Saga of Creatures   作:hinoki08

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ふたつの同盟 5

 

「ついたぞ」

 ロンリー・ウォーカーの声と共に目の前に開けたのは、確かに死皇帝の宮殿だった。

 中には更に明かりが灯って、ワイワイと賑やかそうな雰囲気になっている。ダークロード達も集まって来たのだろうか。

「ありがとな!」

「……じゃ、オレ、もういく」

 そっけなく踵を返そうとするロンリー・ウォーカーに「え? 帰んの?」というゲット。

「もっと一緒にいようぜ」

「……飼われてるわけでもないのに、ダークロードのパーティーにゴーストがいたら、怒られる」

 ぼそぼそいうロンリー・ウォーカー。

「ダークロードの皆は、怒ると怖いから……」

「うーん……やっぱ、そうなのか……」

 先ほどの「お嬢様」とやらの行動を思い返して、ゲットは一言。

「じゃさ。オレにもなんかお礼させてくれよ。なんかないか? オレにできること!」

「お前に……?」

 ロンリー・ウォーカーは少し悩んで、それから……伏し目がちに、もじもじしてようやく言葉を告げたす。

「じゃ、じゃあ、その……また、お話ししてくれるか?」

「え?」

「一人は、さびしいから嫌だ……」

「そんなことかよ? もっとちゃんとした事言えよ!」

「……」

 押し黙ったまま、まだゲットの事を見ている彼女に、ゲットはもう一言いう。

「頼まれなくたって、まだ会って話すに決まってんじゃん、オレ達もう友達だろ?」

「ともだち……!」

 その時、ロンリー・ウォーカーは金色の目を輝かせて、パッと笑った。

「オレ、お前の友だちになっていいの!?」

「当たり前だろ。オレの事助けてくれたんだし」

「嬉しい!」

 その言葉とともに、ひゅうと宙に飛びあがる彼女。

「わーい!! オレ、友だちできた!! 友だちできたぞー!!」

 ……そしてそのまんま、闇文明の暗闇に紛れて見えなくなってしまう。ゴーストは出るときも消えるときも、神出鬼没なのだろうか。

 ……だが、闇文明も意外とグロテスクなだけじゃないと分かった。なんだ、話してみれば怖くないところだってあるんだ、と、宙に掻き消えてしまった彼女の事を思い出しながら、ゲットは考える。

「おーい、ゲット? なんだ、一人で帰れたのか。良かった、心配してたぜ」

 不意に、タイラーの声が聞こえた。

「あ、タイラー!」

「こいつが一人でフラフラしてたから、拾ってきたんだ」

 そう言うタイラーは、ひょいと片手でまだ何かブツブツ言っているジョーをつまみあげた。

「こいつがお前のお守りほったらかすなんて珍しいだろ。……なんか、オレが何話しても要領を得ねえし。何があったんだ?」

「オレもよくわかんない……ジョー、おかしくなっちゃった……?」

「……闇の瘴気って奴か? まさかな……ま、お前が無事ならいいんだ。早く行こうぜ、もうパーティーが始まってるぜ」

 さっさとゲットを連れて宮殿の中に入るタイラー。……の二人を放って、まだ何かブツブツ言っているジョー。

「ど……どこ行っちまったんだ……見失った……畜生……オレとしたことが……」

「おめーもさっさと来い!」

 をひっつかんで、無理やり連行していくタイラーだった。

 

 ●

「ふふふ、こんなに大勢集まるなんて賑やかなもんだね。……地上にいたころを思い出すよ」

「パパ上ったらいやね、ジジ臭い事言って」

「だってジジイだもの……」

 死皇帝の宮殿の中では、漸く火文明の歓迎の宴が始まった。

 そんな中、ダークロード達に誂えられた席の中でも上座に座る《凶星王ダーク・ヒドラ》と、隣に座る彼の娘《妖姫シルフィ》がそのように話していた。

「まあ……千年ぶりに恨みのみではない、闘志が、命の息吹が溢れておるからのう。この闇文明に」

 そんな彼らに、後ろからかけられる声。正体はグレゴリアだった。「おや、グレゴリア。久しいね」と声をかけるヒドラ。

「そなたの連れは娘だけか? 息子の方はおらんのか?」

「兄さまの事なんか、話さないでくれる?」とんがった声でいかにも不愉快そうに、シルフィが言う。

「あんな奴、いなくていい!」

「ヤツなら数日前、またどっかに行ってしまったよ、もしかしたら闇にもいないかもね」シルフィをなだめつつ、ヒドラはそう落ち着いて言い放つ。

「いつもながら、何を考えているか分からないやつだから。また、水文明にでも行っているんではないかな。……何か用でもあったかい?」

「用はない。ただ……地上の事を気にしておったから、今回は顔を出すのかと思っただけじゃ」

「兄さまは大勢集まる所なんて大嫌いだもの。来るわけないじゃない」

「それもそうじゃな。失敬した」

 そう言ってすっと踵を返すグレゴリア。

「……兄さまも大概だけど、あのババアだって何考えてるか分かんないわ」

「昔はもっとハッキリしてたんだけどねえ。……ハハ、またジジ臭いと言われてしまうかな?」

 

 ……また、それより少し下座の方では、火文明の面々を胡散臭そうに見つめる軍人が二人。

 バラガとダーク・フリードだ。

「ハウクス様は是非にと言っていたが……何と言うか、品のなさそうな奴らだな。本当に、地上奪還作戦の片棒など任せられるのか?」

「全くだ」

 地上進出を任せられ、さらにしくじった二人なら、面白くないのも道理だ。当のハウクスは火文明たちに付きっきりで会話をしている。

「聞けばあのトカゲじみた種族……ブラックモナーク様を侮辱したそうじゃないか?」とダーク・フリードは語った。闇文明が地下で暮らし始めてから生まれた二人にとっては直接存在を知る相手ではないが、それでも小さい頃から、ブラックモナークは何者よりも敬うべき存在と丹念に教え込まれてきた。

「どうせ、我々を舐めきっているのだろう。地獄に住まう者共と」

 バラガも、そう返答しながら思い出す。自分たちは生まれて初めて知った、自然文明の民、彼らが自分達に向けていた視線を。

 恐れと、絶望と……そして、軽蔑。それは恐怖であれど、畏怖では決してあり得なかった。

「まあ、それなら、それでもよかろう。上の方々がどう言われるかは知らんが……」ダーク・フリードはいう。

「こちらとて尊敬できんのは同じだ。我々を侮辱しようものなら……思い知らせてやろう」

 どうせ、あんな軟弱な種族が、我らに何をできるでもあるまい。そう言ってダーク・フリードはにやりと笑った。

 

 

 と、ダークロード達が会話している間、火文明の面々も驚いている最中だ。

「ほう……? 意外と豊かだな、闇文明とは」

「それもこれも、自然を一部占領できたおかげですよ。わたくし達とてこの千年間、このような御飯にはありつけませんでしたからね」

 ホーバスの言葉に、ハウクスが答える。

 目の前に並ぶのは、この瘴気あふれる地下世界で出るとは考えてもいなかった新鮮なごちそうが沢山。それも火文明では見たこともない物ばかりだ。

 トカゲ肉とは全く食感の違う柔らかい肉に、みずみずしさも味も火文明のものと訳が違う野菜や果物。

「な、なんだ、これ? キノコに顔がついてんぞ……」と、タイラーが不思議そうに言う。

「バルーン・マッシュルームなる自然文明の種族ですよ。特別なキノコで」

「ほおん……珍しいもんだな」

 地獄と称される地下世界でまともな御飯にありつけるという期待は薄かった火文明のメンバーにとっては、嬉しくないことはない。もとよりみんな大食漢なのに食糧が足りていないのだ。バラガやダーク・フリードなどの、火文明をまだ良しと思っていないダークロード達の軽い軽蔑の視線も全くお構いなしに、むしゃむしゃと食べまくる。

「……兄貴、美味しいんだけどさ……味がうっすい……というか全然しない」

「……お貴族様の味って奴なんだろ」

 と、コソコソミサイルボーイとホーバスが話し合っているのはさておき。

「何か仰いましたか?」

「いや、なんも」

 その時。

「紅戦線の皆さん、闇文明へようこそ」

 上から飛んでくる、ハウクスよりもさらに気高さを感じさせる、高い声。

 彼らが目を上げてみると……そこには、すらりと高い背と長い金髪を持つ女性のダークロード。その名も暗黒皇女メガリアだ。

「先ほどは父がお世話になりまして。死皇帝の娘、暗黒皇女メガリアと申します」

 すっと挨拶する優雅な仕草は、さすがに闇の皇女であるだけある。

 それだけではない。溢れ出る気品もさることながら……その優美な色香も相当なもの。

 しなやかに長く伸びる金髪に、やはり上半分を目隠しして覆っているものの、隙のない整った顔立ち。

 そしてこの悲惨な地底世界でとは言えど、それでもダークロードを統べる皇帝の娘として蝶よ花よと育てられたことを物語るような、艶美なスタイルのいい体。

 まさに、闇のお姫様と言った風格たっぷりだ。

「どうも。ご挨拶して貰えて光栄だな。紅戦線のリーダー、不死身男爵ボーグだ」

「いいえ。父も、貴方方のような心強い味方を得られて、大変に喜んでおります」

 品よく笑いかけるメガリアに対して顔色一つ変えないボーグを見て、紅戦線のメンバーは思う……ボーグって、やっぱり大人だな、と。

「すっげえ綺麗なひとだね……兄貴」

「う、うむ……」

 そう見惚れられながら、ひょいとメガリアはゲットの方を振り返る。

「あら……そこのぼく。お父様が言っていたわよ。ヒューマノイドの子供が、とっても嬉しいことを言ってくれたって。貴方の事?」

「う、うん」

 クス、と笑って彼女は、骨のような、非常に長い五本の指が付いた手をゲットの方に差し出した。

「私からもお礼を言わせてちょうだい。お名前は?」

「小さな勇者ゲット」

「そう、ゲット。ヒューマノイドは貴方の年齢でも戦うのね。頼もしいわ。よろしくお願いするわね。私も、戦場には出るのよ。お互いがんばりましょう」

 戸惑っているゲットの手をさりげなく自分の方から掴み、メガリアはそう微笑みかける。

「(……こいつも、女のダークロード? さっき見たのとは全然感じが違うな……)」

 ゲットはゲットで、先ほどの仲間をためらいなく蹴り落としていた彼女と、目の前のメガリアの穏やかそうな態度のギャップに驚いていた。ダークロードも千差万別なのだろうか。

「…………」

 ちなみに他にも一人だけ、ボーグ同様メガリアの美貌に一切反応を示さないメンバーもいた。

「ジョー……お前ほんとにさっきからどうした? って聞くのも何回目だか知らんが……」

「……どこにもいねえ……」

 目の前のメガリアにすら1ミリも目もくれず、ジョーはまだブツブツ呟いていた。

「どこにもいねえんだよ、この会場にも……どこ行っちまったんだ……オレのあの子は……」

「お前、今からでもマイキー先生のとこ行こうぜ、な。先生も来てくれてるみたいだから」

 そう言っているタイラー達の方はこちらも目に留めず、またボーグに向かい合うメガリア。

「本当は妹もいるのですけれど、気まぐれな子でして。ご挨拶の場に立ちたくないようで、どうかご容赦を頂けましたら」

「構わねえぜ。お姫さん。挨拶されようがされるまいが、それで戦いに差が出るわけじゃなし」

「申し訳ありませんわ……」

 と、メガリアがすっと頭を下げたその時。

 

「だから嫌だって言ってんでしょ! ぶっ飛ばすわよ!」

 

 という大声が聞こえてきたと同時に……会場にガシャアン、と言う音が響き渡る。何事かを理解する視線すら誰もが遅れた。……見てみるとダークロードが一人、ひっくり返って派手にパーティー会場のテーブルに叩きつけられていた。

「ユ……《ユリア》様……何も、ここまで……」

「……まあ。噂をすれば」

 くるりとメガリアは踵を返し、吹き飛ばされてきたダークロードをひょいとつまみ上げる。

「あの子に何言ったの? バグザグール」

「わ……私はただ……お嬢様の妖舞をご披露してはいかがですかと……」

「ばかねえ。機嫌の悪いあの子相手に」

 この飛ばされてきた男、名を《闘将バグザグール》。

 登場こそ情けないものになってしまったが、その名に恥じぬ名将であり、少年時代からずっとアザガースト、そして彼の家族に仕え続けている側近でもある。

 ……と、彼を助け起こした後、メガリアはカツカツ歩いて、入り口に向かって声をかけた。

「ユリア。ちょっと、はしたないわよ」

「あら、お姉ちゃん……いたの!?」

 その声に、なぜか急に……会場もざわっ、と騒がしくなる。火文明の面々はいささか、違和感を覚えた。

「もういいわ。折角だからもういらっしゃい。何しろなんて言わないから。お姉ちゃんと一緒に居ましょう」

「うん、お姉ちゃん!」

 先ほどの殺意に満ちた声とは裏腹に明るい声と共に……まず、バインバインと飛び跳ねながら、一つ目の宝箱が入ってくる。……その姿は、なぜかボロボロ。

「ったく、現金なお姫様だよ……」

 そして足早にいそいそ入ってきたその姿は……ゲットには、見覚えがあった。

 先ほどの彼女だ。あの、崖の上にいた絶世の美女。ただ先ほどまでの態度の悪さが嘘のように機嫌よくニコニコして、メガリアめがけてやってくる。

 彼女の名前は《妖舞皇女ユリア》。「お姉ちゃん」と言う呼び名が示す通り、メガリアの妹。アザガーストの、もう一人の娘だ。

 宝箱の方は《暴発秘宝ベンゾ》と言う名前。ユリアがペットにしているパンドラボックスだ。まあ……どのような扱いを受けているかは、先ほどの事で推して知るべし。

「ユリア様!?」

「ユリア様だ……!!」

 若いダークロード達が彼女の登場で一気に色めき立つ。メガリアも美人な上ユリアはそれすら上回る麗しさ。そんな姉妹が並べば、陰気くさい闇文明と言うイメージをも崩壊させるほど一転会場の雰囲気は華やいだ。これぞ、死皇帝家の姫君。

「おお、ユリア様……久々にお姿を拝見した……はあっ……相変わらずお美しいっ……」

「……貴様のそう言う所も相変わらずだな」

 と端の方で会話している、うっとりユリアに見惚れるバラガとそれに若干冷たい視線を浴びせるダーク・フリード。

「ええい貴様らっ!! 色めき立つなーーーっ!」

 漸くバグザグールも起き上がって若いダークロード達をそう一喝した。

「ユリア様に不敬な!」

「バグザグール」

「は! なんでしょうユリア様」

「お前が一番うるさい。黙れ」

「そ……そんなあ……」

 もっとも当のユリアはつんと取り澄まして、姉にだけ楽しそうな表情を見せている。

「……はー。こりゃまた、闇って言ってもお姫様ってやっぱ綺麗なもんなんだな……な、ジョー?」

 と、タイラーが隣にいるジョーに話を振った時だった。

「あれ? いねえ……」

 次の瞬間。

 

「ユリア様!? それが君の名前かっ!? オレはヒューマノイドの爆炎野郎ジョー! 初めてだぜっ……君みたいな綺麗な人は!! さっき、崖の上にいただろっ!? それを見た瞬間オレは君に一目惚れだよ、ユリアちゃん! 君の闇文明のためなら、オレらは命を賭けて戦うぜっ!」

「……いや、何してんだお前ーーーっ!!」

 

 紅戦線の面々が気が付けば、ジョーはいつのまにやらユリアのど真ん前に移動し、跪きながらそうペラペラ捲し立てていた。メガリアもユリアも、ぽかんとしている様子。

「な、何だあのヒューマノイド!?」

 周囲のダークロードもざわめく。そして……一気に殺気立つ。

「ユリア様を口説こうなんぞ、いい度胸……」

「おのれ、何をユリア様に馴れ馴れしく……地上の下等種族風情があっ……!」

「(……ジョーって、あんなとこあったんだ)」

 ゲットもそれを見て、ぽかんと呆気にとられていた。

「貴様、何者だ、無礼者!」バグザグールもやってきて、ジョーに攻撃しようとする。だが……次の瞬間、クスッ、とユリアは面白そうに笑った。美人が笑顔になって、さらに可愛らしい。

「バグザグール。こっち来て」

「は! なんなりと!」

 しかしそう意気込んでつかつか歩いてきたバグザグールの露出した背骨を……ユリアはむんずと引っ掴んだ。そして次の瞬間……ジョーに向かって殺気立つ下級ダークロード達のテーブル目掛けて、バグザグールを思いきり投げつけた。

 ガラガラガッシャン、という音と数重の悲鳴と共に、見事に崩れ落ちるテーブル。

「お、お嬢様は、私を投擲武器か何かだと……?」

「怒るかどうかは……あたしが決める事なの。勝手に怒るな、騒がしい」

 そしてようやくクルリと、彼女はジョーに向かい合う。興味深そうな顔で。

「何々!? これが地上の、火文明の種族? あははっ、ガラクタが歩いて喋ってるみたい! ヘドリアンともちょっと違うの? 面白いわね!」

「ほんとか! ユリアちゃん!」

「ちょっと待て、明らかに馬鹿にされているだろうお前!」

 思わず、ボーグも突っ込まざるを得なかった。だがジョーはユリアに笑顔を向けられた事の方がよっぽど嬉しいらしい。

「あのよー、ヒューマノイドの兄ちゃん」

 また口を挟んでくる声。今度はベンゾだ。

「悪い事言わないからさ、このお姫様だけはやめといた方がいいって、ほらよく言うだろ美人は三日でア゛ァーーーッ!!」

「お前もうるさい」

 ベンゾは容赦なくバキッ、と踏みつけられた。……それでも生きてはいるようで、視界が潰されてしまったせいかそこら辺をおろおろ右往左往し始めた。

「ユリアちゃん! 闇文明に音楽はあるかい!?」

 当のジョーも全くそんな行為は眼中にも入らないようだ。……なんとかは盲目と言う言葉の通り。

「オンガク? お姉ちゃん、なにそれ」

「ああ……えっと……お父様から聞いたことあるわよ」

 メガリアがとりあえず、戸惑いながらも返答した。

「地上にあった文化なんですって。私達はもう、忘れてしまったけど……」

「そうだぜ! ユリアちゃん、君のために歌おう、君にオレの歌を聞かせたいんだ、いいかい!?」

 その言葉にギョッ、となる紅戦線一同。

「いや、ちょっと待てジョー! それだけはやめとけ!」

「闇文明に来てまでそんな……」

「うるせー、てめーら!! オレは分かった! オレはこの時のために歌う事を忘れなかったんだぜ!」

「それだけは絶対違う!! とにかくやめろいます……」

「あんたらもうるさいのよ皆一々!」

 今度は紅戦線の方向に、潰されたベンゾを思い切り蹴り飛ばすユリア。ガッシャン、とそれはボーグの目の前に激突した。

「す、すまねえ、うちのお姫様が……」

「い、いや、それよりも……」

「んだって!? 歌!?」

 その時、また新しく声が出てくる。ドラゴノイドの席の方からだ。

「ヒューマノイド共よお! 無粋な事言うんじゃねえよ! 惚れた女に歌だって!? 素晴らしいじゃねえか! 俺も乗ったるぜ、ジョーとやら!」

 そう言って出てきたのは……一人のドラゴノイド。数本の剣を携えていることから剣士のようだが……今手にはギターを携えている。

「オレは『剣撃士ザック・ランバー』! 伴奏無しじゃ物足りねえだろ、そこんとこオレに任せな!」

「本当か!? 有り難いぜ!」

 そしてそれに更にぎょっとなるのは……ドラゴノイド一同。

「まっまてザック!! 悪いことは言わん! やめとけ!」

「うるせー! ユーカーンさんでも止めさせないぜ! 音楽にヒューマノイドもドラゴノイドもねえんだよ!」

「い、いや、そんな問題じゃなくて……」

「いいわね、音楽、聞かせて!」ユリアは完全にわくわくしている。

「おっし、まかせろ! さあ、ロックの時間だ!」と、ザック。

「ユリアちゃん、君のために全力で歌うぜ!」と、ジョー。

「ヒュー、ヒューマノイド……」と、ボーグ。

「ドラゴノイド……」と、ユーカーン。

 

「全員退避ぃぃぃーーーーーーっっっ!!」

 と言う二人の声と共に、一斉に逃げ出す火文明軍。

 

「んんっ? 待てよ、なんでお前らまで逃げ出すんだ?」

「そ、そっちこそ!」

 と、言葉を交わしたのはタイラーとキュラトプス。

「そもそも、何で逃げ出してるんだ!?」とすら見事にハモる。

「いや、だって、ジョーの歌って……」

「ザックのギターは……」

 そしてその瞬間。

 

 ただただ、筆舌に尽くし難い。

 ただ言うなら……闇文明の民たちも、まさか地獄に閉じ込められた民と揶揄される自分達が、地獄を見る……ならぬ地獄を聞く事態になるとは思わなかっただろう。そのような轟音にして怪音の二重奏が、死皇帝の宮殿を揺るがした。

 

 ジョーが驚異的なド音痴なら……ザック・ランバーのギター下手も、殺人兵器級なのだ。

 

 

 ……そして、数分経った頃。

「ふー! ザック、お前、最高のギターの腕してんじゃねえか!」

「そっちこそな、ジョー! お前くらいの美声の持ち主、初めて会ったぜ!」

 と、二人は上機嫌でハイタッチ。

「どうだった、ユリアちゃん……!」

 と、ジョーがわくわくと振り返った時だった。

 

「……許さない……」

 

 下の方から、響いてくる声。気が付けばユリアは、その場に倒れ伏していたのだ。

「あっ、ユリアちゃん! オレの歌声に痺れちまったのか……大丈夫? 立てるか!? ほら、オレの手を……」

「よくも、あたしを……侮辱したな……ガラクタのくせに……」

 すっと手を差し伸べようとしたジョーの視界を……ギラリと赤く輝く、四つの眼光が射抜いた。

 ユリアはゆらりと、立ち上がる。

 

「あたしを、本気で怒らせたな……!!」

 ……腰の刀に、手をかけつつ。

 

 

 ……そして、ボーグたちが漸くほとぼりが冷めたかと恐る恐る帰り出した頃。

「おい、エグゼ! なんだよ引っ込んでろって!」

「いいからお前はここで大人しくしてろザック! 俺がマッハで助け出してやったんじゃん!」

「なんも失礼なことやってねえぞオレは!」

「そりゃな! もう失礼を超えてたよあれは!」

 と後ろで騒ぐザック・ランバーとエグゼドライブをいなしつつ……大広間の扉を開けると。

 そこには。

「……あちゃあ……やっぱりか」

 

 会場中のダークロードは、全員、見事に泡を吹いて気絶していた。

 

 

 ちなみに……ダークロードではなさそうな「何か」も転がっている。

「どうなってんの? ボーグー?」

「……ゲット、お前は来んじゃねえ、見ちゃだめだ」

 ボーグはそっと、そのように言った。

 

 

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