広大な宇宙を背景に、宇宙船アルカディア号がゆっくりと降下していく。船内では、一人の男──エヴァンがコックピットに座り、動物園施設の巨大なドームが見える窓の外をじっと見つめている。無限の星々の間にぽつんと浮かぶその施設は、なぜかかつての賑わいを失ったかのように静まり返っている。
エヴァンの足元には、彼の忠実なペットである小鳥のフィンが丸まって寝ている。フィンの羽毛が微かに光を反射し、宇宙船の薄暗い室内に穏やかな影を落としている。フィンがのんびりと目を開け、静かな鳴き声を上げてエヴァンに向かって体を擦り寄せる。
「もうすぐ着くぞ、フィン。ここが、今日からの職場、長旅の目的地だ…」
とエヴァンが呟く。
彼は宇宙船の操縦など、宇宙で活動するための技能は一通り持っていたのだが、運に恵まれずこれまで職を転々とすることになっていた。スラム同然の環境で生まれ、学校にも通えなかったもののなんとか独学で機械の扱いを習得。宇宙輸送会社の下請けに入社し、劣悪な環境に耐えながら日々を過ごしていたが、会社自体が経営破綻してからはそれまで使用していた船をこっそり持ち出してあちこちを彷徨う日々だった。今回の動物園での勤務も今度こそ、と思っているが、もはや到着する前から半ば諦めかけていた。
宇宙船が地表に近づいていくと、エヴァンはその規模に一瞬心を奪われた。ここには動物園と宿泊施設含めたその関連施設以外に建物はない。しかし並び立つドーム状の建築物は彼もそうそう見たことがないほどには洗練されていたのだ。しかし地上が近づいてくると、目的の施設は気のせいでなく不穏な雰囲気をまとっていることがわかった。動物園の建物が近づくにつれ、かつての賑やかなアトラクションだったことを示すネオンの看板や、豪華なエントランスがかすかに見えてくる。しかし、「かつて」という言葉では済まないほどに何かがはっきりと異様だ。エヴァンの眉が僅かにしかめられ、目は緊張を帯びる。
例えば目的地から一切の通信が無いこと。見える範囲で既に奇妙な汚染らしき物体が見えること。そしてあまりに静まりきっていること。
フィンも何か不穏な気配を感じ取ったかのようにエヴァンの膝の上に飛び乗り、不安そうに船内を見渡している。
「大丈夫だ、フィン。きっとただの錯覚さ」
エヴァンは自分に言い聞かせるように呟くが、その言葉にはどこか不安が残っている。
宇宙船が静かに着地し、エヴァンはフィンを肩から下ろすとゆっくりと立ち上がる。
「さあ……着いた。ここで待っているんだぞ…」
呟き、緊張しながら鞄片手に動物園の入り口へと足を進めるのだった。
──それが地獄の門であることはまだわかっていなかったのだ。