クソボケのことが大大大好きな生徒達   作:あば茶

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先生が生徒より卑しいわけないだろ!いい加減にしろ!(女先生その5)

 

 

第四次恋愛大戦、その引き金を引いたのは一人の教師だった

 

生徒への想いを抑えきれず、彼女が己の感情をぶちまけるその様はキヴォトス中に流された

 

これにより先生を好いていたキヴォトス中の生徒達は先生への好意や酒泉への殺意をより滾らせ、一方で酒泉を好いている生徒達はシンプルに元々あった酒泉への湿度やらヤンデレ度をより高めていった

 

なんか酒泉だけ敵が多い気がするがそれは気のせいだろう、気のせいじゃなくても彼のクソボケムーブが悪いところもあるので自業自得だろう

 

こうして始まってしまって恋愛大戦、その日を境に二人を好いている生徒達のアプローチは過激になっていく……だけならよかったのだが、先生と酒泉が二人きりになるのを恐れた生徒達はどちらかに仕事の手伝いを頼んだりどちらかに明日遊ぼうと約束を取り付けたりしてと

 

性格的に頼まれ事を断れないであろう二人の善意を利用するのは心苦しいがそんな事は言ってられないと、二人を好いている者達はとにかく酒泉と先生が二人きりにならないようにとプライベートの時間をちょっといただきますしまくった

 

 

「こうして会うのもあの日以来だね」

 

「そっすね」

 

 

故に、この二人が直で会話するのも二週間ぶりだったりする

 

あの告白の後、狼狽しながら涙目で縋りついてくる先生に対して〝嫌な予感がするのでとりあえずここから移動しましょう〟と提案した酒泉

 

その予感は見事に的中してしまい、あの告白がキヴォトス中に流されてから数十分も経たぬ内にぞろぞろと二人を慕う生徒達が押し寄せてきた

 

嫉妬やら殺意やら絶望やらとにかく色んな感情をぶつけられまくる二人は〝これではまともに話し合いも出来ない〟と一旦別れ、後日改めて話そうという事で多くの生徒達の相手をしながら自分の家に帰っていった

 

それからは上記で述べたように中々二人だけになれる時間が取れず、二週間経って漸く一時的に監視の目を抜けて密会する事に成功していた

 

「……そっちは今どんな感じ?」

 

「最近は特に忙しいですね、あの日から問題児共の動きが活発化してろくに休みも取れませんし、風紀委員なんか俺が巡航ミサイルくらった時以上に過保護になってる気がしますし」

 

「監視されてるってこと?」

 

「はい、多分皆俺が先生の所に行かないか見張ってるんでしょうね……あの人達も先生のこと慕ってますから」

 

「いや、それは多分…………やっぱなんでもない」

 

「?」

 

 

酒泉を好いてるから、なんて言ってしまえば酒泉は自分が多くの女の子に矢印を向けられている事を自覚してしまうだろう

 

一応〝鈍感すぎて特に何も変わらないかも〟という可能性も過ったが、それでも念のため先生は口を閉ざした

 

 

「……ところで、俺達って今何処に向かってるんですか?」

 

 

道路を走る車、酒泉は助手席側から運転席の先生に話しかける

 

 

「ん?……海だけど?」

 

「海?もしかして泳ぐつもりですか?俺水着持ってきてませんけど……」

 

「あはは、酒泉と泳ぐのも楽しそうではあるけどね……でも今回は違うよ、ただ人があまり居なさそうな所で話したかっただけ」

 

「……まあ、この時間の海なら誰も泳がなさそうですしね」

 

 

ラジオ操作用の画面に表示されている20:48の文字、夏でも冬でも夜の海というのは冷たい……とは言い切れないほどキヴォトスには温暖化の波が来てしまっているか

 

それでも自分達の代で気にしなければいけないほど早期解決が求められている訳でもないし、なんなら既に一度世界滅亡の危機を回避しているので温暖化問題もキヴォトスの技術力で何とかなるだろうと酒泉は安堵した

 

……ちなみに酒泉が地球の環境問題などというクソボケの頭に似合わない事を考えているのは、先生と二人っきりである事から生じた緊張を紛らわす為である

 

 

(……先生、運転できるんだ)

 

 

大人なのだから免許を持っていても可笑しくはないし、そもそも生徒が戦車を運転できる街で今更気にする事でもないのだが

 

それでも自分が見た事の無い運転中の先生の横顔をなんとなしに見つめていると、その視線に気付いた先生がほんの一瞬だけ酒泉の方に視線を返してまた運転に集中した

 

たった一瞬目が合っただけ……にも関わらず何故か胸の鼓動が高鳴るのを感じた酒泉は自分でも意図せず目を逸らした

 

「先生ってこうしてよく生徒を乗せたりするんですか?」

 

「時々ね、基本は電車移動かなー」

 

「へー」

 

 

(……へーってなんだよ)

 

気まずさを誤魔化すが如く唐突に振った話題、その答えに対して素っ気ない反応をしてしまった事を後悔する酒泉

 

あの日からどうにも先生の存在が頭から離れない酒泉にとって今の距離感はそこそこキツいらしく、鈍感な彼にしては珍しくドキマギさせられる側に回っていた

 

 

「なんていうかさ、こんな近くで話すのって初めてだよね」

 

「───っ」

 

「ちょっと緊張する……な、なんちゃってね?」

 

「そう、ですね」

 

 

距離の近さを意識していたのは自分だけでなく先生も同じだった、その事実に驚くと同時に僅かに歓喜が勝る酒泉

 

確かによく見ればハンドルを握る手に力が籠っており、少々手汗も浮き出ている

 

酒泉の眼ならばすぐ気付けた筈の変化だが、それだけ緊張していたという事なのだろう

 

 

「気分転換にラジオでも流します?それか俺のスマホで適当に音楽でも」

 

「それもいいんだけどさ、でも今は……えっと……」

 

「……?」

 

「何も流さないで酒泉の声だけ聞いていたい、かな」

 

「……分かりました」

 

 

あの日の告白から打って変わって静かに、しかしあの日の告白と同じ様に一糸纏わぬ直情を口にする先生

 

ほんのりと頬辺りを赤く染めているのを見るに全く恥ずかしがっていない訳ではないだろうが、それでも彼女は自分を偽るのを止める選択をしたのだろう

 

 

「……あ」

 

「見えてきたね」

 

 

助手席側の窓、その奥に砂浜と広大な海が姿を現す

 

酒泉が聞いた事のない、または聞いた事はあるが大して記憶に留めてもいなかった自治区、その管理下にある海を目にした酒泉は〝こんな綺麗な場所があったのか〟と感心する

 

数千も学園があれば酒泉の把握していない場所があっても何ら不思議ではない、ここはゲームの世界ではないのだから前世で言う〝ネームド〟以外の学園だって存在するしその一つ一つに青春の物語ブルーアーカイブが刻まれている

 

 

(……当然、この人にも)

 

 

彼女は〝主人公〟ではなく〝先生〟だ、酒泉はそれを再認識する

 

前世で何度も見てきたプレイ画面、そのメッセージウィンドウには先生が誰かを好きになった心情なんて書かれてなかったし、そんなイベントストーリーだって存在していなかった

 

 

(そんな先生が、俺に恋をした)

 

 

そういうストーリー展開だからとか、そういうキャラクターだからなどではなく、自らの意思で折川酒泉という少年に告白をした

 

 

(……なら、俺も自分の意思で答えないとな)

 

 

生徒と先生だから付き合えない、子供と大人だから付き合えない、そういった道徳的事情を一切排除した自分自身の答えを

 

そんな決意を自分の中で固めていると、少しずつ車の速度がゆったりとなっていくのを身体で感じた

 

視線を前に向けるといつの間にか駐車場の入口付近まで到着しており、いよいよこの移動時間も終わりだなと酒泉は────

 

「ドライブデート、終わっちゃったね」

 

「…………帰りにもう一度ありますけどね」

 

 

いよいよこのドライブデートも終わりだなと、酒泉は心の中でそう言い直した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

「見て、月が海に浮かんでる」

 

「先生ってそんなオシャレな言い回しできたんですね」

 

「こう見えても大人だからね」

 

 

水面に映る月を眺めながら砂の上を歩く二人

 

周囲は全くの無人という訳ではないが、少し歩けば人気の無い場所が見つかりそう程度に人の数も少なかったので二人は散歩がてらそこを探す事にした

 

 

「こんな時間に生徒を連れ出すなんて、なんだか悪いことしてる気分になるね……実際あまりよろしくない事ではあるんだけどさ」

 

「気にしなくていいですよ、風紀委員会の仕事だってこの時間まで長引く事がありますから」

 

「うーん……でもやっぱり〝先生〟としては罪悪感の方が……」

 

「……だったら〝女〟として俺を呼び出したって事にすればいいでしょ」

 

「……そう、だね」

 

 

元より互いに〝男女〟として話をするつもりなのだし、と心の中で付け加える酒泉

 

あの告白を一時の気の迷いと断言できるほど酒泉は鈍感ではない、というよりあんな盛大にぶちまけられて好意に気付かない訳がない

 

酒泉が自分の想いを知っている事を改めて自覚した先生はその事実を遠ざけるが如く視線を海の向こうへ向けた

 

 

「今日は本当に良い天気だね、月もあんなにハッキリ見えるし」

 

「そうですね、雲一つかかってませんよ」

 

 

海だけでなく、空にまで

 

上下に浮かぶ二つの月が、まるで二人のこれからを映し出しているかの様に白く光っている

 

そんな情景に当てられてか、ぽろっと零れ落ちるかの様に先生があの言葉を口にする

 

 

「月が綺麗ですね」

 

一説では某小説家が言ったとか、それはただの作り話だとか、嘘か本当かはさて置いて今ではすっかり定着してしまった告白のフレーズ

 

そんな粋な言い回しを自然に吐ける程度の恋愛観を大人になってもまだ持っていた自分を意外に思いつつ、彼はきっとこの先の言葉は知らないだろうなと隣を歩く酒泉の横顔を見つめる先生

 

この先の言葉と言っても〝月が綺麗ですね〟とそれに対する〝返しの言葉〟はそれぞれ別の文脈から生まれたものなので連続性は一切無いのだが

 

それ以前に酒泉の事だし〝月が綺麗ですね〟すらそのままの意味で捉えていてもなんら不思議ではない、そう考えている先生にふと不意打ち気味に酒泉が呟いた

 

 

「死んでもいいわ……でしたっけ?」

 

「……知ってたんだ」

 

 

これまた意外といった風に少しだけ目を見開くが、それよりも自分の意図した形で言葉を受け取ってもらえた嬉しさが勝ったのか、先生は柔らかな笑みをふわりと浮かべた

 

その笑顔に恋簿の念が混じっているのは言うまでもなく、大人ながら少女の様な可憐さを醸し出す隣の女性に酒泉は照れ隠しする様に若干早口で答えた

 

 

「まあ、俺はあんまりこの言葉好きじゃないですけど」

 

「あはは、確かに〝死んでもいい〟は物騒だよね」

 

「勿論、その言葉に別の意味が込められてるのは理解してますけど……それでも受け入れ難いですね」

 

「ふーん……じゃあさ、酒泉風に例えるとするならどんな言葉がしっくりくる?」

 

「……〝俺の隣で生きてください〟とか?」

 

「直接的過ぎない?」

 

「俺にセンスを求めるのは絶望的ですよ」

 

自分の言葉選びのセンスの悪さに項垂れる酒泉、一方で〝酒泉らしいな〟と笑う先生

 

酒泉自身は〝無いな〟と思っているが、先生にとって酒泉の言葉はそこまで悪い風には聞こえなかった

 

何故なら彼女は素直になる事の大切さを、何も取り繕わず自分の本心をぶつける事の難しさを既に身をもって体験しているから

 

 

「私はいいと思うな、酒泉らしく素直で、直情的で、かっこよくて」

 

「……ありがとうございます」

 

「……」

 

「……」

 

「……な、なんか暑いね。まだまだ夏の暑さは続きそうだね」

 

「そ、そうですね……もう八月は過ぎてるってのに困ったもんですよ」

 

 

暑いのは間違いなく気温以外の理由だが、互いにそれを指摘する事はなく手で顔を扇ぐ恋愛初心者コンビ

 

既に当初の目的である人気の無い場所まで辿り着いているのだが、先生はその事に気付くことなく矢継ぎ早に波打ち際まで駆け寄った

 

 

「あ、暑いならちょっとだけ海に浸かってく?丁度良いくらいに冷たいと思うよ?」

 

「いやいや、俺も先生も水着持ってきてないじゃないですか」

 

「水着がなくても……ほら、足だけなら浸かれるよ」

 

 

靴と靴下を脱ぎ、ズボンの裾を捲ってから海に向かって小走りで駆け寄る先生

 

砂浜に足跡が付いた先からすぐ小波によってかき消されるのを見た酒泉は少々風が強い事を不安に思いながらも、先生ならそこまで遠くに行かないだろうと何も言わずその後をついていった

 

 

「うーん、もう少し冷たいもんだと思ってたけど……思ってたよりぬるま湯って感じだね」

 

「まあ、これくらいが丁度良いでしょ」

 

「そうかな……ところで酒泉、ちょっとこっち向いてくれる?」

 

「いいですけどその指で海水水鉄砲してきたら倍返しにしますからね」

 

「う゛っ……」

 

 

バレないようにと半身になって水鉄砲の構えを隠していた先生、しかしそれを見逃すほど酒泉の眼は生易しくはなく、逆に水鉄砲の構えを突きつけて先生を脅した

 

 

「なーに子供みたいな悪戯やろうとしてんですか」

 

「だ、だって……酒泉と海で遊んでみたかったから……前は私の変な意地のせいで誘えなかったし」

 

 

意地、というよりも自分から誘ってしまえば自分が生徒に恋しているのを決定付けてしまう気がして

 

そんな想いを抱えていた彼女は全てをさらけ出したあの日を得て、漸く感情の吐き出し口を自分の意思で開け閉めできるようになっていた

 

 

「だったらまた近い内に誘ってくださいよ、そん時は水着持ってきますから」

 

「え?いいの?」

 

「はい……まあ、二人っきりって訳にはいかないでしょうけど」

 

「だよね……お尋ね者だもんね、私達」

 

「言い方よ」

 

 

罪人を見張るかの如く目を光らせてくる周囲の生徒達を想起して苦笑を溢す

 

周囲からすれば唐突に脳に攻撃を受けたようなものなのだが、それを理解していない二人は〝どうしてこんな事に〟と今後も続くであろう監視体制に溜め息を吐いた

 

 

「あーあ、こうなる前にもっと早く素直になっていればな。そしたらもっと沢山二人きりで色んな所に行けたのに」

 

「いよいよ取り繕わなくなってきましたね」

 

「……じゃあ、酒泉は前の私の方がいい?」

 

「あんな酒臭い酔っ払いにキスされんのは懲り懲りなんで今のままでお願いします」

 

「その節は本当にご迷惑をお掛けしました」

「冗談っすよ」

 

 

軽く笑いながら手をひらひらと振る酒泉、仲違いになりかけた原因の事件も酒泉にとっては今では笑い話に変わっていた

 

……無論、キスをされた事自体は未だに思い返す度に悶々としてしまうほど意識しているのだが

 

 

「それより先生、ちょっとだけ風が強くなってきたんでそろそろ上がりません?このままだと先生が流されちゃいますし」

 

「先生そんなに軽くないんだけど?」

 

「じゃあ重……いたっ」

 

「そういうこと言わないの」

 

 

ぽむっ、と酒泉の頭に軽く手を乗せてその先の言葉を封じる先生

 

わざとらしくむくれた顔をしながら海から出ようと歩き────そのせいか、浅瀬の砂に埋まっていた石一つにも気付けずに素足を引っ掛けてしまう

 

 

「きゃっ……」

 

「っと……大丈夫ですか?」

 

「あ、うん……ありがと」

 

 

そのまま前のめりに倒れて見事な人型のシルエットが砂浜に出来上がる、そんな未来が訪れるかと思いきや直前で酒泉が先生の片腕を引っ張って抱き寄せる

 

これで一安心───ではない

 

ガッチリとした手が、服越しからでも感じられる鍛えられた身体が、今にも理性を溶かしてしまいそうな体温が、ダイレクトに先生の身体に伝わってくる

 

これなら水浸しになっていた方がまだ冷静でいられたかもしれない、そんな歓喜と後悔が混じった複雑な感情を落ち着かせながら先生は酒泉の胸元から離れた

 

 

「大丈夫ですか?一人で歩けます?」

 

「大丈夫だって、私そんなよわよわじゃないから」

 

 

足早に歩き、口早に返し、今度こそ浅瀬から出ようとする

 

単に肌寒くなってきたからか、それとも今の自分の顔を見られたくないからか、先生は足下すら見ずにそそくさと───

 

「あっ」

 

「え?」

 

 

────ふざけんなクソが、先生は心の中で口汚く不法投棄者を罵った

 

またもや浅瀬に仕掛けられた地雷、しかも今度は牛乳瓶

 

こんな綺麗な海にもゴミが捨てられているのか、こんな綺麗な海を汚すことに何の躊躇いもないのか、地球を汚す愚かなアースノイドへの怒りを滾らせる先生

 

しかし怒りに囚われたところで自分が今から後ろにスッ転ぶ未来が変わる訳でもなく、今度こそびしょ濡れになる結末を覚悟したところで────後ろに酒泉も立っていた事を思い出す

 

このままでは酒泉が巻き添えに、そんな思いから中途半端に振り向こうとしてしまい、酒泉を退かそうとしたその手で逆に海面に突き飛ばしてしまう形になってしまう

 

大人しく後ろに倒れていれば酒泉が支えてくれたかもしれないというのにその道を自ら断った先生、彼女は手で酒泉の顔を押し潰さないように咄嗟に軌道を変える程度の抵抗しかできなかった

 

 

海面に衝突する背中、宙を舞う水飛沫、びしょ濡れになる酒泉

 

酒泉に激突する先生、宙を舞う水飛沫、びしょ濡れになる酒泉(二度目)と先生

 

二段構えの攻撃を食らわされた酒泉は心底冷静に、そして呆れたように呟いた

 

 

「確かに先生はよわよわじゃなかったですね、クソザコ先生」

 

「ひぃん……」

 

 

〝言わんこっちゃない〟とジト目を教え子に向けられ、情けない鳴き声をあげながら涙目になる先生

 

両手を地につけて酒泉に密着していた身体を浮かせ、そのまま酒泉の上から退こうとしたところで────身体が硬直する

 

 

「……」

 

「……」

 

 

そして酒泉も同じく硬直、二人の視線は互いの身体に向けられていた

 

濡れた服、透けて見える肉体、特に酒泉の場合はその眼の良さが仇となり、目の前の女性の身体だけでなく下着の色までくっきりと映ってしまっている

 

一方で先生の方も無事という訳ではなく、彼女は酒泉を押し倒した体勢のまま濡れた服越しに目の前の少年の身体に瞳を奪われていた

 

辛うじて理性の残っていた酒泉から〝先生〟と呼び掛けてみるも反応がなかった為、酒泉は未だ自分に覆い被さっている先生を抱き締めながらゆったりと上体を起こした

 

 

「……ぁ」

 

ふと声が溢れる、先に声を出したのは先生からだった

 

浅瀬に座ったままの二人の視線が合い、引かれ合うかの様に二人の顔が近づく

 

先程までの会話は何処へやら、無言のまま優しく抱き合っている二人。様子がおかしいのは月の光に当てられてか、それとも夜風に当てられてか、どちらにせよこの光景を誰にも目撃されていないのは幸いと言えるだろう

こんな光景────どちらかが顔一個分距離を近付けるで口同士が触れ合ってしまう光景など、間違いなく余計な火種になるだけなのだから

 

それを知らずに徐々に徐々にと顔を近付ける二人、知っていたとしても互いに止まる気などなかったのかもしれないが

 

 

「酒泉」

 

 

唇同士が触れ合うまであと数センチ、そんなところで先生が無意識に酒泉の名を呟き、そこで漸く二人は自分達の身体が勝手に動いていたのを自覚する

 

締め付けられる胸、微かに聴こえる自分の心音、ごくりと鳴らす喉、今すぐ逃げ出したくなる程の緊張感

 

しかし〝今日はただ遊びにきただけではない〟とそれらを全てその身で感じながら先生は言葉を綴った

 

「私ね、酒泉が好き」

 

 

やけくそ気味に叫んだあの日と違い、自分自身にも再確認させる様に呟く

 

 

「あの時の告白、酒泉からすれば唐突だったと思うけど私にとってはずっと隠してきた本心なの」

 

「……それは分かってますよ、あの時聞かされましたから」

 

「うん、その上で〝もう一度伝えないと〟って思ったんだ……私の気持ちを、今度は落ち着いて話ができる場所で」

 

濡れた身体に当たる夜風、過剰すぎるくらいに涼んでも未だ収まらぬ熱を抱えたまま、先生は酒泉の眼を真っ直ぐ捉えた

 

 

「私は今までずっと酒泉を避けてきたし、話しかけられても素っ気ない対応をしてきた女だけど」

 

「大人の癖に今日まで恋愛なんかした事ないし、デートとかで酒泉をリードしてあげられるか分かんないけど」

 

「なんならまだまだ子供っぽいところもあるし、生徒達に助けられてばかりな駄目な大人だけど」

 

「酒泉がおじいちゃんになるより先におばあちゃんになっちゃうし、間違いなく先に身体が老化していくけど」

 

「生徒達ほど可愛くはないし、生徒達ほど若くもないし、生徒達ほどスタイルが良いわけでもないけど」

 

「……リ、リオとかサオリとかミカみたいに……む、胸が大きい訳じゃないし……ヒナみたいに酒泉好みの小さい身体してる訳でもないけど……それでも────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私の隣で生きてください」

 

 

同じ相手に対する二度目の告白、それでも少しも慣れた様子を見せない心臓の鼓動が先生を苦しめる

 

それでも酒泉の眼を見続ける、恥ずかしくても、苦しくても、もう逃げないと自分自身に誓ったのだから

 

自分の気持ちを受け止めてもらえた場合への期待と自分の気持ちを拒絶された場合への不安、その二つの思いから〝この時間が早く終わりますように〟と願う先生

 

そうして待ち続けて一秒、十秒、一分、何を言うべきか定まったのか、酒泉もまた先生の眼から逃げずに答えを口にした

 

「ごめんなさい」

 

「────」

 

 

ごめんなさい、つまりは〝貴女の好意を受け入れてあげることはできない〟ということ

 

酒泉の言葉をそう解釈した先生は自分の口が勝手に未練がましい事を言ってしまう前に〝そっか〟とだけ返し、涙がこみ上げてくる前に話を終わらせようした

 

 

「今すぐには……決められません」

 

しかし間髪入れず出てきた酒泉の言葉を聞き、それが早計であったと知った

 

「前のお見合いの時にも似たような事言いましたけど、俺はまだ結婚できる年齢にすら達していません。それまでに好きな人ができるかもしれませんし、急に独身貴族的な思考になって結婚自体しない可能性だってあります」

 

「だ、だよねー……」

 

 

早とちりで泣きかけた事を気取られないように笑いながら頷く先生、酒泉は当然その事にも気付いていたが、本人が触れてほしくないのならと話を続ける

 

 

「……先生、俺が先生にお見合いの話をした時に興味なさそうな態度してたじゃないですか」

 

「う、うん……やっぱりまだ怒ってる……?」

 

「そうじゃなくて……その、あの時は間違いなく怒っていたんですけど……でも、冷静に思い返してみればあの時の怒りの理由って〝なんでキスしてくれたのにそんな無関心なんだ〟とか〝少しぐらい興味を持ってほしい〟とか、そんな感じの理由ばっかだったんですよね」

 

「……え?」

 

「急に酔っ払った先生にキスされた時も酒臭いとか色々思うことはありましたけど嫌悪感だけは一切ありませんでしたし、告白された時も普通に嬉しかったです……だから……えっと……そ、その……お、俺も……先生のこと、自分で気付いてないだけで……結構……好き、かも……って」

 

徐々に声の覇気を失くしていき、最終的に照れ臭そうにしながらしどろもどろに言葉を綴る酒泉

 

それでも堂々と自分の気持ちを伝えてくれた先生に応えるべく、詰まりそうになる喉を飲み込んで自分の決意を表明した

 

 

「正直、俺はまだ自分の気持ちが理解できていません。俺が風紀委員の皆に向ける〝大好き〟と先生に向ける〝大好き〟にどんな違いがあるのかも、俺が先生に抱いているのが恋なのかも……」

 

「答えを出すつもりはあります、でもいつ解決するかも分からない悩みで先生を待たせ続けるのは嫌なんです。だから……もし卒業までに答えを見つけられたとして、俺の気持ちが先生への恋慕だったのなら、先生がまだ俺の事を好きでいてくれたのなら、その時は────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────俺の方から、告白させてください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……本当に、いいの?」

 

 

頭を下げる酒泉に対して恐る恐る尋ねる先生

 

その声の震えは答えを先延ばしにされた事への怒りではなく、時間を掛けてでも自分に向き合うと約束してくれた事への歓喜と感謝だった

 

 

「そんなこと言っちゃって本当にいいの?わ、私……本当に待っちゃうよ?勝手に期待して、勝手に喜んじゃうよ?」

 

「そ、それはまだ判断が早いかと……」

 

「……酒泉のことずっと好きでいられるだろうし私から告白を断る事は絶対無いと思うけど……わ、わたしのこと好きだったら本当に告白しないと駄目だからね?後から〝やっぱやめた〟はナシだからね?」

 

「それだけはしません、自分の感情が何にせよ絶対に先生には伝えにいきますから」

 

 

想いは伝わったが結ばれた訳ではない、それでも彼女にとっては〝今は〟それで構わなかった

 

未だ〝先生と生徒〟という関係は変わっていないが、それでも〝女〟としての自分の心を酒泉の中に残せたのだから

 

 

「そ、卒業するまでずっとアピールしちゃうかもしれないよ?ちょっとでも好きになってもらうためにーって、沢山シャーレの当番に呼んじゃうかもよ?」

 

「……まあ、生徒達の監視の目を潜り抜けられるなら好きにしていいですよ」

 

「ほ、ほんとう?じゃ……じゃあさじゃあさっ、今度隙を見て二人で特撮映画を────へくちっ」

 

「あ……」

 

 

風が少しだけ強まると同時にくしゃみをする先生、それを見て酒泉は〝そういえば濡れたままだったな〟と自分達の状態を思い出す

 

気温や体温の変化に気付かないくらい自分達だけの世界に没入していたという事実に触れる間もなく、酒泉は先生の手を引っ張って立ち上がらせた

 

 

「大丈夫ですか?……ちょっと長話しすぎましたね、すみません」

 

「ううん、元はと言えば私が転んだのが原因だから……くしゅん!」

 

「……早いところ戻りましょう、帰りの運転は俺がしますよ」

 

 

ついでに車内に置いてきた上着も着せてあげようと気遣おうとする酒泉

 

濡れ透けで色々とマズイ状態の先生が自分の上着を羽織っている光景を想像して酒泉は何故か一瞬くらっとしたが、ただの立ち眩みだと自分に言い聞かせながら────

 

 

「ん?先生、どうかしたんですか?」

 

「いやぁ……そのぉ……」

 

 

足を止めて振り返り、一向に帰る素振りを見せない先生に首を傾げる酒泉

 

彼女は両手で自分の身体を抱きしめ、透けた部分……主に胸部を隠して縮こまっていた

 

 

「人が少ないとはいえ、誰にも会わずに駐車場までいけるかなって……」

 

「……あー」

 

 

その光景は、つい最近ほんの少しだけ乙女心に敏感になったクソボケには刺激的すぎた

 

一部の生徒の様に〝デッッッッカ〟という程ではないが、眼が良くなくとも確実に膨らみを認識できるくらいの程良いサイズが、それを覆う薄ピンクの下着から察せられる

 

ただの男子高校生では到底耐えられそうにないその姿、しかし酒泉は〝今先生は真剣に困っているんだ〟と両頬を叩いて煩悩を滅却させる

 

 

「……先生、ちょっとこっち来てくれません?」

 

「な……なに?しゅせ────」

 

 

あんな大胆な告白をした先生も素肌を見られるのは流石に話が違うのか、今更恥じらいながら歩み寄る先生

 

〝こんな姿見られたくない〟という思いと〝でも酒泉には意識してほしい〟という矛盾した思いを抱えながら歩み寄ると、酒泉は先生を────正面から両手で抱きしめた

 

 

「……あ……え……?」

 

「……こうすれば前は隠せますよ」

 

「ぁ……ぅあ……」

 

 

身体同士の密着ならば先程味わった、しかし今回のはそれ以上だった

 

心音も熱も何もかもが段違い、言語能力を奪ってしまう程に高すぎる火力を前に、先生は頭から爪先まで全身の力が抜け落ちていく

 

大人である自分が、先生である自分が、年下の男の子に、生徒に包まれて情けない姿を晒してしまっている

 

そんな己を恥じる余裕すら残っていない先生は身体に残った力を自らの意思で全て手放し、ぽすんと酒泉にもたれかかりながら小さく呟いた

 

 

「よ……よろしくおねがい……します……」

 

 

最後辺りはすぐ側にいる酒泉ですら聞こえるか聞こえないかの声量で酒泉に全てを預ける先生

 

そんな小さき大人を前に彼は思った

 

 

(なんだこの大人くそかわいいなおい)

 

 

案外、彼が答えを出す日は近いのかもしれない






幼馴染ミヨ「バチが当たったんですよ、私を置いて他の学園に行くから」

無自覚依存スバル「…………結局、貴方もここを出ようとするんですね」

ちびシロコ「ん、リスポーン地点間違えてゲヘナで拾われた」

トキ「他の女性を構いすぎです、迅速に褒めて構って甘やかして愛してナデナデしてください」

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