Saga of Creatures   作:hinoki08

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陰陽双滅戦争 7

 

 ジャイアント。

 文字通り、天を衝く自然のマナの巨人たち。

 コロニー・ビートルどころの騒ぎではない、巨大生命体。それを前に今一度、火文明一同は息をのむ。

 

「な……なんだ、ありゃ!?」

「なんだ、あのでかさ……あれがマジで、生きもんなのかよ!」

「いかにも火の皆様! あれこそがジャイアントです!」ファル・イーガ・カーテンの猛攻の中、ダークロードたちを庇って奮戦しながらザガーンが言う。

 闇文明から聞かされてはいた。自然文明側が投入できるだろう文字通りの最大戦力、ジャイアント。しかしいざこうして現れてみればにわかには現実を信じがたい。いったい何百キロメートル離れているかも分からないのに、彼らの存在をはっきりと視認できる。もし、あれの足元にでも行ってしまったらと思うと……猛々しき火文明の民ですら、物理的質量差と言う根源的恐怖を前に今一度震えの一つ程度は出てしまいそうなものだ。

 森も、山も、文字通り彼らの足にも及ばない。そんなサイズの生命体が今、フィオナの森へ、闇火連合に敵対する存在として降臨したのだ。

 

 ●

「ジャイアントたちよ、よくぞ現れてくれた! 聞こえるか!」

「フィオナ……嗚呼、聞こえている」二人の超人は言った。どちらもフィオナの森の化身同士、中央深部のフィオナの声も、彼らにはわかるかのように。

「火文明と闇文明連合の本隊が今、中央深部へと向かっておる。そなたら、奴らを止めてくれ!」

「……承知した」

 ゆらり、大きな影は動き出す。物量と言う何よりも原始的な強さをもって。だが。

 

「そうはさせぬぞ」

 そこに、何も臆せず立ちはだかる存在があった。

 彼らが臆さないのは道理も道理。

 原始的、自然の在り方。「それ」を押し付けられたことへの屈辱の闇が、彼らの母体なのだから。

 中央深部に向かい敵を滅さんとする超人たちの前に、沢山の悪魔たちを率いて現れ出でたる姿があった。

 

「……クッ、フフフ……」

 天空の超人の前に出た軍勢を率いるは、オルゲイト。

「アーハッハッハッハ!! ようやくだ!! ようやく邪妃様からのお達しが降りた!! ようやく邪妃様の命令の元に死を喰らっていい時が来た!! おおなんという大きな命か!! お前ほどの命が無様に足掻いた末の死ならばさぞや良い味がしようもの!! 楽しみだ! 楽しみだ!! 沢山戦い!! 沢山呻き!! そしてわが前に死んでゆけ!!」

 

「……おお、でけえでけえ」

 夜明けの超人の前に出た軍勢を率いるは、クエイクス。

「こりゃ随分な馬鹿力だろうな。隊長も副隊長も居ねえ、オレらでどこまでやれたもんだか。けれどよぉ……オレらの邪妃様は、ダークロード様たちは、そんなお前らって森にそれでも真っ向から歯向かったんだ。護らんわけにはいくまいよ。……あ、悪い。お前らの頭に騎士道の忠義なんぞ、難しすぎるよなぁ。忘れていいぜ」

 

 金の腕輪を嵌めた、悪魔の軍勢。闇騎士団が、ジャイアント軍の前に現れた。

 

「……悪魔、達……ああ! その腕輪は、モナーク・リング……闇、騎士団……」

 無論、超人たちも気づく。その姿。そして、その怒りは、闘志は。

「何故……森を望む。森を傷つける。森を壊さんとする。お前たちは……」

 

 圧倒的に自然のマナを揺るがす大地震の姿でフィオナの森に響き渡る。

 

 ●

「メガリア様、オルゲイトとクエイクスが無事奴らと出会ったようですな……」

「ええ、そうね、ザガーン」

 一方、ファル・イーガ・カーテンと交戦中の火文明・闇文明連合軍の本隊。

 冷静に闇騎士団の情報交換を行う闇文明軍の傍ら、ただでさえ身動きの取れないファル・イーガ・カーテンを前に膠着状態だったところ、更に無関係の戦いの余波で翻弄される火文明軍は騒ぐ。

「すげえ地震だ!」

「くそっ……輪をかけて戦い辛いぜ!」

「この連携まで計算ずくか!?」

「自然文明が万端に準備を整えたうえで本格顕現させたジャイアントならば闘志を向けずともあの程度で当然です……頃合いが来ましたね、火文明軍の皆様。死皇帝様からのお望みです」

 一時撤退を。そう、ザガーンは妙にあっさりと告げた。

 

「あんな相手を前にして……芋引くみてぇじゃねえか、クッソ!」

「親父……気持ちは分かるが無茶云うなよ」頭に血が上ったヴァルバロスに、ホーバスが言う。

「あんなデカブツが出てこなくても、ガンダヴァルさんにヴァルディオスさんと機神装甲が二人も倒されている。親父の砲撃すら通用しねぇ。判断としちゃ妥当だろ」

「……ボーグの奴にいい教育されてんな、お前」

「何、完全撤退するわけではありません。我々も、あなた方の戦士としてのプライドを侮辱する気は毛頭ございません」ザガーンもフォローに回る。

「あくまで今一度ファル・イーガ・カーテンから距離を取り、我ら本隊は体勢を立て直すまで防戦に回るのです。最終的にはあのカーテンとて崩れ去る。それが今ではないというだけです。まずあの巨人どもの猛攻を凌ぐに関しては、我ら闇騎士団を信じて……いえ、我らの忠義の顔を立てては頂けませぬか。我らが仕えし主たちの、千年の雪辱を晴らす騎士道を」

「ニ゛ャ!」

「……チッ、断れねぇ頼み方してくんじゃねぇか」

 デスライガーにまで頭を下げられて、舌打ちしながらも一時撤退を言い渡そうとするボーグ。しかし、光文明がその気配を感じ取った。

 

「させはしない。《ライト・ディフェンス》!」

 ファル・イーガがそのテクノロジー呪文を唱えると同時に、ファル・イーガ・カーテンの様相は一変した。

 イニシエートのみならずガーディアンまでもが……防御の様相を解いていく。

「攻撃は最大の防御なり。防御は最大の攻撃なり」

 そしてファル・イーガはなおも、呪文の手を休めない。黄金のカーテンが、にわかに輝きだす。

 それは金の光ではない。あまりにも眩しい……ダイヤモンド色の光。その光を見た瞬間……一時撤退に動かんとしていた闇火連合本隊は悟らざるを得なかった。ファル・イーガ・カーテンの手札はまだまだあったという事実を。

 絶対防御のカーテンが、攻撃と言う最大の防御の姿を取る。

 

「《ダイヤモンド・カッター》!!」

 

 ファル・イーガが呪文を唱え終わると同時に、ダイヤモンド色に輝くガーディアンたちが一斉に闇火連合の本隊へと、攻撃態勢をあらわにした! 

「……まずい! この数は、太刀打ちできねえぞ!」

 そう叫んだボーグの前に、歩み出る影たち。

「……機神装甲ヴァルボーグよ、お嬢様を頼む!」

「ここは我らが!」

「闇騎士団副隊長の名に懸け、同志たちが戦っている最中に大切なお方々のため動かずにいられようか」

 バグザグールとジャックパイパー、そしてザガーンが、光の渦を前にしてメガリアをかばい歩み出たのだ。ザガーンは後ろ手で、デスライガーに彼女を庇うよう指示する。

 ダークロードとして下級種族二人を指揮するバグザグールは、目の前のダイヤモンド色の輝きにも負けないほどの圧倒的な闇のマナをその両手に貯めこみ、「お嬢様、ブラック・スレイヤーの力をお願い致します」と告げる。

「……分かったわ」

 そしてメガリアも同じように掌にマナを浮かばせた時、闇と闇が混ざり合い、ダイヤモンドの激しい光の中にあってなお失われない闇が生まれる。

「神成の時が成るまでには、必ず合流なさい。バグザグール。ジャック。ザガーン」

「承知いたしました」

 

 メガリアの命令が下されたのと、ダイヤモンドの軍勢がはじけるように一斉攻撃を仕掛けてきたのは、ほぼ同時だった。

 それを、迎え撃つ。ザガーンとジャックバイパーは膨大なゴースト達を率いて、膨大なガーディアンを前に戦いだした。彼らに、その輝きは何の畏怖も呼び覚まさない。その眩しさに閉じる瞼など、千年の暗闇の暮らしには最早無用の長物だった。

「何体でもかかってくるが良い! 闇騎士団副隊長、暗黒の騎士ザガーン! この身をいくら傷つけようと、闇の誇りに傷はつけさせぬ!」

「……これで我らを滅ぼせるつもりか。これで我らを絶望させられるつもりか。……フハハ、千年で随分腑抜けた者よ、千年前の我らの絶望の万分の一もここにはありはせぬ。貴様らに、まことの絶望とは何かを教えてやらん、この死皇帝に愛されしジャックバイパーが!」

 

「さあ、ゴースト軍たちよ……出会え……!」

 そしてメガリアの魔力を纏ったバグザグールも、ゴースト軍を率いてそのダイヤモンドの嵐の中に飛び込んでいく。

「貴様らの命、死皇帝アザガーストに捧げよ!」

 

 闇と光が激しくぶつかり合い、森は光に照らされては闇へ飲み込まれていく。その大混乱を背にして、ヴァルボーグ率いる火文明本隊はメガリアと共にひそかに森の後方へと一時撤退をした。

 ……しかし……なおも襲い来る大地震。森がめきめきとうごめき、彼らへと雪崩かかる。

「くっそ! もっと開けたところへ行かねえと……ここは危険だ!」

「森も意思を持ってる、オレたちを攻撃するように樹が倒れてくるぞ!」

「皆様、私とデスライガーに続いてください!」メガリアはデスライガーに乗りながら、傷ついた火文明本隊を後方へと逃がしていく。

 

 ●

「……失せろ、悪魔」

「フィオナの森の化身が目覚めたとあらば、ちょうど良き事」

 真っ白い、森の冷気の身体を持つ天空の超人。それに向かい合うオルゲイトは目の前の存在の強大さにも一切恐れをなさない様子で言葉を進める。

「ああ、千年前の屈辱……この身にひしひしと残っているとも。不死を求めたダークロード様たちの怨み、邪妃様の怨み、バロム隊長の怨み、覇王様の怨み……今こそそなたらを排し、闇文明の誇りを取り戻そうぞ。そして……」

 オルゲイトは下半身の顔にじゅるり、と大量の涎を飲み込み、笑った。

「その祝いの前菜がまずは貴様の死だァァァァ!!!」

「……失せぬなら、力づくだ」

 天空の超人がその拳をオルゲイト軍に向かって振り下ろす。とたんに周囲のマナが活性化し、天空の超人の拳に吸い込まれ、その図体以上のパワー……まるで幾千、幾万もの命をひと固まりにしたかのようなパワーがそこに生まれる。

 ドシンと一撃がおこったが最後、数十体の悪魔……闇のエネルギーで比較的安易に量産できる《暗黒巨兵マギン》たちをはじめとするオルゲイトの部下たちがオルゲイトを庇いに出たのもつかの間、同時に吹き飛び、闇のマナとして飛び散った。

 だが、その時だった。無残に飛び散った悪魔たちの魂のマナは……大地にも、地下にも帰らない。それらはうめき声をあげながらオルゲイトの体へと吸収されていく。

「ふっ……礼を申そうぞ。仲間をたったの一撃で、これほどまでに殺してくれて……」

 オルゲイトは数対の腕に握られた刀にそのパワーを充填させながら答えた。そして。

「っ……ああ、っ……はぁっ!! 死ッ! 死の、味が、する!! 死……なんと甘美、なんと濃厚、なんと芳醇、おお、死の味よ!!」

 彼の腕に嵌められた、グレゴリアの腕輪が闇の輝きをギラギラと増す。それに合わせて彼の刀と瞳は恐ろしい闇の色を増し、オルゲイトは痛みなどではなく、興奮のままに身悶える。

「例を申すぞ前菜よ!! 前菜の味が楽しみになる最高のアミューズだぁ!! 仲間の死……それこそが、最も強き我が糧となる!!」

「……お前たちらしい」

 冷たい声音で、その光景を天空の超人は見降ろした。

「千年前から変わらぬ。残酷なる、闇文明……フィオナの森を、侮辱する者共よ……」

 その時。天空の超人は見た。

 下劣な悪魔を握りつぶさんと差し伸べた自分の片手が、消え去ったのを。

 オルゲイトが、木々を集めてその太さを作るには十の山をはげ山にせねばならなさそうなほどのその手首を、刹那に切断して見せたのだ。

「……死。死の味が、する……ククッ、食前酒もぬかりない。自然文明、全く貴様ら、実りにだけは事欠かぬ!」

 冷涼な霧色の血を浴びたオルゲイトの不気味な笑い声がこだました。

 

 

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