイキーが口を開こうとした瞬間……。

 ぞくり、とクルトがまた跳ね上がった。そして高い位置から聞こえてくる、声。

 

「ほう、スノーフェアリーにライトブリンガーですか。これはこれは、何とも……」

 

 ポップルは感じた。彼も、魔術師だ。

 しかし、自分たち自然の魔術師とは勝手が違う。体中から、得体の知れない魔力がにじみ出ている。彼女にとっても、ぞっとするほど気味の悪い力だ。

 自分達よりずっと背が高く全身を黒い鎧で覆った男……ハウクスが、そこにいた。

 

「なかなか高級なペットを飼っておいでですね、貴方方、紅戦線も。いや、さすがの風格。ご趣味がおよろしいですな」

「ペ……ペット?」

 急に浴びせられたその唐突な言葉に、目を白黒させるマイキー。ハクスは仮面の奥で、くすくす笑っているようだ。縮み上がるクルトを抱きしめ、むっとしてポップルは言う。

「あたしも神様も、ペットなんかじゃありませんっ!」

「誰だ、てめえ!!」

「おや、そちらの君はヒューマノイドなんですね」ハウクスは膝をついて目線を合わせ、どなってきたゲット相手に鷹揚に言う。

「始めまして。おととい此処に参らせていただいたのですが、君とはご挨拶がまだでしたね。闇文明から参りました、ダークロードの闇侯爵ハウクスと申します。どうぞよろしく」

 ハウクスはすっと右手を差し出す。だけれどもゲットは憮然として言った。

「ってことは……先生。その客って、こいつ?」

「うん、まあ、そうな……」

 そしてベシン、と、ハウクスの片手を弾き飛ばす。

「オレ達の友だちを馬鹿にすんな! お前なんか大っ嫌いだからな! 行こうぜ、ポップル!」

 ポップルの腕をつかんで、スタスタ早足で去ってしまうゲット。「おやおや」とハウクスは笑った。

「嫌われてしまいましたな」

「はっきり言うが、気に食わんのはあんたの方だ。謝りはしねえぞ」

 いつのまにやら、後ろからボーグも来ていた。

「あの二人はそんなもんじゃねえ。オレらが立派に迎えた紅戦線の来客だ」

「相済みません。我らダークロードは飼いもの道楽が多いので、ついね……」

 そうは言いつつ、悪びれた様子はないハウクス。マイキーとクウザも、そろそろ戸惑いが落ち着き怒りの方が出てくる。

 ぎろりと睨みつけられても……ハウクスは涼しい態度だ。

「貴方方のお客を侮辱したことは、謝罪いたします。ですが、先だってはろくに話ができませんでしたのでね、今日はもう少し……」

「あんたが侮辱したのは『オレ達の客』じゃねえぞ」勝手に話を自分勝手に進めようとするハウクスに、さらに怒りを込めてボーグは言った。

「あの二人自身だ」

 ダークロード……誇り高い闇文明の貴族、とは聞いていたが、このようなもの、誇りではない。傲慢だ。

 謝るべき相手に謝れもしない者など、尊敬に値しない。ましてそんな相手を盟主と仰ぐなど、論外だ。自分たちのことだって、見下してかかるに決まっている。

 返答によっては、二度と紅戦線どころか火文明の敷居をまたげない身体にしてやる。……そうボーグが決意し、早くも拳を握りしめた時の事だった。

 

「嫌いなんですよ」

 

 一見すると、脈絡なく返されてきた言葉だった。しかし、ボーグとマイキーには確かに、その時廊下に響いた言葉に感じるものがあった。

「この世で一番嫌いなのです。光文明が。それを信じる自然文明の民が」

 端的に言葉に出来るものでもなかったが……強いて言うならば、それは「芯」だった。

 彼の言動には、一分たりとも感じ入るものはない。だがその言葉の奥には……ただの傲慢な小悪党には到底ないものがあった。彼なりの「芯」が。

「自分たちの事を神だなどと信じ居丈高にふるまう光も。そんな光を、何も考えることなしに崇め奉っている自然も。本当に……大嫌いです」

 そして一口に「芯」と言うのは簡単だが……そんなものは、そう易々と持てるものではない。

 彼は、戦士と言うには違う存在。そうはっきり分かる筈なのに。その「芯」は……歴戦の戦士にも劣らない頑強さを持つかのように思えた。ただの侮辱に収まることなどできないほどの恨みと憎悪……そしてそれに結びついている、一種の……信念、精神の強さが、その言葉からは感じ取れるようだった。

 その言葉を、ハウクスは……このような発言で締めくくった。

「貴方方も、嫌いでしょう? 光のような連中は……」

 

 ……まだ拳を握りしめたままのボーグに、ハウクスは調子を戻して言う。

「いえ、しかし私も確かに、無礼でしたな。貴方との話のあと、謝罪させていただきましょう。あの坊やが、彼女達との面会を許してくれますなら、ね」

「……何の話をしに来たんだ?」

 ボーグがひとまず対話を受け入れてくれたのを見届け、仮面の下で微笑むハウクス。

「先ほども申しました通り。我々とて、貴方方が誇り高いことは存じております。我々や水、光とは違い、権威に重きを置かれないその性質も。支配体制を築いてやる、など、貴方方にはメリットになどならぬ申し出。今日はもっと……具体的なお話をさせていただこうかと」

「……立ち話も何だ、オレの部屋に来い」

「恐縮です」

「マイキー」ボーグはそっと、彼を呼び出す。そして、そっと言った。

「……飯炊き係りに伝えといてくれ、夕飯をもう一人前用意しとけって」

「……分かった」

 マイキーも色々思うところはあったものの……ひとまず、その言葉を飲み込んだ。

 

 

「あー……ムリだ、これ。お手上げ」

 先ほどから、クルトの機体の損傷部分を代わりばんこに覗き込んでいたマシン・イーター四人組……最後の一人ピーポがそう、言った。

「ぜんっぜん理解できない。どういう構造で動いてるの、これ……?」

「ボクに言われてモォ……機体を作るのは、別の種族の仕事だシ……」

 匙を投げ……ならぬピーポの相方のゼノパーツ《ピーポのバール》を床において、ハアとピーポはため息をついた。

「光文明は科学技術が進んでるって、悔しいけどほんとだね。もう延長線上とも思えない。前提知識の段階で、全く違うんだと思う。別世界の物を見てる気分だよ。本当に悔しいけど……何がどう飛んでてどう悪いんだか、さっぱり予想がつかないや」

「バラすだけなら、簡単にできそうなんだけどな……」

 ピーカプの言葉に「いやァ!」と悲鳴を上げるクルト。

「じょーだんだよ」

「ごめんね、力になれなくて」

 とのピーポの言葉に、クルトは「ううン、大丈夫。ありがとネ」と返答した。

 ひとまず、開いたままだった傷口に、花の代わりにブリキで蓋をして、丁寧にふさぐ。治すことはできないが、いくばくかはましになった。

「良かったね、神様」

 ポップルがそっと抱き上げて、膝の上に乗せる。

 ブリキでふさがれたところをペチペチ叩くクルト。礼は言いつつも深くて重々しい銀色に鈍い金属光沢は、とても光文明の超合金の輝きに比べると、違和感がぬぐえない。

「大昔は僕たち、光文明に負けないくらい科学力を持ってたらしいんだけどね。……ご先祖様みたいになれなくて、情けないや」

「そうなんですか?」

「そうなノ?」

 ポップルとクルトの問いかけに、うんとうなずくピーポ。

「もうほんとに、何万年、何百万年ってずーっと気の遠くなるくらい昔は、僕たち火文明がこの星で一番科学力を誇ってたんだよ」

「その証拠に、オレたちのゼノパーツはご先祖様が作ったものを、掘り起こして治しているだけだしな。アーマロイドもだ……治して動かすことはできるが実際のところ、なんで機械が生きて動くのか、その本質の所はあまりよく分からねえんだ。魔法……とやらとかとも、違うみたいだしな。猿まねで作ってみても、発掘したものにはかなわねえ」と、ジージョ。

「武器も兵器も、ましなものは皆偉大なご先祖様からのおさがりだよ」

「そうなんですか……」ポップルは言う。

「自然文明の昔は、どうだったんだ?」

「うーん……そこまで、何万年も昔の事は、あんまり聞いたことないんです」彼女は返した。

 事実、自然文明で伝わる「歴史」「物語」は、ここ千年の物だけだ。千年前、光文明が闇文明の魔の手から、自然を解放した。「歴史」はそこから、崇めるべき光文明の勝利から始まったもの。それ以前の話など、気にかけるにも値しないもの。それが、自然の常識だった。

 そう、千年前……。

「でもクルトくん、今は落ち着けてるみたいだね、良かった!」ピコラが笑う。

「うん、あのお客はすっごクこわいけド……ポップルちゃんのそばにいるト、なんだか安心なノ」

 ポップルに、ぎゅっと抱きつくクルト。

「なんだか、《アルカディアス》に守られてるみたイ」

「アルカ……なんだって?」

 扉が開いて、ゲットが帰ってきた。クルトをマシン・イーターたちと会わせた直後に、ホーバスにマナの整理をうっちゃってどこかに行ったことを咎められて、説教されに強制連行されていたのだ。

「アルカディアス! すごーく強くて優しい精霊だヨ! ボクたちに見えないところで、いつでも、ボクたちの事守ってくれてるンダ!!」

「へー、そうなんだ」と、返すゲット。火文明は、光文明の崇拝などよく分からないが……。

「でも、オレも守ってやるからな! お前の事も、ポップルの事も! あのダークロードからも、ガーディアンからも、水文明からも、ぜーんぶオレが守ってやる!」

「うふふ、ありがとう!」「ありがとネ!」と笑う、ポップルとクルト。えへんと、ゲットは張り切る。

「オレ、偉ぶってるやつ大っ嫌いだからな! サイバーロードも、ダークロードも、ライトブリンガーも、みーんな大っ嫌いだ! みんな、自分じゃ戦わねえくせに偉そうにしてばっかりだもんよ!」

「あ……」と、その発言に気が付くピーポ。「ゲット、ゲット」と、微妙な空気が流れ出したのを慌てて指摘する。それでようやくゲットも……目の前にライトブリンガーがいたことに気が付いた。

「あっ……く、クルトは別だぜ! むしろクルト、オレが会ったライトブリンガーとは全然違うもんよ! ジェスみたいなんとは違って、話分かるし……」

「エー!? うそ! ジェスにあったノ!?」

 その発言にびっくり驚くクルト。

「え? 知り合い?」

「うん! ジェス、ほんと厳しいもんネー! ボク、いーっつも怒られてたヨ!!」

「なんだ、そうかー!」ゲットは笑う。ポップルも笑った。何にせよ、気まずい空気が取れて何よりだ。

「本当にありがとう。ゲット、優しいね」

「ああ! オレは将来、機神装甲を着るんだからな!」元気良く、言いかえしてくるゲット。

「機神装甲を着るような戦士は、誰よりも強くなきゃいけないんだ。でも誰よりも強い戦士は、弱い者いじめはしないんだぜ! だからオレも、偉そうにしてて弱い者いじめする奴は、大っ嫌いだ!!」

 

 

 

 ◆◇◆

 “むかしむかしのお話しです。

 マナにあふれるフィオナの森には、二種類の魔術師たちが住んでいました。

 片方は、良い魔術師たちでした。彼らは自然の秩序に従って、自分たちの力でみんなを幸せにすることを心がけました。

 しかしもう片方の悪い魔術師たちは、自分たちの事しか考えません。自分たちだけが幸せになることだけを考えて、毎日毎日マナを独り占めして悪い魔術の研究をしては、自分たち以外のフィオナの森の住人を苦しめていました。

 

 悪い魔術師たちをまとめていたのは、《覇王ブラックモナーク》。この世界で誰よりも大きく、誰よりも強い魔術師でした。ブラックモナークの前には、ジャイアントたちですらネズミのように小さいのです。

 ブラックモナークとその仲間たちのために、良い魔術師たちは苦しみ続けました。けれど、ブラックモナークにも、その手下たちにも、良い魔術師たちはかないません。優しく、いつも自分たち以外の事だけを考えていたために、戦いには弱かったのです。豊かな地上はそのうち、ブラックモナークの天下となってしまいました。

 

 しかし、天に住んでいる正義の神様たちが、それを許しませんでした。ブラックモナークを成敗することを決めた天の予言者様たちは朝日の光とともに、精霊たちを遣わせました。

 精霊たちの聖なる力に、悪い魔術師たちは次々と負けていきます。精霊は良い魔術師たちにも手を貸し、彼らも森を守るため立ち上がりました。

 ですが地上を手放したくなかったブラックモナークは大量の魔力をつぎ込み、恐るべき悪魔の軍勢、『闇騎士団』を作り上げました。先頭に立つ悪魔の大将、その名は《バロム》と言いました。

 

 闇騎士団の力が、フィオナの森中を飲み込みました。こと大将バロムは恐ろしく、彼が一度戦場に現れれば皆命を失い、彼に触れる事すら叶いません。精霊たちも、彼らを守る守護者たちも、フィオナの森の民たちも、誰もかれもがバロムの前に消えていきました。良い魔術師たちは、絶望しました。ブラックモナーク達は、勝利を確信しました。ですが……天に住まう予言者様たちは、諦めませんでした。この世の正義と秩序がなされることを、誰よりも信じていたからです。

 そしてある日の朝、予言者様たちの祈りに応えて、《聖霊王アルカディアス》様がまばゆい輝きに包まれて、フィオナの森に現れたのです。

 

 アルカディアス様は、この世で最も強い精霊でした。彼の体が発する光に包まれただけで、フィオナの森は元気を取り戻していきました。アルカディアス様に浄化されたマナは、悪い魔術師たちに力など貸さなくなり、彼らは魔術も使えずに、散り散りに逃げ惑うしかありませんでした。聖霊王の御力の前では、悪い魔術師たちの魔力など、余りにも無力だったのです。

 そして、あれほど恐ろしかったバロムすらも、アルカディアス様の力の前にその溢れる魔力を浄化され、ついに死んでしまいました。そして、ブラックモナークすらも……その力の前に、ついに敗れ去ったのです。彼の巨大な体がぐらりと倒れ、地面に深く、深くめり込み、そこには地獄の穴が出来ました。

 

 王を失った悪い魔術師たちは、罰として皆地獄の穴に送られ、良い魔術師と精霊たちは、その穴をふさいでしまいました。こうして、フィオナの森に平和が戻ったのです。

 良い魔術師たちは優しい神様たち、そしてアルカディアス様に永遠の感謝をささげることを心に誓いました。神様たちへの感謝の心を忘れない良い魔術師たちを神様たちも愛され、フィオナの森はさらに豊かに富み栄えていったのです。

 

 その良い魔術師たちの末裔が、我々自然の民。ですから我々も、秩序を守り、天の神様に従う心を守り続けるのです。さもないと、地獄の穴に今も住んでいる、闇文明の民に魅入られてしまうことでしょう。そこに、幸せはありません。間違った心の持ち主に、正しい神様たちは決して、幸せを許さないからです。

 

「光の民に栄えあれ」。“ 

 

 ◆◇◆

 

 

 ……千年前、自分たちは、光文明に負けた。

 偉大なる覇王を失い、光を奪われ、誇りを奪われ……光文明は、そして彼らに与した自然文明は、我々から、何もかもを奪った。

 復讐。

 光文明へ、自然文明へ、復讐する。

 ……それだけを胸に、生きてきた。

 

「千年です。我々は千年もの間……屈辱にあえぎ、瘴気の渦巻く劣悪な地下世界で、偉大なる指導者も失った中、それでも光に復讐せんと……魔術を磨き上げ、虎視眈々と機会を伺ってきたのです」

 ……ボーグは黙って、ハウクスの話を聞いていた。

 太古帝国の滅亡。漠然と、聞いたことはある。当時フィオナの森を治めていた太古帝国は、ある日突然滅んだ。そしてその原因は、精霊が地上に降りてきたためだと言われている。

 だが、それが闇文明のことだとは。当時も火文明は内戦に明け暮れるのみで、ブラックモナークもとうに技術を失った荒くれ者しか住まない火山地帯に興味などなかったのか、火文明は全くその戦争には関与しなかったのだ。

「ですが、それももう終わりです。不死身男爵様。我々は……自然文明に侵攻するだけではありません。この世界情勢です。光とて、自然はいざとなればいくらでも体よく使える存在。それを完全に失うことは避けたいはず。もしも我らがさらに軍備を整えて再度自然に侵攻すれば、今度こそ必ず出しゃばってくることでしょう。それに我々がまた攻め込むことを想定しないほど、連中も頭が回らぬわけではありません。すでに、準備も行っているかもしれない」

 ボーグは思い出す。光文明の、地上演習の件。

「我々は、近いうちに自然文明……そしてその背後に控える光文明を、両方討ち取ることを計画しております。名をば『ジェノサイド計画』……それに、貴方方、火文明も乗って頂きたい」

「……オレたちの戦力が、必要なのか」

「ええ。彼らに勝てるとしたら、それしかないとわたくしは確信したのです」ハウクスはにやりと笑った。

「はっきり申せば、光は強い。しかし、光と自然にないもの、それは……戦いへの貪欲なる姿勢です。平和だ、秩序だときれいごとをほざき、何かと理由をつけねば戦いにも打って出られぬものと……我々、そして貴方方のように、戦いにためらいなく向かって行ける性質のものならば、一体どちらの方が軍として優れているか。それは……先だっての水文明と貴方方の戦を見れば、明白でした。小手先の技術、智謀……そんなものはむき出しの闘争本能と、そしてそれによって培われる戦いへの経験からすれば、児戯にも等しい無力さでした……うふふ、まさに児戯ですな。サイバーロードは子供だけの種族だから」

「……オレたちへの、報酬は?」

「無論、ただ働きして頂くつもりはございません」自分の話に、ボーグが納得しつつある。ハウクスは生唾を飲み込む思いで、必死に冷静さを保ちながら言った。

「まずは、自然文明の領土と、資源。フィオナの森は本当に、回復の早い土地です。大爆発の余波からもう立ち直り、豊かに富み栄えております。本当に、とてもとても広い森ですから……我々だけで独り占めするつもりもございません。貴方方火文明の食糧不足、資源不足を十分賄えるだけの分を、是非とも割譲させていただきます。そしてもう一つ……光文明を打ち取った暁には、そちらの方は全面的に貴方方にお譲りしましょう。我々は古来より魔術の民。科学技術など露ほどの興味もございません。しかし貴方方には……光文明の最先端軍事技術は決して、無駄にはならぬのでは? ……彼らの技術を火文明が掌握できれば、偉大なご先祖の時代へと、立ち返る一助にもなりましょう」

 しばしの間、沈黙が流れる。沈黙。上等だ。門前払いより、すっと上等な反応。

 考えている。不死身男爵ボーグが。この申し出を考えるに値するものだと、認識しているのだ。ハウクスは仮面の奥で、にやりとほくそ笑んだ。

 

 

「ジェノサイド……計画?」

 そしてそれを天井裏で聞いている影に、二人とも気が付かなかった、アクア・エージェントは目を白黒させている。そんなつもりで来たのではないのに、とんでもない重大情報を掴んでしまった。諜報部ではこんな情報、一切聞かなかった。

 彼は慌てて通信機器を開く。……これほど世界情勢を大きく揺るがすだろう情報を、エメラルに報告しておかないわけにはいかない!

 暫くノイズが流れ……ようやく繋がる。

「もしもし! エメラル様ですか、こちらアクア・エージェントです! た、大変な情報を掴みました! 至急、お聞き願います! 闇文明が……」

『……へえ、闇文明が?』

 しかし、通信機器の向こうから聞こえてきた声に、アクア・エージェントはぎょっとする。

 エメラルじゃない。

「ア、アクアン……様……?」

『どんな大変な情報なの? 聞かせなよ』

 通信機器の向こうで、アクアンはにひひ、と笑った。

 

 

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