『うおー!おれのキングフォームをみろ!』
『……』
『たあ!てりゃ!くらえー!』
『……ははっ』
『あー!パパおれのことわらったー!ばかにしたでしょいま!』
『ごめんごめん、馬鹿にした訳じゃないんだ。ただ……嬉しくてな』
『うれしい?なんで?』
『そりゃあ、酒泉が楽しそうにしてるからだろ?』
『パパがたのしいわけじゃないのに?へんなのー』
『父親ってのはそういう生き物なんだよ……それより酒泉、父さんも混ぜてくれないか?一緒に仮面ライダーごっこしたいんだ』
『いいよ!じゃあパパはりゅうきね!』
『お、龍騎ごっこか!中々センスあるな!でもいいのか?父さんが主役ライダーで』
『うん!おれほかのキャラにするから!』
『てことは……ナイトか?それかゾルダとか』
『あさくら』
『えっ』
『あさくら』
『……王蛇じゃなくて?』
『うん、あさくら。へんしんちゅうにてつパイプでなぐるふりするからパパはうしろむいてね』
庭ではしゃぎまわる幼き頃の俺を微笑ましげに見守る父の笑顔
自分が楽しい事をしている訳でもないのにどうしてパパは笑っているんだろう、そんな事を思っていた記憶が脳裏に蘇る
あの頃はその理由が分からなかった、だが今は
「これはマルクトお姉様?なかなか上手く描けてるじゃん……それでこっちは酒泉?」
「は、はい!制服を着てる時のお兄様です!」
「アイン、あんなクソボケここまで丁寧に描かなくてもいいんですよ?今からでも適当にぐちゃーって塗りつぶしてみては?」
「だ、駄目ですよ!お兄様もちゃんとかっこよく描かないと……」
「でも全員分細かく描くの大変だしそこまで丁寧に再現しなくてもいいんじゃない?」
「再現?……ソフ、そういえば貴方この前あのクソボケが戦ってた時の姿がカッコいいみたいな事を言ってましたがまさかその気が────」
【カタストロム】
「待ってください酒泉のコレクション取り出して何をするつもりなんですか寄らないでくださいお願いしま────」
「お前を壊す……!」
「ぬあ────!?」
(────今なら分かるよ、父さん)
リビングのソファーで身体を横にしながら庭ではしゃぐ彼女達を見守っていると、あの頃の父と同じく口が自然と笑みを浮かべていた
家族が幸せそうだから自分も笑う、長い年月を経て漸くそんな単純な答えに辿り着いた
「とても面白いゲームですね、我はこの〝にゅーがんだむ〟という機体が気に入りました。特に〝ふぃんふぁんねる〟という武装はどこか親近感を覚えます」
「あ、あり得ない……こんな初心者に……手も足も出ないなんて……!」
《これで十連敗ですね》
「やはりシロコさんは優しい方ですね、初心者である我の為に手加減をしてくれるなんて」
「ん゛(激怒)」
(……ここも賑やかになったな)
朝、家を出る時に〝いってきます〟と言う事はなかった
夜、帰ってきた時に〝ただいま〟という事もなかった
任務帰り、疲れに耐えきれずテレビをつけたまま眠ってしまった日があった
朝起きた時に母親に叱られると怯え、その母親はこの世界に存在しない事に後から気付いた
帰宅中自宅が近付くと近所の家族の笑い声が窓越しに微かに聞こえてくる日があった
すると何故か帰路を歩く足が早くなり、玄関に辿り着いた途端声から逃げる様に扉を勢いよく閉じていた
それらを再認識する度に無意識に涙を流し、その度に〝ただ眠いだけだ〟と一人で結論付ける、そんな日々を何度も繰り返してきた
(……懐かしいな)
今でも全く孤独を感じない訳ではない
目覚ましと共に起床したらいつの間にか母親が朝食を用意しており、実は〝自分が死んだ事〟も〝キヴォトスでの日々〟も全部夢だったなんて展開はあったりしないか
ある日突然謎の空間が出現してそこを通ったら前世の両親が居る世界に通じていたりしないか、もしくはキヴォトスの外が前世と繋がっていたりしないか
この世界で親しくなった人達には申し訳無いが、そんな風に考えてしまう事が今でも稀にある
でも、いざ本当にその時が来たとしても俺は
「ソフ!今時暴力系ヒロインなんて流行りませんよ!そんなんじゃあのクソボケも振り向きは────あばばばばば」
「酒泉が持ってたCQCの基本術の本、あれ本当に役立つんだね」
「こ、こんな感じでしょうか?でも、ちょっと違うような……ど、どうしよう……もう少し近くでお兄様のお顔を拝見させてもらえないかな……」
「この〝はいにゅー〟というのも中々良い機体ですね、我はこれも気に入りました」
《これで二十連敗ですね、新記録おめでとうございます》
「…………」
「シロコさん、我を立てようとしてくれるのは嬉しいのですが……そろそろ本気を出してくれても構いませんよ?」
「……分かった、ここはもうじゃんけんで決着をつけよう。三回中一回でも私が勝ったら総合戦績も私の勝ちだから」
《総合の意味が分からなくなってきました》
────俺はきっと、この世界に残るだろう
何日も何日も悩み続け、その末に情けなく涙を垂れ流しながら未練たらたらで最後の瞬間までうじうじしながらも
以後己の中の孤独感が永遠に残り続ける事になっても、〝やっぱり帰ればよかった〟と後悔し続ける可能性が浮かんだとしても
それでも俺はきっと、皆が〝おかえり〟と言ってくれるこの世界を選ぶだろう
……流れ弾が当然の様に飛び交う世界に残る親不孝な息子を前に、父さんと母さんは何を思うのだろうか
きっと心配はしてくれる、いや間違いなくするだろう。でも、あの人達なら俺の意見を尊重して見送ってくれるとも、そう信頼もしている
むさ苦しい蛮族野郎共こと俺の友人達は……ブルアカで俺がヒナ推しだって知った時に〝このロリコンがぁ!〟と罵ってきたし、きっとアイン達を見てまた同じ罵倒を繰り返してくるんだろうな
そういや俺の後輩とその妹は某ビッグでダディな父親の番組の話をした時に〝先輩には一生縁の無い話ですけどね〟だの〝縁があったとしても余程の物好きとくらい〟だの色々言ってきたが、今の俺の生活環境を見たらどんな反応をするだろうか
(……皆にも紹介したかったな)
なんて事を想いながら呆けていると、くぁ~っと情けない欠伸が出てきた
以前までなら隠す必要など一切無かった欠伸顔だが、今は家に沢山人がいるので一応口元を隠して誰にも見えないようにした
今日は天気が良い、こうしてソファーに寝そべりながら差し込む日に当てられていると睡魔に襲われてしまう
皆の楽しげな声も俺の眠気を促進させるかの様に心地好く、日の光と共にダブルパンチで……やば……また眠く……
(……って、いかんいかん)
俺はこの後昼飯を作らなくちゃいけないんだ、このまま寝落ちしてしまうと皆を空腹にさせてしまう
睡魔に負けじと瞼を擦り、意識を強制的に覚醒させ────ん?
「あ……」
「……アイン?」
「あの、えっと……お兄様のお顔をもっと近くで見ようと思って……でも眠そうだったから声を掛けてもいいのかなって……」
「……」
「……」
「……」
「あぅぅ……」
目をパッチリ開いた瞬間、視界に入り込んできたのは床にちょこんと正座して俺の顔を覗き込んでいるアインの姿だった
突然目と目が合った事に驚いてしまったのか、アインはパチパチと大きくしたり小さくしたりさせながらながら言葉を詰まらせてしまった
そんな彼女を落ち着かせるべく頭に手を乗せると、アインは一瞬だけビクリと身体を反応させたが、〝お兄様……?〟と呟くだけで特に拒絶などはしなかった
「ど、どうかしました───きゃっ……」
「……」
「お、お兄様?どうして急に私の頭を撫でて……」
「……」
「あ、あの……何か言ってもらえると……ふぁ……」
「……」
「んぅ……」
いや、嘘だ。別にアインを落ち着かせる為に手を置いた訳じゃない、特に理由もなく本当にただ何とはなしにこの子を撫でてみたくなっただけだ
そしてそれを実行に移すとアインは依然変わりなく拒絶の意を示さぬまま大人しく撫でられ続け、目が蕩け始めたぐらいに手を離してあげるとどこか惜しそうな顔で此方を見上げてきた
同時に思考より先に自分の手が動いていた事実に今更ながら驚き、しまったという言葉の代わりに〝あっ〟とだけ声が漏れた
「わ、悪い……なんか、手が勝手にというか……」
「い、いえ!気にしないでください!……わ、私も嬉しかったので……」
「……え?」
「……あっ!?で、ではなくてですね!?その……」
「あ、あー……えっと……あ、そういえばアイン、俺に何か用があって近くに来たんじゃなかったか?」
「……はっ!そ、そうでした!」
(俺のせいで)気まずくなりかけた空気を誤魔化すべく、露骨すぎる態度で咄嗟に話題を逸らした
確かさっき俺の顔がどうのこうの言ってたよな……うつらうつらしていたから具体的には覚えていないけど
「実は今、家族の集合絵を描いてまして……後はお兄様のお顔を描けば完成するのですが……」
「なるほど?つまりその為のモデルになってくれと……あい分かった!可愛い妹の為に一肌脱ごうじゃないか」
「あ、ありがとうございます!」
「おう、その代わりとびっきりイケメンに描いてくれよ?」
「は、はい!お任せください!」
承諾を得たと同時にスケッチブックを床に置いて絵を書き始めるアイン、出来る限り近く似せる為か俺の顔をちらちらと確認しながら色鉛筆を動かしている
他の人達の絵はどんなもんだろうと気になってスケッチブックの方に目を向ければ、先程アインも言っていたように既に俺以外全員の絵が完成していた
マルクト四姉妹、クロコ、プラナ、そしておそらく俺であろう人物の首元にはプレ先の大人のカードが描かれている
「俺の妹天才すぎワロタ」
「え?」
「んん……何でもない、続けてくれ」
…美しい、これ以上の芸術作品は存在し得ないでしょう
なんだこの暖まる絵は天才か?この世界の歴史を人類文明誕生以前まで遡ってもこんな天才画家存在しないだろ
こんなんもう家宝だよ、折川家の一生物の愛用品だよ
「アイン、旅行しよう、いつか皆でパリに行こうな」
「パ、パリですか…?」
「ああ、本物の芸術というのを彼等に見せつけてやろう」
「……最近の酒泉はシスコン気味だと思う」
《同意、割と早い時期からお兄様と呼ばれるのを受け入れてました》
「は?何言ってんだよ、俺は生まれた時からアインのお兄様だったろ?」
《重傷、手遅れです》
懐かしいなぁ……草木しか生えていない様な田舎道、俺が友達とかけっこする度によく後ろからアインが〝おにいさまおにいさま〟とちょこちょこ追いかけてきてたよなぁ……
で、小学校高学年になる頃にはそこまでベッタリって感じじゃなくなるんだけど、それでもまだ甘え気質なところは残ってて怖い番組を見ちゃった日の夜はよく寝かしつけてあげてたよなぁ……
中学に上がった時は〝アインでも反抗期になるんだな〟って驚いたなぁ、まさかあのアインから〝わ、私が学校でどう生活しようとお兄様には関係ありません!〟って言われるなんてな……でもその日の内に〝さ、さっきは言いすぎてしまってごめんなさい……〟って謝りにくるなんて、反抗期にしては優しさが残りすぎてたな
高校生になった時もそうだ、急に帰りが遅くなり始めたから〝もしかして柄の悪い友達と遊んでるんじゃ〟と心配した事があったけど……結果的にアインは俺へのプレゼント代を稼ぐ為に遅くまでバイトしてるだけだったな、どこまでいっても純粋で優しい子だったよお前は
……でも、そんなお前も大学に上がると好きな男ができたよな。家族の食卓であまりにも嬉しそうにその子の事を語るもんだから、つい気になって直接どんな奴なのか見定めようとした事もあったな
もしそいつがアインを悲しませるようなクソボケだったら絶対認めない、そう心の中で誓いを立てて……結果的にそれは杞憂に終わったけどな
相手の子はとても誠実で、一切の汚れを感じさせない程に清らかな男の子だった。そんな子を前にしてしまえば此方としても変にケチをつける事もできず、ただ心の底から〝妹をよろしくお願いします〟と頭を下げる事しかできなかった
その後も男の子とその御家族との付き合いは続き、会う度に〝この子にならアインを任せられる〟とより強く印象付けられてきた
そしてついに結婚式当日、純白のドレスに包まれたアインを見て俺は漸く気付いた
────ああ、お前を助けてやるのはもう俺じゃないんだなって
これからは彼と支え合って生きていきなさい、マルクト達に拍手で迎えられる夫婦を見ながらそう呟き、俺だけ一人静かにその場を……
「その場を……ぞの゛場を去゛って゛ぇ……!!」
「こいつ存在しない記憶作って勝手に泣き出したんですけど」
「しかも遥か先の未来想像してるし」
「アイン……必ず式場でウェディングドレス着せてやるからなぁ……!」
「お、おおおお兄様!?そ、それはまだ私には早すぎるといいますか!?……で、でも……お兄様の気持ちは嬉しかったです。だ、だから……その……今すぐは駄目でも、いつかはお兄様と……」
「あ、これ盛大にすれ違ってるな」
「ソフも以前似たような勘違いしてましたけどね」
「忘れろっ!!」
「だが断ります!!」
そうだ……俺は先生と約束したんだ、この世界で幸せになるって
家族の幸せ=俺の幸せ、つまり俺にはここに居る全員を幸せにする義務が……否ッッッ!!!義務などではない!俺がしたいからそうするんだ!
「我もその様な未来があっても良いと思います。勿論、アインだけではなくソフとオウルもですよ?」
「あったりめえよぉ!!ここに居る全員、必ずウェディングドレス着てる未来まで送り届けてみせるわぁ!!!」
「はい、その為なら我も協力を…………?オウル、その手に持っている物はなんですか?」
「気にしないでくださいお姉様!ただの録音機なので!」
「それ酒泉が風紀委員の仕事で使ってるやつじゃない……?」
「お、お兄様は約束を破る人じゃないので……無くても大丈夫かと……」
「ん……スーツは一人分でいいけどドレスを六人分も用意するとなるとレンタルだとしても値段がシャレにならない、今の内に貯めておくべき」
「え?スーツも六人分必要だろ?」
《否定、着るのは一人です》
「?」
「ん」
???????????
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
本日の昼食
・大根の味噌汁
・きくらげ入り肉野菜炒め
・白米
・きゅうりの糠漬け
・スーパーで半額だった杏仁豆腐
「味は……うん、丁度良いな」
適当な小皿に味噌汁を入れて味を確認、濃すぎず薄すぎずの完璧なバランス調整だ
野菜も既に切り終わっている、肉もスタンバイOK、後は焼くだけだ
「さて、新人君もそろそろ厨房に慣れてきたかな?」
と、最近購入した中華鍋に語りかけてみる、当然返事は無い
一緒に暮らす人が増えれば当然作る料理の量も増えるので思い切って購入してみたが……結果的に大正解だったな、フライパンと中華鍋の二刀流で全員分の調理が進む進む
日頃から片手で銃をぶん回してるお陰か片手でも簡単にそれぞれ扱えるし、なんなら中華鍋とフライパンの中の具材を同時にひっくり返す事だってできるぞ
あんま見た目に出ないタイプのムキムキ酒泉ですまない
「酒泉、手を貸しましょうか?」
「ん?いいよいいよ、炒めるだけだし」
「しかし……」
どこか手持ち無沙汰な様子でその場に立っているマルクト、今日に限らず彼女は飯時になる度に似たような行動を繰り返す
手伝おうとしてくれる気持ちは嬉しいが、特に毎食作る事に疲れを感じてる訳でもないしそこまで気を遣わなくてもとは思うが……ていうか───
「マルクトって料理できるのか……?」
「はい、必要な知識は全て揃えておりますので」
何となく疑問が口から溢れてしまい、それをマルクトが拾った
そっか、知識か……うーん……知識だけかぁ……
「マルクト、米はどうやって炊く?」
「水でしっかり洗ってから白濁した水を捨て、再度適量注いでから炊くのですよね?」
「この二つの瓶を使う際、何を注意するべきか分かるか?」
「塩と砂糖ですね、その二つはとてもよく似ているのに味は全く正反対なので使用する際は間違わないように気を付けなければいけませんね」
よかった、少なくとも洗剤で米を洗う様なありきたりな飯マズキャラや塩と砂糖を間違えて盛大にぶち込んでしまうドジっ娘キャラではなさそうだ
牛牧さんみたいに何故か料理に生命が宿るなんていう不憫な属性も無さそうだし、それにマルクトが料理した方がアイツらも〝お姉様の手料理が食べられる〟って喜びそうだし……
「……うん、それじゃあお言葉に甘えてちょっとだけ手伝ってもらおうかな」
「はい、お任せください」
「ちょっと待ってろ、今エプロン脱ぐから」
「いえ、我はこのままで構いません。家族がお腹を空かして待っていますから一刻も早く完成させて振る舞わなければ」
「何言ってんの、こんな綺麗な肌に油跳ねさせるわけにゃいかねえだろ……ほら、後ろ向きなさい」
「……ありがとう、ございます」
無言で佇むマルクトをくるりと回転させ、後ろからエプロンを着せて紐を結ぶ
……そういや俺もガキの頃、母さんの料理を手伝おうとした時にこうしてエプロン着せてもらったっけな
母さんが作る甘い卵焼きが好きで好きでたまらなくて、それを自分で好きな時に作れたら絶対幸せになれるだろうなと思って
結局母さんには卵を溶く作業しかやらせてもらえなかった上に〝パパかママが一緒に居る時しか料理はしちゃ駄目よ〟としっかり釘を刺されてしまったが
……目覚めた日=誕生日とするならマルクトの実年齢ってあの頃の俺より下なんだよな、そのせいか妙な親心……というかお節介心を抱いてしまいそうだ
「よし、結び終わったぞ」
「……?酒泉、暖房をつけましたか?少々顔が熱いような気がするのですが……」
「今火ぃ点けてるからそれだろ」
「それもそうですね、失礼しました」
「それじゃあ……先ずは何をすればいいのか分かってるな?」
「ええ、先ずは肉から炒めればいいのですよね?この程度、造作もない事です」
「そうか、そりゃ頼もしいな……んじゃあマルクトはフライパンの方を頼む、俺は中華鍋に入ってる方を炒めるから」
そう言うとマルクトは素直に頷いて俺の隣まで移動してきた、こうして二人並んで台所に立っていると少し前まで人類の存亡を懸けてぶつかり合っていた事実を忘れてしまいそうになる
なんて考え事も程々に……まずは用意していた肉を投入し、弱火で点けた火を強くしてから全体に火が通る様に肉をバラけさせる
フライパンと違ってサイズも大きめなので火力もそれに応じて高めに……よし、こんなもんか
使い始めたばっかの頃に比べて感覚で火力調整できる様になってきたな、多分気付かぬ内に俺の頭の上辺りで〝ガコン!〟とか鳴ってて、それで中華鍋に適応したのだろう
さてさて、それでマルクトの方は……
「料理は火力が重要……」
(うん、大丈夫そうだな)
特にアドバイスを送る必要も無さそうなくらい、常識的な言葉を呟くマルクト
彼女はそのままフライパンの取っ手を掴む───と見せかけ、何故か手のひらをフライパンに向け
「起動確認、弾道修正」
ドギュン!!!……とマルクトの遠隔兵装が物置からリビングまで飛来し
「あー、また負けかぁ……」
「ま、全く歯が立ちません……」
「ぐ、ぐぎぎぎぎぎっ……砂狼シロコ!こんな子供相手に本気を出すなんて恥ずかしいとは思わないんですか!?」
「ん、始めたての初心者をボコボコにしてる時が一番気持ちいい」
《日頃から酒泉さんに負け続けてるせいで性根が歪んでしまいました》
「な、なんて大人気のない───きゃあっ!?」
「な、なになに!?」
「何か飛んでいきました……!」
リビングで戯れていた皆の頭上を通過し、そのまま台所まで飛んできてマルクトの肩横で静止
そして俺達と戦っていた時の様に尖端を光らせ始めた
「出力上昇、10%、20%、30%、40%……調整完了、発射開始────」
「止すんだ、(肉野菜炒めが)存在を失うぞ」
「?」
肉野菜炒めちゃんを庇う様に腕を伸ばした事でマルクトはキョトンとしながらも攻撃を止めてくれた、えらいね
……うーん、そっちタイプの料理下手属性だったかー、火力が大事ってそういう意味じゃないんだけどなー
「いいかマルクト、肉を炒めるのに武器を使う必要はない、ただこのフライ返しで肉をひっくり返したりしてやればいいんだ」
「その棒にそれだけの火力がある様には見えませんが……」
「違う、火力っていうのはこのフライパンを通して伝わる熱の事だ、だからそんな物騒な物はしまうんだ」
「そうでしたか……これは失礼しました」
マルクトがすっと手を降ろすとフィンファンネル擬きが再びすっ飛んでいった、多分物置部屋に帰っていったのだろう
気を取り直してマルクトにフライ返しを手渡すと、マルクトは慣れない手つきで肉を炒め始めた……が、あまりにもぎこちないさすぎて肉を一面フライパンに押し付けてるだけになってしまっている
これでは全体に火が通らず、裏が焦げ焦げ表が生焼けのお腹ぶっ殺しゾーンが出来上がってしまう
「マルクト、そんな強めに押し付けなくてもいいぞ。もうちょいサッと……混ぜる感じで」
「こう……でしょうか?」
「そうそう上手上手、この後野菜も投入するからその時は溢れない様にもうちょい勢い弱めで───わっぴぃ!?!!?」
「ん、私も手伝う」
マルクトにマンツーマンで料理を教えていると、突如シロコさんが背後から接近し、俺の頬にキンキンに冷えたペットボトルを当ててきた
気配には気付いていたが、てっきり冷蔵庫からジュースでも取りに来ただけかと思って完全に油断していた
「なにすんだよ……思わず変な悲鳴上げちゃっただろ」
「……二人だけで料理するのはずるい、酒泉はまず真っ先に私を呼ぶべき」
「いや、だってシロコさんゲームに夢中になってたじゃん」
「違う、ゲーム自体には夢中になってない、ただ初狩りを楽しんでただけ」
「クソカスがよぉ……」
《可哀想な人です》
「弱ければ搾取されるだけ、この世は所詮弱肉強食だから……お肉まだ?」
「弱肉強食で飯のこと思い出してんじゃねえぞ」
「───ていうか!何勝手にお姉様と料理してるんですか!」
シロコさんにボコボコにされたオウルの様子が気になって軽く視線を向けてみれば特に落ち込んだ様子も見せず、それどころか案の定俺の方に噛みついてきた
はいはい、どうせ〝お姉様をこき使うな!〟とか言うんだろ?俺が悪うござんしたー
「妹である私達を差し置いてお姉様との料理イベントを堪能するなど……!」
「あ、そっちね」
「声掛けてくれたら私達も手伝ったのに……って、もう殆ど完成しちゃってるし」
「後は野菜と一緒に炒めるだけだな」
「で、では私はお皿を用意しておきますね!」
「おう、ありがとな」
背伸びをして食器棚から皿を取り出すアイン、その後ろ姿が幼き頃の自分を彷彿とさせる
そうだ、俺もああやって皿を運んで……でもアインと違って落ち着きのないガキンチョだったから転びそうになって、それを父さんが受け止めてくれて
それからだったか、俺が料理をする際必ず〝慌てちゃ駄目よ〟って言われるようになったのは、火も刃物も全部危険だから暫くはおにぎりやサンドイッチを作る時しか手伝っちゃ駄目だって……
「で、私は何すればいいの?」
「……」
「酒泉?……聞いてる?」
「……なあ、ソフ。今度さ、皆でおにぎり握ってどっか行くか」
「……急にどうしたの?まあ、私は構わないけどさ……」
なんとなく、皆でそうしたくなった
ただそれだけだ
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世の中にはコーヒーの味の違いが分かる人間が居るらしい
風味が違うとか、匂いが違うとか、これはインスタントだとかこれはドリップだとか……残念ながら俺はその類いの人間ではないので味の濃さや微糖等の甘さの違いしか分からないが
一杯何千円のコーヒーとそこらの自販機で売ってる百円くらいの缶コーヒーを同時に出されても、俺はきっと何も知らぬまま能天気な顔で両方とも飲み干すんだろうな
「……苦ぇ」
まあ、俺の場合糖分のお供以外は眠気覚まし用にしか飲まないしあんま関係無いけど
その眠気覚まし用だって今日みたいな考え事に耽たい時にしか飲まないし、この苦味を口にするのは結構久しぶりだったりする
昔は〝どうやって原作を乗り越えるか〟って徹夜で考え込んだりしてコーヒーのお世話になる日がちょくちょくあったんだけどな……それが今じゃ原作知識が役に立たなくなった事で〝考えるだけ無駄〟という結論に至り、結果的に健康な生活を送れている
「……なんか、慣れないな」
こんなに沢山の人の気配が家にある事に未だ慣れない……勿論良い意味で、だ
しかし、俺とシロコさんとプラナとプレ先、それに加えてマルクト四姉妹は……ちょっと気配集まりすぎか?
「……引っ越し、考えてみるか?」
でもなぁ……俺を拾った先輩達が探してくれたこの家、ローン組む時くっそ安かったんだよなぁ……
つーか今更だけどどうしてあんな安かったんだろ、確かに大掃除する前は屋根裏に巨大蜘蛛の糸が張り巡らされていたり変な御札が大量に張ってる部屋があったり掃除中に人間の指らしき物がころんと出てきたり血で錆びた拷問器具が放置されていたりリビングの角に謎の動く植物が生息してたりしたけど、だからってインフラ込みで月3万5000は流石に……
「────理由しかねぇ……!」
なんで〝ゲヘナではよくある事だよ〟って言葉に流されちまったんだあの時の俺は……原作知識のせいか!?原作でとんでも事件ばかり起きていたせいで〝ほなゲヘナならしゃーないか……〟とか思っちまったのか!?
で、でもそのお陰でここまで生活してこれたし……何も悪いことばかりじゃないよな……うん……それにあの人達が内装の修理手伝ってくれたお陰で結構早い段階から辛うじてに暮らせる環境にはなったし
『いいか酒泉、攻撃が効かない時はゼロ距離まで詰めて弾丸ぶっぱすりゃいいんだ、そうすりゃどんな相手だろうと多少はダメージが入る。因みにアタシはこの方法で勝てた試しは一度も無い』
『どう?このオーダーメイドナイフかっこいいでしょー、しかもめちゃくちゃ頑丈で……え?実戦で使ってるとこ見たことない?当たり前じゃん、くるくる回してかっこつける用なんだから。てか私戦闘クソザコだし……あ、気になるんだったら作ってくれた人紹介しようか?』
『良いこと教えてあげるよ~、守りが硬い相手にはね?とりあえず精神攻撃試してみな~。特にゲヘナなんか野蛮な人が多いし、一見冷静に見える人にも意外と効果あったりするからさ~。具体的には口で煽るとか……ん~?私の場合は煽った後そのままキレた相手にボコられるけど~?勝てるかどうかはまた別だよね~』
『え?武器を沢山持ってる理由?ふっ……そんなの色々使えた方がどんな状況にも対応しやすいからに決まってるだろう?まあ、私の場合は持ってる数が多すぎてまともに動く事もできずそのままやられてしまうケースの方が多いがね!ていうかそれしかない!ははははは!……次笑ったらバイト代無しにするからな?金持ち舐めるなよ』
『いいかい酒泉、私達は弱い、そこらの生徒とタイマンしたら8割負けるくらいにはね。……でも、君はそんな私達の何倍も弱い。君の存在はキヴォトスで生きていくにしてはあまりにも脆すぎる、だからこれは私からのアドバイスだ…………逃げちゃいなさい。推しを支えたいとか風紀を守りたいとか、そんな思いは全部捨ててキヴォトスの外に逃げちゃいなさい。そこで君は自分と同じヘイローを持たない人と出会い、その人と幸せになり、子供も出来て、鉛弾とは縁の無い生涯を全うするんだ。もしそれが嫌なら……うん、私にはどうする事もできないね、せいぜい自分の考えが間違っている事を祈るのみだ。実は私が大節穴で、本当は君に才能がたっぷり眠っていて、私がゲヘナを卒業してから暫く経って、戦術対抗戦で大活躍した君を何かの拍子に偶々ニュースで目撃して〝ああ、あの少年がこんなに強くなったんだな〟って想いに耽る……願わくは、そんな未来を』
「……あのよわよわ先輩達、今何してるんだろうなぁ」
特に喧嘩した訳でなくとも卒業したら何故か友達と疎遠になる、そんな話をどこかで耳にした記憶がある
俺の場合今でもモモトークで会話する先輩や後輩が居るし疎遠とまではいかないだろうけど、でも直接会う機会が目に見えて減ったのは確かだった
……どっかで長い休み取れたら、久しぶりに色んな人に会いに行こうかな
「……今日はやけに昔の事を思い出すな」
まあ、それもいいだろう
過去を引き摺りすぎるのも良くないが、かと言って完全に忘れ去ってしまうのも悲しい事だ、あまり引っ張られすぎないよう適度に振り替えるとしよう
「……さて、そろそろ───」
「……酒泉?まだ起きていたのですか?夜更かしは身体に悪いですよ」
「マルクト……起こしちまったか?」
「いえ、我はリビングに〝すまほ〟を置き忘れたのを思い出したので回収しに来ただけです」
夜の11時を指し示している時計の針を見て寝る準備をしようとするが、背後からマルクトの声が聞こえたのでその手を止めた
振り向いてみれば真っ白なネグリジェを着たマルクトが視界に映り、絵の様なその美貌を前に思わず一瞬だけ胸が高鳴るのを感じてしまった……不覚
「悪い、心配してくれてるとこ申し訳ないけどコーヒー飲んじまったから暫く眠れそうにねーや」
「コーヒー……あの茶色い泥水の様な液体ですか?」
「言い方よ」
若干飲む気力を削がれる様な言い方をされながらコップに残ったコーヒーを一気に飲み干す……うん、冷めても苦いままだ
やっぱこういうのは甘いもんと一緒に飲むに限る……ん?
「……」
「……どうした?」
「あ……いえ」
コップを台所まで持っていこうと立ち上がると、マルクトがジーっとこちらを見つめている事に気が付いた
「なんだ?もしかしてコーヒーに興味あるのか?」
「少々」
「なら飲んでみるか?……少しだけ眠れなくなるかもしれないけど」
「良いのですか?」
「おう、インスタントだけど構わないよな?……つっても分かんねえか、とりあえず何もトッピングせずありのままの渡すからな」
「はい、ありがとうございます」
砂糖もミルクもシロップも何も混ぜず、粉をお湯に溶かすだけ
ただそれだけのコーヒーをマグカップに注ぎ、一応〝熱いから気を付けろよ〟と忠告を添えてから手渡す
それからマルクトはコーヒーを数秒程見つめた後ふーふーと何度か息を吹き掛け、コーヒーを冷ましてから口先をマグカップにつけてチビチビと飲み始めた
「これは……」
「どうだ?苦いだろ?」
「はい、ですが……苦味が強いだけで不味いとは感じません、むしろどこか惹かれるような……」
マグカップを両手で包みながらそう呟くマルクト、その横顔は微かに笑っている様に見えた
……今度から朝食の時はコーヒー淹れてやるか
「しかし、何故酒泉は就寝前にカフェインを摂取してしまったのですか?これでは人間が生きていく上で欠かせない〝睡眠〟という行為を取る事ができません」
「それでいいんだよ、まだ寝たくなかったからな……仕事を片付ける為とか、考え事したい時とか、コーヒーってのはそういう時にも飲むんだよ」
「もしや仕事等が残っているのでしょうか?それならば我が手伝いましょう」
「んや、考え事の方だから気にしないでくれ」
そう告げたはいいものの、マルクトは何かを言いたげに此方を見たまま……もしかしたら俺が何か思い悩んでいると勘違いしているのかもしれない
「心配すんな、考え事と言っても悩みとかそういうのじゃないから……ちょっと昔の事を思い出してただけだ」
「昔の?」
「ああ、最近妙に過去に浸りたくなる事が多くてな……」
「そうでしたか……酒泉は我と正反対なのですね」
「……と言うと?」
「我は最近、未来の事ばかり想像してしまうのです」
マグカップから口先を離し、長い髪を垂らしながら俯くマルクト
虚空を見つめているかの様なその表情は、俺の眼でも感情を読み取る事ができない
「我等が想定していたのは鋼鉄大陸の拡大を完了させた後の未来ですので……現在の我等の在り方はその想定していた未来と大きく異なっています」
「レールの無い人生は不安か?」
「正直に言えば少々……しかし、同時に心踊るのもまた事実です。役目を失った事や先が視えなくなった事への不安はありますが、それ以上に今は皆と生活を共にしながら〝世界〟を知っていく事に喜びを見出だしています」
天井を見上げながらそう語るマルクトの声色は俯いていた時と変わらず、しかし表情だけは確かに先程よりも明るく見えた
「それに、今では〝あの計画は失敗してよかった〟とすら思っています。もしあのままこの世界が鋼鉄に染まっていれば皆と〝しょっぴんぐ〟する事もできず……妹達の愛らしい姿を目にする事も出来ませんでしたから」
「……こうしてコーヒーの味を知る事も出来なかったかもしれないしな」
「はい、なので改めて皆さんに礼を言わせてください、〝我等を止めてくれてありがとうございます〟と。そして酒泉、我と────」
「────我等を家族にしてくれてありがとうございます」
俺の両頬に手を添えながら感謝を伝えてくるマルクト、少しだけ頬が熱くなってきたのは人肌に触れてるからか
そうして互いに動かぬまま十秒程経過した頃、流石に照れ臭くなってきたので〝おう〟とだけ返事をして両頬から手を離してもらった
「き……気にすんな、そもそもお前らの役目ぶっ壊しちまったのは俺達だからな……その責任くらい取るって」
「そうですか……しかし今更ですが、攻撃を仕掛けたのは我等からなのですからそこまで気に掛けなくても───」
「ああもう!そんな太古の昔の事は語らなくていいんだよ!全ては過去!終わったことだ!」
「まだ半年も経っていませんが……」
「さーて!そろそろ寝よっかなー!」
なんだか急に気恥ずかしくなってきたので話を強制的に中断して逃げるようにリビングの角まで向かう、そこに置いてあるのは俺が購入した二つ目のソファー
なんとコイツ、所謂ソファーベッドというやつで背凭れ部を強く押すとベッド状に変形するのだ!しかも元から置いてあるソファーと組み合わせればダブルベッドくらいのサイズになるんだぜ!こいつがあればリビングだろうと一瞬で寝室に早変わりって訳よ!
「……酒泉、私は未だに納得できません」
「ん?何が?」
「私達に私室が与えられ、家主である酒泉がリビングで寝るなど……」
「ああ、なんだそれか……前にも言ったけど、俺は別にどこでだって寝れるし気にしなくていいんだぞ?」
これは遠慮して嘘を吐いている訳ではなく本当の事だ、風紀委員の仕事が多忙すぎるあまり気付かぬ内にどこでも仮眠できる体質に変化していた
多分他の風紀委員にも似たような人達はいるだろう、空崎さんなんか特に……この前なんか移動中の揺れる車内且つ野郎(俺)の膝枕なんていう二重苦みたいな状況でもぐっすりしてたし
「いえ、それでは我の気が済みません……やはり酒泉も我等と同じ部屋で共に眠りませんか?アイン達も酒泉の事が大好きなので許してくれる筈です」
「多分好き嫌い関係なく断られると思うぞ……というよりも俺の方から遠慮させてくれ、流石に身が持たん」
現在の折川ハウスの部屋割りを説明すると
二階個室・アトラ・ハシース組(旧旧酒泉部屋)
一階リビング隣の部屋・鋼鉄大陸組(旧酒泉部屋)
……となっている
後は物置や屋根裏や風呂場トイレ等個室として使えそうな場所は無いので必然的に俺がリビングで生活する事になる、もしかしたら二階建ての癖にあんま部屋多くないのもこの家が安かった原因の一つなのかもしれない
「身が持たない……やはり我等は酒泉の負荷になっているのでしょうか……」
「あああああ違う違う違う!そういうのじゃない!そういう意味じゃないから!」
「しかし……」
「ほらあれだ!マルクト達が美人すぎて意識しすぎちゃうとかそういう意味だ!決して悪い意味とかじゃないからな!?」
「そ、そうですか……?」
マルクトが露骨にしょんぼりした顔を見せた瞬間、咄嗟に先程の発言に追記を加える
実際同じ部屋で暮らすとなると幾ら家族相手でもどうしても意識してしまう場面には出会してしまうだろうし、今言った事も強ち間違いではないだろう
「しかし、それでも気が引けてしまいます。我やシロコさんの傍には常に誰かが居るというのに、酒泉だけこの広い空間で一人というのは……」
「大丈夫だって、慣れてるから」
ていうかシロコさんが来る前はそれが普通だったしな、自分以外の呼吸音が聞こえない生活の方が長かったし
むしろ今は閉じられてる扉を見る度に〝皆この奥で寝てるから静かに移動しないと〟って思えるだけ十二分に恵まれすぎている、以前はそんな気を遣う必要すらなかったのだから
「……そんな寂しい事を言わないでください、酒泉」
「……マルクト?」
だというのにマルクトは悲しそうな眼をしながら俺の両手を握ってきた
何故だろう、本当にもう悲しい事なんか無い筈なのに
「苦しんでいる時には慰め、嬉しい時は共に喜び、悲しんでいる時は涙を拭ってあげる……それが家族というものだと我はここでの生活で学びました」
「……」
「孤独に慣れないでください、我に妹達が居るように、酒泉には我が居ます。だからどうか……もっと、我等を頼ってください」
一人で寝る事に関しちゃ前世でも小学生の頃から、早いと幼稚園児の頃からそうしてた人達の方が圧倒的大多数だろうし今更何とも思わない
しかしどれだけ月日が経とうと〝家族〟との繋がりだけはどうしても忘れずにはいられない、だからこそ今はそこまで孤独を感じていなくてもマルクトの言葉が胸に響いた
……ここまでファミコンだったか?俺
「そう、だな……でも、やっぱ一緒に寝る事はできないな」
「むっ……」
「その代わりと言っちゃなんだが、俺が眠くなるまで雑談に付き合ってくれないか?まだまだコーヒーの効果が切れそうにないんだ」
「分かりました、今日のところはその案で妥協しましょう」
「妥協じゃなく諦めてくれると嬉しいんだがな……そうだ、せっかくだしお菓子でも持ってくるよ、コーヒーに合う程好い甘さのクッキーがあるんだ」
自分のマグカップをテーブルに置き、ソファーを元の形に戻してから台所へ向かう
……あ、でもその前にちゃんと伝えておこう……また変に照れ臭くなってしまう前に
「マルクト、さっき〝家族にしてくれてありがとう〟って言ってたけど……俺の方からはまだ伝えてなかったな」
「はい?えっと……何をでしょう────」
「出会ってくれてありがとな」
「───っ」
そう告げるとマルクトは口を小さく開いたまま固まってしまった
マルクトでもそんな反応するんだな……なんか意外だ、これから共に生活していくに連れてこういう一面もどんどん見つかったりするのだろうか
「んじゃちょっと待ってろー、えーと……お皿お皿……」
「……」
「まあ、適当なのでいいか……クッキーは半分ずつなー」
「……酒泉」
「ん?どうした?」
「本当に暖房等はつけていないのでしょうか、やはりこの部屋は暑い気がします」
そう語るマルクトの頬は、確かに少しだけ暑そうにうっすらと赤く染まっている様な気がした
各学園別モブちゃんの反応の違い
ワイルドハントモブ「あっ♡エリちゃんだ♡」
ミレニアムモブ「あっ♡ケイちゃんだ♡」
ゲヘナモブ「クソボケだああああああああ!!!今日こそ潰せえええええええええ!!!」
クソボケ「……」