邪姫グレゴリアと使い魔バロム、その二人が覇王の黒き森に来た時、闇文明は本格的に変わった。
『……左様か』
グレゴリアが語った。今、黒き森の外で起きている緑の民の狂乱がいかほどのものか。ダークロードが今、いかな恥辱を与えられているか。
『……余は遍く闇である。余は闇の全てを愛する者である』
彼女たちの訴えを聞きに、黒き森に漂うオーラ、それすなわちブラックモナークそのもの、その声が響き渡った。
『だが、中でもお前たちを一等に愛した。お前たちほど、不死を愛した民はおらぬ』
闇の化身、それが自ら愛した民、それこそが彼らだった。
『余はつまらん事は好かぬ。闇は無理に存在する必要はない、闇は存在してしまうものだ。光がどこかであれば闇があり、水がどこかに流れれば流れぬ所は乾き、火が一度燃え盛り消えれば後には冷たい焦げ跡が残り、そして自然が命を育めば命は自然を逸脱する範疇へ進化を求める。余は渇望する意味はない。渇望せずとも余は常に在れる。故渇望の果ての戦いとは余にとって必要もなきつまらん事。余が求める事ではない。……「余」ひとりの問題であれば、だ。そうか、この星の有限の領域に生くる民は、そこまで不死を否定するか。余が愛したお前たちを否定するか。それならば、最早話は別だ。それほどまでの頑迷こそが「つまらん」わ』
その日、森中が黒い力のオーラを感じ取った。
それは、圧倒的な情念。
『無限の命を求めし民よ、喜べ。この余が「渇望」しよう。愛するお前たちのための戦い、お前たちのための勝利を』
渇望と、追い詰められるほどの辛さ、そこからくる戦いへの情念。
それを本来必要とするのは、猫を噛む窮鼠のような、弱い者。
それを最強の力が覚えた時、何が起こるか。
恐ろしい姿の悪魔たちが次々に闇の怒りの中から生まれ出でると共に、ブラックモナークは宣言した。
『この森を、黒に染め上げる。この覇王ブラックモナークが』
窮鼠が同じく火事場の馬鹿力を出した猫に敵う道理など、どこにあるものか。
フィオナの森は破竹の勢いで闇文明に逆襲を受けた。
長年理想を嗤われ続け、いざ理想を叶えれば現実を受け止めぬが故の辱めを与えられた闇文明の民たちは止まらなかった。最早彼らは言葉を一つにしこう言った。
「もう良い。貴様らには何も求めない。死を愛する者達よ、喜べ、死なせてやる。お前たちは太古帝国には要らない命なのだから」
覇王の爆発した怒りの力を与えられた闇の民の手によって、贄にするためにでも、糧にするためにでもなく、ただただ、自然の民は死を与えられた。冬を迎えた枯葉のように地に落ちることを望んでいた自然の民は、青葉でも紅葉でも若葉でも関係なくフィオナの森と言う枝からもぎ取られていった。どうせ地に落ちたいならば同じことだろう、と。彼らは彼らで、その違いが本気で何も理解できなかった。死なないのならば手段は何でも同じだと思って、闇の覇王からの愛を受けるにまで至ったのが彼らであったのだから。
どちらも、理解できなかった。
片や生を愛しすぎ、片や死を愛しすぎていた。理解などできるわけがないほどに。
ただ一つの違いは、片方が呼び込めたのが森の化身だったことに対して、片方が呼び込めたのは、宇宙に遍く闇そのものの化身であったこと。
森はまさに、黒く染まろうとしていた。
圧倒的優勢の中で覇王はさらに、デーモン・コマンドたちのほかにも闇の民に手駒を与えた。まさに命の逸脱と言うにふさわしき合成獣キマイラ。土を豊かに肥やすはずの腐敗物を誰も育まぬ、ただ自分だけが生きるために動く命に代えたヘドリアン。生死を愛した、愛しすぎた自然文明への当てつけのような悍ましい生のサイクルへの逸脱の象徴が如き者共を次々に。
「ブラックモナーク様」
ある日、アザガーストが自分を愛する黒きオーラに話しかけた。
「夢のようです。僕が生まれてから望み続けていた世界が、今実現しようとしている」
『お前たちのためだ。そして、お前のためだ。余の可愛いアザガースト。不死を愛したアザガースト』
黒き覇王はそう優しく語った。いくつもの命を屠る残虐の化身に、優しい愛があることを、あっていい道理を、自然文明の民は罵り否定しただろうが闇の覇王は理解していた。闇という在り方を自分の身体のこととして理解できる生命は。
「覇王様は、神様です。僕たちの前に現れた、神様」
……その言葉に。
残虐で、優しい闇の化身は、ふっ、と笑ったように答えた。
『アザガースト。余は神ではない。余は神では在れぬ。「闇の神」は仮に必要とされる時が来るなら、余とは別に存在せねばならぬ者であろう』
「えっ?」
『余は遍く闇の生命のうち、お前たちより、いや、小さなブレインジャッカーやキマイラたちより、誰よりも、神と言う概念から遠き、俗の中の俗であろう』
「……どうして、そう仰るのですか?」
『神とは、定義者のこと。神はこの世を定義する。この世は闇と、水と火、自然と光、五元に定義された。そしてその一角そのものこそがこの余。余は一番に、定義されてこそこの浮世に存在した。余は定義されるものでこそあれ定義するものではない。余はただ、闇のあり様をこの世に在り自身の望むままに生きる事ただ一つで遂行するまで。神と言う存在からは、最も遠き者よ』
その言葉に。
最も尊敬する、救い主のような存在、まさに自分の命を救ってくれた存在が神、という表現を否定した言葉に、アザガーストはこう返した。
「そうだったんですか。へえ。じゃあ、神様って意外と大したことない概念だったんですね」
最も尊敬する者が神でないというのなら、それは必然的に、真の神とはさほど尊敬に値せぬという事。
それを聞いて覇王はフフッ、と可笑しそうに笑った。
そう、覇王は、神でも何でもない。当の本人がそう言い切った。
神でも何でもない者のために、世界が塗り替えようとされていた中。動く者があった。
フィオナの森の惨状を見て、光文明が介入を決めたのだ。
●
秩序に全ての重きを置き、感情を捨て去り、完璧なる合理に生きる光文明。
静観を決め込んではいたものの、五元の一角が崩れ去り、世界から緑色が消え、緑は全て黒になろうかと言う地上の様相は、最早彼らにとって看過できない非秩序であった。
闇を塗り潰すほどの金色の精霊たちが大量にフィオナの森に舞い降りた。その姿を見た緑の民たちの歓喜の程がいかほどであったかは想像に難くあるまい。絶対に敵わない絶望の闇、それを正に「光」が塗り替えようとした。
だが、ブラックモナークに一切の焦りは見えはしなかった。
どころか、彼は動揺を見せたダークロード達に悠然と言った。
『そうか。無関係なものまでが混ざって来たか。愚かなり。余は、つまらん事は好かぬ』
つまらないことを嫌う、闇の覇王。空が金色に染まる中彼はこう語った。
『自然の民はお前たちを侮辱した。故、お前たちの復讐はお前たちの手で成されねばならぬ。自分の誇りの復讐を他人が勝手に為すほどつまらん事もそうそうあるまい。なぜ愛しいお前たちにそれほどのつまらん事を余がさせる。それが故この余も「統治し、守り、力を貸す」に留めていたものを』
その時、膨大な闇のマナが動いた。
覇王の黒き森の上空に、直接本拠地を叩きに飛んできた精霊の一隊、それらが。
『無関係な者まで出張られては余が出陣せぬ理由がなくなることが分からぬか。愚かなり、光の民よ。身も心も捨てて愚を得たならば、一体何が残るのだ』
一瞬実体化した覇王の「手」によってぐしゃり、と揉みつぶされ、黒き森に金屑の雨を降り注がせた。
その一瞬で彼は、力量差を光文明に知らしめた。
『お前たち』ブラックモナークは配下たちに命令した。
『さらなる力を貸す。光文明と戦え。そしてその傍ら、余の顕現に必要なだけのマナを集め捧げよ。フィオナの森中のマナを黒く染め上げよ。その顕現の暁に、余は光に向け《オールデリート》を実行する』
金屑の雨を瘴気で腐敗させ、覇王ブラックモナークは宣言した。
つまらないことを嫌う、「宇宙の闇全て」の力を持つ闇の化身。その力をもってこの戦乱に割り込んできた、それこそ自分たちが神と思い込んでいるのではないかと言わんばかりの態度の光文明に、闇の絶対的な終焉を与えることを。
無論、そのレベルの存在が本格的に、永続的に顕現するにあたりどれだけのマナが必要なのかと言う話だ。だが、豊かにマナを産む、産んで産んで産み続けるフィオナの森の生命力こそが皮肉にもそれを不可能ではない領域の話にしていた。
闇文明は戦う傍ら、フィオナの森中のマナ・プラントを闇のマナを産むように魔術で書き換えた。光文明も止まらない。彼らの動きを知るや覇王顕現の前に全てを終わらせねばならぬとばかりに、迷いなき総力戦を仕掛けてきた。
それほどの身を削る総力戦の先に光文明が求めた目標は何だったか?
世界の秩序、それだけでしかない。それしか求める存在ではないのだから。
だからこそ、自然の民の目に彼らはまさしく輝いて見えた。
不死と言うエゴイズム、世界に生かされておきながら世界に何も還元せず、他人から奪うだけで自分は得るだけという理不尽の極みを正当化する闇文明と比べ、彼らは何と無欲かと、なんと清らかかと。
なんと、神のような存在であるのかと。
光文明の意図の外ではあったが、自然文明側の士気も上がった。戦線は各地で激化した。
それにあたりブラックモナークはある日、ある二人を呼び寄せた。バロム……闇の化身たる自分が呼び出した悪魔たちがすべて劣る勢いで、精霊たちを相手取り倒してゆく、異常なまでの強さを見せた彼と、その彼が忠義と愛を捧ぐグレゴリアの二人を。
『お前たちに問う。我が名の下聖婚の契約を結び、闇の力を高めてはくれまいか』
ブラックモナークは語った。モナーク・リングの覇王の聖婚。
自分の魔力の腕輪で二人を結びつけることにより闇の魔力をこれ以上ないほどに上昇させる術。それをお前たちに施し、精霊を滅ぼす悪魔の闇の騎士団を作り、その指揮を任せたい、と。
「結構なことでございます、覇王様。この者と結びつくとあらば妾も本望」忠誠深きグレゴリアはすぐに跪き、肯じた。「……わが主君たるグレゴリア様がご納得し、並びに闇の覇王様のお望みとあらば」と、バロムも肯定「は」した。
それで話はすぐにまとまった、ように思えた。
『バロム』
グレゴリアがアザガーストたちとの作戦会議に行った際、ブラックモナークの意思、オーラがバロムを包んだ。
「……何でございましょう」
『不服か?』
「……不服でないと申せば嘘となります。私にとって貴方様は主人の主人。忠誠を誓わねばならぬ存在でこそあれ、直接の、一番の忠誠はグレゴリア様に注ぐもの……で、ありながら……なぜでしょう? 私はグレゴリア様への侮辱とも言えようこの聖婚を肯じたいのです。闇の太古帝国がこれで成せるならば、と。斯様な自分が一番に不服でございます」
『……問いたいことはいくつかあるが、片付けていこう。お前はなぜ、忠義を注ぐのはグレゴリア一人でなくてはならぬと考える? そもそも……お前の心の動きを、余は感じる』ブラックモナークのオーラがさらにバロムを包む。
『お前は自らを小さき存在と思っている。お前はあれほどの戦果を挙げながら、自分を不要の存在と思っている。それはなに故だ?』
「私はそれしきの存在でありましたが故」とバロムは答える。「私はグレゴリア様の孤独と絶望の心に寄り添う、孤独と絶望の化身。……私は今、自分の存在意義すらよくわかってはおりません。今のグレゴリア様には貴方様も、ダークロードの仲間もいる。あの方は最早孤独と絶望のうちにない。然らば存在意義を失った私はなぜ、この世に依然存在し続けて、孤独ではなきグレゴリア様と共に戦っているのでしょう。なぜ、私はそんな日々を続けることを願っているのでしょう。私は役目を終えたも同じ命ではないですか」
『まずもって、役目を終えた魂ならばフィオナの森に帰る、その節理と信じられていたものを覆すため我々は今戦をしている、故にお前がそう考えること自体を否定せねば余は愛し子たちの戦いの根幹を否定してしまうわけであるが』ブラックモナークは言った。
『結構ではないか。それは。孤独と絶望。生きているうちに幾度もそれは訪れ、生命のあるところにそれは訪れ得るであろう。たった一人の娘の一瞬のそれに寄り添っただけでお役御免になるなど勿体のない存在ではないか。孤独と絶望の極致に寄り添う孤独と絶望の化身とは。それは、闇の世界に相応しき者。孤独と絶望に喘いだ命は、闇のうちに安寧を求める』
いまだ恒久の実体化は成されぬ彼が、それでも自分を見つめているのが……バロムには感じられるようだった。
『バロム。お前は不思議な存在だ。余がこの星にたどり着いたはアザガーストのため。だがもし二番があるとすれば、お前と言う存在を生み出すことを宿命づけられていたグレゴリアのためですらあるかもしれない。それほどまでにお前は、ダークロードの理想がアザガーストならばデーモン・コマンドの理想はこれではないのかと思わせる存在だ。余にとって』
「……私がですか」
『ああ。はっきりと申さば余はグレゴリアに驚嘆し、出し抜かれたような気にすらなっている。たかだか小娘一人がこの余が生み出す以上の悪魔を顕現させた。……それほどの、余が理想とした、願わくば余が生み出し余が愛するアザガーストたちのために差し出せればよかったろうと思うほどの、闇の愛にあふれる存在、それがお前だ。故にお前とグレゴリアに聖婚の祝福を余は与えたい』
「闇の愛……」
破壊を繰り返す闇、貪欲な闇、エゴイスティックな闇。
それらを嫌う自然文明からすれば、悍ましさに耳を自分で潰してしまいたい言葉であったろう。優しく他者を思いやりみんなで助け合い自然を守る事こそが愛と信じる彼らにとって、闇が愛と共に生きることは認めたくなかっただろう。どうしても。だからこそ、「バロムの今の肉体」すらこの世に存在してしまった。だがその妄執の末生まれた体を持つ悪魔に、闇の化身は滔々と語った。
『バロム。闇と愛とは別に相反する概念ではないのだよ。愛は別段闇の専売特許ではないが、闇は愛無くしてあり得るものではない』
闇の在り方、それを自分の身のこととして理解できる存在は、恥じていなかった。理解していた。自分が愛を持つ道理も、闇の民が愛を持つ道理も。
『闇とは誇り高く貪欲であり、誇りと欲のためならいかなる犠牲も汚れも厭わない。それまでのことが出来るのは、誇るほどのものを、欲するほどのものを、愛するが故。愛が何も汚さぬ美しいだけの感情と言うのは夢見心地の理想論でしかない。愛は汚く、愛は血を流す。それでも無限の力と無償の情を生み出す唯一無二のもの、それが愛。故に命は愛を賛美し続ける。何も闇だけではない。闇以外が持つ愛でも欲を内包し加害性を内包する。なればこそ何より美しくもあれる。もしそのような汚さから完全に解脱した世界があるとするならば、それは誰もお互いに傷つけあわぬ優しく温かい理想郷などではない。誰も何も考えず、ただ生きているのみ、リビング・デッドより純然たる生きているだけの屍が粛々と生まれ死ぬことを繰り返すだけの、冷たく、つまらん、虚無の世界だ。光文明ですら、そこまでの領域には届いていない。俗物的な愛からの解脱などを成し遂げられたのは秩序へのひたむきな愛故。そう。愛とは命が持つ混沌にして根源なのだ。残虐も、貪欲も、愛が故に為せること。悪逆非道が愛を知らぬものの行為であるものか。愛を抜きにしては、命は悪にすらなれぬわ』
宇宙すべての闇の化身でありながら。
この惑星の闇の民だけを愛し、贔屓し、彼らの王になるためブラックモナークは降臨した。
『故に余は愛の概念を持つ。混沌の闇そのものであるが故に、混沌たる闇の愛を持ち、アザガーストたちを愛したがためにこの世に顕現した。この世に骨をうずめてよいとまで思った』
神でも何でもない俗の中の俗であり、かつ、闇と言う愛の概念を持ち得るものであったから、それは許されてよい事であった。
『お前には、それを感ずる。闇の愛だ。混沌にして純然たる、闇の愛。お前自身はお前はグレゴリアの騎士、それ以上でも以下でもない気のようだが、お前はきっと、それにとどまらぬ至高の闇となる。至高の愛で闇を護る騎士、余はお前にそれを見るのだ。バロム』
「……私が、愛の存在……闇の……」
『余はグレゴリアに驚嘆している。余はあの娘子が気に入っているのだ。故にあの娘子と聖婚で結びつけるならば最も気に入ったものに任せたい。お前が居なければアザガーストを選んでいただろう。だがお前だ。お前しかいない。グレゴリアに最も寄り添った、あの娘子を護った、あの娘子が産みだした理想の悪魔たるお前にこそ望む』
「覇王様、それほどまでにグレゴリア様にお目をかけて下さるならば……あの方に与える祝福がなぜ」バロムは嗚咽するように言った。
「なぜ、婚姻の形で成されねばならぬのです? あの方がなぜ、この私と……『この肉体』を持った私がなぜ、あの方と永遠に解けぬ結びつきを持つ相手でなくてはならぬのです!?」
獣の頭をした姿で受肉したバロム。
グレゴリアを最も蝕む者、グレゴリアに、闇に向けられた無念と怨念、それをこの世から食いちぎり消し去る形で物質世界に顕現した彼は。
「グレゴリア様にこの世で一番の恥辱を与えた男と同じ顔をしているこの私が!」
『グレゴリアが絡むとまったく存外繊細だなお前は』だがその劣等感の爆発に、さらっとブラックモナークは返答した。
『お前の首から上が「そう」であることこそお前がグレゴリアのためこの世に生まれ戦った証であろうが。忌々しき無理解の民を打ち取った功績の象徴、敵将の晒し首、勲章にも同じものの筈だ。わざわざお前自身の勝利、お前自身の愛故の勝利の象徴を恥じるな、勿体のない。それともう一つ』
彼は最後に言った。
『グレゴリアは事実としてその顔のお前に心許しているではないか』
「……はい」
その返答で、問答は終わった。
愛とは。
闇の愛とは、何か。
自分の理想を肯じぬ者の死体の上で、彼らは愛を誓う。
けれどもそんな血みどろの愛のキスが闇だけの専売特許と思うなら、それは自分を闇と真反対の善と思っているだけの蒙昧の傲慢と、少なくとも覇王ブラックモナークは考える事だろう。残虐を一切産まぬ愛とは、一体何か。
「グレゴリア様」
覇王の黒き森、その土はただの土でありながら、最早幾人の血を吸ったかもわからぬ罪の大地で。
その大地に跪き、騎士バロムは女主人の手を取った。
「一介の使い魔にすぎぬこの身との婚姻をグレゴリア様が受け入れて下さいますなら、貴女様のため、この身如何様にも」
掌に落とされたキス。娘は笑った。覇王の聖婚のため仮面で素顔を隠した彼女が、最後に世界に見せた微笑み。それはいかに血みどろであろうとも清らかであった。自分という女に最高の蹂躙をくれた者と同じ顔をしていると忌まれる男など、この世の至宝のすべてを積めどその微笑みばかりは買えまいと、そんな微笑み。
死体の上で生まれてもその美しさはただ事実。それが愛として間違っているのなら、真の愛の美しさとは如何なるものか。
その日を境に闇文明はいよいよ留まるところを知らぬ進撃を開始した。
最凶級の悪魔たちで構成される「闇騎士団」が次々に天から飛来した精霊軍を蹴散らしていった。その先頭に立つのは、隊長、法輪の騎士バロム。
そして、覇王ブラックモナークより指揮権を一任された騎士団長、金の仮面でかんばせを覆い尽くし、戦場に麗しい銀髪のみをたなびかせるダークロード、邪妃グレゴリア。
その二人の腕に嵌められたモナーク・リング。その魔力に対抗できる者は誰とていなかった。