Saga of Creatures   作:hinoki08

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紅戦線の来客 15

 

 ……また、砲撃が始まった。

 ポップルでは、ヴァルディオス基地への方角も分からない。谷の間をぬって、隠れて逃げ回るのがやっとだ。

 どうして、ガーディアンがまだ動くの。傷だらけ、土塗れになりながらなお動き続けるその姿に……ポップルはもう、かつて感じていた光への崇拝の心は感じられなかった。

 それは太陽のような、地上にはあり得ないほどの輝きを……美しさを持った存在のはずなのに。最早目を覆いたくなるほど、おぞましく、醜いものであるように感じる。

 どうして? 

 どうして、クルトを……何も悪いことをしていないクルトを、彼らはあそこまでして、追いかけるの? 

 秩序の守護者が。弱く正しい者を守ってくれる……「神様」たちが。

 彼女の問いに答えてくれる相手はその場にいない。赤い弾幕と、土埃の中を必死で逃げる彼女をとうとう見つけたのは……。

「予言者クルト、発見」

 ……一台の、ガーディアン。

「排除する」

 ポップルが反応する暇さえなかった。だが……彼が発砲する暇も、なかった。

 ざくり。下から飛んできた剣に彼は見事に貫かれ、地上に落下した。

「せっ……」

 ポップルは慌てて下を見る。そして……大喜びで叫んだ。

「先生っ!」

 火文明に入って以来、別れ別れになっていたはずの……盗賊の盾の姿があった。

「ポップル! 待たせたねっ!」

「先生、無事でよかったです……!」

「そりゃ、こっちの台詞さ! あたしが来たからにゃ、もう安心しな!」

 ポップルは急いで結晶を急降下させ、盗賊の盾を乗せる。

「あの坊ちゃんが送るはずだった場所、あたしももう知ってる。火文明の知り合いに聞かされたんだ。このまま、向かうよ!」

「はい、先生!」

 

「……さいっあく」

 盗賊の盾とポップルが接触したのを見届け、アクアンは吐き捨てた。

「エージェント。命令だ。何でもいいから、近くにいる小型ガーディアンに今すぐサイバークナイを刺せ。キャンドルちゃんじゃなく、ボクがプログラムを送れるようにね」

『はっ……? はい』

 もうこうなったからには仕方がない。かなり荒業を取るしか無かろう。

 

 てんやわんやの中……盗賊の盾は大盾と武器を駆使しつつ、逃げていく。そんな中……一体の小型ガーディアンが、彼女たちに向かってやってきた。

「ちっ、またかい!」

 盗賊の盾はポップルに飛ぶ方向を指示しつつ、彼を相手しにかかる。……強くはないが、盗賊の盾の攻撃もひらりひらりと交わしてくる。やがて、同じ型と思われるものがもう一、二体現れた。

「くそ、こいつぁ……」

 一体一体の相手は流石にどうともできるが、微力な攻撃ながらも絶え間なく繰り出し、なおかつ身軽にひょいひょい飛び回るガーディアン達から逃げるのは、盗賊の盾も一苦労だ。結晶を操縦するのがあくまで彼女でなく、ポップルなのだから尚の事だ。

 次はこっち、次はこっち……行く先が、だんだん狭まってくる。

「しっつけぇな!」

 とうとう、彼女が三本の矢を同時に放った。急所を射貫かれ、ガーディアンたちは墜落。その勢いで、彼女たちも進む。

 

 待てよ? 

 盗賊の盾は思った。

 嫌な予感がする……。

 

 そして、彼女はさっと身を翻す。ポップルの怪訝そうな顔が、視界の端に通り過ぎる。彼女たちの誘い出されている方向に……ジジジ、と電子の穴が開いていた。

 しまった。

 あいつら……罠だ! 

 

 その通り。彼らはサイバークナイ……サイバーナイフと勿論性能は同じそれらによりハッキングされ、アクアンに操縦されていたのだ。

 電子の穴が開く。スパイラル・ゲートだ。全ては、これに誘い込むために。

 これに巻き込まれたら、どうしようもない! 

「ポップル!」

 盗賊の盾はどん、と弟子を突き飛ばした。

 その勢いでポップルはスパイラル・ゲートの重力から離れ……そして盗賊の盾は、吸い寄せられていく。

 してやられた。けれど……最後までは、してやられるもんか。可愛い弟子は絶対、サイバーロードなんぞの売り物にはさせない。

「逃げな」

 彼女はそう言いつつ……ついでだ、そのいけ好かない野郎に最後の抵抗をしてやる。そう決意し、ぐるり、と視界を見渡した。

 ここまで、ピンポイントにスパイラル・ゲートの座標設定をするなんて、遠方からの監視じゃ無理がある。

 何処か、近くにいるはずだ。ここを……目視できるほどの位置にいるはずだ。

 その時。わずか……ほんのわずかな光の屈折の異常を、彼女の鋭い目が捉えた。

「そこだな!」

 彼女は思い切り……赤いナイフを投げた。サイバーナイフを。

 激しい勢いで飛んで行ったそれは……。

 

「え……なに?」

 ドシン、と響いた衝撃に、アクアンは目を白黒させる。

 見事、アクアンのカプセルに命中したのだ。

 

 グラリ。光学迷彩を施していても、「それ」が動いたのは景色の微小な違和感から分かった。

 はっ、ざまあみろ。自分の部下の武器で一矢報いられるなんて、大したもんじゃないか。

 それを見届け、盗賊の盾は……スパイラル・ゲートに飲み込まれていった。

 

 

 ……グラグラ揺れる頭。

「大丈夫ですか……?」と、かかる声。

 ……? おかしい。奴の息のかかった所じゃないのか? どうして、自分にこんな声が……? 

 盗賊の盾が目を開けると……目の前には、意外極まる人物がいた。

 

「みんな、集まってくれ! この人がいきなり、現れて……だれか、ディメンジョン・ゲートを使ったか!?」

 それは、ビーストフォーク。……無垢の宝剣だった。

「えっ……?」

 盗賊の盾は目を瞬かせ、はっきりと上を見る。

 空を覆い尽くすほどに、緑の葉っぱがそよいでいた。自然文明だ。いや……もっと言うなら目の前には端が見えないほどに広く、広く広がる木の幹。

 自然文明広しと言えども、これほどの大樹なんて、一つしかない……世界樹だ。すると、ここは、中央深部……。

「大丈夫ですか!? 僕たち、銀髭団が保護します! こちらへ!」

 と言う無垢の宝剣の声も、聞こえない。なぜ、奴の罠が中央深部につながった? 

 奴はポップルをここにはめるはずだった。けれど、奴がポップルをわざわざ自然の、それも本拠地に送る意味なんてない……。

 そして、はっと、盗賊の盾は気が付いた。彼の算段の、全てに。

 初めからあれは、ポップルが目当てではなかったんだ。

 スパイラル・ゲートで転送するつもりなのは、自分だった。「社長」とやらは、自分がスパイラル・ゲートに間一髪気が付くことも、自分がポップルを庇ってそれにはまることも、予測済みだったのだ……。

 邪魔者の自分を、ポップルから遠く引きはがすための罠だった。自分は、それを見抜けなかった……。

「ちくしょう」

 呻いた彼女に、無垢の宝剣が驚いた顔をした。けれど、彼女は構わなかった。

「ど畜生……サイバーロードがああぁぁっ!!!」

 

 

 しかし。

 彼女の行動は、彼女自身も予測していなかった事態を引き起こしていた。

 

「……どうしたんだ!? そ、操縦がきかない……」

 アクアンの乗り込むカプセルが、一斉に映像をシャットダウンし、別のモードに入った。光学迷彩を解き、代わりに、必要最小限だけ取り付けられた武器を展開して、ゲットの方向に突っ込んでいく。

 盗賊の盾が彼のカプセルに刺したのは、サイバーナイフ……それも、例の大型ガーディアンに刺されていたそれだった。あの隙に、ついでに頂戴したのだ。

 アクア・エージェントも、フェアリー・キャンドルも、アクアンも、誰も、盗まれた事実には気づいていなかった。さすがは盗みのプロ、と言ったところだが、つまり、彼らは大型ガーディアンにそれが刺されたままのつもりでいた。つまり……ハッキング電波はいまだ、それに送信されていたのだ。

「防御態勢を解き、全力を持って攻撃に当たれ。目標はヒューマノイドの少年、『小さな勇者ゲット』……」という指令が! 

「キャ、キャンドルちゃん! 今すぐレンジャーのナイフに送っている指令を解除だ!」

 かろうじて、通信機器は生きていた。しかし……。

 

 サイバーロード……惑星最高峰の知能を持ち、リヴァイアサンすらも支配する怖いもの知らずの海の覇者たちが、唯一避けたいものがある。

 リキッド・ピープルなどの戦力を介さない、物理的な戦闘だ。

 幼児のまま成長が止まる彼らは、物理的に戦うとなれば、そこらの雑魚にも勝ち目がない。例えその相手が彼らよりいかに知能で劣っていようとも……。

 アクアンがフェアリー・キャンドルに指令を送った時は、もう遅かった。

 彼のカプセルは戦闘用ではない。しかしドケチな彼も時間は勿体ないので、カプセルだけはそこそこ良いものを買っている。……つまり、移動速度は超高性能だった。

 

 ガーディアン部隊もだいぶ数を減らし……彼らにも限界が来ているのは見て取れた。ゲットは最後の弾帯を装備する。これが最後の……。

「バースト・ショットぉ!!」

 最後の花火とばかりに、発射される弾幕。ついに、ガーディアン達が一斉に倒れる。そして、ゲットには見えてもいなかったが……アクアンの乗るカプセルも見事に吹き飛ばされ、とある崖下に叩きつけられた。

 

 

「どうだっ!」

 と、ゲットは胸を張る。流石に彼らも、もう回復はできない様子であった。

「排除を……」

 それでも大型ガーディアンは、金屑のような姿に成り下がりながら、呻いていた。

「予言者クルトを、排除……」

「……おい、聞かせろよ」ゲットは言う。

「何で、クルトを狙うんだ。お前たちの仲間だろ」

「予言者クルトの排除……それが、私の任務……」途切れ途切れに彼は、ゲットの言葉に答える。

「『仲間』などでは、ありえない……」

 どういうことだ? ゲットは目を白黒させた。

 何故彼らは、クルトにこんなことを……? 

「予言者、クルトを、排除する……」

 ゲットはその戸惑い故、気が付けなかった。彼が最後に残った銃を、静かに展開していたことに。

 

 

『キャァァァ!! 社長ッ! 大変ですわぁ!』

 ようやく指令が解除されたころには、アクアンのカプセルはすでに崖下に叩きつけられ、大破していた。通信機器も壊れたため、アクアンの頭に埋められたチップに急いで直接アクセスしたフェアリー・キャンドルが、状況を見て驚く。

 大破したということはすなわち、サイバーロードの体を守る純水が流れ出してしまったと言うこと。サイバーロードに、地上の外気は毒だ。荒れ切った火文明の外気ならなおさら。

 チップを通じ送られてくるアクアンの脳波は、明らかに乱れが生じている。

『いっ、今すぐ戻りましょう! 計画は中止ですわ!』

「……じょーだん、じゃないよっ!」

 アクアンは叩きつけられた衝撃と……土埃の汚れと不愉快な熱気に満ちた外気にぐらぐらする頭を抱えながら、それでもチップを通じ、秘書に向かって言う。

「続行に決まってるでしょ! ガーディアン達も、盗賊の盾もいない、今がようやく絶好のチャンスじゃないか!」

『その前に社長が倒れますわ! 火文明のこんな汚れた土地で……最悪、命に関わりますわっ!』

「だからどうした! 5億、6億、うまくいけばそれ以上になるんだよ、あの妖精は!」

『社長は命とお金、どちらが大切ですのっ!』

「お金!」

『でしょうねっ!』

 ……と、こんな言い争いを、頭痛を抑えながら繰り広げていたため、アクアンすらも気が付いていなかった。その時、起こったことに。

 

 

「予言者、クルトを、排除する……それが、私の、任務だ……」

 最後の力を振り絞り、その大型ガーディアンは、クルトの居場所を察知した。そして……最後に一丁だけ残った光線銃を、放った。

 その反動で、とうとう彼が完全に崩れ去った時には、もう遅かった。

 

 

 ゲットの所に向かおう。そう思っていたポップルが、それを見た時……彼女は急いで、躱そうとした。

 けれど、光線銃のスピードにかなう筈がなかった。

 かろうじてクルトを、ポップルを射抜かなかったそれは……代わりに、彼女の浮遊結晶を粉々に砕いた。軽快な音と共に、ガラスが割れるように、透明な破片が飛び散り……彼女らは、地面に向かって落下した。

 急いで、新しく浮遊結晶を……そう思ったポップルは、ぞっとした。マナの結晶はもう、使い果たしてしまっていた。

 火のマナを呼び出し……だめだ、間に合わない。

 

 落ちる。

 ここで、死ぬ? 

 せめて、クルトだけでも。ポップルは意を決した。自分がクッションになれば、クルトは助かるかもしれない。そうしたらゲット達が、助けてくれるはずだ。

 彼女は不安げな声を出すクルトを、ギュッと胸に抱きしめた。そして、目をつむった。

 

 

『やむを得ませんわっ! 単独行動させていただきます!』

「はぁ!? 何言ってんの? それよりボクの指令に……」

 その瞬間、アクアンの周囲に渦が巻く。スパイラル・ゲートだ。フェアリー・キャンドルが自分を強制送還させようと、独断で開いたのだろう。

「こっこら! なにやってんだ!」

『悪く思わないでくださいな! 社長がそれでよくっても、わたくしはまだ失業したくありませんの~っ!』

 アクアンは歯噛みする。けれどもう、スパイラル・ゲートは動いていた。

 畜生、と心の中で毒づきながら、彼は唯一生き残った液晶画面を見る。レーダー画面だ。またしても、あの妖精に逃げられるなんて……。

 ……ん? 

 彼はその時、妙に思った。

 自分の位置座標が消えている。いや……画面の中心に、別の反応がある。緑色の反応。

 妖精の位置と自分の位置が、一致している……? 

 

 その時。

 ガン、と言う衝撃が、彼の頭に降ってきた。

 

 

 最後の一体が、壊れた。……砲撃と共に。

 あれが、何事もないなら。ゲットはブースターを起動し、大声でポップルとクルトの名前を呼んだ。

「もう全員倒したぜ! 出てきても、大丈夫だ! 一緒にヴァルディオスさんの基地に行こうぜ!!」

 ……しかし、返事はなかった。こだまが、谷に反響するばかりだった。

 彼は思い切って……砲撃の方向に探しに向かった。大丈夫だ、死にぞこないが、正確な狙撃なんて出来たものか。

 何もない所を撃ったに決まっている。クルトを狙えたとして、外したに決まっている……その場には何もないか、あるいはクルトとポップルが無事にいるか、どちらかのはずだ。

 ゲットは、その場にようやく辿り着いた。

 その崖下には、焼け焦げた跡以外……何もないかのように思えた。けれど、違う。きらりと、何かが光っていた。

 それは、氷の破片だった。

 ポップルの乗っていた、結晶の破片。

 

「何か」があった。けれどポップルもクルトも、いなかった。

「そん、なっ……」

 そこから導き出される結論を、彼は受け止めたくなかった。心の底から湧いてきそうな感情を打ち消すために、彼は痛むほど思いきり声を張り上げて、ポップルとクルトの名前を呼んだ。

 

 

 ……痛くない。

 何か、柔らかいものにぶつかった気がしたけれど。ここは、どこだろう。

 ポップルは目を開ける。そこは……火文明とも、自然文明とも、違う世界。けれど……一方で、自然文明に言い伝えられる、魂のマナが行きかう……死後の世界でもなかった。自分はマナでなく、元通りの体をしていた。

 そこは、薄暗い部屋。見るもの全てが、ポップルの理解の範疇に及ばないもので……強いて言うなら、火文明よりもさらに無機質な世界。火文明の機械よりもさらに洗練されたデザインのものが立ち並び、重い金属光沢しか放たないそれらとは裏腹に、太陽の光とも、ホタルの光とも違う……ポップルには理解できない類の光を、平らな画面から放っていた。

 不意に、彼女は自分の下で伸びているものの存在に気が付く。クルトをそっと脇において、彼女は自分よりも小さな「それ」を抱き上げた。

 目をぐるぐるに回して伸びている彼は、リキッド・ピープルと同じような体で……彼らよりも、ずっと小柄。

「……リキッド・ピープルの赤ちゃん……?」

 彼女はぼそりと呟いた……その時、気が付く。

 腕を、口を、動かすたびに抵抗を感じる。自分の周りにあるのは……空気ではない。まるで……水の中にいるかのよう。

 

「……えーと……」

 そこは、水文明だった。もっと言うなら……ブルーグレー商会オフィスの、社長室。

 アクアンを強制送還させたと思ったら、彼はなぜだか伸びていて、そして……代わりとばかりに、狙っていたはずの妖精が、その付添いの予言者と一緒にいて、さっきまで自分たちが下敷きにしていたアクアンを抱き上げている。

「どういった状況ですの、これ……?」

 理解の及ばない事態に、フェアリー・キャンドルは眉のない眉根をひそめて、ぼそりと呟いた。

 

 

 ●

 地上の、夜も更けた頃。

 谷に、一人、人影が現れた。ゲットの前に。

「大丈夫ですか? 坊ちゃん」

 ハウクスだった。

「な、なんだ、お前……」

 もう結晶もとっくに消えて、ローラースケートのバッテリーも切れて、それでもなお、体力の尽きるまで歩いていたゲットの足取りは、既におぼつかなかった。叫び続けた喉はとっくに枯れて、かすれ声だった。

「ヴァルディオス軍に無線で問い合わせても君が来ていないと言うから、みなさん心配していらしったんですよ。さ、帰りましょう」

「何で、オレの居場所、わかったんだ……」

「そりゃ、魔術の力でこのくらいのことは朝飯前です」

 彼が手を引こうとするのを「いらねえよ!」とゲットは、喉が痛むのも構わず毅然と振り払おうとするが……その前に、足がもつれて倒れた。

「言わない事じゃありません。無茶をなさっては、いけませんよ」

 ハウクスはゲットをひょいと抱き上げ、そして、おぶった。もう、ゲットも、されるがままになるしかなかった。

 星空が、皮肉なほどに輝いている。結局、ポップルもクルトも、見つからなかった。今、帰る段階になって、彼女たちを探す脚も止まり、呼ぶ声も枯れて……その事実だけが、彼に覆いかぶさってくる。

 ポロリと、涙が流れるのが分かった。ゴーグルを外して、そっとそれを拭く。

 自分は、守れなかったんだ。ボーグが、マイキーが、自分を守ってくれたようにはポップルとクルトを、守れなかった。自分が守ると、言ったのに。

 何が「小さな勇者」だろう。自分の二つ名すら、恨めしく思った。ポップルの先生や……知らない相手にすら、助けてもらっていたのに。自分は結局、彼女たちを守れなかった。

 危ないから離れていろと言った時、クルトは自分の服の裾を掴んでいた。心配そうに。

 もしもあの時、あんなことを言っていなければ、クルトのその手を振り払わなければ、結果は、違っていたんだろうか。

 ……光に、勝ったのに。

 そんな勝利に、一切の嬉しさは湧かなかった。

「坊ちゃん、ご自分を責められていますか?」

 不意に、ハウクスが言った。彼も、ゲットが彼女達といない時点で状況が分かっていたのだろうか……もうゲットも、彼に対して粋がる元気はなく、小さく、うんと言い返すしかなかった。

「坊ちゃんは悪くありません。一生懸命に、戦ったのでしょう」

「でも……」

「悪いのは結局、ガーディアン達でしょう。元の『仲間』に慈悲もかけずに攻め込んできた、彼らだ」

 仲間……彼らは、クルトを仲間ではないと言っていた。なぜだ。クルトは明るくて……人騒がせだけど、憎めない。ジェスやファル・イーガ・カーテンの連中より、ずっといい奴だったのに。

 疲れの中で、光に対する恨みが、ふつふつと湧き上がってくる。クルトはなんで、あんな仲間を持っていたんだ。ポップルはなんで、あんな彼らを神様と思う土地に生まれたんだ。なんで二人は、仲間のために、神様のために、殺されたんだ。信じていた相手に。

「わたくしはね、坊ちゃん。光が嫌いです。自然も嫌いです。何もかも。両方、跡形もなく滅んでしまえと心の底から思っています」ハウクスは夜風に吹かれながら、ゲットに語りかけた。

「でも、坊ちゃんは違いますね。光にも、自然にも、良く思う方ができた。……そんな坊ちゃんとわたくしは相いれないでしょうが……けれど、途中までは相いれられるでしょう。坊ちゃん、彼らを苦しめる光と自然の上層部は、憎くないのですか? 全てを決定している予言者たちに、それに従う自然の中心部に……大好きな人たちが支配されていたというのを、嫌には思いませんか?」

 話を都合のいい方に持って行かれている気はしていたが……そう自覚しつつ、ゲットは素直に聞いていた。それはその内容が全く思う通りであるのもそうだが……もう一つ、ハウクスの言葉に、感じるものがあったから。

 それは、ボーグがハウクスに感じているものと同じだった。ダークロード……彼らはサイバーロードやライトブリンガーとは少し違う。無情で無機質な彼らとは裏腹に……何かがある。自分たちに通ずる、激しく、生物的な何かが。

「うん……」

「なら、貴方方が支配すればよろしい」ハウクスは言う。「彼らを苦しめた存在に代わって、貴方方が、光や自然を、支配すればいいのですよ」

「……お前らと一緒に?」

「わたくしはあんな奴らを支配するなんてまっぴらですけどね。でも、同盟相手の貴方方が仰るなら、妥協は致しましょう」

 ハウクスはまた、薄く笑って見せる。

「大切な、同志ですから」

「オレはお前の事なんて、大っ嫌いだぞ……」ゲットは呻いた。

「ええ。良いですよ。別に」ハウクスは今度は音を立てて、ケラケラ笑った。「わたくしは好きですけどね。君の事」

 

 

 ギガスタンドに乗る頃には、ゲットは疲れて寝ていた。そんな彼を膝に乗せつつ、ハウクスは言う。

「本当ですよ。わたくしは、君が好きです。……昔の自分に、結構似ててね」

 昔の自分。

 向こう見ずで、これが正しいと思った事を全力で信じて突っ走る、腕白小僧だった……。

 ……いや、今でも、特に変わってないか。ハウクスは自嘲気味に、そう感じた。

 

 

 ●

 彼が帰るころ、紅戦線と……そして無線でいきさつを聞いたヴァルディオス軍は、既に決心を固めていた。

 自然の豊かな土地も、光の技術も、欲しくないと言えば嘘になる。だがそれ以上に、秩序の守護者、平和を維持する神々を名乗っておきながら、無辜の仲間、それを庇う存在を説明も、ためらいもなく手にかけようとするその非情に、感情を重んずる彼らの怒りが湧き上がっていた。

 闇と手を組む。彼らは、そう決心した。

 

 夜空を見上げ、ボーグは思う。唯一、彼にはそれに加え、さらに一つ、思うところがあった。

 依然として闇が、信頼できる保証はない。だが……ハウクスの「芯」。そして、ガーディアン部隊に対して見せた、彼の強さ。

 ダークロードと、光と水の支配者を分けるものが、彼には見出せた。

 誇り高き貴族であっても、同時に彼らは、立派に尊敬に値する実力と精神を兼ね備えた「戦士」でもあるという事が。

 火文明の自分達とは違えど……彼らは確かに、そうであるのだ。自らの信念のためなら、命を捨ててでも、戦場に突っ込んでいける存在なのだ。

 

 闇は、信頼できない。けれど光は、それ以上に信頼できない。

 ならば……わずかに垣間見え、戦士としての自分の琴線に触れた、その……。

「『戦士の誇り』に賭けてみるのも、悪くねぇ……」

 心を揺さぶる悔しさと、途方もない義憤と。それとは異質な、疼きが……ボーグの体の中で湧き上がる。

 欲しているのだ。光に対する怒りに燃えておきながら、自分は望み、そして……期待すらしている。ヒューマノイド最強と言われた自分が。同じ火文明の中では味わえなかったほどの戦いを……天に輝く「神々」たちとの戦争を。彼らに対する勝利を。

 

 ●

 奇しくも同じ頃……ボルシャック渓谷のドラゴノイド基地も、同じような状況になっていた。

 火文明の端に飛ばされて、急いで現場に戻ったも、結局ポップル達は見つからなかった……エグゼドライブの報告を聞いて、ユーカーンは一度真っ青になり……そして、怒髪天を衝く勢いで怒り出した。

 光文明め。そしてそれに従う、自然文明め。

 我ら龍の民に千年の屈辱を与えておきながら……なおも、スノーフェアリーを……我らにとって、そして龍にとって大恩ある種族を、侮蔑したと言うのか……。

 何が、光だ。

 貴様らなぞ、神じゃない。神はただ、ドラゴンだ。

 ユーカーンはがしり、とハウクスに渡された水晶玉を握った。もう、光にこの屈辱を仕返ししてやれるのであれば……闇の力すら、借りてやる。

「貴様ら……戦争だ!」ユーカーンは言った。

「光文明を一人残らず金屑にし……焦土と化したフィオナの森に引きずり下ろせ! ドラゴンの末裔の名にかけて!」

 もう、許さない。我ら千年の屈辱を、晴らしてやる。悪魔の手すら借りてでも。

 

 

 火文明の各地の軍がこの日、闇との同盟を決めた。光と、自然との、世界戦争に突入するために。

 

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