クソボケのことが大大大好きな生徒達   作:あば茶

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すまねえ……仕事が忙しくて誕生日に間に合わなかった……!


本編最終回後の酒泉君がうっかり告白しちまっただけの話(ヒナ)

 

 

 

「酒泉、そっちはどう?」

 

「もうすぐ終わりますね……空崎さんの方は?」

 

「私も同じくよ」

 

 

これからも私を支える、酒泉はずっと前に交わしたこの約束を未だに守り続けている

 

戦闘時も、こうして書類仕事をしている時も、私が何となく〝会いたいな〟って思って休日に呼び出した時も

 

私が下らない嫉妬で〝もうその約束は忘れていいと〟不貞腐れても、私を追いかけてまで約束を果たそうとしてくれた

 

だから……その……自惚れかもしれないけど、多分酒泉の中でも私は特別な存在なんだと思う

 

でも、そんな〝特別扱い〟にもちょっとだけ不満がある

 

 

「ねえ、酒泉」

 

「はい、なんです?」

 

「今日もまた〝アレ〟やってくれる?」

 

「〝アレ〟……とは?」

 

「その……昨日仕事中にやってたのと同じこと……」

 

「……?」

 

 

何の事だと首を傾げる酒泉、恐らく演技ではない

 

……昨日、私と酒泉は〝ある約束〟を巡って口喧嘩をした。それは私の嫉妬心だったり酒泉の意地だったりがぶつかり合った結果でもあった

 

でも、私はあの喧嘩は必要だったと思う。だってあの喧嘩が無かったらこんな心地好い空気ももう二度と味わえなかったかもしれないし、何より……互いの本心を一生伝えられなかったと思うから

 

そんな喧嘩の後、私は離れそうになった酒泉との距離を縮めるかの様にある事をお願いした

 

 

「だ、だから!……その……酒泉の膝で仕事したいなって……」

 

「……ヴェ!?」

 

「……だ、だめ?」

 

「駄目ではないですけど……で、でも男が無闇矢鱈に女性に触るのは……なんというか……セクハラっぽく見えると言いますか……」

 

「……私が望んでる場合でも?」

 

「うぐっ……」

 

 

自ら望んだ事だと伝えると酒泉は〝それは〟だの〝でも〟だのと必死に言い訳を探し始める……これが私の気に入らない事、酒泉は私を〝特別扱い〟しすぎている

 

過保護……というより遠慮しすぎているというか、昔みたいに心に壁を作っている感じはしないけど

 

此方が一歩前に踏み込めば酒泉が一歩後退ってしまう、そんな関係がずっと続いていた

 

……肝心なところで退いてしまう私もいけないんだけど

 

 

「……私を支えるって昨日約束してくれたばかりなのにもう破るの?」

 

「い、いや……まさか物理的に支える事になるなんて思わないじゃないですか、普通」

 

「私は最初からそのつもりだったけど」

 

 

だから、これからは恐れずに踏み出そうと思う

 

想いを伝えるという行為から逃げ続けていれば今の関係をずっと維持できるだろう、でも逃げずに前に進めば酒泉の全てを手に入れられるかもしれない……勿論、逆に今の関係が崩れてしまう恐れもあるけれど

 

逃げれば一つ、進めば天国か地獄……なら、私は後者を選ぶ。だって、酒泉が憧れてくれた空崎ヒナという女は臆病者なんかじゃないから

 

酒泉の支え甲斐のある女になる、それが私の覚悟だ

 

 

「……いいでしょう?一回やった後なら二回目も大して変わらないんだから」

 

「だ、駄目ですって……!」

 

 

片膝を酒泉の膝に乗せ、身体を肩がくっつく程度まで近付かせる

 

少し強引に詰め寄ってみれば、予想通り酒泉はやんわりと私を押し退けようとする

 

……そんな手加減なんかしなくても、元々力で私に勝てる訳ないのに

 

 

「そんなに嫌なら本気で突き飛ばせばいいのに」

 

「……っ、それ……分かって言ってます?」

 

 

分かってる、酒泉は私を突き飛ばせないってことは

 

それも物理的な力の差だけでなく、私を大切にしてくれてる酒泉じゃ私を強く拒絶出来ないであろう事も

 

全部、全部分かっている上での行動だ……それでも私は知らないフリをする

 

 

「分からないわ。酒泉が何を焦っているのかも、どうして今更嫌がるのかも」

 

「……っ」

 

「……嫌ならハッキリ〝嫌〟って言わないと伝わらないわ」

 

 

酒泉は私の頼みを断れない、酒泉は私を突き放せない、酒泉は私を絶対に見捨てない

 

だって彼の心の中の大半は私の事で埋め尽くされているから、そうでなきゃここまで尽くしてくれる筈がない

 

だから、きっと酒泉だって私に迫られて嫌な思いはしていないはず、そうじゃなきゃ困る

 

 

「見て酒泉。私の身体、もう半分くらいは酒泉の上に乗っかっちゃった」

 

「……」

 

「抵抗しなくなったって事は……いいのね?」

 

 

無言でそっぽを向く酒泉の答えを待たず、自らの身体を完全に酒泉の膝に乗せる

 

心地好い、ただひたすらに暖かくて心地好い。ある時期から成長しなくなったこの小さな身体も、こうして酒泉に包んでもらえるなら案外悪くないかもしれない

 

 

「それじゃあ……仕事を再開しましょう」

 

「……本当にこの状態でやるんですか?」

 

「昨日もやったでしょ?」

 

 

その一言だけで酒泉は何も言わなくなり、私を膝に乗せたまま黙々と仕事を再開した

 

実は私の分はとっくに終わらせていたりする、勿論この時間を心置きなく堪能する為だ

 

 

「……あの、空崎さん」

 

「なに?」

 

「文字が読みづらいんですけど」

 

「顔を近づければいいだけよ」

 

「この状態でそれやったら俺の顔面が空崎さんの真横に来ますよ」

 

「それの何が問題なの?」

 

「……はぁ」

 

 

言っても聞かないと判断したのか、酒泉はなるべく私の頬に自分の頬がくっつかないようにしながら顔を机に近付けた

 

全く女の子に興味が無さそう……な風に気取っているその顔も流石に羞恥を隠し切れなかったのか、耳たぶの先っぽから赤く染まっていた

 

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「……空崎さん」

 

「なに?」

 

「俺の膝に座るのはこの際構いません、でも横顔をジロジロ見るのだけはやめていただきたいです」

 

「気にしないで、私が勝手に見てるだけだから」

 

「俺が気にするんですよ……」

 

 

困ったように垂れている眉も、不貞腐れたように尖った口先も、全てが愛おしく思える

 

一秒足りとも酒泉を視界に入れていない時間を作りたくなくて、ただひたすらその横顔を記憶に焼き付け────

 

 

「きゃっ……」

 

「うおっ!?」

 

 

つい見入りすぎてしまったのか、距離を詰めすぎた私の頬が酒泉の頬とくっつく

 

すると酒泉は反射的に背をもたせかけて私から逃げるように頬を離れさせた

 

 

「ち、近いです!流石に近すぎますよ空崎さん!やっぱ降りてください!」

 

「……嫌だった?」

 

「い、嫌では……ない、ですけど……」

 

「……じゃあ、続けてもいいよね」

 

「駄目です!これ以上はもう持ちませんって!ただでさえ好きな人と触れ合っただけで心臓がヤバいってのに!」

 

「そっか……やっぱり嫌だったんだ……」

 

「ぐっ……嫌じゃない……じゃないけどぉ……!」

 

 

こうやって落ち込めば酒泉は必ず私を慰めてくれる、ならばそれを利用しない手はない……って思ったけど、今日の酒泉はやけに頑固だ

 

いつもは驚くぐらいアッサリと私の言うことを聞いてくれるのに、今日だけは頑なに私の要求を全て跳ね除けようとして────

 

 

「……?」

 

 

待って、今何て言った?

 

酒泉は私に何を伝えたの?私の聞き間違いじゃなければ確か……

 

 

「と、とにかく!さっさと自分の席に戻ってください!そうした方がお互いに効率的に仕事出来ますって!」

 

ただ、酒泉の方は何事も無かったかの様にただ照れているだけだし……もしかしたら本当に私の聞き間違いなのかもしれない

 

それか……酒泉が無意識の内に本心をさらけ出した……とか……

 

 

「……しゅ、酒泉?その……さっきの言葉、もう一回言ってくれる?」

 

「だ、だから……嫌ではないですって……」

 

「そ、そっちじゃなくて!……それより前の……」

 

「え?それより前?確か好きな人と触れ合って心臓がヤバいから離れて……くれ……って……」

 

「……」

 

「……ん?え?は?え?好きな人?」

 

 

自分に都合の良い妄想ではない事を願いながら再び酒泉に尋ねてみると、酒泉は間の抜けた表情で困惑し始める

 

何度も何度も〝ん?〟と声を溢しながら首を左右順番に傾げ、ひたすら自分の発言を小声で呟き続けた

 

 

「え?いや、好きな人って?誰?」

 

「私に聞かれても……酒泉が自分で吐いた言葉でしょ?」

 

「俺が?いつ?」

 

「……さっき、私が膝に乗ってる時に」

 

「誰に対して?」

 

「……わ、私に……向かって……」

 

「好きな人に……ああ!思い出した!」

 

何を思い出したというのか、徐々に顔が赤くなっていく私とは正反対に酒泉は手をポンと叩いてからあっけらかんと言い放った

 

 

「俺、空崎さんに〝好きな人にくっつかれて心臓がヤバい〟みたいなこと言ったんだった!いやーすいません、忘れてましたよー」

 

「え?あ、あの────」

 

「そうだそうだ!十秒前くらいの自分の発言を忘れるところでしたよ……記憶力ばにたすかっての!」

 

「え、ええ……そうね……ところで────」

 

「いやーにしても俺が空崎さんに向かって好きな人って告白するとはねー……いやー俺が……俺が……おれ……が……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!゛!゛?゛!゛?゛」

 

「えっ」

 

 

 

それは告白なのかと私が問う暇もなく席を立ち上がり、部屋を出て廊下を走り出す酒泉

 

どこから出ているのか分からない程の大音量で奇声を発しながら、酒泉は私を一人残して全力で逃走を始めた

 

 

「────っ、待って!酒泉!」

 

 

唖然と立ち尽くしていた私は数秒してから漸く思考が動き出し、私から逃げようと走り去る酒泉を反射的に追いかけていた

 

いつもの様な効率的なフォームとは違ってただデタラメに走っているだけの酒泉に追い付くのはそう難しい事ではなく、自身の機動力の高さもあって私はあっという間に酒泉の背中を捉えた

 

 

「酒泉!どうして逃げるの!?」

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!゛!゛!゛」

 

「私の声が聞こえてる!?」

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!゛!゛!゛」

 

「お願いだから人間に戻って!じゃないと私の想いも伝えられないから────」

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!゛!゛!゛」

 

「くっ……!」

 

 

 

このままでは人目に付く場所まで移動してしまうかもしれない……なんて事はどうでもいい、それ以上に問題なのが〝酒泉の想いに答えられない事〟だ

 

やっと好きって言ってくれた、例え本人が無意識だったとしても、酒泉の想いは確かに私の方に向いていた

 

〝酒泉の中で私は特別な存在だ〟という予想は当たっていた、だけどその〝特別〟の意味は私の予想とは外れていた

 

ただの敬愛や友愛なんかじゃない、酒泉は私のことを女として見てくれていた

 

それを理解した今、このままうじうじと関係を先延ばしにする理由なんてもう存在しない

 

私だって、私だって────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私だって酒泉が好きなの!!!」

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛──────あ?」

 

「────っ、今!」

 

「え……な、なんて────どぅあ!?」

 

酒泉の身体が硬直する、その一瞬の隙を見逃さずに酒泉に飛び付く

 

振り向きかけていた状態の酒泉は咄嗟に体勢を整える事ができずに仰向けで私に押し倒される、更に私は酒泉を逃がさない為にその両手を自身の両手で繋いでしっかりと拘束した

 

床にぴったりと張り付けられている酒泉の背、塞がれている両手、そして私が覆い被さっているこの状況……もう絶対に逃げる事は出来ないだろう

 

 

「い、痛っ……空崎さん、急に何を────」

 

「それはこっちの台詞!私の答えも聞かず突然逃げ出さないで!」

 

「す、すんませ────ん?答え?………………っ!!?」

 

 

直前の私の叫びを思い出した酒泉は目を見開きながら大きく口を開けた

 

その表情は驚愕とも混乱とも困惑とも歓喜とも取れる、ありとあらゆる感情をぐちゃぐちゃに混ぜた様な表情をしていた

 

 

「酒泉、さっき私に向かって〝好きな人〟って言ったよね……あれはつまり告白って事でいいの?」

 

「そ、そそそそそそれを言うなら空崎さんだってててててててててて」

 

「……わ、私のは……告白と受け取ってもらっても構わないわ」

 

 

こんな廊下のど真ん中で押し倒して告白なんて風紀の〝ふ〟の字もあったものじゃないけど……別に後悔はしていない

 

だって、私みたいな女はここで告白の機会を逃したらきっと一生そのチャンスが訪れて来ないだろうから

 

もはや場所がどうとか状況が悪いとか言ってられない、両想いである事を知った瞬間に私の心と身体が〝早く繋がれ〟と急かしてくるのだから

 

 

「この際だからもう伝えちゃうけど……酒泉、私はずっと貴方の事を愛していたわ。調印式の時から……ううん、それより前から」

 

「……そ、それは────」

 

「先に言っておくと、私は〝仲間〟としてでも〝友達〟としてでもなく一人の〝女〟として酒泉に告白しているわ」

 

 

誤解されないように先回りして逃げ道を潰し、改めて酒泉に尋ねる

 

すると握っている酒泉の両手の力がキュッと強まり、彼も私同様に緊張しているであろう事が伝わってきた

 

 

「……酒泉はどう?」

 

「お、俺は……」

 

「……答えてくれないなら、貴方の胸に直接聞くけど」

 

 

部下達が出動した事で人気が無くなった風紀委員室前の廊下、その中央で酒泉の胸元に耳を当てる

 

予想通り私の胸と全く同じ音を奏でている、それだけで酒泉の想いは十分に伝わってきた……けど

 

 

「……お願い、やっぱり直接聞かせて?」

 

「……俺は」

 

 

音だけじゃ、体温だけじゃ、満足できない

 

その口から、その身体から、直接愛を伝えてくれないと

 

 

「おれ、は────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────

 

 

 

 

 

『委員長!また温泉開発部の馬鹿共が!』

 

「分かった、すぐに向かう……チナツ、怪我人の方は?」

 

『既に治療は完了しています!』

 

「了解、そのまま学園に戻って待機してて」

 

 

イオリとチナツから報告を受けたヒナが上着を羽織り、愛銃を持って現場に向かおうとする

 

いつもならその背を追ってヒナの後ろを歩く酒泉も、アトラ・ハシースでの戦いの後遺症が完全には治り切っていないからと待機命令を出されていた

 

 

「アコ」

 

「戦況も味方部隊の人数も敵の逃走ルートも全て把握しています」

 

「そう……ならバックアップはお願いね」

 

「はい!お任せください!」

 

「……あの!」

 

「何?言っとくけど酒泉を戦わせるつもりはまだ────」

 

「そうじゃなくて!そ、その……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こっちの仕事は任せてください!ヒナさん!

 

「ふふっ……うん、お願い」

 

「……は?〝ヒナさん〟?酒泉、これは一体どういう────委員長?何故そんなに笑顔なんですか?委員長?……委員長!?」

 

 

ギャーギャー騒ぎ立ててヒナを凝視するアコ、それをスルーするヒナ

 

ヒナはあの日の柔らかな〝感触〟が未だ残っている唇を指で撫で、酒泉も自身の唇に指を当てているのを確認してからご機嫌そうにスキップして現場に向かうのだった

 

ちなみに温泉開発部は一分も持たずに壊滅した

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