Saga of Creatures   作:hinoki08

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サイバー電撃戦 6

 

 はあはあと、トロピコは苦しそうだ。ゲットと取っ組み合いをしたせいで、ただでさえ無い等しいサイバーロードの体力が尽きてしまったようだ。

「よ、よくも……よくも、ボクのチップをっ!」

 だが、言葉の勢いは止まない。

「え……そ、そんなにたいせつなもんだったのかよ?」

「もうゆるさない……この、くそがきっ!」

「ガキはてめーもだろ!」

 いずれにせよ、こんな相手は怖くない。早く片付けよう。そう思ってゲットが左手に付けているマシンガンを装着した時の事だった。

 

 水平線から飛んでくる、青い、巨大な影。神速の騎士、クリスタル・ランサー。

 

「トロピコ様! 御守りいたします!」

 トロピコが彼の姿を見て、にやり、とほほ笑んだ。ランサーの槍が、ゲットに向かってくる。

 その瞬間。

 

 ゲットは急に、時間が遅くなったように思えた。だが、何もユーカーンのように、彼の早さゆえではない。

 

 少しだけ戦場を見に行くだけ、と言うのは本気だった。

 少しだけ見に行って、ばれないうちにピコラと帰って、かくれんぼをするつもりでいた。

 帰ってきた皆と夕食を食べるのだと思っていた。

 軍事訓練でタイラーやムラマサにからかわれる日々がまだ続くと思っていた。

 マナの採掘当番が、もうすぐ自分とジョーだったから、ジョーと出かけられるのを楽しみにしていた。

 ホーバスに、冷やかされるのを承知で射撃を教わりたいと言おうと思っていた。

 火薬の扱い方が下手だから、ミサイルボーイに聞かなきゃと思っていた。

 いつか二つ名を貰って機神装甲を着て、ボーグに認められるんだと、本気で信じていた。

 

 その、いつか来ると思っていた未来が、急に見えなくなった。そのようなものが、急に、存在を消したのだ。

 

 もう、そんなことは起こらない。そんな時間は、二度と来ない。目の前に迫る槍に、そう言われているような気分だった。アクア・サーファーやソーサーヘッド・シャークに攻撃された時は、こんなことは思わなかったのに。

 ああ、そうだ。ゲットは感じた。

 

 きっとこれが、死ぬって事なのかもしれない。

 

 

 ゲットは身動きできなかった。抵抗する気概すら、起こらなかった。だが、槍がゲットの幼い頬をかすめたその瞬間、巨大な鉄球がその槍をゆがめた。ゲットの身はそれと同じタイミングで、さっと大きな手にかすめ取られた。

 

「ボ、ボーグ……!?」

 

 ゲットは驚いた。なぜ彼が、海の上に! 

 ボーグは脚部についていたターボエンジンを使い、スクリューのように水上を移動してきたのだ。ヒューマノイド最高の鎧は、水上の移動もものともしない造りにできていた。

「ゲット、てめえ! 留守番してろっつったろうがっ!」

 ボーグがそう怒鳴り飛ばす。だがゲットには、その怒鳴り声も、幸せなものに聞こえるような思いだった。

 消えていった、来ると思っていた未来が、また息を吹き返し始めてきたから。

「ご、ごめんな……」

「ったく、どうしようもねえガキだ」

 ヴァルボーグが自分を追ってきたことに、クリスタル・ランサーも当然気が付く。彼は後ろにトロピコのカプセルを庇うようにすると、ボーグを睨みつけた。

「サイバーロードに仇なすもの、生かしてはおけぬ」

「オレも海の上では長く戦えやしねえ、さっさと勝負を決めるぞ」

 ランサーはさっと槍を構える。だが次の瞬間……ぞくりと感じるものがあった。先ほどとは違う。明らかに彼は、パワーを増しているようだった。

「どうした? ビビッてやがるのか」ボーグは言う。

 

 それを後ろから見ながら、トロピコはハッと気が付いた。データベースにあった、機神装甲ヴァルボーグの装甲についての情報。

 それは、単体でもおそろしく強いその装甲が、さらに力が上がる時がある、と言うもの。そしてそれは、仲間のため、仲間と共に戦う時。

 そんな陳腐な昔話じゃあるまいし、と笑い飛ばしていた情報が、今。圧倒的な恐ろしさを持って立ちはだかっていた。現実のものとして。

 

「大したもんだぜ、おめぇらの作戦。オレたちのプライドに訴えかけて、仲間意識を分断させようとはな」

 ボーグは鉄球を構える。ランサーも、槍を一気に突き刺した。

 

 

「このヴァルボーグがどんな瞬間一番力を出すかを、本当によくご存じでらっしゃるようじゃねぇか」

 

 

 二つの武器が、ぶつかり合う。火と水。圧倒的な衝突が、そこに起こった。じゅうじゅうと言う耳を潰すほど激しい音は、水が蒸発する音か、火が冷却されてゆく音か。

 

 そして、勝負はついた。

 クリスタル・ランサーの槍が、蒸発した。

 

 

「ひっ!? うわあああああぁぁぁ!!!」叫んだのは、トロピコの方だった。

「食らえ!」

 その時だ。ガツン、と言う音と共に、盾で、そのトロピコにもろに振り下ろされんとした攻撃が止められた。……クリスタル・パラディンだ。

「パラディン……」

「ランサー、マイロード、アカシック3に帰還いたしましょう!」パラディンがトロピコを庇いつつ、早口にそうまくし立てた。

「なんだって!? できるわけないだろ!?」

「もはや戦争の続行は不可能なのです!」パラディンは言った。「海岸の方をご覧ください!」

 その言葉に、彼らだけでなくボーグとゲットも海岸に向かって目を細める。ゲットは望遠鏡をのぞきこんだ。

 トロピコのチップが失われたことは、もっと甚大な被害を呼んだのだ。

 

 リキッド・ピープルたちは、自律型で、自我がある。トロピコの指令がなくても、ある程度は自分で判断し、動けるのだ。

 だからランサーは命令なくしてトロピコを助けに行った、パラディンも自己判断で動いた。だが、知能の薄い単純な生命体だと、そうはいかない。そう、例えば……サイバー・ウイルスのような存在は、トロピコの指示なくしては活動をやめてしまう。

 例え自分に与えられている任務が……ロック・ビーストを封じ込めると言う非常に重大な行為だとしても。

 

 トロピコの指示が途絶えたその瞬間から、ステンドグラスは繁殖を停止した。すると、どうなるか。

 徐々に、徐々に、ロック・ビーストは体温を取り戻してきた。そしてついに、彼らを覆い隠すステンドグラスの群れが一斉に干からび、再びマグマの怪物の体が、ガル海岸に躍ったのだ! 

 

 そうなれば最早リキッド・ピープル達にとっては戦いどころではない。みんな自分が蒸発しないことが先決、命からがら海に逃げ帰る。

「おのれくそっ、私の相手はどこだ、あの喧嘩屋……! 私はまだ死んではいないぞ!」

「ソルジャー、それどころじゃねーっつーの! つーかオレのサーフボードどこだドロボー!」

 逃げ遅れたものは次々に蒸発、海が沸騰しないうちにと、リキッド・ピープル達は誰もかれも這う這うの体で逃げ帰っていく。

 

 

「この沖合もすぐ水温が上がるかもしれません。マイロード、貴方の生存には危険です」

 本来、サイバーロードは一定温度を保った純水に包まれたアカシック3でなくては安全に生存できない虚弱体質。カプセルに穴を開けられた状態でいるのすら危険なのだ。

「ふざけんなよ! ここでにげたらボクたちのまけじゃないか……!」

「ランサー! マイロードを連れアカシック3に帰還するぞ!」

「……承知した!」

 彼らはそう言い、ソーサーヘッド・シャークと共に海に沈んでいく。「あっ……」とゲットが言ったが、ボーグは静かに手で制した。

「おぼえてろ、ひぶんめい~~~~!!!」というトロピコの涙交じりの声が聞こえたような気がした。

 

 

 ●

 勿論、その一部始終を、ウォルタとコーライルもアカシック3から見ていた。

「あわわわ……」

 ウォルタは先ほどから、心ここにあらずだ。

「ど、どうしよう……エンペラーに怒られる。エンペラーに怒られる。エンペラーに……」

 ブツブツとそう呟くだけのウォルタに、コーライルは力なく言い足した。

「怒られるというか……あなた、側近クビでしょ……」

 

 ●

「……さてと、ゲット!」

 すっかり水文明が消え失せたガル海岸で、ボーグはゲットに向かい合った。気絶していたミサイルボーイとホーバスも息を吹き返し、紅戦線はどうにか大方無事だった。

「オレはだ、お前には留守番してろって言ったよな?」

「……うん」

「てめえ、言うことは聞けって毎度毎度言ってんだろうが! 危険な前線にまで付いてきやがって!」

 既に機神装甲を解いたボーグが、手のひらをゲットに向けて鋭く振り下ろした。だが……殴られる、と思ったのもつかの間、その手はぽん、と、ゲットの頭に穏やかに置かれた。

「と、どなり飛ばしてーところだが、今日は、お前の活躍があって勝てたようなもんだ」

 そのまま、わしゃわしゃと頭を撫で回される。いつもは無愛想なボーグが、なんだか今日は非常に、優しく見えた。

「偉かったぞ、ゲット。お前も立派な、火の戦士だな」

 周りの紅戦線のメンバーたちも言う。

「まさか、ゲットに助けられるなんてなー!」とミサイルボーイ。

「気絶していて損したな、お前の活躍観たかったぞ、ゲット」いつもは嫌味なホーバスも、素直に褒めてくれた。

「俺なんか何もしてなかったのにな……ゲットにMVPとられるとはよ」ムラマサも、決まりが悪そうに頭を掻く。

 ジョーは、ボーグと一緒になってゲットの頭を撫でてくれた。「よくやったじゃねーか。お前に賭けてよかったぜ、ゲット」

「へへっ……」ゲットも、慣れない沢山の褒め言葉に、頬を赤く染める。

「ゲット」もう一度、ボーグが名前を呼んだ。

「お前に、二つ名をやる」

「えっ!? ほんと!?」ゲットは驚いて聞き返すが、ボーグは大きく頷いて、「勿論だ。もうお前は、その器だよ」と断言した。

 

 

「『小さな勇者』……今日からお前は《小さな勇者ゲット》だ!」

 

 

「……へっ?」

 だが、その嬉しさもつかの間、ゲットは素っ頓狂な声を出した。

「ち、『小さな』って何!?」

「ま、見ての通りってとこかな」

「オレやだ! 『小さな』はいらねー!」

「いやなら早く『小さな』が取れるように、これからも頑張って活躍しろよ」

 ガハハ、とボーグは笑う。紅戦線の面々も、たちまち笑い出した。

「ハハハ、よっ、『小さな勇者』!」

「『小さな勇者』、今日はありがとなー!」

「お前ら──!!」

 怒るゲットを、ジョーはまた頭を撫でて宥めた。

「まあまあ。ゲット。今日のお前の活躍、全然小さくねぇ、ほんとの勇者だぜ!」

「むー……」とゲット。「お前ら、ジョー以外全員大っ嫌いだ──ー!!!」

 はははは、とまた一通り笑いが巻き起こる。そしてひとしきり笑い終わった後、ボーグはさっと、司令官の顔に戻っていた。

「それでは、紅戦線! 総員、火山要塞ヴァルに帰還する!」

「おうっ!」と、声が揃う。ジョーが、ゲットを小突いた。

「ほら、お前も紅戦線の戦士だろ」

 ゲットも、それを聞いて、1テンポずれながらも「……おうっ!」と続いた。

 

 

 

「ユーカーンさん!」

 ユーカーンは、キュラトプスの声を聞いた。包帯だらけの彼が、自分を見つけだし心底安堵した顔をしていた。

「ご無事でしたか!」

「うむ……まあな。ふがいない事だが……」

「とんでもない! 皆、心配しています! さ、早く我々も帰還致しましょう!」

 負傷したワイバーン達とも一緒に基地から送られてきた移動用ワイバーンに支えられ、彼らは空に飛びあがる。海岸では久々に復活できて嬉しいのか、ロック・ビースト達がはしゃいでいる。ふと、移動する紅戦線が空の上から見えた。

「(……まさか、ヒューマノイドの、それも子供に、借りを作ってしまうとはな)」

 今更ながら自分では考えられないことに、ユーカーンは少々おかしな気分になった。だが不思議と屈辱のような感情は沸かず、むしろ妙にさわやかな気分だった。

 

 

 

「あっ! やっほー! 紅戦線! 見てたよ、すごくいい戦いぶりだったねえ!」

 帰る途中、彼らはピーポたちに出会った。「今夜はヴァルに泊めてもらう気でいるんだけど」と言う彼らに、「ああ、いいぜ」とボーグも返す。

「少し休んだら、水の奴らが残していった物資を回収にいくぞ。ピーポ、何か役にたつもんがありそうだったら、分解や改造、頼むな」

「完璧完璧、超OK。水の機械の分解なんてお茶の子さいさいさ」ピーポは笑って、ボーグの乗るアーマロイドに自分もちょこんと腰かける。

「いやー……それにしてもさ、ゲット君、すごい活躍ぶりだったんだってね。ピコラから聞いたよ」

「ふん、ま、まだ無鉄砲なだけの奴だがよ……」

「そんなことばっかり言ってると、ゲット君ぐれちゃうよ」ピーポがボーグを笑った。

「ゲット君を見てると、昔の自分を見てるみたいで、可愛い反面心配なんでしょ? もっと素直に優しくしてあげればいいのに」

 そう言ってふふ、とほほ笑むピーポに、ボーグも少々決まりが悪くなる。

「ったく、よせよ……いくらなげー付き合いだからって」

「いやー、僕は感心してるだけだよ」彼はしみじみと言った。

「練習やら下積みなんかやってらんないってサボりまくって、戦場に行きたいってダダこねてばっかりだった男の子が、本当に立派になったなあって、さ」

「えっ、マジ!?」

 ……その発言を受けて後ろから飛んでくる、複数の声。紅戦線のメンバーがそこにいた。しかも、ゲットが一番前で。

「ボーグにもそんな時代あったの!?」

「お、おい、お前ら……」

「あったよー、もうすっごい手の付けられない悪ガキでさー」

「あっはっは、マジで!?」と笑うタイラー。

「ねーねーピーポさん、もっと聞かせてよ!」とミサイルボーイ。

「うん、いいよー。じゃあ今日の夕食の席で……」

「おっ……お前ら、なあっ!」

 

 ワイワイと騒がしい彼らを乗せて、アーマロイド達は夕暮れの中火山要塞ヴァルへと帰っていく。

 

「……おい」

 そのような中、ボーグがそっと、ゲットだけに口を開いた。みんなが、ピーポの話を聞いて盛り上がっている間に。

「なんだ?」

「お前、クリスタル・ランサーに狙われて、怖くなかったか?」

 怖くなかった、と見栄を張りたい気持ちもあった。

 だが、ゲットは素直に「……怖かった……」と言った。それほど、ランサーから感じた恐怖は未知数の者だった。

「すげー怖かった……死ぬ、って思ったもんよ」

「そうか」ボーグは、ふっと笑った。

「その気持ち、忘れんなよ。立派な戦士になるには、大切なもんの一つだ」

 

 

 だが、誰も気が付いていなかった。彼らの上を、橄欖石を丸彫りにしたような美しい飛行物体が、つう、と通り過ぎて行ったことに。

 

 ●

 数日後、水文明、アカシック3の中心部、サイバーロード評議会。

 この度、独断で『サイバー電撃戦』を起こし、無断で禁断のプログラムを解放し、結果大敗、多数の損失を出したウォルタ、コーライル、トロピコの三人がど真ん中に座らされ、問い詰められていた。

 

 

 

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