クソボケのことが大大大好きな生徒達   作:あば茶

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オラトリオクリア後から急に加速するすれ違いコント(スバルその6)

 

 

 

「……」

 

「ねえ、スバル先輩さ……」

 

「う、うん……様子おかしいよね」

 

「やっぱりさっきの酒泉とのやり取りが原因かな……」

 

 

そわそわ、そわそわと

 

スマホをチラ見しては視線を逸らし、そしてまたチラ見する

 

そんな行動を繰り返しているスバルを心配そうに見守る後輩達、しかしスバル本人は自分に視線が集まっている事にすら気付かない様子

 

 

(ま、まだでしょうか……)

 

 

現在時刻は18:30、そして酒泉と通話する約束の時刻は20時頃である

 

そわそわするにしては気が早すぎるのだが、今のスバルにそんな事を気にしている余裕は無い

 

何故なら彼女は人生で初の〝告白〟というイベントをこれから受ける(と思い込んでいる)事になるのだから

 

 

(くっ……何でしょうか、この妙な感覚は)

 

 

少しずつ力を入れて心臓を握られているかの様な感覚、しかし決して苦痛という訳ではなくどこか心地好さを覚える

 

苦しいのに嬉しいという未知の感覚に翻弄されるスバル、その胸に手を当て、何度も己の感情の正体を探ろうとしてる姿を見た一人の少女が決心した様な表情で近寄った

 

 

「あ、あの……スバル先輩!」

 

「マイア……どうかされました?何か異常事態でも───」

 

「そ、そんなに酒泉さんの事が気になるのなら……ちょ、直接会いに行った方が良いと思います!」

 

「……へ?」

 

「た、大切なお話はちゃんとお顔を合わせてしないと……だ、駄目です!」

 

「そ、それは……」

 

 

それは、一度突き放されたマイアだからこそスバルに刺さる言葉だった

 

相互理解の大切さを過去の経験から理解しているスバルは、しかしそれでも初めての感覚に不安を抱かずにはいられなかった

 

その不安の正体は分からない、今の関係が変わる事への不安なのか、それとも他者を傷付けてきた自分が幸せになってもいいのかという不安、或いはそれ以外の理由か、或いはそれら全ての理由か

 

ともかく、今のスバルにとっては電話越しが一番まともに酒泉と話せる方法だった

 

 

「しゅ、酒泉さんは優しい人なのでスバル先輩が悲しむような事は恐らく言わないと……い、いえ!絶対に言わないと思います!だから、面と向かって真っ直ぐ思いに向き合ってあげてください!」

 

「し、しかし……まだアリウスの復興が完了してもいないのに、私一人が恋沙汰に現を抜かすなど……」

 

「スバル先輩はもう十分に頑張ってくれました!アリウススクワッドの皆さんが抜けた後も、マダムが消えた後も、ずっと私達のことを守ってくれました!だ、だから……今度はスバル先輩が幸せになる番なんです!」

 

「そうですよ!私達の事はもう気にしないでください!」

 

「私達だってもう自分達でやっていけますよ!」

 

「……でも、酒泉ってもうスバル先輩の物になっちゃうんだね」

 

「うん……ちょっと寂しいね」

「スバ酒てぇてぇ」

 

 

自分達を導いてくれた先輩の幸せを心から願う後輩達、中には折川酒泉を慕う者や己が抱いている酒泉への恋心に気付いている者もいるというのに……それでも自ら身を引くとはなんて健気で儚い光景だろうか

 

しかし忘れてはならない、この光景は全てクソボケの言語能力消失バグによって生み出されたという事を

 

クソボケは責任を取って全てのアリウス生を幸せにするべきではないか?────絶叫の悪魔龍 イーヴィル・ヒート

 

 

「わ、私達はみんなスバル先輩が大好きです!大好きな人が幸せじゃないと私達も幸せになれません!」

 

「そーだそーだー!」

 

「後輩の気遣いを無駄にするなー!」

 

「私達にもかっこつけさせてください!」

 

「いや、スバ酒マイの酒総受けか……?」

 

 

梯スバルは後輩達の為ならば何でもしてきた

 

一緒に寝てほしいと頼まれたら一緒に寝てあげたし、ハーモニカを吹いてほしいと頼まれたら喜んで聴かせてあげた

 

そんな彼女達からの次の頼みは〝幸せになってほしい〟という内容、ならばそれを普段通り叶えるのが先輩としての役割

 

 

(───いえ、違いますね)

 

 

望まれているからではない、自分自身でそう望んでしまったから

 

思えば、彼から好意を向けられている事に対して喜びを抱いてしまった時点で私の負けだったのかもしれないと

 

後輩達の後押しもあって漸く自ら蓋をしていた想いを開き、己の心と正面から向き合った

 

 

「……すみません、少々用事を思い出したので席を外してもよろしいでしょうか?すぐに戻りますので……」

 

「も、勿論です!」

 

「アツコさん達に聞かれたら適当に誤魔化しておきます!」

 

「すぐに戻るとは言わず明日の朝帰りでも構いません!」

 

「たっぷりお時間頂いてきちゃってください!」

 

「皆さん……ありがとうございます」

 

酒泉のモモトークにやはり直接会えないかという旨を送ってから歩き出すスバル、背中には後輩達の声援が浴びせられていた

 

目指すは一つ、想い人の元へ

 

 

「先輩、行っちゃったね」

 

「……」

 

「……マイアはこれでよかったの?」

 

「……はい、だって……先輩の幸せが私の……私の……ぅ……うぁ……うあああああああん!!!」

 

「……頑張ったな」

 

「今日は皆で夜更かししようね」

 

 

スバルの背中が見えなくなってから数分後、マイアの瞳から様々な想いが溢れだしてきた

 

同時に同じ想いを秘めていた者達は失恋したマイアの姿に己自身を重ね、自分達より勇気ある少女を口々に称えた

 

……再三言うがこれらは全て勘違いによって生み出された光景である。まあ、勘違いの末に本当にゴールインしてしまうのなら何も問題は無いだろう

 

 

 

「ベア酒は……流石に無いか」

 

「ね、ねえ……あの子さっきから何言ってるの……?」

 

「さ、さあ……アリウスにインターネット環境が取り入れられてからすっかりあんな調子で……」

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

〝やはり直接お話させてもらってもよろしいでしょうか〟とモモトークがあったのは1時間程前、集合場所は俺の家から近い方でいいとの事だったので適当に近所のスーパー近くの公園にしておいた

 

ゲヘナの公園にしては珍しく不良がたむろってないし遊具に落書きとかもされていない、荒れくれた土地で暮らす子供達の貴重な遊び場だ

 

 

「お……お待たせ……しました……!」

 

「あ、梯さん」

 

 

若干曇りがかった特に綺麗でもなんでもない夜空をなんとなーく眺めていると誰かが走る音が聞こえ、視線を空から下ろしてみると梯さんが息を切らしながら駆け寄ってきていた

 

そのあまりの勢いに思わず視線を逸らしてしまった……いやだって〝揺れてた〟んだもん!そういう邪な視線は逸らさないと女性に失礼だろ!?

 

え?意識した時点で失礼?……うるせぇ!(天下無双)

 

 

「どうしたんですか梯さん、そんなに急いじゃって」

 

「い、急ぐに決まってるじゃないですか……はぁ……私はただ、一刻も早く答えを……はぁ……伝えたいっ、だけで……!」

 

 

とは言われましても、アリウスで厳しい訓練を受けていたであろう梯さんが息を切らすくらいの全力ダッシュをしてきたことは事実な訳でして

 

どんな礼をしてほしいか聞きたいだけなのに梯さんは一体何をそんなに急いでいたのだろうか、もしや今日中にしかできない且つ人に知られたくない様な事を頼んでくるつもりなのだろうか

 

 

「……ふぅ……やっと息が落ち着いてきました」

 

「だ、大丈夫ですか?水飲みます?」

 

「ありがとうございます……んくっ───待ってください、これは───」

 

「あ、それさっき公園の自販機で買ったばっかのやつなんでまだ口つけてないっすよ」

 

「そ、そうですか……それはよかったです……」

 

「うぐっ……は、はは」

 

「本番前に間接で済ませるような真似はしたくありませんから……」

 

 

心に小さな針が刺さったような痛みを感じたが全く気にしていない風をなんとか装う

 

た、確かに俺なんかと間接キスするのは嫌だろうけどさ……でもわざわざ本人の前で言わなくても……

 

 

「そ、それで……この前の話の続きですが……」

 

「ええ、分かってますよ」

 

 

密かなショックを胸の内に抑え込みながら思考を礼の話に戻そうと……いやごめん嘘、全然抑え込めてないしなんならジワジワと痛みが広がってきたわ

 

で、でもまあ、付き合ってる訳でもない異性に対してならこのぐらい当然の反応だよな……

 

前世で後輩の妹に〝喉乾いたんでなんかくださいせんぱーい〟って言われて一口飲んだだけのほぼ新品同然のスポドリ渡した事があったけど……その時〝家で殺菌消毒してからいただきますねー♡〟って笑顔で言われてそのまま持ち帰られたのに比べればこんくらい……なんてことねえ……(瀕死)

 

 

「……あの、聞いてますか?」

 

「え?……あ、ああ……勿論聞いてますよ、なんでも言ってくださいな」

 

 

〝折川酒泉に悲しい過去〟して勝手にダメージを食らっていると梯さんが不可解そうな顔でイケメンフェイスを近付けてきたので咄嗟に返事をした

 

すると梯さんは〝そうですか〟と呟き、その後何故か少しずつ紅潮してきた頬を抑えながら目を閉じた

 

 

「……あの、梯さん?」

 

「待ってください、分かっています、分かっていますから」

 

「まだ決まってないなら別に後回しでも────」

 

「いえ、もう答えは決まっています……これ以上、貴方だけに我慢を強いるのは酷ですから」

 

 

酷って……別にそこまで俺に気を遣わなくてもいいんだけどなぁ

 

何かしてもらったらそのお礼をするっていう道徳の授業で習うような当たり前の事をやってるだけだしそこまで思い詰めなくても

 

 

「い、いきますよ酒泉。これが……」

 

 

だというのに梯さんは熱を帯びた顔付きで俺に近付き口づけを────

 

 

「んっ……」

 

 

口づけ……を………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

は?

 

 

 

「ん……ちゅ……んむ……」

 

 

マウストゥマウス、突如梯さんに口と口をくっ付けられた

 

夢か現実かの区別がつかなくなるような出来事、そこに舌まで入れられて更に幻感が増してきた

 

 

「ん……んぅ……んむぅ」

 

 

そんな俺の隙を突くかの様に梯さんが更に舌を奥まで入れる、一方で俺の方は流されるかの様にただ呆然と舌を絡ませられるだけだった

 

嬉しいとか、最高とか、そういう感情よりも先に湧いてきたのは困惑、その困惑に更に困惑を塗りたくられた

 

 

「ん────ぷはっ」

 

 

息が続かなかったのか、それとも満足したからか、永遠にも感じられた接吻は梯さんから離れた事で終わりを告げた

 

一歩引いてくれた事で漸く視覚内に収める事ができた梯さんの表情。彼女はほんのりと赤い顔のまま口元を手で隠し、視線を逸らしながら囁いた

 

 

「こ、これが私の答え……ですから……」

 

「……ぽよ?」

 

これが、答え?

 

メイド服を着て奉仕してくれた事への礼が、俺とキスをすること?

 

 

「…………ぺぽ?」

 

「な、なので!これからは……その……末永く……よろしくおねがいします……」

 

 

俯いた顔からふしゅーと煙が上がる梯さん、ちなみに俺は知恵熱で頭から煙が出ていた

 

理解できぬ、なんだこの状況、ガッチャとは何なのだ、理解できぬ、どうして礼の話をしにきただけなのに俺がディープなキスをされてるんだ、このままじゃディープスペクターならぬディープシュペクターに変身しちまうよ俺

 

だってよ、これだと梯さんの望んだ対価は俺とキスをするって事に……しかも末永くって何?ずいぶん未来を見てやがらない?

 

 

「な、なんで何も言わないんですか……い、言っておきますが苦情なら受け付けませんからね!?私だって初めての経験だったんですからキスが下手でも文句言わないでください!」

 

「それはこれから上手くなれば────はっ!?な、無し!今の無しで!」

 

 

なんだ今の激キモは発言は、脳に衝撃を受けすぎて取り繕うってことを忘れてんじゃねえか

 

これは間違いなくドン引かれて────「べ……別に取り消す必要はないでしょう」……え?

 

 

「こ、これからは……そういう関係になるんですから……」

 

 

え、かわい、かわいいしめっちゃいいにおいするんだけど

 

しかもそういう関係になるとか〝これからお前を夫にするぞ宣言〟までされちゃったんだけど、でもめっちゃいいにおいするし別に構わな────じゃなくて、今はどうして梯さんはこんな事をしたのかが重要なのであって

 

よし冷静になって考えろ、まずどうして俺と梯さんはキスをする事になった?

 

それは俺の〝礼に何かしてほしい事はあるか?〟という質問に対する答え、つまりは梯さんにとっては俺とのキスが対価という事に

 

でもじゃあなんで俺とのキスが対価になるのかと言うと、梯さんにとってはそれが価値のある行為だからで

 

じゃあなんで価値があるのかと言うと────

 

 

(待て)

 

 

次の瞬間、俺の1103兆3543億のIQは一つの答えに辿り着いた

 

もしこの前のメイド服による奉仕が俺へのアピールだとしたら

 

そして先程の深いキスと〝末永く〟発言

 

 

(まさか)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「梯さんは……俺のことが好き……!?」

 

「で、ですからそう言って……いえ、言ってはいませんけど行動で示したじゃないですか!」

 

そうだ、口にはしてないけど口でされたんだった

 

全てのパズルのピースが揃った俺はこのシチュエーションを前に次の手が浮かばずにいた

 

お、俺はどうすれば……保留か?一旦保留にしてから家でじっくり考えるか?で、でも……梯さん、もう既に付き合う事が確定しているかのように自信満々だし……!

 

 

「す、好きですよ!好きに決まってるじゃないですか!貴方の事を愛してなかったらあんなことするわけないじゃないですか!」

 

「え……あ、ああ、だよな……ごめん、梯さん」

 

「まったくですよ……そ、それと……その〝梯さん〟というのもやめませんか?」

 

「……え?」

 

「で、ですから!……〝スバル〟と呼んでもいいと、そう言ってるんですよ」

 

「……」

 

「わ、私達の関係ならこの方が自然でしょう?……酒泉」

 

 

まだそこまでの関係に至ってません、そんな言葉は照れ臭そうに上目遣いをしてくる梯さんの前では吐き出すことすら不可能だった

 

いざ口にしたら怒られたりしないだろうかと、本人の許可があるにも関わらず恐る恐る震える声で呟いてみた

 

 

「……スバルさん」

 

「は、はい……なんか、こそばゆいですね」

 

「そ、そっすね……」

 

「…………私の方も〝そういう関係〟らしい呼び方で呼んでみましょうか?」

 

「え?」

 

「た、例えば……ダーリン、なんて…………こ、これは流石にベタすぎてあり得ませんね!?」

 

 

あはははと恥ずかしさを隠す様に作り笑いを浮かべる梯さ……スバルさん、やがて笑い声は小さくなり、誰もいない公園の空気に溶けていった

 

にしても〝そういう関係〟……か、確かに可能な限りは望みを聞く覚悟ではいたけど、まさかこんな事をお願いされるなんて

 

 

「ま、まあ……俺の名前を呼ぶ時はいつも通りでいいんじゃないですかね?」

 

「そ、そうですね……それに」

 

「それに?」

 

「貴方の名前を呼ぶのは……嫌いじゃありませんから」

 

「────っ」

 

 

これは駄目だ、普段クールっぽい人の照れ顔は俺の全てを破壊してしまう

 

誰か助けて、このままだと俺スバルさんのこと好きに……いや俺が好きになられてるんだった

 

 

「そ、それじゃあ話も済んだ事ですしこれで……」

 

「え?い、いや!あの────」

 

「酒泉」

 

 

まだ(実質的な)告白への返事をしていない事を思い出し、去ろうとするスバルさんを止めようと手を伸ばす

 

するとスバルさんはくるりと振り向き、俺の瞳を真っ直ぐ見詰めてきた

 

 

「私はその手の知識に乏しいのでこういう使い方で合っているのか分かりませんが……一応、言っておきます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「不束者ですが……よ、よろしく……おねがいします……」

 

 

 

まあいいか!!よろしくなあ!






酒泉に告白されたと思ってるし既に付き合ってると思っている→スバル

スバルに好かれてると思ってるしスバルから告白してきたと思ってる→酒泉

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