電気が消えた闇の中、ティタンはゆっくりと歩を進めていた。
太い爪を備えた脚が地を踏みしめるたびに、大地が震え、崩れかけた柵が軋む。わずかに残った施設の照明が、 太い四肢と長い牙、胸に備えた二対の小腕の歪んだ影を映し出し、鋼鉄の檻に亀裂を走らせる。彼の周囲に生き物の気配はない。ただ、死の静寂と、血の香りが漂うだけだった。
しかし、ティタンは感じていた。奴がいる。
宿敵——【奴】の子孫の痕跡が、この場所に残されている。
グオォォォォォ……!!
低く、腹の底から響くような咆哮が夜の静寂を引き裂いた。遠くの壁にいた鳥型のクリーチャーが反応し、ギャアギャアと鳴きながら飛び去る。しかし、ティタンは気にも留めない。彼の意識はただ一点、【奴】の直属の眷属が放った残り香をたどることに集中していた。
ティタンの視界の端で、小さな異形の獣が跳躍し、牙を剥いて喉元へと飛びかかる。しかし——ティタンの牙が先に動いた。
鋭く、巨大な牙が振り下ろされ、小さな影の体を一撃で叩き落とす。鈍い音とともに地面が揺れ、獣の悲鳴が響く。そのまま巨大な足が覆いかぶさり、力任せに踏み潰した。血と体液が飛び散り、肉片が地面に張り付いたことで床がじゅうじゅうと溶解する。
ティタンは気にも留めず、歩みを進めた。
足元には引き裂かれた檻。
中にいた獣はとうに姿を消している。どこかに逃げたか、あるいは【奴】の眷属に浚われたのか。
ティタンは長く伸びた頭部の先を持ち上げ、僅かに残る【奴】の匂いを嗅いだ。
ここを通ったのは確かにあの女王に近しいもの。だが、すでに移動している。もう遠い——だが、別の気配が近くに固まっている。
怒りが込み上げる。この地の支配者は自分であり、奴ではない。この地の支配者の座を賭けた戦いは、まだ終わっていない。
屈辱が内側で燃え続ける。長らくこの施設に閉じ込められ、演じることを強いられたことによる自分のものでないはずの感情。だが、今は違う。すべての檻は壊れ、支配者の座を争う時が来たのだ。
ティタンは巨大な牙をむき出しにし、再び咆哮を上げた。
その瞬間、近くの通路にあったガラス張りの壁が砕け散った。響き渡る破壊音とともに、警報の残骸が途切れ途切れに鳴る。彼の進む先には、なおも崩れかけた通路と、かつて観光客を迎えていた広場が広がっていた。そしてその奥の分厚そうな壁の向こうから──
ゆっくりと、しかし確実に、ティタンは進む。
ただ一つの目的のために——宿敵を倒すために。