Saga of Creatures   作:hinoki08

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陰陽双滅戦争 4

 

「勝負だって」

 明らかに小さなその姿がそう発言したのを見て、無垢の宝剣は今一度固唾をのんだ。

 

 ●

「あっつ! あつい!!」

「これが火文明の力!?」

「おい、大丈夫かヘドリアンども!」

 さて、ヘドリアンを凍らせたはいいものの……相手が冷気を操る妖精と見抜いてからの火文明の反撃は早かった。

 熱と火力。氷相手にはそれを最大限に叩き込むに限る。「火」の概念を背負う彼らが化石燃料ではなく貴重な赤いマナをぶち込み本気で炸裂させた火力は、雪の妖精をたちまち押し返した。

「大丈夫です。ありがとうございますぅぅ……」

 ヘドリアンの《泥男》が喜ぶ。溶けて再び悪臭を放ち始めたその身体にハグされそうになり、ヴァルディオス軍の《支援団長ガンクローク》が慌てて「うわ、あんまりよるな! 気持ちだけは有難く受け取っとくからよ!」とのけぞった。

「ったくよぉ!! こんな形じゃなかったら氷と美人だらけなんざ夢見てぇな光景なのによ、ケッ、溶かさなきゃならねぇなんて勿体ないこった!! ほれ、行きなライター!」

 氷は大の貴重品、まして天然の雪など見れる由もない火文明の身の上でその雪や氷を遠慮なく溶かさねばならぬとは、だがこれも戦士の定めなら割り切るとばかりに大暴れする、スノーフェアリーを本気で溶かし尽くさんばかりの業火を遠慮なしに巻き起こすライターのゼノパーツが一つ。

「あれ、誰に懐いたゼノパーツだ?」

「タイラーです」

 ふとそれを見届けたガンクロークの問いかけに応えるミサイルボーイ。「え?」と間抜けな声を響かせたヴァルディオス軍の面々にミサイルボーイはもう一度。「タイラーです」と念押し。

「じゃあ、あれは」

「《タイラーのライター》っす」

「タイラーの」

「ライター」

 なるほど。持ち主の名を聞くと、皆が何度も頷いた。

 さて、そんな間抜けな一幕は紅戦線の方は一足早く、マシン・イーター達から闇文明で彼らを貰った時点で済ましている。タイラーのライターが溶かしてしまったスノーフェアリーたちにさらなる追撃が迫りくる。

「くらえ! 絶対電撃衝撃波ぁぁぁ!!!」

 やや長い必殺技名を叫びながら、ムラマサが自分に懐いたコンセントプラグのゼノパーツ、《ムラマサのコンセント》に命じ、高電圧の電流を溶けたスノーフェアリーたちに流し彼らを感電させてさらに力をそぎ落とす。次々戦場からは冷たさが失われていった。雪が解ける春とは穏やかなばかりとも限らないがこれ程までの荒々しい雪解けは自然のうちにはそうそうあるまい。

 

「ったく……情けないわねえ」

 その様子を見てふわりと浮遊結晶に乗り動いた姿があった。さらりとたなびく新雪の髪。チャミリアだった。

「チャミリア? 危ないだ!」

「今危ないのはそっちでしょ、下がってて」

 身体を溶かしながらも彼女を庇おうとする様子のポコペンににべもなくそういい、チャミリアは火文明の軍勢が戦いに集中している隙に浮遊結晶を上昇させ、彼らを全員自分の魔力の射程範囲内に置いた。

「むさくるしい男ばっかり……あたしの術が、最高に効きそうね!」

 チャミリアはマナを充填し「火文明のみなさーん!」と叫んだ。

「あんまりこのフィオナの森で暴れちゃ……イ・ヤ・よ!」

 

 瞬時に、緑のマナが桃色に変わり、彼らの前にバッと降り注ぐ。すると……出しぬけに、今まで全霊でフェアリーたちを攻撃していた火文明軍の動きが鈍った。……チャミリアの魅了魔法だ! 

 

「お、おいお前たち!」団長なだけあり、ある程度精神の強度は高いガンクロークは幸いまだ正気の範疇。そんな彼は慌てて言う。「何を攻撃の手を緩めている! 早く反撃しないか!」

「い、いや、つってもガンクロークさん……」

「あんなカワイイ子がいるのに、ちょっとそれは……」

 人が変わったようにもじもじし始めた部下、ヘドリアンまでもが「かわいいなぁ……」「ですねぇ……」と柄にもなく見惚れているのを目の前に、そして……異常を明確に感知していながらも事実自分の心からも闘志が冷まされているのをガンクロークは実感し、悟る。これが魔術の力かと。

「サッ、早くやっちゃって!」

「……了解だぁ!」

 火文明軍からの熱気が止まると同時にスノーフェアリー軍はたちまち息を吹き返さんとする。チャミリアの声とともにポコペンはマナを蓄え、一気に体内の冷気を強化する。火すらもつかなくなるほどの超低温の世界を作り出していき、彼らの動きを止める……。

 そのはずだった。

 

「クリムゾン・ハンマー!」

 

 それが追い付かないほどの火力を纏ったヨーヨーが飛んできて、ポコペンに直撃する。彼の身体が熱気と衝撃で砕け、普段住まわせているペンギン親子は里に置いてきたポコペンの体内の空洞で親子の代わりに渦巻いた冷気はたちまち無に帰った。冷気の術は遮断された。

「ぐおっ……」

「てめえら、戦わねぇなら下がってろ! ここはオレがやる!」

 歩み出てきたのはジョーだった。あまりに迷いない攻撃のスピードと火力。なぜか……チャミリアの術が彼には一切効いていない! 

「ポ、ポコペンさん! うっそ、どうして!? なんであたしの魅了術が通用しないのよ!」

「魅了? なるほど、そういう事かよ……簡単だぜ!」

 ジョーはハハッ、と、ヨーヨーをつたい大柄なポコペンの身体をよじ登り、木に飛び移りながら笑って言った。

 

「ユリアちゃん以外の女なんて、オレにとっちゃ全員石コロ同然なんだよ!!」

 

 魅了魔術の、強い精神以上の絶対的天敵。それは……ほかの者など一切目に入らなくなるほどの、まさに「恋は盲目」な存在。どんな絶対的な美だろうと、盲者を見惚れさせられる筋合いはない。

「あ、あたしが……石コロ……」

 ヒュンとジョーはヨーヨーを引き寄せ、今度はショックを受けた様子のチャミリアに向かって放つ。放心し油断していたチャミリアは首を一気に捕まえられ、ジョーの下に引き寄せられた。

「おい、お嬢ちゃん! 死にたくなきゃ、術を解きな!」

「ぐっ……わ、わかったわよ……」

 桃色のマナは消えゆき、闇火連合軍は正気に戻る。

 チャミリアをヨーヨーから解放したジョーは、今度は「乱暴をすんじゃねぇべ!」と木から落ちた彼女をキャッチし怒りをあらわにするポコペンに向かい合う。

「死にたくなきゃって約束守っただけ上等だろうがよ、いきな、ツールキット!」

 その一言でジョーのゼノパーツ、ツールキットは「任セテ、ゴ主人サマ!」と飛んでいき……ムラマサのそれにも負けぬ強烈な電撃を放った。

「ぐわっ!」

「あれが、奴のゼノパーツか……」その様子を見ていたガンクロークが言う。「むやみにシビレさせるとことか、持ち主にそっくりだな」

 

「スノーフェアリーの皆!」銀髭団はその、さんざんに押される援軍を庇いにかかった。

「里から出て来てくれたのに……すまん! おれ達も……」

「違うわよ」だがチャミリア……プライドを粉々にされた直後の彼女だが、白無垢の素肌についた焦げ跡を忌々しく眺めて言った。

「出てきてあげたんじゃなくて、みんな出て来たかったからここにいるの!」

「……そうだな」と、青銅の鎧。そうだ、謝罪など、している暇はないのだ。この、アウェイの環境でも戦いつくす戦慣れした連中を前に、森を守りたい一心の他はない自分たちは。

「皆! ひるまずに、おれ達と『一緒』に頑張ってくれ! 負けないぞ! おれ達の森を守るんだ!」

 圧倒的な熱と電撃。魅了術すら通用しない。そんな圧倒的不利に一瞬で追い込まれながらも……その一言にスノーフェアリー軍はこくん、と頷き瞳を雪色に煌めかせた。こういったとき普通なら闘志の熱が灯る、などと言うものだが、冷気が灯るという言葉を使わざるを得ないのも中々奇妙なものである。

 

 ●

 銃と、剣。

 本来ならばぶつかり合うことのないそれらが、激しくぶつかり合う。

 ゲットの銃から発射される弾丸を、無垢の宝剣の大剣がことごとく薙ぎ払っていく。「畜生!」とゲットは言った。

「お前、強いな……」

 そうだ。目の前に立つ獣人は強い。だがそれ以上に彼をやきもきさせるものがあった。

「君、今すぐここから立ち去りたまえ!」

 先程から、無垢の宝剣がそのような言葉ばかりを発し続けていることであった。

 

 そう、無垢の宝剣は子供のそれとはいえ、銃弾を薙ぎ払えるほどの凄まじい剣裁きをしているのに、薙ぎ払うだけ。いざとなればその剣で、隙をついてゲットを真っ二つにすることもできそうなものなのに、それをしない。

 あきらかに手加減をされている。その様子が、ゲットは面白くなかった。何か……何かしらの焦燥感を煽られる気分だった。

「なんでオレが立去らなきゃならねーんだよ! オレは火文明の戦士だ! お前も戦士だろ!? なら、真剣に戦え!」

「君みたいな子供相手に、そんなことはできない! いいから今すぐ、戦争なんてやめて帰るんだ!」

「……偉そうなこと、言ってんじゃねえよ!」

「違う! 当然のことを言っているだけだ! 僕は、君みたいな子供を殺すなんてできない! たとえ敵国、火文明の者であってもだ!」

 

 万事、この調子なのだ。

 彼が何を考えているのか、ゲットにはわからなかった。いや……正確には、それを目にするのが嫌だった。

 

「それだけじゃない。君は、何かを想っているように見える」

 

 無垢の宝剣が先ほどから、このように言ってくることが。

 

「そんな君は帰るべきだ。平和なところへ!」

「そんなもん……ねえだろ! こんな森に住んでるお前たちには、分からねえんだよ!」

 

 自分の悲しみを見抜いて、それゆえ手加減してくる彼の姿を見ると。

 迷いを持っていた自分自身を見せつけられているようで、それが酷く嫌なのだ。

 

 ゲットはがむしゃらに銃を乱射した。そのおかげで余計に無垢の宝剣にとっては……簡単な相手に成り下がらざるを得ない。

 

「お前は、偉そうなこと言うけどよ……」ゲットは息を荒げて言う。

「オレ、友達がいたんだ」

「友達……?」

「お前らに殺されたようなもんなんだ、そいつは……!!」

 そうだ、思い出さないと。ハウクスの言葉を。

 彼は、自然文明の上層部だ。光文明の言いなり、ポップルたちの仇だ。

 憎まないといけない、恨まないといけない。それなのに……。

「オレは許さねえからな、お前たちのこと!」

「……僕たちが?」

 ……ああ。あちらがはっと目を見張った、あの太刀筋が歪む。チャンスだ。チャンスだから、攻め立てないと。ボーグならそうしないわけがない。

 ……なのに。

 

 なんで、そのように体が動かないのだろう? 

 なんで、自分に気をかける彼の姿に、一抹の輝かしさを見出してしまうのだろう? 

 なんで、自分は自分の知るポップルたちのことを想うのに……彼は知る筈もない「火文明の兵士の友達」の死に関してすらも、何かを感じている様子なのだろう? 

 なんで、それが……そんな油断だらけの姿が、攻める気がしない姿なのだろう? 

 ……なんで、そんな存在が、憎むべき自然文明の上層部なのだろう。

 

 ……そんな、ゲットの心中を象徴するかのように、弾丸が切れた。

 はっとゲットが気が付いた時にはもう遅い。一足先に我に返った無垢の宝剣の透明な大剣が煌めき、彼を地面に突っ伏させた。

 

「……ちっくしょう!」

「……何度も言う。殺しはしないよ。ここから去ることだ。去って……」

 次の瞬間。無垢の宝剣は言葉を失ったようだった。

 彼の赤い目玉が彼の勝手な逡巡を物語っているようであった、見知りもしない、勝手に決闘を吹っかけてきた少年兵に向ける彼の思い。

 去って、どこに行けというのかと。

 痩せ果てた土地で、彼の友達ももう消えた火文明に戻れというのかと。

「……」ゲットも、神妙な表情で何も言わず、かといって……隙を見て反撃もしなかった。

 不思議な空間だった、本当に。騒がしい最前線の中、二人の決闘の場だけは、異常に静かな空気が立ち込めていた。

「……ねえ。君」沈黙を破ったのは無垢の宝剣の呟きだった。

 

「僕たちは、何をしてしまったのかな。君たちがただ、お腹が空いているから、物資がないから森の恵みをくれと言っただけなら、あげられたのに。どうして、闇文明だけじゃなくて君たちも、そんな情を抱くのかな。戦いじゃなければ済まない気持ちを、どうして僕たちは持たせてしまったのかな」

 

 ……不思議な声音だった。

 どこまでも透明、どこまでも無垢……ゲットが見たこともないような存在がそこにいる。透明の剣を携える剣士は、一瞬……機神装甲とは全く違う輝きを宿しているように、ゲットの目に映った。

 

 しかし、だ。

 その静かな空気の中、ずい、と黒い影が無垢の宝剣の身体に入り込んだ。途端に……彼はガタガタと震え、呻きだした。

「えっ……?」

 ゲットも驚いて体を起こす。彼は頭を抱え「……めて。やめて! そんな、ことはない!!」と叫んでいた。誰にも分からないが。彼の頭の中には渦巻いていた。

『やめない。お前は、一人ぼっち。お前は誰にも好かれない。お前は皆の邪魔者。一人ぼっちに苦しんで当たり前。不死を否定したやつらの子孫だから、死の次に苦しい思いを受けて当たり前』

 彼の脳にガンガンと響くのは、そのような呪詛の声と……自分に無言で背を向けて去っていく、銀髭団の面々の幻覚。

「あ、ああ……」

 誰も、自分を見すらしない。自分に何も期待していない。罵りすらしないのだ、ひたすら無言。罵ってやる価値すら誰も自分に見出していない。信頼している友人も、仲間も、母も。そして。

「まって……おいて、いか、ないで……」

 ワームに食いちぎられた半身だけで去っていく、父親も。

 こんなもの幻覚だ、わかっている、彼らがこんなことするはずがない。する、はずが……。

『お前なんか、誰もいらない。いいか。お前は一人ぼっちなんだ』

 

 発狂寸前に悶える無垢の宝剣からするりと何かが出てきた。

「ゲット……危なかった。こいつ、オレが呪いをかけた」

「……ロンリー!」

 ニコッと、その出てきた霊体……ロンリーは笑った。

「オレ、ゲットの友達らしいことできた?」

「……助かった!」

 ……なぜだろう。

 なぜ、彼女の言葉をそのまま肯定できなかったのだろうか。手も足も出なかった相手から間一髪救ってくれた、間違いなく有難い存在を。

 それでも……とにかく。助かったのは事実だ。「ありがとな!」とゲットは言った。ロンリーはそれに更に嬉しそうに笑い、言う。

「とどめは、ゲットにあげる」

 

「……え」

「? ゲット、こいつを倒すつもり、なんじゃないの……? こいつ、オレの呪いの効きがすごくいい。……普段よっぽど『孤独』に慣れてないんだ。羨ましい……だから、今とっても脆くなってる。倒すなら今」

 ……そうだった。彼はこの獣人軍の大将だ。

 それが、油断全開の状況で、それこそ……ゲットでも倒せるほどの状態で。

「……」

 やらなくては。

 憎まなくては。

 火文明の戦士で、ポップルの友達ならば。

 ゲットがポケットから予備の弾を込め、撃鉄に手をかけた、その時だった。

 

 

 やにわに森がざわめき立った。森が、黒いマナに染まっていく。その様子が……はっと、無垢の宝剣を我に返らせたようだった。

「しまった!」

 無垢の宝剣はゲットの方など最早振り返らずに慌てて、どこかへ駆け出していった。ゲットにその意味は分からなかったが、彼にはわかっていた。

「決着」がついたのだ。マナ・クライシスの効果が切れた。

 

 行かねば、行かねば。皮肉なことだがロンリーの呪いこそ、無垢の宝剣のその心を強化した。

 また、失いたくない。大切な人を。

 

 

「……キュー……」

 一連のことを手出しもせずに、木の上から見ている白い姿があった。サンドリヨン・ワイバーン。彼女は、何を思っていたのだろうか。

 

 ●

「何故、人は目の前にある絶望に目をつむるのだ?」

 大勢連なった獣人たちが倒れ伏す様。その様子をジャックバイパーは愉快そうに嘲笑った。魔術師たちは不死身のゴースト軍を前に総崩れ。もはや魔術を使うどころではない。

「お前たちの鼓動、お前たちの強がりなど現実逃避でしかないわ。アザガースト様の不死の実現を無かったことにしようとした千年前と同じ、お前たちは何も変わっていない。自然自然と言いながら、自分たちの知るものしか見ない、見ていたくない、それで何も恥を感じない、本質的には一番自然を見ない、自然を大切にしない者共」

 最後の一人、誕生の祈に向けて……ジャックバイパーの霊力が放たれんとした、その時だった。

 

「バース!」

 

 ひらりと、その声と共に目にもとまらぬ速さで彼女を引っさらい、森の木々の中に隠れていく影があった。ジャックバイパーも、その身軽さに不意打ちを喰らい、まんまとそれを取り逃がさざるを得なかった。

 その正体は、勿論。

「すまない、イノセント……マナ・クライシスが止まってしまった」

 無垢の宝剣。

「……君が無事でせめてよかった。でも、他の皆は……」

「イノセント!」と彼の腕の中、弱りながらも喝を入れる誕生の祈。その身から感じる彼の手の震えと自分をまるで……縋るように掴む力の全ての意味までは、彼女には分かりようがなかったが。それでもその言葉は的確に変わりはなかった。

「弱虫もいい、倒れた皆は悼んでくれ! だが、それはそれをすべき時にだ! 今は、その時じゃない! 闇のマナが集まっているぞ!」

 

 ……そう。マナ・クライシスの妨害は見事蹴散らされてしまったのだ。

 と、いうことは。

 

 メガリアの魔術によって超重力が立ち消える。重力から解放されたワイバーンたちに乗って、ドラゴノイド軍が満を持して進撃を始めた。そしてそれのみならず……。

「グジャグルギィィィ!!」

 すさまじい声を立て、魔翼蟲ジェノザイド・ワームが暴走を開始した。見る見るうちに、森という森は彼の腹の中に飲み込まれていく、銀髭団は慌てふためいた。

「引け! 引くんだ!」

「イノセント……降ろしてくれ。私もまだやれる。ディメンジョン・ゲート!」

 複数の魔術師……その中には決死の思いで動く誕生の祈も混ざっている……彼らによって複数のディメンジョン・ゲートが展開され、銀髭団は波が引くように引いていく。

「おいおい奴ら芋ひきやがったぜ!」

「仕方ねえよ、あれ相手だもんな」

 しかし、その火文明の見立ては厳密に言えば間違いであった。

 

「あれが……ジェノサイド・ワーム!」

 無垢の宝剣は味方がゲートをくぐっていく様を見届け、かつ弱った誕生の祈に気を配りながら呟く。存在は聞かされていた。光文明が水文明経由で入手したという情報から。

 パワーのみに特化した最凶のワームの存在。そしてそれが現れたら……自然軍は撤退しろ、そちらの手には負えないから相応の対応を取るという指示。

 彼は誕生の祈りを抱えながら最後に自分もゲートに消えながら、天を仰いだ。

「神様がた……お願い致します!」

 

 そして、彼の声に呼応するかのようにジェノサイド・ワームの暴虐とは真反対な光景が急に地上に広がりだした。

 

「フェアリー・ライフ……あとは任せたわ、《応援チューリップ》……!!」

 こちらも吹雪に乗って撤退していく傍ら置き土産とばかりに残された、スノーフェアリー軍のコートニーの魔術。それに合わせ、森には冬が去り春が来たように鮮やかな若葉色のマナが溢れるともに、美しいクリーム色の花が咲き乱れ、麗しい音楽を奏で始めた。ツリーフォークの一種、応援チューリップだ。

 火薬と呪いの飛び交う戦場にポツンと一瞬だけ取り戻された、この世の楽園のような美しい光景。美しい世界。

 

 そして、その歌を合図にして。

 

 森が割れる。破壊によってではない。その威光にひれ伏し、道を開けるかのように。

 露になる空。割れる雲。

 

 そして現れる、純白の姿。

 

 この星のすべての生き物は精霊に生かされているにすぎない。

 そう謳われるほどの圧倒的存在。その姿はまさに、神の御姿。

 

 光文衛最強の戦闘種族、エンジェル・コマンド。《流星の精霊ミーア》が、姿を現した。

 

 

「なんだ、あれは!?」

「皆様……あれが精霊ですわ!」

 驚く火文明と、その存在を瞬時に悟るメガリア。ミーアはそんな彼らなど気にもかけず、森の中へその純白の翼をはためかせた。

「失せろ。秩序に仇なすものよ」

 衝撃的なエネルギー波が、ただ一つの相手……ジェノサイド・ワームをめがけて沸き起こる。そして……。

 

「グジャァァァァァァァッ!!!」

 

 一瞬にして森と言う森、命という命を捕食したジェノサイド・ワームが地に沈み、動かなくなった。

 

 

 ●

「ふーん……もう精霊出しちゃう感じなんだぁ」

 地下世界、闇文明のダークロード達がその様子を見ていた。

「だがジェノサイド・ワームがあぁもあっさりとは……想定外のパワーだ」

「だねぇ、ヒドラ。あんなに強くなってたんだ、ムカつく」

「まだ少々早いと思うておったが」

 アザガーストとヒドラの話を前に、グレゴリアが立ち上がる。

「そう来るのであらばこちらもお返しするが筋と言うものよのう」

「うん。頼むよ。グレゴリア」

 アザガーストが静かに返す。グレゴリアは黄金の仮面の下で、笑ったようであった。「さあ、者共」彼女のリングが輝きだす。

 

「闇騎士団の逆襲の幕開けじゃ」

 悪魔たちの声が、闇文明に轟いた。

 

「邪妃様の仰せの通りに!!」

 

 

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