クソボケのことが大大大好きな生徒達   作:あば茶

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オラトリオクリア後から急に始まる勘違いラブコメディ(スバルその2)

 

 

『〝もし自分の生を諦めたがっている人がいたらどうやって止めるか〟?んー……まあ、俺なら無理矢理止めますかね』

 

『ええ、勿論分かってますよ。俺がその人を無理矢理生き永らえさせたせいでその人が苦しむ可能性だって当然考慮してますし、他者の命をどうこうする権利なんて俺にはないって事も理解してます』

 

『────その上でもう一度言います、その人は絶対に死なせません』

 

『もしその人が意地でも死のうとするなら自分の手ごと手錠掛けてでも止めます、俺のせいで苦しむ事になるのなら俺も一生隣で同じ苦しみを味わいます』

 

『エゴイストだとか偽善者だとか罵られようと、死んでほしくないほど仲の良い相手だったらそれくらいはやりますよ……まあ、赤の他人相手は流石に無理でしょうけど』

 

『そりゃ当然でしょ、赤の他人相手に人生掛けられるほど俺は優しくないですよ。友達の友達くらいの相手ならギリ助けたいって思える程度の人間ですからね、俺は』

 

 

なるほど、だからですか

 

貴方がアリウススクワッドを救い、それ以外のアリウスを見捨てたのは

 

 

『………』

 

『……………』

 

『そうですね、ぶっちゃけそこまで気に留めてませんでした』

 

『〝まだ自治区には沢山の生徒が残ってるんだなー〟とか〝そのうちスクワッドみたいに外に出てくる日が来るのかなー〟とかぼんやりした事は思ってましたけど、自分から積極的に助けに行きたいとはあんま思ってませんでした』

 

『だって所詮は赤の他人でしたから、他校の生徒の俺にどうこうしろって言われても無理ですよ』

 

『……だから、今からでもチャンスをくれませんか?』

 

『あの日、あの時、俺が他のアリウス生も助けようとしなかったせいで今日まで苦しんできたってんならその分だけ俺の事も苦しめていいです』

 

『もしあの日、アリウスの誰かが俺に助けを求めて手を伸ばしていたのに俺がそれに気付けなかったのだとしたら、この役に立たない両眼を抉っていいです』

 

『もしあの日、アリウスの誰かが助けを求める声をあげたのに俺が気付けなかったのだとしたら、この飾りでしかない耳を撃ち抜いてくれて構いません』

 

『〝今更遅い〟と言うのなら俺の未来を全て捧げます、俺の口から出てくる言葉が一切信用できないのであればこの場で針を千本飲み込んでみせます』

 

『だから、お願いします…………俺に、梯さん達を助けさせてください』

 

『……そりゃあここまでしますよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『だって、もう赤の他人じゃないんですから』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「スバル先輩スバル先輩!正門の方に無料ホットケーキ屋さん来てる!」

 

「……はい?」

 

 

笑顔でそう叫びながら走り去っていく後輩達の後ろ姿をポカンとしながら眺めるスバル

 

現在、アリウスは自治区全体の復興に取り掛かるどころかまだ校舎の復興すらまともに完了していない

 

飲食店だってまだ一つも建てられていないというのに一体誰が〝無料で〟食料の配布など行っているのだろうか

 

 

(……もしや、食料の提供と偽って逆にアリウスの生徒を食い物にしようとしている輩が ────)

 

「スバル先輩も行きましょうよ!」

 

「早くしないとなくなっちゃうかも!」

 

「きゃっ……わ、分かりましたから!一旦落ち着いてください!」

 

 

慎重に思考を巡らせるスバルの両手を後ろから駆け寄ってきた二人のアリウス生が掴み、子が親を急かすようにそのまま引っ張って行く

 

そうして校舎を出ていくと噂通り正門の辺りに〝おいしいホットケーキ屋さん〟と書かれている看板が掲げられた屋台が一つ停まっており、そこでは大勢の生徒達に囲まれながらせっせとホットケーキを作る見知った顔があった

 

 

「……折川酒泉?」

 

「ん?……おお、梯さん。こんちゃす」

 

「はい、こんにちは……いや、ではなくてですね」

 

「酒泉!私、ホイップクリームの方食べたい!」

 

「私こっちのこし餡のやつ!」

 

「牛乳おかわり!」

 

「あいよぉ!ちょっと待ってねー!」

 

期待を隠せぬ様子のアリウス生達が目を輝かせながら注文すると、酒泉は屋台に設置されている五つのホットケーキプレートに一気に生地を敷いて調理を始めた

 

そして新たな生地を焼いている最中も腕を休める事なくすかさず完成品のホットケーキを三枚重ね、更にそれを四等分に分けてからバターとメープルシロップを乗せて待機列の生徒達に順番に配った

 

 

「……あの、これは?」

 

「え?無料ホットケーキ屋さんだけど?……あ、梯さんは何味にします?トッピングはデフォルトのバターとメープルシロップに加えてこし餡、ホイップクリーム、アイスクリームから選べますよ」

 

「…………貴方、材料費はどうしたんですか」

 

「大丈夫っすよ、ちょうど割の良いバイトしてきたばっかなんで」

 

 

全てはアリウスの生徒達に甘味を味わってもらう為に、それだけの為に少年はちょっと危険な地区の警備バイトに手を出したり自分の今月の甘味補給代を削ったりしたのだが

 

しかしそれを口に出す様な不粋な真似はせず、何事も無かったかのように平然とスバルからの問いに答えた

 

 

「何故急にこの様な事を……」

 

「何故って……梯さんと約束したじゃないですか、これからはちゃんとアリウスの生徒を幸せにするって」

 

「……その答えがホットケーキの無償配給ですか?」

 

「おう、甘いもんを食えば皆幸せになれるからな」

 

「それは貴方だけの考えでは?……まあ、感謝はしますが」

 

 

紙皿に乗っけられたホットケーキを笑顔で頬張る後輩達を見守りながら呟くスバル

 

メープルシロップ一滴分の甘味すらろくに味わえない環境に身を置いていた彼女達からすれば、確かに甘い物を食べるだけで幸せになれるというのも強ち間違いでもないのかもしれない

 

 

(もし、私があのまま外部からの助けを拒み続けていたら……彼女達の笑顔も見る事が叶わなかったかもしれませんね)

 

 

一時期のサオリの様な〝あのまま進んでいたら皆を不幸にしていたかもしれない〟という後悔、そんな状況を打破して後輩達を光の世界へ連れ出してくれた者達への感謝

 

今のスバルの中ではその二つの感情が大きく渦巻いていた

 

特に後者に対しては自分達が命を狙った相手、その人を庇って実際に命を落とし掛けた相手、自分達が潰そうとした学園等、敵対していた筈の勢力まで支援を行ってくれたのもあって純粋な感謝だけでなく僅かな恐怖心すら抱いていた

 

自分達と敵対している者にどうしてそこまで優しくできるのか、そもそも敵としてすら認識していないのか、戦力差から生まれる単純な余裕なのか

 

幾ら手を貸してくれたところで、今のアリウスに返せる物など何もないというのに

 

様々な考えを巡らせ、スバルが出した結論は────〝皆、呆れ返る程のお人好しなのだろう〟だった

 

ただのお人好しだから先生も桐藤ナギサも自分の命を狙ってきた相手に頭を下げる事ができたし、ただのお人好しだから蒼森ミネも救護という名のお節介を焼こうとしたのだろう

 

 

(でも、これからは善意頼りの生き方はできない)

 

 

ある程度復興が進んでアリウスが他校とも肩を並べられる存在になっていけば周囲の見る目も当然変わっていく事になる

 

アリウスが力を得すぎると〝ベアトリーチェの被害者〟から〝調印式を襲撃した元テロリスト〟へと評価が二転三転されるかもしれない

 

与して得のある学園として目を付けられれば、裏のある者達がアリウスに寄ってくるかもしれない

 

今は奇跡的に〝善人〟達の〝善意〟によってアリウスの生徒もトリニティに受け入れられてはいるが、果たしてそれもどこまで続くか───

 

 

(……いえ、これではトリニティを拒絶して自治区内に籠っていた頃と同じですね。あまり弱みを晒す訳にはいきませんが、危惧しすぎるというのも「はい、あーん」「あーん……あ、おいし─────っ!!?!??!?」

 

「そ、そんな驚くほど美味しかったんですか……?」

 

外はカリカリ、中はふわふわ、シリアスな思考を上書きするかのように突如流し込まれる甘味

 

ホイップクリーム、こしあん、バニラアイス、メープルシロップ、常人からすれば少々甘ったるく感じるような複数種の甘味軍、しかし長年アリウスで過ごしてきた彼女にとっては極上の────

 

 

「───っ、ではなく!いきなり何をするんですか!」

 

「いや、なんか小難しいこと考えてそうだったんでとりあえず糖分ぶちこんであげようかなって……」

 

 

いつの間にか屋台から出てきていた酒泉は悪びれる様子もなく平然と答えると、フォークでホットケーキを刺して甘味爆弾の第二波をスバルの口元まで運んだ

 

 

「はい、どうぞ」

 

「い、いいです!私は要りませんから他の子に……待ってください。貴方、もしかして先程もそうやって私に食べさせたんですか!?」

 

「ええ、そうですけど?」

 

「だ、誰がその様な事をしていいと───」

 

「でもホットケーキ近付けたら勝手に口開けてくれましたよ?梯さん」

 

「な……な……!?」

 

いつものクールな表情は何処へやら、赤面した顔でわたわたと慌てながら言葉を詰まらせるスバル

 

甘い匂いに釣られて口を開くというなんとも間抜けな光景を自分が生み出した、その事実を彼女は認める訳にはいかなかった

 

 

「……梯さんって善意を素直に受け止めるのが苦手ですよね」

 

「は、はい……?」

 

ぐぬぬと唸りながら目の前の甘味の塊から必死に目を反らすスバル、それを見かねた酒泉はぼそりと呟いた

 

 

「いや、単純にそういう環境で育ってきたから仕方ないっちゃ仕方ないんですけど……でも、表社会で生きていくなら他人に甘えるってのも大事ですよ?」

 

「甘えるって……私はもうそんな歳ではないので」

 

「なーに言ってんすか、高校生なんて社会全体から見たらまだまだガキンチョなんですから誰かに甘えたっていいんですよ」

 

「……貴方だってそのガキンチョでしょうに」

 

「俺はもう人生一回分は甘えきったんで」

 

「はい?」

 

「……まあ、とにかく俺が言いたいのは〝肩の力抜け〟って事ですよ。それに梯さんが誰かに甘える事によって梯さんの後輩達も〝あの人には頼っていいんだ〟って信頼してくれるようにもなりますからね」

 

 

そこで後輩の事を出されると弱いのが梯スバルという女

 

ベアトリーチェやアリウススクワッドが去った後も残された生徒達の居場所として面倒を見続けてきた彼女にとって、最後の言葉は無視できるような内容ではなかった

 

 

「……分かりましたよ、貴方自身には甘えたりしませんがお言葉にには甘えさせていただきます」

 

 

スバルが瞳を閉じ、そっと口を開けて酒泉に近付く

 

未だ顔の赤みを引いたまま、ムッとした表情で待機する

 

一秒、二秒、三秒……

 

 

「……?」

 

 

手に何かを持たされた感覚に困惑しながら瞳を開くスバル、左手に持たされたのはホットケーキの乗った紙皿、右手に持たされたのはフォークとそれに刺さったホットケーキだった

 

てっきりまた〝あーん〟でもされるのかと思い、羞恥心を押し殺してまで待機していたのに肩透かしを食らったスバル。彼女が屋台の方を無言で見つめると、これまたいつの間にか屋台に戻っていた酒泉が〝準備中!〟と書かれた看板を設置していた

 

 

「ただいまホットケーキ準備中だよー!ちょっとだけ待っててねー!」

 

「……あの、酒泉?」

 

「ん?なんすか?……ああ、トッピングの追加ですか?」

 

「いえ、そうではなくて……えっと……」

 

 

食べさせてくれるのではないか、そう訊ねる直前でスバルの口が止まる

 

この言い方だとまるで〝食べさせてほしい〟と言ってるみたいではないか、そんな考えがスバルの喉奥に詰まった言葉を吐き出させるのを躊躇させていた

 

 

「ほら、早く食べないと冷めちゃいますよ?」

 

「────」

 

「さてと……俺もぼちぼち休憩しますかね」

 

 

そうとも知らず間抜け面でクソボケなことを言い放つクソボケ

 

瞬間、スバルの中で何かがぶちギレる音がした

 

しかし乙女心の〝お〟の字が分からないどころか女性が発する言葉を一瞬でも聞き取れているのか怪しいクソ川ボケ泉は呑気に鼻歌を歌いながら屋台の荷台からガサゴソと弁当箱を取り出した

 

弁当箱に入っていたのは自分で作ったツナマヨおにぎりに焼きたらこおにぎり、それとおかずが幾つか

 

 

「よし、まずはツナマヨちゃんから……いただき────ふおぉっ!?

 

「いただきます!!!」

 

 

酒泉がおにぎりを食べようと大口を開けた瞬間、屋台に身を乗り出しておにぎりにかぶりつくスバル

 

乗り出した際にスバルが元々持っていた〝おにぎり〟が二つほど酒泉の前でムニュリと潰れたが、酒泉はスバルの奇行への驚愕でそれに反応するどころではなかった

 

 

「な、なんすか急に!?もしかして甘いのが苦手だったとか!?」

 

「別に?なんでもありませんが?……ん゛っ!?」

 

 

目をパチパチさせながら困惑する酒泉に対し、キレ気味に返事をするスバル

 

勢いよくかぶりついたせいか若干おにぎりが喉に詰まりかけ、偶々屋台の隅に置かれていた紙コップに手を伸ばす

 

中に入っていたのは牛乳、おにぎりと食べ合わせが良いとは言えないが詰まった物を流す分には問題無いだろうと口をつけ────

 

 

「あ……それ俺の───」

 

「ブフッ──────!!?」

 

「いやあああああああああああっ!?」

 

 

瞬間、散水ホースの拡散モードかの如く白液が酒泉の顔に振りかかった

 

 

「あー!スバル先輩が牛乳溢したー!」

 

「いつも物資を大切にしろって言ってるのに!」

 

「スバル先輩!私にも飲ませて!」

 

「そもそもそれは俺のだ!俺に言ってくれたら幾らでもおかわりあげるから!」

 

「私も私も!」

 

「私も飲みたいです!」

 

「ねえちょっと聞いてます!?」

 

 

身体に染み付いた習慣からか、味付きの飲料を全員で少しずつ回し飲みしようとするアリウス生達

 

それを見かねた酒泉は、ある人物が自身に接近してきている事にも気付かずに大声で叫んだ

 

 

 

 

 

 

 

「酒泉、来ていたのなら連絡を────」

 

「だーかーらー!梯さんのミルクは俺のだって!」

 

「よろしくたのむ」パリン

 

 

 






錠前殿のヘイローが割られておられるぞおおおおおお!!!
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