Saga of Creatures   作:hinoki08

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ふたつの同盟 9

 

「えーっとねー、さっそく集まって貰った中重大情報が来ちゃったんだけど。光文明が正式に自然文明と手を組んで、地上にどんどん降りてきてるってさ」

 

 闇文明、魔霊宮、死皇帝の間。面妖なアザガーストの姿を前にしたボーグ以外の機神装甲やユーカーンなどの火文明の代表に、正式な挨拶もそこそこにアザガーストはそう切り出した。

「だよねぇ? ヒドラ」

「ああ。少なくとも私はそのように聞いたね」

 謁見の場に呼ばれた他のダークロードは、ヒドラとハウクス。自然と光、その二者の名前を聞いて、ハウクスはあからさまに「小癪な……」と不快感を顕わにしたが「まあまあ、一応、想定の範囲内で僕たちも動いてたわけだけど」とアザガーストは言う。

「でもまあ、こんなにすぐになるとはねぇ」

「あちらもあちらで俺たちの情報をつかんだ、などという事はないか?」

 そう発言したのは《機神装甲ヴァルディオス》。ヴァルバロス共々、ボーグと同年代の機神装甲だ。

「あんたらの国は瘴気とやらに包まれて並の超獣では来れねえとのことだが……俺らの火文明なら空から見下ろせば済むからな」

「まあ、あり得はすることですかね」とハウクス。「本当に、小癪な……神気取り共め……」

「何を苦虫を噛み潰したような顔をしているのだ? アレらが本当に手を結んだというなら上等な話ではないか」と口を開いたのはユーカーンだった。

「そもそも俺たちはお前のその前提……自然文明への侵攻作戦には光が絡んでくるだろうからそちらも叩く、という前提のもとこの話に乗ったようなものだ」

 特に俺たちドラゴノイドはな、という言葉は言わずしても響いたようなものであった。

 それは全くで、「森に与えられた千年の恨みつらみ」があるのは闇文明だけ、火文明にとっては森は良くも悪くも大した恨みはない対象。ここまで義憤に燃えたのも、光文明の無情さゆえだ。

 叩きたい対象が正式にあちらからも降りてきたというのならば喜びこそすれ狼狽えるには値するはずもない事。

 ましてヒューマノイドならまだしもドラゴノイドにとっては誇り高き龍の末裔の戦いとしての千年前の龍の復讐、その大儀名分を一応の御旗に掲げ豊かな森を略奪するだけなど、まったくもって火山に眠るドラゴンに顔向けのできぬ恥晒し。時勢が故生き延びるためやむなしと開き直り略奪者になった方がまだ幾分も面目の立つ話。千年前偉大なる龍を封じた光文明そのものが降りて来てそれと全面戦争の上での勝利が本格的に現実のものとして目の前に現れる、それは万々歳とすら呼べるではないか。……そのような意志が、闇文明側にも、ヒューマノイド側にもひしひしと伝わって来た。

「……ふふっ」

 アザガーストは幾分か機嫌よさそうに笑った。

「ハウクスはいい同盟相手を見つけて来てくれたねー。ありがと。そう来てくれてうれしいなぁ、僕も」

「光は本当に強い。最大限の注意は払ってもらいたいがね」

「ああ。部分的にカチあっただけでも相当だったとは、うちの者共から聞いてるぜ」

 ヒドラの言葉にそう返答したボーグ。ユーカーンもうなずいた。光文明の地上においての軍事演習……その情報もすでに、闇火同盟は共有した。アザガーストたちにとっても、この千年間お高く空に留まっていた光が今更地上での軍事演習など、本格的な介入、並びに戦力強化の目的があることなどは容易に推し量れた。

「我らの地上占領区域をお見せしフィオナの森の地勢を一度はご確認いただきたかったのですが、ちょっかいを出される前に早い方がよさそうですね」

「瘴気とやらでのシャットアウトなんかはしてないのか?」とヴァルバロス。

「無論していますよ。ただ、舐めてはいけませんので」

「光文明を?」

「いえ、それもありますが」ハウクスは神妙に言った。ヒドラと……ふざけたようなアザガーストも、真剣そうな様相だ。

「フィオナの森の執念も」

 

 ……と、その時。

 地面が、揺れた。地底世界が揺れた。

「!? 地震!? おい、まだ闇では大災害が続いてんのか!?」とヴァルバロスが慌てて言ったが、ダークロード三人は顔を見合わせ「いや、これは……」といった後ハア、と三人合わせてため息をつく。

「間の悪い。やはり、舐めてはいけません、光のあのタチの悪さも」

「……? 何がどういうことだ? えっ、光文明がまさか何か関係してるのか!?」

「していなくもないんだが、説明が複雑なうえ最重要機密事項だからあとあと順を追ってじっくり話そうと思っていた事にかかわる事でね……とりあえず今は、別にこれは光文明本隊の攻撃とは全く無縁だ、アレらはここには来られないから安心してほしい、とだけ」

「はあ?」

 ハウクスの嘆息、ヒドラの説明になってない説明に首をかしげるヴァルバロス。「ってか、昨日も『あの子』暴れなかった?」とアザガーストすら迷惑そうに言った。

「厄介だなあ……ごめん。やっぱり『君』がどうにかしてよ。君じゃなきゃ無理っぽいや」

 おそらく、彼は魔力でそこにはいない誰かに何かを頼んだらしい。闇文明はズシズシと音を立て、その『厄介者』に呼応するように震えていた。

 暫くその調子が続いていたが……しん、といつしか、そのうごめきは静まり返る。

 

「ありがと。ごめんね。……君にばっかり苦労を掛ける」

 

 アザガーストの言葉は、誰に向かって吐かれたものか。

 地上を追われ地獄と揶揄される地底世界でそれでも同志一同寄り添い暮らし続けた。そんな闇文明で死皇帝にそんな言葉を吐かせる者と、そんな言葉を吐かせる厄介者はいったい何者だったのか。

 

 

 ●

「あたしゃぁ……光文明ってえのは虫が好かねぇ」

「何を罰当たりな!」

「言っている場合じゃないでしょう、ブロンズさん!」

 一方、自然文明は中央深部。銀髭団の本拠地にて。盗賊の盾の言葉に激高した青銅の鎧を、慌てて無垢の宝剣がいさめた。

 闇火同盟に対抗する光自然同盟……それが成立する少し前に中央深部に振って湧いてきた存在、それがかつての音に聞こえし大盗賊にして冒険家盗賊の盾、話によれば……光文明すら立ち入れなかった闇文明にすら実際に足を運んだことがある人物。その状況で、銀髭団たちが光のために協力を、と仰いだのは当然のことだった。しかし、帰ってきた返事は以上の通りだった。

「秩序の文明に生きる身でなぜ、そこまで……」

「……ならずもんに理屈は通用しないよ、坊ちゃん」

 クルトのことは口を割るか、という思いは全く顔に出さず言い張る彼女。青銅の鎧とは入れ違いに、今度はきわめて穏やかな声で無垢の宝剣が頭を下げた。

「盗賊の盾さんの言い分は分かりました。しかしそれならば、自然文明……フィオナの森のためと思って、僕たちにご協力を願えませんか。このままでは自然文明の危機です。闇文明は火文明とも手を組んだと聞きます。今度攻めてくるとすれば、もっと大掛かりな攻撃が始まるはず……貴女の知識が必要なんです……!」

「……わかってるよ、そんなこた」

 バリバリと頭を掻きむしり、盗賊の盾は一つため息をついた。

 彼女にとっても元々別に光のことは、絶対忠誠を誓うほどでもないと思っているだけで憎いわけでもありはしないのだ。そして彼の言葉通りだ。森のことは、掛け値無く愛している。ポップルとクルトにと出会う前の自分であれば、別に何の葛藤もなく協力していたことだろう。

 しかし今は……もはや話が別だ。結局何が何なのかはわからないままだったがあの能天気ながらも無害な存在をわけもわからず追い掛け回す文明を神と崇め従い、そんな彼らに協力するなど。そうでなくとも自分はどうにかして、ポップルたちの無事を確かめなくてはならない。サイバーロードからほど遠い自然文明に留まっている暇などはないのに。

 しかし一方でこれも分かってはいるのだ、暇がないというのならそんな個人的事情に捕らわれている暇こそない。自分は知っている。闇と火、両者の恐ろしさを。火文明……何をもってしてあの恐ろしい闇と組んだのかはみなまでは分からないが、ポップルを探す道中ひしひしと実感した。あの土地もまた時勢のうちに飢え乾いている。飢えた者が肥えた土地に是が非でもと手を伸ばすことが不自然なものか。簡単に見損なうほどの罪と断じられるものか。まして泥棒たる自分にそんな断罪の権利があろうはずもない。それに加え、ドラゴノイドには千年前の屈辱すらある……とにもかくにも決めたならば、火は容赦せずにあの武力を森にぶつけてくるだろうし、自分はその現実を知識ある者として受け止めねばならぬ身だ。ポップルに美しい世界を見せてやりたいと願ったなら、自分の意地でその世界の崩壊を止める一助を放棄することこそ相応しからぬのではないか。

 そして……もう一つ目を逸らし難い事。この目の前にいる、新たなる自然文明の王、無垢の宝剣。

「どうにか……お願い致します。この通りです……!!」

 一見すれば、よく言えば大人しい、悪く言えば弱気な少年。平和と秩序を維持する君主としてならいざ知らず、とてもじゃないが、戦時の王の器には見えない。

 しかし……何やら、感じるものがある。読み切れないほどの力とカリスマを、彼からは感じる。その読み切れなさは深淵の如き深さというよりも……まるで、俗の命が持つにはともすれば脆すぎるほどの透明のよう。

 光文明の頼みならばともかく……彼からの頼みならば考えてやるに値する気が、どことはなしに頭をよぎった事実から、彼女は眼を背けたくなかった。

「……わかった」

 とうとう、彼女は腹をくくった。

「あたしは『光』に協力なんざしない。……生まれ育った自然文明のために、あんたらに知識をよこしてやるよ。この闇文明にも行った大冒険家、盗賊の盾様がね」

 癪な気分が全くないと言えば嘘になるが、これが現実的な最善手だ。

 それに……彼女は変わらず確信している。ポップルたちは死ぬ器ではない。

 世界はつながっているのだ。どこかに居れば、いつかは探せる。その前に、彼女たちが帰る場所、この戦乱の世を乗り切った後で思い切り旅し愛する世界を護り切ることが、先に成すべき自分の役目かもしれない。

 

 

「フィオナ。例の獣人は協力を飲んでくださったようで?」

「ええ、カティノ様」

 世界樹の下で、フィオナとカティノ、自然と光の代表者は話し合っていた。

「それはよかった。……それで、もう一つの方も是非にお願いいたしますよ」

 宿敵闇文明が今にでもそこに迫っているという危機と変わらぬほどに……そう、全く変わらぬほどに、カティノの声音は真剣だった。「はい」と返答するフィオナも。

 

「クルトの事は秩序の行く末を……そしてこの戦争の行方を、左右しかねぬ重大事項なのです」

 

 

 ●

 闇文明を揺るがす大地震の中心地、そこは……魔霊宮の下、十二肋深海の中に浮かぶ孤島にある。

 そこには、巨大な種族が住まっている。

 そこは、ダークロードの要請があらば駆け付ける、デーモン・コマンドの居住区だ。闇全体を揺るがす大きな変動の震源は、そこからだった。

 

「……あの者……」

 大揺れの悪魔の島の中、暗黒の騎士ザガーンは忌々しげに、その端に厳重に作られた牢に向かってずんずんと歩みを進めた。

「もう二、三発殴ってやらねば気が済まんと見えるか!!」

「オレも行っていいぜぇ? ザガーン」

 ムカデのような姿の悪魔、《凶骨の邪将クエイクス》が、寝そべっていた中長い体で伸びをしながら答えた。

「……我も……」

 もう一人、丸い腹を異常に膨らませた悪魔《荒廃の巨王ジェノサイド》も……こちらは依然身体は起こさないままだが……深みのある声で牢を睨み、地下水の中泳いでいた巨大魚をガリガリと生きたまま骨ごと貪りながら語る。

「我も腹が立つ……あいつ、千年間ずっとうるさいけど最近特にひどい……黙らせるんなら……加勢、する……」

「なんだなんだ、私も行こうか!?」

 そんな中嬉々として入ってくるのは……漆黒の髑髏の上に多腕を生やした悪魔の剣士、《魔刻の騎士オルゲイト》だった。

「ヤツを攻撃していいのだな!? ヤツを殺していいのだな!? 楽しみだ!! 楽しみだ!! ヤツほどの悪魔の死、いったいどれほどまでにこの身を震わすものとなろうか……」

 だがその彼はガン、とザガーンの棍棒の音が響くと同時に地に倒れ伏した。

「アホウが。殺してはならぬが故に我ら闇騎士団、千年間『あのような者』をそれでもこの島に生かして番をしているのではないか!」

「じょ、冗談ではないか、副隊長……」

「死を糧にするお前が言うと冗談かどうかの判別もつかん」

「……オルゲイト。副隊長の言う通り……あいつ、殺すのだけはだめ……」

「わ、私が本気で忘れていると思っていたのか!? まさか!?」

「……思った。オルゲイト、死の味が好きすぎる……我のこの魚の死も今食べてる……」

「ばれたか」

「しかしまあ……よくも千年でここまで育ったもんだ」クエイクスがオルゲイトは無視し忌々しげに言う。「もう、オレ達の誰より強い悪魔になってねえか? あいつ」

「……まあ。望み通りでは、あるのだが」

 ザガーンに、クエイクス、ジェノサイド、オルゲイト……彼らは、闇文明にこの者ありと名を連ねしそうそうたる悪魔たち。

 千年前、覇王ブラックモナークの名のもと直々に結成されし悪魔の騎士団「闇騎士団」のメンバーだった。

 地上を追われ、戦争から離れていた千年間、彼らに与えられていた仕事は……この孤島に縛り付けられた「ある者」を見張る事。

 その覚悟を今一度噛みしめ、ザガーンはパンパンと棍棒をはたいて呟く。

 

「『バロム隊長』の神成の触媒が小物のままでも困ろうというもの」

 

「まあ、それはそうだが……にしても、困ったやつだぜ」

「我もそう思う……あいつ……気持ち悪い……」

「オルゲイトは抜きで黙らせにゆくぞ」

 クエイクスとジェノサイドを率いて、「何か」を叫び続けるその牢に向かうザガーンの前に……ふいに、「待て」と、かつんとヒールを響かせ現れた姿があった。

 その姿に闇騎士団一同はザッ、と跪く。

 

「邪妃様! ご機嫌麗しゅう……」

「面を上げよ、貴様ら。硬い挨拶は無用じゃ。あの者、妾が止めに参った」

 

 現れたのは、邪妃グレゴリア。……彼女は闇騎士団を統率せし、絶対の女主人(ミストレス)。

 千年前よりいかな凶悪な悪魔とて、彼女の前には忠義な護衛兵として跪く……そう称されし看板に嘘偽りなき、覇王ブラックモナークの腹心の一人も務めた大魔術師であった。

 その彼女が現れた気配をあちらも嗅ぎつけたかのように、牢からは、一層声が響く。何かを求める、悪魔も悍ましさに顔をしかめる醜く飢えた咆哮が。

「し、しかし……」

「光と自然が正式に手を組んだらしい。開戦の時は近づいてきておる。貴様らにも準備が必要じゃ。あの者を抑える事如きに力を使うくらいならば温存しておけ。……これは、労りではない。命令じゃ」

 命令。

 絶対の主人より与えられるその言葉は「騎士」という存在達に、この世の何より重々しく響く。

「何を措いても、何を犠牲にしても、我らは千年の逆襲を果たさねばならぬ。まして話すだけなら安きものよ、妾は何も失うものなどない。貴様らはただ、英気を養いおれ。妾の来ぬ間、苦労であった」

 絶対の主人の命令を前に、悪魔たちは動きを止める。口答えも、一切しない。グレゴリアはそんな彼らを背にカツン、カツンとヒールの音を響かせ、牢へと入っていった。

 叫ぶ声は。

「……ア……」

 求めている。

 

「グレ……ゴ……リアアアァァァァ…………」

 

 彼女の名を。

 

「来たぞ。満足か」

 そして、その声が響いた瞬間、闇を震わす振動は止まったのだった。

 

 

「あ……ああ……グレゴリア……。来てくれたのか……。私の……私の、グレゴリア……私の、愛しい……」

「貴様。大人しゅうしておれ。貴様はじき『完成』する身じゃ。地上の大いなる戦乱のために」

 彼女は、悪魔さえも悍ましさを覚える声と語らう。淡々と、冷徹に。

「フッ……ククク……はあっ……やはり……やはり来てくれたじゃないか。そうだ、君は……私のもとに来てくれるのだ……ああ、今日も美しいなぁグレゴリア……君はこの世で一番気高く美しい……」

「……貴様にとっての吉報を聞かせよう」謎の声に向かってグレゴリアは告げた、その金の仮面は、何の表情もその相手に伝えない。

「今日より妾自ら毎日顔を見せに来てやる。故、暴れる必要はありはせぬ故、これからは闇を揺らすような真似はするな。今魔霊宮は大切な客人も抱えておるが故斯様な迷惑ごとは……」

「まいにち!?」

 だが謎の声はその無感情と対極に、彼女の言葉を興奮気味に遮った。

「ようやく分かってくれたのだなグレゴリア!! ようやく私の気持ちが!! 私の心が!! 私の愛が君に届き君自身も愛を自覚してくれたというわけだ!! ああそうだろ!? 君は私に毎日会いたいのだろう!? だって私がそうだから!! 愛とはそういうものだから!! さあ少し離れてくれ今この牢を叩き壊す!! 私と君を邪魔するあの汚らわしい悪魔どもも全員潰してやるから安心してくれ!! 毎日わざわざ来ることなどない!! ずっとずっと一緒にいて幸せに暮らすのだ私たちは!! さあ!! その仮面を取ってくれ!! そんな面をつけていることはない!! 君の素顔に、君の麗しい素顔にキスしてあげよう!! 私と君は結婚するのだ!! 真に愛し合っている私と君、が……」

 ……その時。

 光届かぬ闇の国に、光も退散させん、闇の輝きが生まれ出でた。

 仮面を取って素顔にキスをさせろ……その言葉に合わせて、グレゴリア……「邪妃」の称号を持つ彼女の腕輪が煌めいた。

 

 瞬間。

 金縛りにあったように、急にまくし立てていた「ソレ」は動かなくなり勝手に牢の床に沈み、言葉も途端にしどろもどろに。

「話したい事は以上か? では、妾は今日はこれで帰るぞ。客人の世話もせねばならぬ」

 グレゴリア……その金の腕輪を嵌める「邪妃」は、そう吐き捨て、去っていく。

「……って、待って……グレ、ゴ、リア……もっと、話して……素顔を見せて……」

 牢の中でのたうつソレに、「邪妃」は見向きもしない。

 

「どう、して……なんだ……なんだなんだなんだ……『モナーク・リング』の聖婚如きが……なんだと言うのだ……。愛している、のに……私の方が……私の方が、ずっと……。嗚呼……グレゴリア……私の、私だけ、の……お、のれ……おのれおのれおのれ……」

 ソレの腕には、ソレを縛り上げる手錠のように、グレゴリアの嵌めているものと揃いの腕輪が嵌められており。そして……彼の動きを、彼の叫びを束縛する魔力は、そこから放出されていた。

「おのれ……バロム……ブラックモナーク……私の愛するグレゴリアを、よくも……」

 

 

 ……その声は。

 牢の外まで響いていた。

「……忌々しい……邪妃様が、闇文明こそを一番にお考えになるお方であるのをいいことに!」

「副隊長……我たち……これ毎日聞くの……? 相当気持ち悪い……折角の珍しい大魚もまずい……」

「言ってやんなジェノサイド。一番気色悪ぃのは邪妃様に決まってんだろ」

「……それは、そう……」

 ザガーンは、呻き声を発するその牢を睨みつけ、言う。敬愛せし女主人に無礼を働くあの者、殺せるものなら殺してやりたい。だが彼を殺すなというダークロード、何よりその当の彼女本人の命令は絶対、そのような身動きの取れぬやるせなさを、ただ一心に声に乗せるように。

 

 

「《ギリエル》……堕天せし元精霊風情が!」

 

 

 ●

「……すっげぇ。でっか……あれが、デーモン・コマンド?」

「……うん。たぶんそう。ねえ、それ、本当に遠くが見えるの? オレにも見せて……わあ! ほんとだ! 魔力も感じないのにすごい! ……っていうかゲット、あれ、闇騎士団の超精鋭!」

「やみきしだん?」

「闇文明最強の騎士団……」

「マジで!?」

 その様子を、実は魔霊宮から望遠鏡で眺める存在があった。ゲットと、ロンリー・ウォーカーだった。

 

 

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