Saga of Creatures   作:hinoki08

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紅戦線の来客 14

 

 ゲットは、息をのむ。

 どうにかこうにかここまで進んでこれたが……

 空を覆うほどの、巨大なガーディアンが一体。そしてそれに従う、小型ガーディアンの軍勢。さすがにジェスが率いていたものよりは小規模だけれど……それでも、こんな小さいクルトを殺すためには、膨大過ぎる量。

「敵発見。排除せよ」

 彼らはもはや、警告の言葉すら発しては来なかった。ゲットの事も、完全に敵と見なした模様。

 ……上等だ。ゲットは片手に装備した散弾銃に、弾帯を装着する。

「ゲット……?」

 クルトが、不安そうにそっと自分の上着に触れたのが分かった。ゲットはそれを……後ろ手で、静かにいなした。

「ポップル。結晶、も一つ作ってくれよ」

「えっ?」

「ポップル達を巻き込んじゃうから……!」

 この数を流石にゲット一人が一編に対処するのは無理だ。けれど……最近与えられた「あの」技なら。

「オレがどうにかするからさ、ポップルとクルトは、離れてて」

 ポップルも、何か言いたげだった。けれど……判断を迷っている暇がないのは、彼女も同じ。「分かった……!」と彼女が言った瞬間、結晶が新しく生成され、彼女たちはそれに乗る。そして彼女が距離を取った、と彼が判断した瞬間。「砲撃開始」とガーディアンが言い放ち、光線を発射したのと同じ瞬間に、彼の散弾銃が赤いマナのエネルギーの色に輝き……。

「《バースト・ショット》ォ!!」

 激しい勢いで無数の弾を打ち出し、彼らの光線を掻き消し、ガーディアン達を次々にぶち抜いた。子供の片手に装着されている銃から飛び出ているなど、信じられないほどの弾幕の雨。

 火文明の大量破壊兵器、バースト・ショット。アーマロイドに搭載されることが多いが、マシン・イーターの開発する専用の武器を使うことでヒューマノイドも放てるのだ。

 真っ赤に飛び散る凄まじいまでの弾幕は、本当にポップルとクルトすら巻き込みかねない勢い。そもそも、元々そういう武器なのだ。味方を巻き込んでまでも大量の敵を相手にするための兵器。

 彼の予想外の出方に、ガーデイァン達も面食らっているようだった。しかしさすがにそこは無情の軍隊と言ったところか「焦るな」と、巨大ガーディアンが言う。

「予言者クルトとそれに与するものを、排除せよ。……クルトは、どこだ」

 弾幕の中視界もきかない彼らは、それでもクルトを探し続ける。そして、そんな中……。

「しゃっ……社長命令とはいえど、これはあんまりだぁ……!」

 赤い弾幕の雨の中、必死に動き回って、ポップルに攻撃が当たらないよう立ち回りを続けさせられているアクア・レンジャーの姿があった。「キミは不死身なんだから大丈夫でしょ」というアクアンの一言で。

 実際、斬られようが潰されようが元通り再生する上に、火文明上陸にあたって高温での蒸発も克服している身体のアクア・レンジャーには弾幕の雨は理論上は問題ではない。体中穴だらけになりながらも、戦い続けることは可能だ。可能だけれど……当の本人にとっては無論、全くいい気持ちではない。

『レンジャーさん、大丈夫ですの?』

「はい、問題……有りません」

 正確には問題しかないが、あんたらの基準で言えばな! と心の中で言いたいのを何とか抑えつつ、レンジャーはフェアリー・キャンドルからの通信に答える。

『やはり、その最大のガーディアンが司令塔の役目を担っているようですわ。ハッキング用のサイバーナイフの用意をお願い致しますわ』

 とにかくも、いい加減任務を終えてアカシック3に帰りたい。アクア・レンジャーは赤いナイフを構え、大型ガーディアンに突っ込んでいく。

 

 大型ガーディアンはバースト・ショットの攻撃を受け、一点、守りに入っていた。やはりガーディアンは、攻めるより守る方が本分だ。クルトの捜索と殺害は部下に任せ、自分は自分の身を守りつつ司令塔としてその場に居つつ、部下たちを守るに徹していると言ったところだろう。光のシールドを複数展開し、弾幕を跳ね返しにかかる。

 流石のバースト・ショットも、彼ほどに大型だとなかなか効き目がない。また一本、弾帯が切れる。ガーディアン達の攻撃を、背中に装着したブースターで結晶を操縦しつついなしていく。ポップルもクルトも、無事だろうか。けれど自分に今できる最善手は、これだけだ。

 ……その時。

 不意に、大型ガーディアンが、守りを解除した。光のシールドが消える。そしてその代わりに……彼の体に仕込んであった銃が大量展開され。

「予言者クルトに与する者よ、排除するっ!」

 ゲットを迷いなく、襲撃してきた。

 刹那。彼の守りと指令を失った小型ガーディアン達が……たちまちのうちにあっけなくバースト・ショットの弾幕に包まれ、バラバラと落下していく。けれど大型ガーディアンは気に留める様子もなく、ゲットに対してこちらも無数のレーザーを放った。

 まるで、挑発されて堪忍袋の緒が切れたかのように。

 その突然の変化……しかも、ファル・イーガ・カーテンの時に感じた光文明の無情さとは一風変わった態度に、ゲットもいささかばかりの違和感を覚える。

 ……けれど、どちらにしろ、相手の頭数が結果的に減った事と、クルトたちが追われないことに越したことはない。それに……火文明の戦士としては、積極的な戦いなら大歓迎だ。

 巨大なレーザーの軌道を見切るのは、案外簡単だった。ブースターを使って飛びつつ、バースト・ショットから別の砲撃に切り替える。

「かかってこいよ!」

 

 無論のこと、それは相手が挑発に乗ったからではない。

 彼が戦いに集中している隙を縫って、アクア・レンジャーがサイバーナイフを彼の内部機関に届くように突き立てたのだ。サイバーナイフはただの刃物ではなく、プログラムの受信装置でもあり、機械に刺してハッキングさせることができる。

 フェアリー・キャンドルが当該のサイバーナイフに向けて、防御態勢を解き、ゲットにのみ全力での攻撃に向かうよう、プログラムを送信したのだ。

 

 内部機関をハッキングされ、攻撃態勢に入った大型ガーディアンの砲撃は、まさにバースト・ショットと同じようなもの。

 仲間すら巻き込む勢い……とても集団を重んずる光文明の戦い方とは思えない勢いで、彼は砲撃を放つ。その巨体に相応しく、パワーも中々のものだと言うことが推し量られた。

 ゲットはちょろちょろ飛び回って、隙を見て銃撃を入れるが……やはり、相手へのダメージは少ない模様。

 ゲットも完全に、彼と戦う構えだ。ここまでが、アクアン側の思惑だった。邪魔なガーディアン達をリーダーたる大型個体の手で一掃させつつ、邪魔なゲットも彼に仕留めさせる。ヒューマノイドの子供風情が敵う相手ではない。戦いが終われば、そもそもがハッキングされているのだから、いつでも動きを止めればいい。あとに残るのは、ポップルだけだ。

 しかし、ゲットはそんなことを知らない。ヒューマノイドの戦士として、自分より強い相手を前に逃げると言う選択肢も考えない。

 彼は真っ向から、大型ガーディアンに向かっていく。ギン、とまた響く金属音は、相手を葬るにはまだそれが小さいことを証明している。

 マナも残弾も、持つだろうか。彼もさすがに心配になってきた、その時……。

 

 急に、彼はエメラルドグリーンの光に包まれる。彼の体に、そして銃に、凄まじい力がみなぎった。

 

「え……?」

 

 奇しくも、二つ、同じ声がその場で発された。ゲットと……そしてそれを観察していたアクアン。

「……坊ちゃん、しゃんとしな! あたしの力を分けてやるからよっ!」

 そこにいたのは、盗賊の盾だった。力を分け与える大盾をゲットの方に突き出し、彼女は叫んだ。

 

 アクアンはハッとして、画面をカメラ映像からレーダーに切り替える。盗賊の盾は確かに、捉えた地点から脱出していた。

「馬鹿な、どうして……?」

 何故、抜け出せた……。

 さすがに彼のデータベースにも、彼女が昔光文明に盗みに入った経験があることまでは、情報がない。ましてや光文明の本物の拘束光線を食らい……その上で、今なお生きているという事実も。

 元々、彼女は盗賊だ。盗賊が縄ぬけ一つもできないようでは、話にならない。まして彼女はネコ科の獣人。体は非常に柔らかく、拘束から抜け出すにはもってこいなのだ。

 光文明の拘束光線すらも、隙を見抜いて抜け出した彼女。まだそれに比べれば未完成のエレメンタル・トラップから抜け出せたのも、不思議ではないのだ。

 

「お、おばさん、誰!?」

「ポップルの先生だよ! お世話んなったね!」

 彼女はそう、手短に説明する。大型ガーディアンは、お構いなしだ。

「排除する!」

 彼はそう言い、砲撃を放ったが……行ける。ゲットはそう確信し、銃口を向ける。たちまち、赤と緑の混ざったような弾丸が発射され……その光線を打ち消した。いや、打ち消すどころではない。まるで押し戻すように、光線のエネルギーすら纏って大型ガーディアンに向かっていき続け……。

 真っ向から、彼を打ち抜いた。爆音とともに彼は砕け、地面に凄まじい音とむせ返りそうな砂煙を立てて落下した。

「やったぜ!」

 ゲットはキラキラした笑顔で叫ぶ。

「すげーや、おばさん! さすがポップルの先生だな!」

「あんたがすごいんだよ! さて、ポップルはどこだい?」

 いずれにしても、もうガーディアンはあらかた消え去った。彼らに関しては心配ないだろう……そう思っている中不意に、盗賊の盾はコツン、と地面に散らばったそのガーディアンの残骸の中から、赤いものを発見する。見覚えがあった。

 アクア・レンジャーの使っていたナイフだ。水文明の武器。……やはりだ。

 サイバーロードが、ここにいる。奴らを分断させてまで、もう一人をここに留まらせた。

 本人もきっと、すぐ近くに。と、彼女は改めて確信した。その時……。

 

 そして、同じころ。

 砲撃音が聞こえなくなったのを聞きつけ、ポップル達も岩陰から顔を出す。

「もう、大丈夫かな?」

 土埃がもうもうと立っているものの、空に輝いていたガーディアンたちは、今や残骸しか見えない。ゲットが本当に、やってくれたのだ。

「早く、ゲットのとこに戻らなきゃ……」

 そう言ってポップルが結晶を旋回させた時、がしり、と彼女は抑え込まれる。岩肌に垂直に立っていた人物に。

「ようやく見つけたぞ、手間をかけさせおって」

 彼女が知っているのとは違うリキッド・ピープル……アクア・エージェントだ! 

「やだ! やめて! 離してっ!」

 暴れる彼女を軽々抑え込み、彼は通信機器を開く。

「もしもし、応答を! こちら、アクア・エージェントです。至急……」

「ゲット! ゲットぉ!!」

 その時……。

 蒼い頭巾のような彼の頭が、胴体が、数発の光線に射抜かれ、ハチの巣となった。

 衝撃自体は彼の体に吸い込まれたのか、ポップル達には届かなかったが……ずるりと倒れた彼の体から解放されつつ、ポップルは慌てて、その方角を見る。

 

 土埃の中、ポップルも、ゲットも、盗賊の盾も、アクアンも見た。

 すう、とガーディアンの残骸が浮かび上がる。その場にはいないトールの聖歌すら聞こえてきそうなほどに……ボロボロの土まみれになり、光の超合金の美しさすらもはや失った残骸たちが、それでも再び動き出した。

 そんな? 

 水に加え、光までも、まだ、終わらない……。

「排除、する……」

 最早破片と言ってもいい状況になりながら、なおも大型ガーディアンは繰り返し続けた。その姿はまるで神の軍勢というよりも、執念に満ちたゾンビのよう。

 

 

「……いい加減うんざりしてきた。しつこいなぁ……アイツらも」

 と、アクアンは呟く。

 何、あと一歩の所でしくじってんだ、アクア・エージェントの奴。

 どいつもこいつも……数億にもなろうかという儲けを何だと思ってんだ。彼は心の中で呟いた。

 この場にいるのは、個人的に気に入らない奴らばかり。特に火の少年戦士や……盗賊の盾。情だの、ロマンだの……そんな漠然とした観念的な理想が、金や利益に勝るものだと思っている奴なんて、心底同調しかねる。

 金を馬鹿にする、金の重みが分からないやつは、大嫌いだ。数億の重みなんて知らない火文明の子供ならともかく……知っているくせにそれを蹴る盗賊の盾は、なおさら。

 絶対に、自分が勝ってやる。アクアンはそう思い、また指示を送り出す。引き続き、攻撃指令電波を出し、レンジャーは攪乱に当たれ、エージェントはターゲットの追跡だ……。と。

 そして彼自身も……外部カメラを思いきり展開し、目視で状況を追い続ける。

 

「坊ちゃん」

 盗賊の盾はまたしても、大盾の力を彼に注ぐ。そして……さすがにそれを連発しすぎたか、息を上げつつも、彼に言った。

「どうやら大勢を相手にするのは、あんたの方が得意みたいだ。あたしはポップルを探して、あの子を守るよ。あんたが、コイツらを相手してくれるかい?」

「……うん、分かった!」

 ゲットは勢いよく合図したのと同時に、残り少なくなった弾帯を取り出し、再びセットする。今度こそ……動けないほどに、バラバラにしてやる。

 再び、谷はバースト・ショットの衝撃に包まれた。その隙を縫って盗賊の盾は、ポップルのもとに向かう。

 

 

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