「ユウカちゃん、最近好きな人でも出来ましたか?」
「ごふぉ!?」
親友から突然の奇襲を受け、飲んでいたコーヒーを吹き出してしまう
女の子らしくない噎せ方をしながら必死に呼吸を整える……この場に酒泉君が居なくてよかった
「げほっ……げほっ……ちょっ……何言ってるのよノア!?急すぎるわよ!?」
「あら、ごめんなさい。でも最近のユウカちゃん、なんだかとても楽しそうだったのでつい」
「楽しそう?」
「はい、例えば……仕事の合間にモモトークを見てにやついたり、街中で可愛いお洋服を見掛ける度に悩み込むようになったり」
「そ、そう?」
ノアの言った事は全て私が自覚していない行動ばかりだった
確かに最近はよく酒泉君とやり取りする機会が増えてたけどまさかそんな露骨にスマホを見てたなんて……いや、これはきっと人間観察が得意なノアだからこそ気づいただけよ、きっとそうよ
そうでないなら私が色ボケてるという事になってしまう
「ユウカちゃんの好きな人……一体誰なのでしょうか?」
「そんなこと気にしなくていいから……」
「最近になってユウカちゃんが出会った方は……先生くらいでしょうか?」
「先生とはそういう関係じゃないわよ」
「……あれ?想像していたより取り乱しませんね?」
当然だ、だって本当にそういう関係じゃないし
別に先生の事は嫌いじゃないしどちらかと言えば好きな方だけど、それは頼れる大人とか信頼できる人とかの方向性の好きだ
そこに恋愛感情は存在しない
「それより前だとゲヘナの酒泉君と仲良くなってましたね、もしかして酒泉君とより親しい間柄になったとか……でしょうか?」
「…………」
「……え?まさかの当たりですか?」
こくり、と頷くとノアは驚愕で開いた口を手で塞ぎながら目を見開いた
「その……正直驚きました、ユウカちゃんが彼と仲良しなのは知ってましたが……まさかそこまで関係が深まっていたとは」
「……私もよ」
私だって自分で驚いてる、まさか彼と付き合うことになるなんて
いつか好きになった人と健全なお付き合いをしてゆくゆくは結婚して……女の子なら誰もが想像した事があるであろう未来、その相手を学生の内から見つけてしまうとは
「ええええええっ!?ユウカ先輩あの人と付き合ってたんですか!?」
「うわでた」
「その反応されると流石に傷付くんですけど!?」
後ろから騒がしい声が聞こえてきたから振り向きもせず溜め息を吐くと、そこには案の定ミレニアムの問題生徒A……またの名を黒崎コユキが立っていた
「マジなんです!?ガチと書いてマジなんです!?」
「な、なによ……本気だけど?悪い?」
「い、いやー……悪くはないんですけど……私、あの人苦手なので……」
それも当然、何故ならコユキは過去に何度も酒泉君に捕まっているのだから
ミレニアムに用があって度々訪れていた酒泉君、彼はコユキが問題を起こす度に私のコユキ捕獲の手伝いをしてくれた……彼には本当に頭が上がらない
……って思ったけどやっぱり普段の鈍感っぷりでプラスマイナスゼロかもしれない
「それにしてもまさかユウカ先輩が目以外は特に目立った特徴も無い冴えなそーなあの人と────」
「コユキ、後で屋上ね」
「ヴェッ!?」
別に全ての人達に酒泉君の良さを分かってもらおうとは思ってないけど、それはそれとしてムカつくので罰は与えておこう
まあ、酒泉君の事を褒めてたら褒めてたで警戒対象にしてたけど
「そうですか、ユウカちゃんもすっかり大人になってしまわれたのですね……」
「どこから目線で言ってるのよ……」
よよよ、とわざとらしい泣き真似をしながらノアが俯く……かと思いきや次の瞬間にはパッと顔を上げて満面の笑みで近寄ってきた
「それで、結局ユウカちゃんは彼とどこまで進んだのでしょうか?」
「進んだって……何が?」
「よーするにキスとかデートはしたのかーって事ですよね!」
「キ、キキキキキキキス!?そんなこと教えるわけないでしょ!?」
「ふふふ……ユウカちゃん、私達から逃げられるとでも?」
「そうは行きませんよぉ!?今日は私が追いかける番です!」
ノアの後ろから顔を覗かせるコユキ、こういう時だけ仲良く〝ねー〟とか顔を合わせないでほしい
それにしても……ノアでもこういう事は気になったりするのね。仕方ない、ここは親友の為に一肌脱いであげることにしよう
「告白はどちらからですか?好きになった切っ掛けは?」
「こ、告白は……私からよ。好きになった切っ掛けは……交流を重ねてく内にいつの間に……かしら」
「デートは!?デートはしたんですか!?初デートはどこに行ったんです!?」
「初デートは……二人で映画を観に行って、その後は酒泉君の自宅に……」
「お家デートまでやってたんですか!?にはー!初めてなのにかなり進んでるじゃないですかー!?」
「キスは?キスはもう済ませました?」
「……」
無言で頷くとノアとコユキは口を塞ぎながらきゃー!と小さく叫ぶ
別に付き合ってる事を隠してたつもりはないけど、やっぱり馬鹿正直に答える必要も無かったかもしれない、だってあまりにも恥ずかしすぎるし
「では……キス以上のことは?」
「あ!それ私も気になります!」
「うぇ!?そ、そこまで聞く!?」
「当然じゃないですか!ユウカ先輩の貴重な恋愛話ですよ!?」
「こうなったからには根掘り葉掘り聞かせてもらいますからね?」
ただの恋ばなならまだしも、ここまでいくと最早ただの公開処刑だ。これがコユキ一人なら無理矢理黙らせればいいけどノアまで乗り気なのがたちが悪い
目を輝かせながら期待を前面に押し出してくる二人に呆れながら、覚悟を決めてしどろもどろになりながら答える
「えっと……しま、した……はい」
「どっちから!?どっちから誘ったんですか!?あの人から!?」
「いや、それは……私からだけど……」
「あーやっぱり……あの人いかにもチキンって感じしますもんねー」
「コユキ、最近エンジニア部が新兵器を開発したらしいんだけどそれのテストに参加してみない?もちろん的として」
「ごめんなさい謝罪しますので命だけはお助けください」
コユキは酒泉君に対して少々生意気なところがある、むしろ感謝すべき立場にも関わらず
もし酒泉君がコユキを止めずあのまま悪さを続けていたら幾つか牢にぶち込まれてもおかしくなかったであろう案件もあったというのに……
「それにしてもユウカ先輩が押す側ですかー……なんかそういうの弱そうなのに結構意外でしたね」
「アンタの中で私がどう見られてるのかよーく理解したわ……その、本当は私だって向こうから手を出してほしいけど……」
恋愛関係に対して酒泉君は結構奥手なところがある
大切にされてるっていうのは分かってるんだけどそれでも少しくらいは欲をぶつけてほしいというか……いや私は別にこのままの関係でもいいんだけどね!?でも酒泉君が溜め込みすぎないか心配だしそれの管理という意味でも────
「────つまりこれは別に私がムッツリとかそういう訳じゃなくて酒泉君が大事だからこその心配で……」
「ユウカ先輩がぶつぶつと独り言を……」
「ふふふっ……ユウカちゃん、要するにユウカちゃんは酒泉君に求められたいんですよね?」
「うえっ!?ま、まあ……そう言えなくも……ない、けど……」
「それなら私に良い考えがあります、それはずばり────」
「YOBAIです!!!」
……YOBAI?
「あのアラブの……」
「それはドバイですね」
「演劇とかの……」
「芝居ですね」
「化粧をしすぎた女性の……」
「ケバいですね」
「あのお腹ペコペコなお姫様の……」
「ヤバいですね☆」
「負傷後も終始最強格だった進撃の……」
「リヴァイですね……そうじゃなくて夜這いですよ、夜這い」
YOBAI……よばい……夜這い……
「はあ!?夜這い!?」
夜這いってあの夜這い!?寝ている異性の寝室にちょっとお時間を頂きにいくあの!?
同じベッドで寝たこと自体はあるけど、そういう行為をする為に意図してお邪魔したことは流石にまだ……!
「いやいやいやいや!?いきなり話が飛びすぎでしょう!?」
「でもユウカちゃんは彼に手を出してほしいんですよね?それならもう誘い受けしかありませんよ!」
「それだけじゃ足りませんよ!ユウカ先輩にはもっと際どい服を着てもらわないと!」
「何も際どさが全てではありません!普段の格好でもちょっと着崩すだけで……そうだ!ユウカちゃん!パジャマです!パジャマのボタンを幾つか外した状態で酒泉君のベッドで待機しましょう!」
「な、なに言ってるのよノア!?ちょっとキャラ崩壊してるわよ!?」
「それ良いですね!そこまですれば流石の鈍感クソボケ酒泉さんでも察してくれるはずですよ!」
「コユキ、リングに上がりなさい」
「うああああああ!?なんでええええええええ!?」
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「なんて事があったんだけど酒泉君はどう思う?」
「黒崎コユキは僕が殺します」
ユウカさんがパジャマでお邪魔してから次の日、俺は黒崎コユキに対して怒りを実らせていた
人の事を冴えないだのチキンだの好き放題言ってくれるじゃねえかあのクソガキ……いずれ〝理解らせ〟ねばならぬ
まあ、それは置いといて……
「そういえば俺達って周りの人にお付き合いしてること報告してませんね」
「別に隠してたわけじゃないのにね……どうする?今からでも報告する?」
「聞かれたらでいいんじゃないですか?そんな仕事に関係するような重要な話って訳でもないし」
それに報告したところで〝へーそうなんだ〟と薄い反応を示されるか〝おめでとう〟と軽く祝われるぐらいか
まあ、流石に結婚式前とか……その……子供が出来た時は報告した方がいいと思うけど(当分先の話になるが)
「わ、私は……報告した方がいいと思うけど……牽制にもなるし」
「はい?何になるって?」
「な、なんでもない!なんでもないから!」
最後の小声の部分が聞き取れず何て言ったのか再び尋ねてみるとユウカさんは両手をぶんぶん振って話を終わらせてしまった
この人時々挙動不審になるけどそういう時は決まってちょっとポンコツな部分が出ている時だ、きっとまた変な事でも考えていたのだろう
「クソボケな酒泉君には言われたくないわよ」
「さらっと心読まないでくれます?」
「酒泉君の事なんて何でもお見通しなんだから」
二人揃ってソファで寛いでいるとユウカさんがふふん、と得意気に鼻を鳴らしながら俺の膝に頭を乗せてくる
逆膝枕の体勢、まさかこれをユウカさんにやる日が訪れるとは……過去の俺に教えたらどんな反応を示すだろうか
……やめておこう、また〝えっ!?先生の事が好きなんじゃないの!?〟とか言い出しかねん
俺の目の前にいるのは早瀬ユウカという〝キャラクター〟ではなく早瀬ユウカという〝人間〟なのだから、前世の価値観を押し付けるのは失礼に値する
「はー……」
「何よ溜め息なんて吐いて……重いなんて言ったら怒るから」
「いや、そうじゃなくて……幸せだなーって」
この世界に転生した時は不安だらけだったし、育ての孤児院に売られそうになった時なんか未来への不安やら恐怖やらで色々びくびくしてたけど、まさかこんな明るい結末が待っていたとは
それを与えてくれたのは俺を保護してくれたゲヘナの人達や風紀委員会の皆、そして……ユウカさんだろう
「当たり前じゃない、むしろ私を捕まえておいて〝不幸だ〟なんて言ったら……」
「怒る?」
「怒る、その後で酒泉君がもっと幸せになれるようにどろどろになるまで甘やかすわ」
……ユウカさんつえー、こりゃ勝てんわ
こういうのって彼氏側がしっかりするべきなんだろうけど、今のところお荷物にしかなってないような気がする
「勘弁してください、これ以上優しくされたら駄目人間になっちゃいますよ」
「あら、それでいいじゃない。なんなら働かなくても一生養ってあげるわよ」
「それは男として流石にアレなんで……」
嫌じゃ嫌じゃ!ヒモにはなりとうない!ユウカさんに相応しい男になりたいんじゃ!
稼ぎも身体スペックも頭の良さも色々負けてるけど甘えっぱなしは嫌なんじゃ!
「別に男としてどうとかの体裁なんて気にしなくていいのよ、その代わり〝ちょっと〟とは言わず……その……」
「ん?」
「ず……ずっとお時間いただくんだから!」
膝の上で俺を見上げたまま堂々と宣言するユウカさん、しかし後から恥ずかしくなってきたのか赤くなった顔を両手で隠してしまう
いや……それは狡いって……〝せんちょ〟ならぬ〝しゅせんちょ〟食らったら心臓爆発しちまうって
……元より幸せにするつもりではあるけど、ここまで言われたらよりその決意を固めなければなるまい
「ユウカさん、来週の調印式終わったら次の日二人でデートしません?」
「ら、来週?別にいいけど……どこに行くの?」
「まだ決めてませんけど……ユウカさんは希望とかあります?」
「私?私は……その……二人だけで落ち着ける所ならどこでも……」
「……それってここじゃないっすかね」
「……そうね、いつもと変わらないわね」
自分のデートスポットのレパートリーの少なさに絶望してしまう
いや、スイーツ店とか多めでいいなら結構範囲も広がるんだけど……でもちょっと前にユウカさんが体重を気にしてたから俺のスイーツ巡りに付き合わせるのは悪いかなって
別にそんな気にしなくてもと思わなくもない、太ももだろうと尻だろうと重いぐらいが丁度良いとワイトも言ってます
「で、でも……私は酒泉君が一緒ならいつもと同じ日常でも問題ないけど……」
「ユウカさん……」
今日のユウカさんいつも以上に強すぎる
こまった……ちょっと勝てない……
「なんつーか……俺には勿体無いくらいかんぺき~な彼女ですよね、ユウカさん」
「なにそれ?私の真似のつもり?」
「悲しみも怒りも全て────いひゃいいひゃいいひゃい」
「そんな小生意気な口、こうして引っ張ってやるんだから!」
こんな風にだらだらと幸せを満喫できるのもユウカさんが俺と出会ってくれたから、そう考えると俺がこの世界に生まれてきた意味もきっとあったのだろう
……この日常、ずっと守りたいな
「決めた、介入しよう」
「ん?何が?」
「なにも」
エデン条約編だけとは言わず、最終編まで出来る限りの事は全てやろう
ユウカさんを守りたいしこの世界にも消えてほしくないし……その為にも先生だけに任せるのではなく俺もとことん色彩と付き合ってやろう
その為にもまずは調印式を乗り越えて次は……カルバノグは完全に関係ないしそれ飛ばしてパヴァーヌか
「……酒泉君、また隠し事してるわね?」
「はい、してます。ユウカさんへの愛情が溢れすぎないように頑張って隠してます」
「……ばか、隠さなくていいのよ」
目指せハッピーエンド、掴み取るは誰も失わない未来へ
「あ……そうそう、隠し事で思い出したわ。ベッドの下に隠してた本は全部回収しといたから」
「えっ」
「私だけ居れば十分よね」
早速失いました、はい