Saga of Creatures   作:hinoki08

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紅戦線の来客 13

 

 ピコン。

 軽快に小さい音が鳴り、アクアンの入っているカプセルのモニターに赤、緑、白の点の集まりが現れた。何者かが、彼のレーダーの観測範囲内に現れたのだ。赤は火、緑は自然、白は光文明の種族の生体反応。

 この状況でそんな組み合わせで来るなんて、一つしか考えられない。間違いない。彼女と、予言者、そして一緒のヒューマノイドの少年とやらが、近づいてきているのだ。……と、その時別ルートからも、レーダーに入ってくる姿があった。火文明の生体反応が二つに……自然文明のもの。猛スピードで一直線に、これもヴァルディオス軍基地に向かってきている様子。

 自然文明? アクアンははっと気がつく。

「(盗賊の盾!)」

 現在、自然文明に大きな動きはない。国境からほど遠いこの内陸部で、自然文明の生体反応がいて、しかもこれほど明確な移動の意思と移動手段を携えて現れるのは大分不自然だ。

 だが、盗賊の盾なら。アクア・レンジャーとアクア・グラップラーが生きていたと報告した彼女なら、可能性は高い。

 一刻、一秒を争うこの状況で、またしても邪魔されてたまるか。……確実に、奴らも罠にはめなくては。幸い、罠をプログラムした場所に、彼女らも突っ込んでくる。

「キャンドルちゃん!」彼は、本社の秘書に通信を入れる。

「本社のメインコンピューター経由で、ヤツらのプログラム端末とボクのカプセルの端末を至急繋いで!」

『は……はい!』

 数秒のちに現れる、数か所に仕掛けられたトラッププログラムの詳細。アクアンはそれにアクセスし、急いで数個のプログラムを書き換えにかかる。

 

『システム受諾完了。「エレメンタル・トラップ」解除。システム、「サイバー・ブレイン」を起動いたします』

 

「この調子ならすぐ着くぜ、ばーさん!」

 全速力でヴァルディオス軍基地に向かうエグゼズ・ワイバーン。ポップルやゲット達はいないか……切り立った崖が入り組む中、小さな彼らを見つけるのは簡単ではないだろうが、それでも目を皿にしている彼らの目に、何かが飛び込んできた。

 電子機器。……火文明では、見られない造りのものだ。

 そしてそれに取り付けられたランプはぴかりと青色に光り……そして、そこから。

「シンニュウシャハッケン!! シンニュウシャ、ハッケン!」

 スルリ、と液体状の生物が複数体姿を現し、みるみるうちに飛び上がってエグゼズ・ワイバーンを掴んだ。

「こ、こいつは……」

「『サイバー・ブレイン』っ!!」

 

《サイバー・ブレイン》。

 水文明の遣うトラップ用プログラムの中でも、極めて高度なものだ。

 何にせよ、その罠は自律思考式。ブログラミングによって作り出される実体とともに、目の前の対象に合わせて繰り出す攻撃を変えるだけの知能を有している。

「アーマード・ワイバーン、ドラゴノイド、ビーストフォークカクイッタイヲカクニン! ウゴキヲトメロ!」

 サイバー・ブレインのうち一体の腕に電磁波が集まり、放たれる。急所を的確に攻撃され、エグゼズ・ワイバーンは鈍足になる。

「ちっ、大層なもん持ち出してきやがって……」盗賊の盾は呟いた。サイバー・ブレインは高度な武器。取扱いにも、高いプログラミング技術を要する。そのため、おいそれとリキッド・ピープルの下っ端が使えるものとは思えない。……彼らの上役がそれほど本気を出し、彼らにそれを持たせたか。あるいは、もっと悪いパターンとして……。

「フン、んでも……」

 ガチャン。エグゼドライブがスイッチを押すと、エグゼズ・ワイバーンの装甲が一部閉じた。その瞬間……エグゼズ・ワイバーンも持ち直す。

「生憎だなっ! 俺らは死ぬほど、そいつらに会って来たんだよ!!」

 ピ、ピ、ピ。彼がボタンを操作する。水文明との戦争以降、マシン・イーター達の作ってくれた装甲の仕掛けが次々作動した。

 電磁波を封じられたサイバー・ブレインは不意をつかれて、慌てて次の行動に出ようとする。だがそんな彼を……待ってましたとばかりに、エグゼズ・ワイバーンは銃で貫いた。そして、電磁体の消えたタイミングで、すかさず旋回……本体の機器を打ち抜く。

 サイバー・ブレインはまたしても電磁体を展開してきた様子だったが……生憎と、エグゼズ・ワイバーンの方が早かった。

「ばーさん、後ろにも……」

「まかしときな!」

 盗賊の盾は盾からナイフを一本引き抜き……迷いなく一方向に投げた。まっすぐ飛んで行ったそれは、見事に岩を砕き……その中にある機械に命中。バチバチと音を立てている。このサイバー・ブレインは動き出しすらせずおしゃかになった、と言うわけだ。

 生憎と、盗賊の盾もドラゴ・シーカーも水文明に略奪をしに行ったことは数知れず。サイバー・ブレインと鉢合わせした経験も多分にあり、対策のノウハウは身についている。効果範囲の都合上、どのような位置で仕掛けられるかまで頭に入っている。

 ましてや、先の水文明との戦争を経て、水文明対策としてエグゼドライブからの情報をもとに、マシン・イーター達はサイバー・ブレインの電磁攻撃に対抗できるアーマード・ワイバーンの装甲を作ってくれたのだ。

「ヤツら、やっぱりこの崖を狙ってるみたいだ」

「そうだね!」と、盗賊の盾。

「今のうちに潰しておかないと……ポップル達を追い抜いてるって可能性だってあるんだ」

 そうでなくとも、サイバー・ブレインは水の武器の中でも特に脅威そのもの。一度起動を許せば連鎖的に人工知能が共鳴し合うため、ここに仕掛けられているサイバー・ブレインはおそらく全てがもう起動済み。避けて通れば良いと言うものではなく、確実に全て機体を叩く必要がある。

 にゅっ、と崖の中から出てくる電磁体、その奥にある本体を、急いで投げナイフで叩き割り、エグゼズ・ワイバーンで止めていく。

 人工知能を持った電磁体も、二人を翻弄するように、次から次へと動きを変える……だが、二人とも、それすらも視切れる思いで、彼らの先を、先をいった。

 

 いける。二人が、そう思ったときの事だった。エグゼドライブは手綱から……相棒の体の、わずかな変化を感じ取った。

 

「ばーさん、危ないっ!」

 そして、盗賊の盾を前方に突き落とす……わずか、1秒とかからない行為。彼の反射神経と判断力が無くては、不可能であったろう行為。

 

 そして、盗賊の盾がまだ地面に落ち切らないうち……。

 彼らのいた空間から強力な青い光が迸りエグゼズ・ワイバーンとエグゼドライブを空中に拘束した。

「な、なんだ、これ……」

 エグゼドライブは呻く。……あの日、ファル・イーガ・カーテンと相対した日の事を思い出して。

「こ、これ、光文明の……? いや……」

 でも、何かが違う……何か、どこか……違う。神を名乗る者の威厳と輝きのもと降り注いだかの如きあの光に比べて、こちらはまるで無情。完全なる無機質。ギリギリと、眼球をなんとか動かせば、崖に四方、装置がはり巡らされていた。……水文明の罠だ。

 

《エレメンタル・トラップ》。

 エグゼドライブが直感した通り、光文明の拘束光線の技術をもとにアクアンに生み出された、水文明の新型兵器だ。

 新型兵器ゆえ、水との戦いが豊富な二人でも、面識がない。だが、二人とも水自体とは戦い慣れている。エレメンタル・トラップはまだ、光文明が使用するものほどの有用性はない。子供二人ならいざ知らず、経験豊富な盗賊の盾が上手くはまってくれるかどうか。

 だから、アクアンはサイバー・ブレインを使った。

 盗賊の盾なら、サイバー・ブレインと相対していないはずがない。あれを見ればそちらの脅威に気を取られるだろうし、彼女の行く先を誘導することもできる。その先で……確実にはめればいい、と、彼は計略を立てたのだ。

 そして……まんまとはまった。はまっていた筈なのだ。彼女の同行者がエグゼドライブではなかったなら。

 

「ば、ばーさん……」

 幸い、不意に突き落とされたところで怪我をするような盗賊の盾ではない。彼女はすぐ岩肌にしがみつき、それをつたって無事着地。……と、同時に、エグゼドライブの状況を飲み込んだ。

「これ、たぶん、俺らが知らねえ水の兵器だ……! 気を付けて、先、いって……」

「……すまん! エグゼ!! ありがとうよ!!」

 それしか……それしか、台詞が出てこなかった。それ以上の相応しい台詞が思いつかなくて。

 盗賊の盾は急いで、崖下を走り出す。

 

「……火文明二人は動きを止めた。けど、盗賊の盾はまだ移動中、か……」

 しくじった。アクアンは歯噛みする。次の一手を早く打たないと。エグゼズ・ワイバーンを降りた彼女の移動速度はぐんと落ちた。

 ところで、現在彼らがいる峡谷はざっくばらんにはY字状になっている。盗賊の盾達とポップル達は奇しくも丁度、Y字の別方向から来ていた。そしてアクアンが身をひそめているのが……ちょうど、Y字の交差地点、その岩陰だ。

 反重力装置を仕込んだカプセルでふわふわ浮かびつつ、とにかくエレメンタル・トラップに引っかかった二人を適当な場所にテレポートさせるプログラムを打ち込む。火の連中になんか、特に用はない。

 ……予想通りだ。盗賊の盾、さすがにあれで感づいたか、さっそくあれ以降のエレメンタル・トラップを一つ、すり抜けている。おかげで移動速度は輪をかけて遅いが、やはりさすがは、といった所か。

「(……なら、いいさ)」

 アクアンは再度、プログラムを開く。計画、変更。盗賊の盾のいる方はエレメンタル・トラップを最小限に抑え込み、サイバー・ブレインをフル活用する。文字通り、頭数を増やすのだ。彼女のスピードがスピードだ、十分に間に合う。

 そして、妖精たちの方は、まだエレメンタル・トラップを仕掛けたゾーンに入っていないようだが、もうすぐ……。

 ……と、彼が思った、その瞬間だ。ピコン。ピコン、音声は一斉に成り響き、おびただしい数の生体反応がレーダーに出現した。

「……えっ?」

 その画面を見て目を丸くした彼のもとに、アクア・エージェントからの通信。

『ア、アクアン様っ! ガーディアンの襲撃です! 追手が参りましたっ!』

「……ガーディアン」アクアンはその言葉を飲み込み、言う。

「焦らないで。……エレメンタル・トラップを張り巡らせてあることを忘れるな。彼らは予言者を殺すと言う命令しか受けていない。複雑な行動パターンを繰り出せはしない。レンジャー! 君はエージェントと共に妖精を守るんだ、ガーディアン達を罠にはめろ! キャンドルちゃん、すぐにプログラムを組んでキミに渡す、ガーディアン部隊の動きを予測する演算プログラムだ。それに基づいてボクの代わりにレンジャーとエージェントに指示を出して! グラップラー! キミはY地点に移動だ、ボクの指示通りに盗賊の盾を食い止めるんだ! 奴は移動手段を失っている、まだ有利なのはボクたちだ!」

 アクアンは指示の後新しいモニターを展開し、プログラミングソフトを立ち上げた。彼らの行動パターンのデータなら、参照するまでもない。自分の頭の中にある。

 

 

 ●

 ……なんて、こった。

「予言者クルト、排除する」

 ここまで来たのに。

 いきなり現れた、ガーディアン達の追手。まるで待ち伏せしていたかのように、ゲット達の前に立ちはだかった。

「下がれ、ヒューマノイド」と、彼らは一斉に銃口を向けつつ、告げ足す。

「我らの指令は予言者クルトと、彼に与する者の排除。貴様の殲滅許可は受けていない」

「……だったら、なおさらオレも一緒に殺るべきだな!」ゲットは二人を後ろに庇って啖呵を切った。

「クルトは、オレの友達だ! オレが守る!」

「……殲滅せよ」

 さっとガーディアンが編隊を組み、砲撃してきた……と、その時、不思議な出来事が起こった。

 ひゅん、と高速で動いた、蒼い影と、光線。それがガーディアン数体を吹き飛ばし、隙なく組まれた編隊が一部、将棋倒し状に倒れたかと思うと……。

 急に、崖から青い光が降り注ぎ、彼らの動きをぴたりと止めた。

「な、なに……?」

 ポップルは後ろから見て驚いている。ゲットはその隙に、突然の事態に混乱するガーディアンを、近くにいる相手から次々撃ち抜いていく。

「ポップル、もう少し高く飛び上がれるか!?」

「う、うん!」

 罠が発動したところを避け、ガーディアン達を屠り、突破口を開いていく。ゲットにとっては、それができる唯一の手だ。幸い、ガーディアン達は見かけよりは非力だ。

「(なんだ、これ……? 動きが止まるって言えば、光文明の武器……? でも、自分とこの罠に引っかかるかな、普通……)」

 空中に拘束される彼らを尻目に、彼は思う。

「クルト、これ、光の兵器なの?」

「……わかんなイ。でモ……少なくともソーラー・レイやムーンライト・フラッシュじゃ、ないヨ。テクノロジー呪文じゃなイ。精霊の力を全然、感じないんだモン……」

 ポップルの胸の中で怯えながらも、クルトは律儀に返答する。

 となると、誰が一体ここに……? 火文明の物でも勿論ない。けれどどうにせよ、今はこれに助けられるしか方法はない。

 

「次っ! レンジャーさん、あの銀色の個体を!」

「承知した!」

 ひゅん、と物陰からアクア・レンジャーが狙撃。その一体を失ったことでそこに隙ができ、ゲット達はまた一歩先に進んでいく。

『お二方! お待たせしましたわ! 社長からのプログラムがダウンロードできましたわ!』と、フェアリー・キャンドルからの通信も入ってきた。

『エージェントさん、あなたから一番近い個体を右45度の角度でサイバークナイで仕留めてくださいませ! レンジャーさん、今中心にいる一回り大きな個体の内部機関にサイバーナイフを刺してくださいませ! 貴方の距離からナイフで急所が狙えますわ! そうすればわたくしが彼の指示電波をハッキングいたしますわ!』

 フェアリー・キャンドルたちの指示で、彼ら二人はすいすい目当てのガーディアンを屠っていく。もとはと言えば彼らは、このような防衛陣の中でひっそり暗躍することを得意とするステルス部隊の出身だ。このようなことは得意分野だ。

 勿論、ひゅんひゅん飛び交う水と光の攻勢はゲットの目には入らない。が、彼も異常性は感じている。

「(誰か、助けてくれてんのかな……?)」

 それが誰かは分からないが……何はなくとも、今は、彼にはヴァルディオスの基地に向かうことしかできない。ポップルにどの方面に行ってほしいと都度注文しつつ、てんやわんやとなるガーディアン軍をいなしながら進んで行く……アクアンのいる交差地点に向かいながら。

 

 

 間違いない。盗賊の盾は確信する。

 またしてもサイバー・ブレインが大量に出てきて、自分を足止めしようとする。盾に刺した大量の武器でどうにかこうにかいなしつつも、彼女は考えた。

 サイバーロードが、この場にいる。

 自分達の行動に臨機応変に対応してくるスピード感。高度なプログラムをすぐさまその場で判断し、送信してくる技術。リキッド・ピープル達だけでやれるはずがない。それに遠方、安全地帯から指示を出しているとも思えない対応力だ。

 もしここで来るなら、一人しかいない。

 彼ら……「ブルーグレー商会」の上役だ。ポップルを攫って、売り飛ばそうとしている張本人だろう。

 ……我ながら今一度、虫唾が走る。確かに、自分だって泥棒だ。けれど、ケチな守銭奴と一緒にされたくはない。

 自分が宝を探していたのは、金銭的な価値なんか問題じゃない。それ以上の価値、ときめきが欲しかったからだ。海賊になった今でも、その精神は衰えてはいない。

 寧ろなりふり構わず金だけを追い求める、などと言う輩は、盗賊の盾が最も軽蔑するうちだ。まして……何も知らない迷子の子供を、攫って売り物にしようだなんて、最低の行為の一つだ。

 そんな奴に、ポップルを渡してなるか。近くに来ているのなら好都合、自分が仕留めてやる。

 

 ……そう考えていた彼女のもとに、ひゅん、とサイバー・ブレインとは違うパワーを持った蹴りが襲いかかる。彼女はガツン、と盾でそれを受け止めた。

「おいでなすったかい!」

「悪いが、大人しくしてもらおう、盗賊の盾!」

 ……アクア・グラップラーだ。

 彼も、今度は大人しく弾き飛ばされはしない。さっと身を翻し、また強烈な蹴りをお見舞いする。またしてもかろうじて防御したが、サイバー・ブレインも避けなくてはならないのもあり、盗賊の盾は次第に防戦一方となった。

「ははは! どうした、勢いがないな、盗賊の盾よ!」

 攻めている方もその実感があるのか、得意げそうな挑発に盗賊の盾はいささか、むっとする。

 ったく、サイバーロードの技術の威を借りやがって……と心の中で呟いたが、言ってどうにかなるものではない。さらにこいつの相棒までも来られたらさらに厄介、自分と大盾の力をもってしても防ぎきれるかどうか……。

 ……相棒? 

 ……そういえば、こいつとあの赤いマフラーの相棒はいつも引っ付いていたはずだ。なぜ今、よりによってこいつ一人だけ? 

「おい、あんた! 得意げなのはいいが……」盗賊の盾は言う。

「ちっと、物足りんねえ! 相棒さんはいつ来るんだい!」

「……レンジャーか? バカめ、お前などオレ一人きりで仕留めきれるわっ!」

 言葉こそ強がっているが……間違いない。声が少し、泳いだ。相棒はやはり、この場にはいないのだ。

 彼らを動かしている上役は、バカのはずはない。絶対にない。まして闇や火ならいざ知らず、実利を求める水文明のお偉方だ。

 自分には敵わなかったが、彼らのコンビネーションは中々のものだ。春のスノーフェアリーを捕まえるほどの任務となればなおさら、コンビとしての彼らの力を、よりにもよって今削ぐとは考えづらい。それなのに、事実彼は今たった一人で自分と対峙している。サイバー・ブレインもあることを踏まえれば尚更、二人で攻めたほうが確実に自分を仕留められるのに。

 導ける結論が、一つだけある。

 彼と彼の相方を引きはがしても、今、二手に分かれて行動しなくてはならない理由がある。しかもおそらく、優先度は自分より高い。

 ……ポップル。

 この谷の別地点に既に彼女がいて、しかも……彼らの観測域には入っている可能性が高い。

 こうしてはいられない。早く、自分が何とかしなくては……。そう考えている盗賊の盾の持つ大盾に、またしてもガツン、と強烈な蹴りが入った。今までにない程真っ向から入ってきて、さすがにその衝撃に盗賊の盾の片手も痺れる。

「……チッ、やむを得ないね」

 まずは勝ち負けすらも放って、一刻も早く、こいつをどうにかするに限る。

 次の瞬間、また構えに入ったアクア・グラップラーが身を翻した隙に……盗賊の盾はその手に持つ盾に向かって、念を込めた。たちまちのうちにふわりと、物々しい大盾が優しいエメラルドグリーンに輝き……そして、アクア・グラップラーの体を包んだ。

「なっ……!?」

 グラップラーは驚いている様子だった。しかし……次に、彼は笑って言う。

「ん……ははは、なんだ、これは! 力がみなぎって来たぞっ!」

 盗賊の盾の持つ大盾は、自然文明の奥地にあったお宝……若い日の彼女が初めて得た、思い出の品だ。

 芳醇な自然のマナと共にあったその盾は、常にマナの波動をその身に宿し……持ち主がこれぞ、と思った対象に、その力を分け与えることができる。ありていに言えば、強化するのだ。

「何がなんだかは知らんが……」詳しい事は分からずとも、自分の体にみなぎるパワーだけは実感できるグラップラーは、言う。「利用させてもらう、この力!」

 彼は勢いをつけるため、ストン、と岩肌に立った。そして岩肌を蹴って突っ込もうとした、その瞬間……! 

「ケイコク! アタラシイシンニュウシャヲ、ハッケンシマシタ!」

「シゼンブンメイノセイタイエネルギーアリ! シュゾクフメイ! コレヨリハイジョヲオコナイマス!」

 崖から出てきた電磁体に、彼はたちまちからめ捕られた。

「んな……!?」

 目を白黒させるアクア・グラップラー。そして彼がはっと気が付いた隙に、盗賊の盾は彼と間合いを詰め……思いきり、サイバー・ブレインの攻撃範囲内に彼を蹴り入れた! 

「ホカク! ホカク!」

 あっけなく仲間に捕まるアクア・グラップラー。

 この星に生きる超獣なら誰しも多かれ少なかれ、その魂に生まれ育った土地のマナの力を宿している。水文明の生体認証システムは対象の持つマナの波動を読み取ることで、相手の出身文明を見分けることができる、と言うことを盗賊の盾は知っていた。

 大盾から自然文明のマナを大量に注入された彼は、サイバー・ブレインにとって「異物」と認識されてしまった、というわけだ。

「まっまてぇ! オレは、オレはリキッド・ピープルだぞっ!」

「カクホイタシマシタ!」

 そして優秀なサイバーロード、アクアンによってプログラムされた優秀な人工頭脳は、彼がSOSを出す暇もなく、彼の体に高圧電流を流す。それだけではなく……「ターゲット」を捕獲した仲間を援助するために、他のサイバー・ブレインたちもひとところに集まって来た。

 悲鳴を上げるグラップラーに、盗賊の盾は「じゃ、後はよろしく頼んだよ」と言って、彼女自身は走り去る。

 

 勿論、生体反応の異常をアクアンも観測する。

「これは……!」

 そして無論、サイバー・ブレインとは違い、それは盗賊の盾が行った行為だと気が付く。

 

 にひひ、と彼は笑う。

 狙い通りだ。

 

 ぽちり。彼はスイッチを押す。そして……。

 

 はっと、走りを止めない盗賊の盾が気が付いたときにはもう遅かった。

 岩肌に紛れていた光線銃が起動し、現れる。

「しまっ……」

 そしてそれから発射されたレーザー……エレメンタル・トラップが、とうとう彼女をからめ捕った。

 

 

 アクアンも最初からアクア・グラップラーに、彼女を倒すほどの活躍なんて期待していない。足止めし、そして……彼女に盾の力を使わせる、それで十分だった。

 盗賊の盾の大盾の力。そのデータは、彼も掴んでいた。

 その力は彼女自身の体力も消耗する。まして、本来は魔術師の素養の薄い彼女が使うのだから尚更だ。そのため使用直後は彼女に、大きな隙ができると言うことも。

 そして結果、今度こそ見事にはまってくれた。エレメンタル・トラップに。

 

 一丁上がり、厄介な盗賊の盾が行動不能になった。

 さて、もう片方、一番大切な方に取り掛からねばならない。と、彼がもう一つの画面をズームにしたとき……もうゲット達は、彼のすぐそば、カプセルから外部にとりつけられたカメラで観測できる範囲に来ていた。アクアンの乗るカプセル自体は光学迷彩モードになっており、外からは岩肌に紛れて見えない。

 にやりと彼は笑い、画面をレーダーからカメラの映像に切り替える。そしてそれを更にズームした、その時……。

 

 フッ、と、影が落ちる。アクアンはカプセルの中から、空を見上げた。

 

「……うわっ、あんなの持ち出してくる?」

 そこにいたのは、大型ガーディアンに率いられた編隊。増援がやって来たのだ。どうやら是が非でもクルトを殺す算段らしい。

 

 

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