Saga of Creatures   作:hinoki08

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紅戦線の来客 12

 

「さ・て・と……どういう風に、光に知らせよっかな~、にひひ」

 その頃、海底都市ではアクアンが上機嫌でジェノサイド計画の情報を売りつける算段を立てていた。

 データをまとめ、計算ソフトで見積もりを作り……せっかくの大情報なんだからできる限りに値を吊り上げたいが、万一まごまごしているうちに光の情報収集部隊が掴んでしまってはこの儲け話も泡に消える。この加減が実に絶妙なのだが……と、その時。その集中を破るような、耳障りな通信音が響いた。ただの通信じゃない。エマージェンシーだ。

 送り主は火山要塞ヴァルのアクア・エージェント。アクアンは集中力が削がれたのを面白くなく思いつつ、フェアリー・キャンドルに通信を取らせる。「はい。どうなさいましたの……」という彼女の声に返すように、通信機器をぶち破りそうなほどの慌てた声量で、アクア・エージェントが言った。

『緊急事態ですっ!! 火山要塞ヴァルに、ガーディアンの編隊が!!』

「……え?」

 それに、ピクリとアクアンも反応する。慌てて彼も、通信機器の方にやってきた。アクア・エージェントは続ける。

『ね、狙いはターゲットの連れている、予言者クルトの模様です!! ほぼ紅戦線と交戦する規模でやってまいりました!! た、ターゲットが危険ですっ! ただいま、映像を送信いたします!』

 ほどなくしてモニターに映し出されたのは……完全に戦う気満々の態勢でやってきた、ガーディアンの大群。アクア・レンジャー達から報告されていたものとは、まるきり規模が違う。

「じょっ……じょーだんじゃないよっ!!」

 その様子を見て、さすがのアクアンも焦る。

 エメラルに大金まで払って居場所を知ったのだ。こんなところで無駄にされてたまるか。

「ちょっと、容赦なさ過ぎじゃないの!? あいつら~! ボクの……ボクのお金があっ……」

『増援を頼みます!』

「勿論だよっ! アクア・エージェント。キミもターゲットを影から守ることに尽力しろ! 分かったね!」

 普段は知的で冷静なサイバーロードに似合わぬ荒々しさでそう言い、別の通信機器を立ち上げる。

「レンジャー、グラップラー、ボクだ! 今月タダ働きになりたくなけりゃ、1分で準備してスパイラル・ゲートに入ってろ! 座標はこっちが設定して送信する!」

 機器の向こうで慌てているらしい二人を置いて、次はキャンドルに向かい合う彼。

「キャンドルちゃん! スパイラル・ゲートの準備と……移動用カプセルの準備を!」

「え!?」と、キャンドル。

「社長、まさか……社長も出向かれるんですの!?」

「当たり前でしょ! これ以上トンチキコンビだけに任せてらんないよ!」業を煮やしたようにアクアンが言った。

「キミは本社に残って、ボクの指定したプログラムを都度送信して。良いね!」

 

 

 ●

「な、なんだ、てめえら……!」

 そう言うヒューマノイドたちに、ガーディアン達は冷徹にアナウンスする。

「そちらに、予言者クルトがいることは確認済みである。ヒューマノイドたちよ、我々は予言者クルトを排除する命令を受けている。彼を引き渡せ。断る場合、攻撃の許可も受けている」

 

 その声は当然、ポップルの下にも聞こえていた。彼女はクルトを抱きしめて、がたがた震えだす。

 戦争に関しては素人並の知識すらない彼女にだって、分かることだ。ガーディアン達のあの数は、本気で紅戦線と戦うことも想定していると。

 ……ゲットは、キッと表情を硬くし銃弾を充填する。

「ポップル……怖がらなくて、大丈夫。クルトと一緒に隠れてて」

「繰り返す。予言者クルトを……」

 そして次の瞬間、ガーディアンが一体、爆音と共に地に落ちた。ゲットが、狙撃したのだ。

 

 彼の中で名状し難い混乱が、明確に怒りに変わっていく。

 なんで、ポップルとクルトが、こんな目に合うんだ。

 自分達とは違う、戦いが好きなわけでもない二人を、強いわけでもない二人を、なんで闇も、水も、光も、寄ってたかって虐めるんだ。

 二人とも、世界が見たくて、美味しいものが食べたくて、外に出ているだけなのに。何も……悪い事なんて、していないのに。

 その爆音で、クルトが目を覚ましたようだった。目を覚まして早々言葉を失っている彼に、ゲットはもう一度言う。

「二人とも、隠れてろよ……あいつらは全員、ぶっ潰してやる!」

 

 彼の声はほぼほぼ、紅戦線の面々の総意と言ってよかった。ガシャン、と落ちたそのガーディアンが、呼び水となった。

「……舐めやがって、何様だ。……ヒューマノイド本隊に来といて、よくでっかい口が叩けたもんだぜ」

 ざわざわと、声が湧き上がる。そして……一斉に動き出した。

「砲兵、位置につけ! 砲撃準備を!」

「アーマロイド部隊を起動しろ! デューンゲッコーを繰り出せぃ!」

「おらぁ!! 撃って撃って撃ちまくれぇ!」

 どんどん膨れ上がっていく罵声と、そして銃撃音。

「飛んで火にいる光文明ども! 全員鉄クズにしてやらぁ!」

 悪く思っていなかった客への敵意を剥き出しにされて刺激された義憤に、火文明の生来の戦い好き。彼らの戦闘意欲を刺激し得るに、ガーディアンは十分すぎた。

 ビュン、ビュン、と攻撃を放たれて一体、又一体、と撃墜されていく。しかし、先頭に飛んでいたガーディアンは、その様子を見て……言った。

「全部隊、位置へ。相手方に承諾の意思は無いとみなす。彼らを相手にしつつ、予言者クルトを探し出して、始末せよ」

 

 

「何事だ!?」

 漸く、基地の中からボーグも出てきた。ハウクスも隣にいる。

「ガーディアン……!」ハウクスは呟いた。

「警告する。予言者クルトを引き渡せ」

「ざっけんなぁっ!!」

 そうこだまする二つの声に、ハウクスは「ふうむ……」と微笑んだような声を出した。そして、つか、つか、と彼は、てんやわんやの中に入っていく。

「おい、下がれ!」と、ボーグ。「お貴族さんには荷が重い」

「ご心配なく。むしろ……」

 その時、ボーグは……ありていに言えば、ぞっとした。戦士として高く評価され続けて、幾星霜。こんな感情を覚えるのは、本当に……ごく、若い時以来かと言うほど、その時彼は「畏敬」に似た何かを覚えた。

 

「貴方方の方が、荷が重いでしょう」

 

 彼は、笑っていた。今までの、上品な人を食ったような声でありながら……始めて、ボーグは気が付いた。彼の大きく裂けた口の存在を。仮面の下から現れた、化け物のような口と牙を剥き出しにして、彼は笑った。

 ハウクスはすっと、片手を自分の腹に置く。すると……彼の纏う鎧、恐ろしい悪魔の口を模した鎧の口が開き……その下から、ハウクスのどてっ腹にざくりと開いた、もう一つの口が現れる。

「輝く闇よ、魂を奪え……」

 彼が呪文を唱えると、そこから稲妻のようなオーラがたちまちに迸った。そして……。

「《ロスト・ソウル》っ!」

 稲妻が、一瞬のうちに空に迸った。

 稲妻……そう、それは光であったのに……まるきり、眩しくなかった。

 むしろ、見た者の心を吸い込み、絶望に追いやってしまいそうなほどの……まさしく「輝く闇」だった。

 そして、次の瞬間……半分ほどのガーディアンが一斉に、勢いを、いや……まるで魂そのものを抜き取られたかのように動きを止めて、雨粒のごとく大量に落下したのだ。

 

 

「そこに、いらっしゃるのですね?」

 突然の事に混乱するヒューマノイドとガーディアンを背に、ハウクスが静かに向かった先には、ゲットがいた。そして……立ちすくんだままのポップルも。

「お前……」

 ハウクスは、少しばかり息が荒い様子であった。体力を消耗する技なのだろうか、

「坊ちゃん。お嬢さんたちを連れて逃げなさい。今すぐです。別の基地にでも、どこへでも」

 ハウクスはじっと、彼らと顔を合わせてそう言う。

「攻撃はまだ止みません。ここはわたくしと、紅戦線の皆さんが引き止めます。君は彼女を守って、どこかにいますぐ逃れなさい」

「……なんでお前が、そんなこと言うんだよ!」

 ドォン。火山要塞ヴァル自慢の大砲が、ついにまず一発発射された、その爆風で、ハウクスの六房のマントが、ゲットの方になびく。血のような、赤いマントが。

「お前だって、良い奴じゃないだろ!」と、ゲット。「だって、お前……」

「……ええ、そうですよ。大丈夫。大した理由なんかじゃありません。だから、わたくしの事なんて、信じなくて良いですよ」

 彼は、ゲットの頬にそっと手を添えた。

「ただ、光が嫌いなんです。気に食わないんです。君がわたくしを嫌いなのと同じように、わたくしも……光文明が、それに従う連中が、どうしようもなく嫌いなんですよ。君が生まれるよりもずっと……ずっと昔から」

 ドォン、ドォン。砲撃音が止まない。ガーディアン部隊も、必死に応戦しているようだ。

「特に……今までどれほど自分たちの仲間と見なしていようとも、事情が変われば『秩序』のために、あっさり切り捨てる。情も憂いもなく、いらない者のように扱う……そのような所が、わたくしは、反吐が出るほど本当に嫌いなのです」

 砲撃を止めろ、そのような声が響く。無機質な機械音だから、ガーディアンのものだ。するとその瞬間、残っているガーディアンの数体が、きりもみ回転をしながら大砲に突っ込んできた。砲身の中へ……。

 爆発が、巻き起こる。

 それを背にして、ハウクスはじっと、ゲットを見下ろしていた。そして、彼に渡した。ほんの小さな、緑色の結晶……自然のマナの結晶を。

 ……ゲットは、彼に挨拶は言わなかった。けれどポップルの手を掴んで「ポップル。結晶、作れるか」と言った。

「わかった……」

 彼女は自然の結晶の力を杖に注ぎ込み、冷たく、硬い浮遊結晶を作り出す。それに乗って……静かに、戦火に紛れるように、ゲット達は共に逃げ出した。

 

『アクアン様! ご報告いたします!』

 てんやわんやの戦場の中一切気取られないところは、やはり諜報のプロと言ったところか。アクア・エージェントが連絡する。

『ターゲットが、火山要塞ヴァルを逃げ出しました! 追跡いたします!』

「わかった」

 そう答えたアクアンは……移動用カプセルに乗り込み、火文明のとある崖の間に身を潜めている。

「レンジャー、グラップラー。ボクの指示通りに《エレメンタル・トラップ》を仕掛けろ。キャンドルちゃん。情報整理を怠らないで、地理情報を逐一送信して頂戴……にひひ、危なくはあるけど、このレベルの大混乱……逆に、チャンスかも」

『ヒューマノイドの子供が一名、ターゲットと一緒ですが……』と、エージェント。

「はぁ!? ガキでしょ? キミたちがどうにかしろよ!」

『は、はい……』

「妖精が今進んでるルートは、君の進んでいるルート通りで間違いないね?」

『はい!』

 アクア・エージェントが岩から岩へ飛び、全速力で追いかける先は、アクアンと海中のフェアリー・キャンドルにも共有されている。

「よしよし。ボクの演算通り……目標はやっぱり、機神装甲ヴァルディオスの基地だな。このままいけば……」

 距離、地勢、追手をまく事を考えれば……この崖を通るのを、先方も最善手と判断するはず。

 捉えて、スパイラル・ゲートで転送さえしてしまえば、後はもうおしまいだ。彼らが身動きさえ取れなくなれば、腕力のない種族のアクアンでも関係ない。

 知性の足りない、火と自然。しかもその子供の考えることを予測するなんて、サイバーロードには朝飯前だ。

 

 

「ばーさん! なんだ、あれ!?」

 ちょうどその頃、エグゼドライブと盗賊の盾も、火山要塞ヴァルに来ていた……けれど目に入ったのは、ガーディアンの残骸。

「ふん、見たか! 紅戦線本隊に攻め込もうなど百年早いわ!」

「油断すんなよ、まだ増援が来るかも知れねえ」

 と、会話するホーバスとタイラーに、上空からエグゼが「おーい! ヒューマノイド! 何があったんだよ!!」と聞く。

「げっ! ドラゴノイド!?」

「ほう、お前達も来たか、相手になるぞ!」

「ちげーよバーカ!! 今日はちげーよ! ってか俺だけだし!!」

 慌てて否定するエグゼドライブ。そして盗賊の盾も、身を乗り出して……ぎょっと絶句する。

 バラバラになってはいるが、ガーディアンだ。ポップルとクルトを、追っていた……。

 エグゼドライブの後ろにいるのが黒豹の獣人だと分かり、ホーバスたちもハッと悟る。

「あんたたち……ここで、あたしの弟子が……スノーフェアリーのポップルが、世話んなってないかい!?」

 少しの間、沈黙。ヒューマノイドの中からジョーが歩み出てきて、言った。

「……ポップルちゃんの先生か。一足、遅かったよ」

「……どういう、こった」

「見ての通りだ。ガーディアンの大群が攻めてきて……」ジョーが告げる。

「うちのが一人一緒になって、逃げてった。まだ、そんなに遠くには行っていないと思うが……」

「……どこに行きそうとか、あるかい!?」

「こっから一番行きやすいのは、ヴァルディオスさんの基地だ。ゲット……その、うちの奴なんだけど、そいつも何回か行ったことがあるから、真っ先に思い浮かぶのはそこだろ」

「そんなら俺も、場所知ってるぜ! ばーさん!」と、エグゼ。

「最高速度でぶっ飛ばす! 行くぜ、エグゼズ・ワイバーン!」

「ヒューマノイドのみんな、ありがとうよ!」

 盗賊の盾たちはそう言って、再び空に消えていく。

 

 

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