「あ゛ぁ゛~……あったかい」
「汚い声出すなよ、ただでさえお前に抱いてる儚い幻想がもっと儚くなるだろ」
「なんだとクソボケ」
炬燵の中でげしげしと脛の辺りを蹴られる、地味に痛いのでやめてほしい
しかしどうしてコイツはふてぶてしく俺の炬燵の半分を占拠しているのだろうか
「カズサ、お前どうしてここにいんの?」
「なに?彼女が大晦日に彼氏の家に来ちゃ駄目なの?」
「駄目」
「なんで?」
「今日は一人でだらだらする予定だったから」
「あー炬燵さいこー」
「聞けよ」
俺はコイツのせいで年越しそばを一個余分に作らされたというのに、当の本人は蕎麦を食ったら炬燵でぐーたらぐーたらと……せめて炬燵の上の皿ぐらい台所に持っていきなさい
「ごろにゃーん」
「うわっ……自分でにゃーんとか言ってる……」
「いいじゃん、猫なんだし」
「本物の猫の方がまだ可愛げあるだr────やめろ、みかん汁を飛ばすな」
「避けるな!」
「避けるわ!」
食べ物を粗末にするんじゃありません、と叱ると悔しそうにしながら素直に手を止めてくれた
いいぞ、出来ればその調子で炬燵からも出ていってくれ、そうすれば俺のスペースが広くなるから
「……つーかさ、折角の大晦日なんだしスイーツ部の人達と一緒に過ごさなくていいのか?」
「ん?途中で抜けてきたよ」
「そりゃまたどうして」
「そりゃあ……一年の最後は好きな人と過ごしたいし」
顔を赤く染めながらゴニョゴニョと喋るカズサ、その表情は先程の気安い会話からは想像もつかないほど乙女そのものだった
ヤンキー時代からは考えられないほど素直になったなコイツ……恋は人を変える、か
「……ていうか、逆に酒泉は大晦日なのに恋人のこと無視するつもりだったんだ」
「だって誘われなかったし」
「何か誘う時っていっつも私からだよね、好きって言うのも私からだし」
「おーい、めんどくさい彼女モードに突入してるぞー」
「面倒ですいませんでしたー」
カズサは不貞腐れたような態度で身体を横にすると、ボソボソと小声で文句を言い始めた
わざとらしく俺に聞こえるように〝どうせ私なんて〟やらなにやら呟いている
「偶には酒泉の方から何か誘ってくれてもいいじゃん……」
「その機会が無いのは俺が遊びとか誘う前にお前が我慢できず押し掛けてくるからだろうが、ちょっとは我慢ってもんを覚えなさいよ」
「……無理」
「なんでさ」
「だって……付き合いはじめてから色々と箍外れちゃったし」
「……」
「その、幸せすぎて抑えが効かないっていうか……」
「……おお」
カズサは真っ赤な顔のままそっぽを向く……なるほど、確かにコイツは付き合う前と比べて色々と積極的になった気がする
付き合う前はそんな毎日毎日一緒に居たって訳じゃないのに付き合いはじめてからは登下校も夕飯時も一緒に居ようとしてくるし、風呂前や就寝前にモモトークを掛けてくる回数も増えてきた
スイーツ部の方ともちゃんと付き合ってはいるらしいが、活動が終わればすぐ俺んちだ
「酒泉は私と同じじゃないの?」
「俺は……」
「それとも……私ってそんなに魅力無いかな」
不安そうに、臆病に、ジトッとした目を向けられる
……もしかしたら俺が本心を伝えなさすぎて無意識にカズサを傷付けていたのかもしれないな
「んなことないって、むしろ魅力的すぎるから困ってんだよ。俺まで抑えが効かなくなったら本格的に爛れた生活になっちまうだろ?そうならないようにカズサの可愛さに必死に耐えてんだよ」
「……ほんと?」
「ほんと」
「そっか……そっかそっか~」
ニマニマしながら顔を見つめてくる……これはこれでなんかウザいな
「それじゃあそんな可愛い彼女に夢中な彼氏にはご褒美をあげないとね……っと」
モゾモゾと炬燵の中に潜り込むカズサ、ちなみにこの炬燵はヒーター部分が埋め込まれているのでうっかりそこに身体をぶつけて火傷するなんて事は滅多に起こらない……それでも心配だが
そんな俺の気持ちなど露知らず、上半身を完全に炬燵の中に入り込ませたカズサは自分の座っていた場所から反対側……つまり俺の足元からニュッと顔だけ出してきた
「わっ!……どう?ドキッとした?」
「生首が出てきたかと思った」
「なんだと貴様」
「やめろ、足裏をくすぐるな」
一通り悪戯を終えて満足したのか、カズサは顔だけの状態から少しずつ上半身を炬燵から出していく
当然、今潜り込んでる場所は俺の真下なのでカズサが出てきたら俺の席に座ることになる
……ほら、案の定俺の膝の上に乗ってきた────って待て、抱きつくな、両手を俺の首の後ろに回すな
「むふふー」
「随分ご機嫌だな、俺はさっさと離れてほしいけど」
「なんで?アンタが魅力的に感じてる彼女からのギューだよ?」
「だからだよ、色々持たん」
「……ふーん?本当にそういう感情あったんだ」
愛情が無いと思われているとは心外だ、そもそも好きじゃなかったら付き合ってなどいない
が、それはそれとして本当にマズイのでさっさと退いてもらおう
「早く退かんと明日のお雑煮とおせち作ってやらねーぞー」
「ええ!?それ人質にするの狡くない!?」
「狡くない……ほら、さっさと────あっ」
「どしたの?」
「……時間」
「時間?……あっ」
チラリと壁掛け時計を見ると、時刻は12時02分に
こんな馬鹿なやり取りをしていたせいで年越しカウントダウンを逃してしまった
「お前と居るとまともに年も越せないのか……まあ、偶にはこんな年越しも悪くないか」
「残念でしたー、これから一生こんな年越しになるから」
マジか、一生これか、つまり俺はこれから先ずっと〝カウントダウンがゼロになる直前にジャンプする〟ってやつをできないのか
キャスパリーグ……恐ろしい子……!
「そ、それよりさ?これで新年になったわけじゃん?」
「だな」
「じゃ、じゃあさ!その……する?」
「する?……何を?」
「……プリンセスファースト」
プリンセスファースト?なんだそりゃ
姫の一番?姫の最初?姫の……始め……ああ、なるほど
「やらんぞ、今日はそういうの無しだ」
「えっ!?なんで!?」
「俺が休みたいの」
えー!?と文句をギャーギャー言い始めるカズサを無視してみかんの皮を剥く
恋人ってのは別に性行為するだけの関係じゃないしもっと穏やかな一日を………あっ
「おい、俺のみかん勝手に食うなよ」
「ふーんだ」
「拗ねんなって、そのうち相手してやるから────あっ!?また奪いやがったな!?」
「みかんおいひー」
「ったく、それぐらい自分で────貴様ぁ!?」
「んぐんぐ」
こ、こいつ……三つも奪いやがって……あの人ですらプリンは二つまでしか食べないってのに!
もういい……こうなったら出るとこ出てやるよ……!
「カズサ、ちょっとこっち向いてくれ」
「ん?なーに────んむぅ!?」
まうすとぅまうす、俺の膝の上でみかんを食ってるカズサを振り向かせ、その口に俺の口をつけて舌を捩じ込む
そして中のみかんを全て集めるかのように舐め回す
「んっ……むゅ……♡ちょっ───んんぅ!?♡♡♡」
果汁も、あとついでに舌も絡める
さっきから人を煽ったり人の食い物を勝手に奪うような口にはお仕置きしなければ
「んぅ♡ふぅ……うっ……♡ひぅ♡ぅう────ぷはっ♡」
「ご馳走さまでしたー」
カズサの表情を確認してみるとメガトロン……じゃなくて目がとろんとしていた。化け猫退治完了、ざまあみろ
「ほら、お望み通りやらしいことしてやったぞ。これに懲りたら二度と人の食い物奪うんじゃねえぞ」
「ふぁ……ぁ……ぅ」
「次同じ事やったらもっと酷い目に遭わせてやるからな……ったく」
これで一安心……さーて、俺もみかんでも食べよっと────あれ?俺のみかんは?
手元にあった果汁爆弾が突如消失する、どこに行ったかと辺りをキョロキョロと探してみる……っておい
「お前……また……」
「………」
無言でみかんを咥えているカズサを発見した、これもう本当の意味で泥棒猫だろ
「さっき言ったこともう忘れたのか?次同じ事やったら────」
「やればいいじゃん」
「あん?」
「だ、だから……やればいいじゃん……さっきより……酷い、こと……」
膝の上で俯かれたせいで表情は見えないものの、何となくどんな事を考えているのかは分かる
コイツ、わざと奪いやがったな……仕方ない、ならばお望み通りにしてやる────なんちゃって
「じゃあいいよ、新しいみかん剥くから────ぐえっ」
「くたばれクソボケ!!!」
腹部に酷い肘打ちを食らった、俺の肉体がよわよわである事をちゃんと理解してほしい
……なんて思っていると起き上がろうとした俺の両手首がカズサの両手によって床に押し付けられる、完全に押し倒されてます本当にありがとうございました
「もういいよ、そこまで拒否するなら私が無理矢理やるから」
「待て、落ち着け、頼む、俺が悪かった、だから勘弁してくれ、お前とやると毎回腰が痛むんだこの前だって止まれって言っても止まってくれなかったし────」
「ふううぅ……ふううぅ……」
「俺が今日頑なに行為を拒んでた理由が分かるか?一昨日の腰の痛みがまだ引いてないんだよ、だから今日は本当に休ませ……分かった、分かったからせめて今日は俺を攻めにしてくれ、毎回毎回襲われっぱなしだと身体が保たな────」
「ふーっ♡ふーっ♡」
「おい聞いてんのか発情猫、俺が首元のキスマークを誤魔化すのにどれだけ苦労したか分かるか?風紀委員全員に注目されてたんだからな?少しでも俺を労る気持ちがあるなら────」
「首元見せるとかこれもう誘ってるよね♡♡♡」
「おいなにをするやめ────