「よお、人を襲った勢いで書いた小説で大賞獲れて嬉しいか?桜井先生」
「うっ……で、でも!酒泉君だって私の気持ちに……」
「キヴォトスでも性犯罪は犯罪です」
「ご、ごめんなさい……」
待ち合わせ場所はあの日と同じカフェ、出会い頭に一撃くれてやった
自分でも悪い事をした自覚があるのか、ミヨはしょんぼりと落ち込みながらも頭を下げて素直に謝罪してきた
……まあ、あの一件は俺の鈍感さが発端になったのも事実だしあまり責めないでやるか
その代わり対価は払ってもらうけどな!
「つーことでこのチョコミントエクレア奢ってください」
「え?」
「だーかーらー、それで手打ちにしてやるって言ってんの」
「ほ、本当にそれだけでいいの?」
〝むしろこれがいいんだよ〟と伝えてやるとミヨはおずおずしながら頷いてきた、まだ自分の中で納得出来ていないのだろうか
……あの時はあんな強引に事を進めてきた癖に、何を今更遠慮してるんだか
こいつはいっつもそうだ、一件穏やかに見えるけど好きな物の為ならすぐ暴走するし、暴走し終わった後はうじうじと後悔するし
俺にはこいつが平凡の皮被ったアウトローにしか見えん、どこぞのファウストと同じで
「……んで?今日俺を呼び出した理由ってなんだ?モモトークには〝聞きたい事がある〟って書かれてたけど」
「えっ?……あ……う、うん、そうなんだ。実はちょっと酒泉君に確かめたい事があって」
そのまま〝確かめたい事〟とやらの内容を話すかと思いきや、ミヨは覚悟を決めた様に一呼吸置いてから口を開いた
「…………その、私達の今の関係ってどんな関係なのかなって」
「と言うと?」
「ほ、ほら!あの時私の本心を酒泉君に打ち明けたでしょ?でもその答えはまだ聞いてなかったからさ……」
「まあ、答える前に襲われたしな」
「うっ……」
でもミヨの言った通り結局〝事〟が済んだ後も答えを伝えてなかったしな……しかもその後は一月半くらいモモトークもしてなかったし
最後に顔を見たのだってミヨが大賞獲った時のインタビュー動画でしか────待てよ?アイツもしかして俺を襲ってから僅か短期間で大賞獲れるような大作を書き上げて応募したのか?だとしたら才能溢れすぎだろ
「まったく連絡が来なかったから……も、もしかしたら酒泉君の中ではあの日の出来事は全部無かった事になってるのかなって」
「……」
「そ、それか私の事嫌いになっちゃったとか……あ、あんな事しちゃったしそうなっても当然の事ではあるんだけどね?」
自分で言ってて勝手に涙目になるミヨ、まだ何も喋ってないのに勝手に絶望しないでほしい
確かに〝あんな事〟をされて驚きはしたし怒りもしたが、その怒りは身体の自由を奪われて好き勝手された事に対する怒りであって〝行為〟自体には不思議とそこまで嫌悪感は抱かなかった
まあ、だから、もしかしたら幼馴染に恋なんてする訳ないみたいな先入観が俺の中にあっただけで本当は無意識の内に俺もミヨを……みたいな想いがあったのだろう
「だ、だから振られる覚悟はできてるというか……で、でもせめてこれからもお友達ではいさせてほしいというか……」
……さて、そろそろ本格的に泣き出しそうになってる目の前の幼馴染をなんとかしようか
スクールバッグの中から一つの小箱を取り出し、それを勝手に妄想を拡大して勝手に泣きそうになっている大作家の前にそっと置く
妄想を膨らませるのは小説のネタを考えてる時だけにしてくれ
「俺が連絡できなかったのは休日に入れまくった単発バイトや風紀委員会の仕事が忙しかったからだ、別にミヨのことが嫌いになった訳じゃねえよ」
「……あの、これは?」
「……開けてみればいいだろ」
素っ気なく答える俺を前にそっと小箱を開けるミヨ
その中に入っていたのはアカンサスの形をした装飾が施された、二つの銀の────
「……ゆび、わ?」
「それ、やる」
「……へ?」
「だから、片方お前にやるって」
〝ん〟と一つ摘まんで差し出すと、ミヨはそれを前にポカンとした表情で固まってしまった
……これやってる側は相当気恥ずかしいので何かしらの反応は示してほしいんだが
「大人の給料3ヶ月分も無い安物だけどな、だから一時的な物って事で……今はそれで我慢してくれ、いつかもっと高いもん買ってくるから」
「……う、そ……これを、私に……?」
「……なんだ、まだ飲み込めてないのか?」
あんな力作書く割には展開を飲み込むのが遅いな
……わーったよ、幼馴染だからって変に恥ずかしがらずハッキリ伝えればいいんだろ
「その指輪はミヨの気持ちをちゃんと理解した上で渡す事にしたんだ……今度は勘違いなんかじゃない」
「……じゃ、じゃあ」
「まあ、だから……つまり、だな」
「────ミヨ、これから先何十年もだらだらと続いていくであろう〝折川酒泉〟という長編物語のヒロインになってくれないか?」
口を開けたまま虚空を見つめるミヨ、此方の言葉が届いているのか怪しくなってくる
しかしここで再び問うのは無粋だろうと数秒、数十秒待ち続け────口元を震わせながら、漸くミヨが声を発した
「……ほ、本当に?私でいいの?」
「ミヨ〝が〟いいんだ」
「……う、打ち切られない?途中でヒロイン交代しない?」
「絶対しない、この恋愛小説のヒロインは完結するまでずっとミヨのままだ。死後に続編があろうとその時もお前をヒロインにするって誓うよ」
流石に臭すぎたかと思いつつも、ここまで来たら今更恥じる事など何もないと想いを全てぶつける
これは〝責任を取る〟とかそういう話ではない、ミヨと会えなかった期間中に自分なりに考えて出した答えだ
「……で、そろそろ答えを……」
「……ふ……」
「……ミヨ?」
「ひぐっ……うっ……ぁ……うぅ……!」
「……!?!??」
次の瞬間、目にしたのは目を腕で押さえながら泣きじゃくるミヨの姿だった
……えっ!?何!?もしかして告白失敗!?何か失礼な事でも言っちまったか!?
そ、それともミヨからの好感度が実はそこまで高くなかったり!?い、いやでも告白してきたのはミヨからだったし……!
「ご、ごめんなさい……わ、わたし……っ……きもち、つたわったの……う、うれしくて……!」
「あ……そ、そういう事か……」
「ず、ずっと……酒泉君とむすばれたかったから……この光景が……ゆ、ゆめみたいで……!」
「……悪い、散々待たせちまって」
そっと立ち上がりぐすんと泣きじゃくるミヨの頭を撫でると、ミヨはその手を自身の頬まで寄せてピトッと当ててきた
涙で濡れた頬にすりすりと当てられる度に罪悪感を覚え、同時に〝もう二度と涙を流させない〟と固く決意した
「ううん……いいの、今が幸せだから……それよりもお願いがあるの」
「……なんだ?」
「この指輪……酒泉君がつけてくれる?」
「……あ、ああ」
渡されるがままに指輪を受け取ると、ミヨは左手の薬指を輪に近づけてきた……ここに通せという事だろうか
誘導されるがままに輪に通すとミヨは〝ありがとう〟と呟き、うっとりした表情で指輪のはめられた指を見つめた
「知ってる?指輪って左右の手や通す場所によって意味が変わるんだよ?」
「そ、そうか……ちなみに左手の薬指は?」
「確か〝愛や絆を深める〟とか〝願い事の成就〟だったかな?……ふふっ、どっちも叶っちゃったね?」
そう言って笑うミヨ、その表情は昔何度も見てきた恋に恋する幼子の様なあどけなさを残しつつ、立派に成長した少女然とした美しさを感じた
「えへ、えへへへへへ」
……なんか若干〝恍惚のヤンデレポーズ〟的な雰囲気も感じるけどそれは多分気のせいだろう
さて、どこか別の世界にトリップしてそうなこの幼馴染……ではなく婚約者をどう正気に戻そうか───
「お、おばだぜじまじだぁ!!!ヂョゴミンドエグレ゛アでずぅ!!!」
「うおっ!?……あ、ありがとうございます」
なんて考えていると何故か号泣している店員さんがチョコミントエクレアを持ってきて……ん?
「あの……俺、まだ注文してませんよ?」
「そいつは俺からのサービスだ!」
店員さんに訊ねてみると代わりに厨房の方から店長さんが答えてくれた
サービス?一体何の……
「坊主!それにお嬢ちゃん!幸せにな!」
「……あっ」
そうだ、そういえばここ────
「ヒューヒュー!見せつけてくれるねー!」
「男気見せたねアンタ!」
「アイツらこの後交尾するんだ!!!」
「ねーママ、こうびってなにー?」
「うちの子に変な言葉覚えさせないでください!」
「おらっ!ぶっちゅーしろっ!」
「ロマンティクスしろ!去った後ロマンティクスしろっ!」
「我が世の春が来たああああああああああああ!!!」
「ハイネエエエエエエエエエエエエ!!!」
「(童貞を)捨ててしまったあああああああ!!!」
「式には呼んでくれよな!他人だけど!」
「ざけんなや、未だにできん、恋人が」
「えへへへへへへへ……」
「……店内やん」