クソボケのことが大大大好きな生徒達   作:あば茶

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本編も番外も全く投稿できず申し訳ございませんでした

50周年を迎えた例の大型コミックイベントも終了したところで、また執筆活動の方に力を入れていきたいと思います

あ、ちなみに欲しかった本は全部買えました


ずっと主人公を探し求めていた幼馴染、彼女にとっての主人公とは俺でした~今更自覚してももう遅い(白目)~(ミヨその3)

 

 

 

「……ミヨ?」

 

「おはよう、酒泉君」

 

「おう、おはよう……って」

 

 

朧気な意識のまま目蓋を開ければ、見慣れた顔が目の前に

 

覗き込むように俺の顔を眺めていたせいか、彼女のふわっとした髪の毛が頬にかかってこそばゆい

 

 

「……いや、近いって」

 

「そうかな?昔はこれくらいの距離感が普通だったよ?」

 

「だからそれは昔の話であって……」

 

 

ピッタリ肩をくっつけて座ってたのは幼い頃の話、あの頃は〝まあ、これぐらいの年頃の女の子なら〟と距離感の近さにも納得していた

 

しかし今は話が違う、昔から可愛かったミヨだが年月が経つにつれて端麗さにも磨きが掛かっていき、今ではすっかり子供としての可愛さも大人に近い美しさも併せ持つ完璧な美少女へと進化していた

 

それに伴って身体の方も年頃の少女らしく成長しており、そんな彼女に距離感バグられると……その、非常にマズイ

 

 

「……ていうか、もしかして今膝枕されてる?」

 

「うん」

 

「ああ、道理で後頭部が柔らかいと思った」

 

「もう……それセクハラだからね?他の子には言っちゃ駄目だよ?」

 

 

人差し指を俺の口に当てながら〝めっ〟と叱ってくるミヨ、 しかしながら膝枕を辞める様子はない

 

仕方ないので自ら降りようと身動ぎしようとし────直後、身体の自由が利かない事に気付く

 

両手と両足の圧迫感……さてはこれ……

 

 

「────え?縛られてる?」

 

 

俺の両手がクロスした状態で縄で縛られており、足もシンプルにぐるぐる巻きにされていた

 

待て待て待て待て待て待て待て、何が起きた?俺は確かさっきまでカフェで甘いもん食ってて、そしたらじわじわと眠くなってきてそれで……いや、よく見たら周囲の背景も変わってるな

 

小洒落た内装の店から廃れた工場の様な場所へ、真っ暗な空間には幾つかボロボロのコンテナが設置されている

 

もしや俺を恨んでいる奴に連れ去られたか?ミヨもそれに巻き込まれてしまったとか……あれ?でもミヨは縛られてないし……

 

……まさか、な

 

「なあミヨ、俺って今縛られてるよな」

 

「うん」

 

「で、お前は縛られてないよな」

 

「うん」

 

「…………もしかして俺縛ってここに連れてきたのお前?」

 

「……うん」

 

「……はは、そっか」

 

 

そっかぁ……いやーよかったよかった、ミヨを何かの事件に巻き込んでしまったとかではなくて

 

俺一人が狙われるだけならまだ許容できるが、俺の周りの人達を狙うような輩が現れたのなら此方も本気で対処しないといけなくなるからな

 

……にしても、随分物騒な悪戯を仕掛けてきたな。そんなに転校の話を断ったのが癇に触ったのか?それにしたってやり過ぎな気もするが

 

 

「まあいいや……ミヨ、とりあえずこの縄解いてくれ」

 

「やだ」

 

「……ん?」

 

 

聞き間違いか?ならもう一度……

 

 

「ミヨ、この縄を解いてくれ」

 

「やだ」

 

 

聞き間違いじゃなかった

 

どことなく子供っぽい言い方で、ミヨは俺の頼みを自らの意思でハッキリと断った

 

表情は依然変わらぬ笑みのまま、だというのに少しずつ〝圧〟の様なものが高まっているのを感じるのは気のせいだろうか

 

 

「ねえ、酒泉君。私ね、ちょっとだけ怒ってるんだ」

 

「怒ってる?……やっぱ、転校の話を断った事にか?」

 

「それもあるけど……でも、それ以上に嘘を吐かれた事に対してかな」

 

 

嘘を吐かれた?……卒業したらワイルドハントに行くと言っておきながらゲヘナに行った事か

 

何年も前の出来事とはいえ、あの時のたった一度の過ちが今もミヨの中で煮えているのだとしたら俺はどう償えば────

 

 

「酒泉君、本当はゲヘナに好きな人がいるんでしょ?」

 

「……ゑ?」

 

 

────しかし、ミヨはそんな俺の予想を裏切るように言葉を続けた

 

……〝本当は〟だと?さっきの話の続きって事か?ミヨは俺がゲヘナに行った事に怒っていた訳じゃないのか?

 

「えっと……ミヨ、さっきも言ったけど俺は恋愛的な意味で好きな人なんてまだ一人もいないからな?」

 

「まだ言うの?もう嘘吐かなくてもいいのに……酒泉君の隠してる事なんて私にはお見通しなんだから」

 

「いや、嘘とかじゃなくて────」

 

「────だって、好きでもない人とあんな約束を交わすなんて、それこそ有り得ないんだから」

 

 

俺の言葉を遮り、感情を失くしたかの様な静かな声色でミヨが呟く

 

〝あんな約束〟……それはつまり、俺がミヨ以外の誰かと交わした約束であり、それを知ったミヨは俺がその人の事が好きなのだと勘違いをして────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当は好きなんだよね?ゲヘナ学園の風紀委員長が……空崎ヒナさんの事が」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………ん?

 

 

「好きな人に〝ゲヘナで支えてほしい〟なんて頼まれちゃったら断れないに決まってるよね、だから私に嘘を吐いてまでゲヘナに行ったんでしょ?」

 

「……待て」

 

「私との約束が先だったのに後から出会った人との約束を優先するなんて」

 

「待て」

 

「でも、そんな嘘つき酒泉君が相手でもいきなりこんな事するのは可哀想かなーって……だからね?私、最後のチャンスをあげたんだよ?ワイルドハントに来てくれたら、好きな人が居るって正直に教えてくれたらって……二回も、二回もあげたんだよ?」

 

「待ってくれ、話を」

 

「嘘つき」

 

 

俺の言葉を遮りながら話を進めるミヨ

 

光のないその瞳は全てを吸い込んでしまいそうなほど真っ黒で、目が合っただけで身体の全てを支配されたかの様に動けなくされてしまった

 

逆らうとマズイ、全身の細胞の隅々まで彼女に屈服していくのが本能で分かる

 

……いや、というかミヨはどうやって俺と空崎さんの約束を知って────今更か、どうせアウトロー寄りな手段を使って調べたんだろうな、それも無自覚に

 

「私の方が先に酒泉君と出会ったのに」

 

「私の方が先に約束してたのに」

 

「私の方が酒泉君のことを理解してるのに」

 

「嘘つき、嘘つき、嘘つき、うそつき、ウソつき、嘘つき、うそつき、うそつきうそつきうそつきうそつきうそつきうそつき」

 

 

取りつく島もないとはこの事か、一方的に非難され続けるも様子のおかしいミヨを前にして言い訳の一つも出てこなくなってしまう

 

俺は既に大切な約束を一つ破ってしまっている、故にミヨの中で俺への疑心が深まっていても何もおかしくない

 

勿論、俺は彼女と交わした約束を忘れた事は一度足りともない……約束を覚えていながら破るなんてもっと最低だけどな

 

それでも俺はエデン条約編に関わって空崎さんや先生を助けたかったし、ミヨをゲヘナ学園に通わせて争い事に巻き込ませたくもなかった

 

だから、ミヨを置いて一人でゲヘナに行く選択をしたのも後悔は────

 

「……うそつき」

 

 

瞬間、身体に掛けられていた圧が感じられなくなる

 

重りを乗せられていたかの様に固まっていた身体は一瞬で軽くなり、直前まで感じていた寒気や恐怖も一気に引っ込められた

 

駄目押しのように呟かれた最後の一言、その一言だけは声が他のどの言葉とも違って悲しそうに震えていた

 

 

「きっと酒泉君にとって私はそこまで大した存在じゃないんだよね、だから平気で嘘を吐けるんでしょ?」

 

「あの時もこうして嘘吐いて、一人で危ない学園に行っちゃって……案の定、私の知らないところで大怪我して死にかけて」

 

「後からそれを知らされる私の気持ちなんてどうでもいいんでしょ?だって、酒泉君にとっては私なんかより風紀委員長さんの気持ちの方が大事なんだもんね」

 

「……だから、私との約束なんて────」「〝私の主人公が現れなかったらその時は私をヒロインにしてね〟だろ?」

 

「……え?」

 

「覚えてるよ、ずっと」

 

 

ミヨの痛ましい姿、それを作り出した原因が自分にあると突きつけられると自分でも驚く程に自然と言葉を出すことができた

 

俺の吐いた嘘のせいでミヨはずっと苦しんできたというのに何を呑気に怯えていたのか、今は彼女の疑心を解いてあげるのが最優先じゃないのか嘘吐き野郎折川酒泉

 

 

「ミヨ、先ず一つ言っておく事がある……俺に好きな人はいない」

 

「……だから、その嘘はもう……」

 

「嘘じゃない、本当だ」

 

 

今度は此方から被せるように言葉を出すと、ミヨはどこかムッとしたように眉を寄せた

 

 

「ミヨ、お前はアイドルを好きになった事があるか?」

 

「無い……けど」

 

「そうか……じゃあ、これは例え話だけどミヨはアイドルにキャーキャー言ってる奴は全員アイドルにガチ恋してると思うか?」

 

「……全員は無いんじゃないかな、中にはただの〝推し〟ってだけの人もいるだろうし」

 

「そうだ、それと同じで〝好き〟にも色んな種類があるんだ。恋愛的な意味だったり、尊敬的な意味だったり、それこそ今言ったアイドルを〝推し〟と呼ぶ〝好き〟だったり」

 

 

俺が空崎さんに抱いている感情も同じだ、空崎さんの命令なら何でも聞いてしまいたくなるくらいには空崎さんの事が〝好き〟だが、これが恋愛感情かと言われると疑問符が付くだろう

 

どちらかと言えば尊敬や憧れといった念の〝好き〟が大きい……と、自分ではそう思っている

 

無論、今後そういった感情が湧いてくる可能性も有り得るだろうが

 

 

「……じゃあ、酒泉君は風紀委員長さんの事は好きじゃないの?」

 

「好きだよ、好きだけど少なくとも男女のあれこれではない」

 

「……でも」

 

「まだ信じられないか?……お前との約束を覚えてたってのに」

 

「っ」

 

 

その約束を守る為に俺はずっと独り身を突き通してきたんだぞ!……単に告白された事が無いだけだけどなぁ!!!

 

別に嘘は言ってない、約束を覚えていたのは事実なのだから

 

……まあ、つまりだ。仮に誰かに告白されたとしても俺はミヨとの約束がある限りその告白を受け入れる事はないって伝えたい訳だ

 

 

「じゃ、じゃあ……酒泉君はずっと私との約束を守って……?」

 

「そうだよ、お陰で未だに嫁さんも貰えん」

 

「その年齢でお嫁さんは早くない?……でも、よかった」

 

 

どこぞの人身御供の家系のグラサンみたいな台詞を呟くとミヨは困惑した顔で首を傾げ、その後瞳から少しずつ溢れそうになっていた涙を腕で拭った

 

……因みに〝嫁さんも貰えん〟と言ってはいるものの、そもそも告白された事すらないのがこの俺折川酒泉という男である

 

 

「ね、ねえ……酒泉君?」

 

 

ミヨの誤解を解けた事に安堵して溜め息を吐いていると、ミヨが手元をもじもじしさせながら名前を呼んできた

 

何故かその頬は若干赤く染まっており、表情の方は本人が俯いている為にハッキリと確認する事ができなかった

 

 

「その……私との約束をずっと覚えてくれてたって事はさ……酒泉君もずっと〝そのつもりだった〟って事でいいん……だよ、ね……?」

 

「そのつもり……ああ、そういう事か」

 

 

ここまでハッキリと訪ねられて〝何の事だ?〟と答えるほど俺は鈍感ではない

 

 

「大丈夫だって、あの日の約束はずっと覚えているよ。だからこそ未だに恋人だって作ってないんだからな」

 

「そ、それじゃあ────」

 

「だからお前も早めに〝主人公様〟を見つけてくれよ?ミヨ」

 

「………………ほぇ?」

 

 

なんだその間の抜けたような声は、お前が昔自分で言ってたんじゃないか……〝他にヒロインを作るな〟って

 

 

「えっ……あ、あの……酒泉君……?」

 

「お前がさっさと主人公様見つけてくれないと俺がかわい子ちゃんに告白されてもOK出せないんだからなー?」

 

「い、いや……私は……」

 

「それにしてもミヨ……お前、そんなに俺に先越されたくなかったのか。昔っからお姉ちゃんぶろうとしてくる事が多かったけど、まさか恋愛面でもそれが発揮されるなんてな……」

 

 

自分の周囲で結婚ラッシュが起きて焦り倒す……なんて年齢には程遠いとは思うが

 

まあ、そこは単純に年下である俺にマウントを取られたくなかったみたいな意地だろうな

 

 

「まっ、そういう事で……少なくともミヨを置いて先に恋人を作るなんて事は絶対しないから安心してくれよ」

 

「…………」

 

「あ、でもミヨが一生独身だと俺も一生独身のままだからな?それだけは勘弁な!なんつって!」

 

「…………」

 

「……そうだ!もし良ければ俺が〝主人公〟を紹介してやろうか?きっとミヨも好きになれると思うぞ?」

 

 

なんならガチの主人公だしなその人、俺みたいなモブと違ってこの世界からのお墨付きだ

 

唯一気掛かりなのはあの人の周りに大勢のヒロインが居る事だけど……まあ、ミヨぐらい魅力的な女の子ならヒロインレースも勝ち残れるだろう

 

時折アウトローを醸し出すところにさえ目を瞑れば、誰もが三度も振り向くレベルの美少女にしか見えないのだから

 

「勝手に個人番号教えるとかはできないけど、本人から許可を取れば……あっ、でもこの状態だと何も出来ないな」

 

「…………」

 

「ミヨ、一先ずこの縄を────いたぁっ!?」

 

ほどいてくれ

 

その言葉を最後まで言い切る事はなく、途中から苦悶の声へと変化した

 

突然痛みが走った後頭部を涙目で押さえる、原因はミヨが急に立ち上がって膝枕をやめたからだろう

 

〝もう少し丁寧に頭を降ろしてくれ〟という恨みを込めてジト目でミヨを睨むも、ミヨは何も答えず無言のまま俺の腹部に乗っかってきた

 

その行動を疑問に思いながら視線を合わせるとあら不思議、輝きを取り戻しかけていた目のハイライトが再び死んでいるではありませんか

 

更には雰囲気まで心なしかさっきより恐ろしくなってるような……今のミヨに冗談でも〝重いから退いてくれ〟なんて言えば間違いなく三度目の転生を味わう事になるだろう(実際には重くはないが)

 

 

「あ、あの……ミヨさん……?」

 

「……」

 

「ミ……ミヨ姉ちゃん!」

 

「酒泉君」

 

 

意を決して呼び方を昔に戻してみると漸く反応をくれたミヨ、しかし此方が何か言う前にミヨは圧殺するかの様に言葉を被せてきた

 

 

「もしかして、私が昔言った言葉の意味をずっと勘違いしてたの?」

 

「か、勘違いも何も……昔ミヨが自分で言ったんだろ?〝この本に出てくるヒロインみたいになりたい〟って、だからその願いを叶えようと主人公に相応しい人を紹介しようと」

 

「自分がその主人公になろうとは思わなかったの?」

 

「俺が?……ははっ、まさかまさか」

 

「……そっか」

 

 

俺なんてよくて主人公のクラスメイトFくらいのポジションだって、ミヨみたいな美少女には釣り合わないだろうよ

 

にしても驚いたな、まさかミヨにもそんな冗談が言えるなんて……ワイルドハントで爽快な仲間達に囲まれてる影響だろうか

 

 

「じゃあ、私が遠回しにアピールしてる可能性も全く考えてなかったんだね」

 

「アピール?」

 

「うん、私が酒泉君に────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────〝貴方のヒロインになりたい〟って遠回しに言ってた事も」

 

 

 

 

 

 

……………………ひょ?

 

 

「えっと……貴方のヒロインになりたい?〝主人公が見つからなかったらヒロインにしてくれ〟じゃなくて?」

 

「うん」

 

冷めた表情を一切崩す事なく平然と答えるミヨ

 

彼女は自分が言ってる言葉の意味を理解しているのだろうか、その言い方だとまるで……は、初めから俺のヒロインになる事が目的の様な……

 

 

「……えっと、冗談だろ?」

 

「ううん、本当」

 

「……お前が俺のヒロインに?」

 

「うん」

 

「〝そういう可能性もあるかもねー〟的な……からかい上手の桜井さん展開じゃなくて?」

 

「……うん」

 

 

今の問答は流石に恥ずかしかったのか少しだけ顔の赤みを取り戻すミヨ

 

一方で俺は痛む後頭部に手を当てながら恐る恐る訊ねた

 

 

「………………い」

 

「?」

 

「いつから……?」

 

「あの約束をするずっと前から」

 

 

なんてこったい、それじゃあつまりミヨにとってのあの約束は〝行き遅れそうになったらその前に貰ってくれ〟的な保険じゃなくて〝貴方が好きです〟というめちゃくちゃド直球な告白だったのか

 

そして俺はそれに気付かず他の男性を紹介しようとした俺が一番嫌いな鈍感系ラノベ主人公というポジションだったのか

 

 

「え……いや……待てって……冗談だろ……?」

 

「冗談であってほしいの?」

 

「そういう訳じゃ……でも……」

 

「…………迷惑、だった?」

 

「っ、んなわけあるか!!!」

 

 

それだけは絶対にない

 

先程も言ったがミヨは美少女だ、それこそ〝ブルーアーカイブ〟というゲームに先生のネームドヒロインとして登場していてもおかしくないくらいには可愛いだろう

 

内面だって……まあ、暴走する時もそこそこあるけど平時は穏やかで物静かな文学少女だ

 

そんな相手に告白されて迷惑な筈がない、むしろ土下座して感謝するべきだろう

 

ただ……ミヨとはずっと幼馴染として接してきたから今更その関係性が変化するのは戸惑うというか………正直、怖い

 

(……いや、それは駄目だろ)

 

 

さっきのミヨを思い出せ、不安に覆われて取り乱してしまってミヨの姿を

 

俺なんかよりミヨの方が不安で怖くて堪らなかった筈だ、鈍感で察しの悪い俺に対する怒りだってあって筈だ、ミヨは俺なんかより何倍もの負の感情を抱えて生きてきたんだ

 

先が視えない不安に駆られようと、返答次第で今の関係性が変わろうと、ここで逃げるのは〝男〟じゃな「まあ、迷惑だったとしてももう関係無いんだけどね」…………へ?

 

 

「酒泉君が私をどう思っていようと私は酒泉君の事がずっと好きだったしずっと酒泉君の事が欲しかったから」

 

「ミ、ミヨ様?それは非常に喜ばしいお言葉なのですが……告白するにしては少々笑顔に圧が込められているような……」

 

「だから……もう、いいよね?私、十分に我慢したよね?まだ誰とも付き合ってないなら、誰かにバレる前に密輸しちゃっても平気だよね?」

 

「それ密輸じゃないです!人間の場合はただの拉致ですミヨ様!」

 

「好きな人が居るっていうのは誤解だったけど、酒泉君がずっと私の気持ちを勘違いしてたっていうのは事実だし、それに私を置いてゲヘナに行ったのも事実だから」

 

「ミヨ様!どうして私めのズボンに手を掛けているのですかミヨ様!」

 

「だから、これは────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────罰が当たったと思って……諦めてね?」

 

「人が人に罰を与えるなどと────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────〝今年この本がすごい!〟小説部門、大賞受賞おめでとうございます!桜井先生!」

 

「ありがとうございます」

 

 

大量のカメラにフラッシュを炊かれる中、一人の少女が機械人のレポーターにマイクを向けられる

 

すると少女は場馴れしていないのか、照れ臭そうに頬をかきながらマイクに顔を近づけた

 

 

「いやぁ、まさか学生というお若いご身分でありながら受賞されるとは……しかもデビューから一作目でいきなり!これは御自分でも驚かれたのではありませんか?」

 

「そう、ですね……私自身、まさかここまで反響が広がるなんて思ってもみませんでした。恋愛小説というジャンルは膨大な数世に発行されていますが、そんな中で有名作家の方の本ではなく新人作家である私が書いた本を手に取ってくださった皆様には感謝しかありません」

 

 

カメラに向けて頭を下げる少女、その手には少女が執筆したであろう一冊の小説が

 

表紙には〝罰当たりな君へ〟というタイトルと共に涙を流している長髪の少女の絵が書かれていた

 

 

「それにしても桜井先生!ぶっちゃけてしまいますけどデビュー作なのにいきなり挑戦的な作品を書きましたねー、あまりにも生々しい描写の多さに〝桜井先生の実体験なのでは?〟という声も多いですが……もしや?」

 

「あはは……そんなまさか、あんな事はフィクションの中だけの話ですよ」

 

「ですよねー!」

 

 

馴れ馴れしいレポーターにも特に嫌な顔をする事もなく淡々と答える少女、その作り笑いは余程眼の良い者でもなければそう簡単には見破れない程に完成度が高かった

 

……余談だが〝桜井先生の実体験なのでは?〟と噂されている小説のシーンというのは、あまりにもクソボケすぎる主人公に業を煮やしたヒロインが薬を盛ってそのまま……というのを仄めかしたシーンの事である

 

勿論、直接的な描写が描かれた訳ではない……が、そのせいで未だに読者の間で〝主人公とヒロインはヤったヤってない論争〟が続いてしまっている

 

 

「ですがそんなフィクションにも多くの共感が寄せられているみたいですよ?〝私の部下もクソボケなので今度この小説に書かれていた方法で詰め寄ってみます〟とか〝釣った魚に餌を与えない飼い主にはこれくらい当然〟とか!」

 

「そうですね……もしかしたら読者層的には好きな人からの対応にやきもきしてる女性の方が多いのかもしれませんね」

 

「では桜井先生!そんな恋に苦戦している皆様に一言助言を!」

 

「えっと……では、先ずは女性の皆様に」

 

 

急な無茶振りを振るレポーター、しかし少女は焦る事もなく差し出されたマイクを受け取りゆったりと口を開いた

 

 

「想いを口にするというのは勇気が必要な行為です、〝好き〟の二文字を言うだけでも心臓が爆発してしまいそうな程苦しくなってしまうでしょう」

 

「それなら、そのまま心臓を爆発させちゃえばいいんです。心臓を爆発させて、殻を破って、そのまま自分の中に秘められていた想いをさらけ出して相手に見せつけてあげればいいんです」

 

 

〝おおー〟という歓声と共に拍手がなる会場

 

レポーターも感心しながらマイクを回収しようとするも、その直後に〝それと〟と少女が付け足した事でピタリとその手が止まった

 

 

「これは男性の方宛ての言葉ですが……どうか、皆様は今一度御自身に向けられている〝矢印〟について考えてみてください」

 

「同僚、先輩、後輩、友達、ただの知人、ただの幼馴染……その関係、本当に正しいですか?貴方が知らないだけで本当は周囲の女性から好意を向けられていませんか?或いは、女性からのアプローチを〝ただの善意〟だと勘違いしていませんか?」

 

「もし心当たりがあるのならすぐに改善してくださいね?じゃないと、この小説の主人公みたいに────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「罰が……当たっちゃいますよ?」

 

 

焚かれるフラッシュ、引き気味に笑うレポーター

 

それを気にも留めず、少女はカメラの向こうでこのインタビューを見ているかもしれない〝誰かに〟向かって妖艶に笑って見せた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

『罰が……当たっちゃいますよ?』

 

「……」

 

「酒泉、もうすぐ仕事だというのに何を見て……ああ、最近有名になってきた作家の方のインタビューですか」

 

「……はい」

 

「規則が厳しいワイルドハントの生徒とはいえ、あそこまで有名になってしまうと流石にメディア露出を認めざるを得なかったようですね」

 

「……」

 

「……まさか、貴方もこの方の作品に興味があるんですか?」

 

「……」

 

「確かにあの小説は貴方も読んだ方が良さそうですね……特に主人公の鈍感っぷりなんて反面教師にできるんじゃないですか?散々泣かせてきた女性達に襲われる前に今一度乙女心の勉強をしてみては?」

 

「じゃあ手遅れっすね」

 

「はい?何か言いました?」

 

「いえ、なんでも……ん?」

 

「どうかしました?画面に何か気になるものでも?」

 

「……いや、その……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(画面越しに目が合った気がしたけど……流石に気のせいだよな……?)

 

 

 







宇佐美「なぜ撃った!」

薬丸「アイツ、桜井ミヨの好意を無下にした!先にクソボケムーブしたのはあっちだ!」

オスキ「ブッ殺してやる!」

ジャバロマ「オスキ!(やれ!)」
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