クソボケのことが大大大好きな生徒達   作:あば茶

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エリカが思ったより湿度高くてヤバイです

クソボケ、出番だぞ食われろ


ソノ結論、予測不能(マルクトその13)

 

 

 

 

「愛しています、酒泉」

 

 

夜風と共に流される告白、それを耳にしたのは酒泉ただ一人だった

 

今は噂好きの近隣住民の主婦方々も夕飯の仕度中か絶賛夕飯中らしく、二人の周辺には一切の人の気配が存在していなかった

 

だからと言って外で堂々と告白するなど並大抵の勇気では出来ない筈だが、マルクトは変わらず酒泉に抱きついたまま愛を囁き続ける

 

 

「我は漸く自分の気持ちを理解する事が出来ました、この感情が何なのかを……これは〝恋〟という感情でしょう」

 

「……その、根拠は?」

 

「我は酒泉の声を聞いた瞬間に居ても立ってもいられなくなり、即座に抱きしめに行ってしまいました。そして、こうして酒泉に抱きついているだけで歓喜すると同時により強く酒泉を求めてしまっています……我の心と身体その物が〝恋〟だと裏付ける証拠だと思いませんか?」

 

 

普段の酒泉であれば昨日の今日で答えを自力で見つけ出したマルクトに何があったのか訊ねているところだろう

 

しかし今の彼にそんな余裕がある筈もなく、柔白い手から抜け出せず立ち尽くす事しか出来なかった

 

 

「答えを得たその時から、我はあらゆる媒体で〝愛〟について調べました。テレビやスマートフォン、それと酒泉が読んでいる〝まんが〟からも少々……〝恋〟に関して全部の媒体が全く同じ解釈をしている訳ではありませんでしたが、それでもどの参考資料にも必ず一つは我との共通点が見受けられました」

 

「愛する者が他の女性と会話している時に感じるモヤモヤ、これの正体は〝嫉妬〟だと」

 

「誰にも渡したくない、ずっと自分の元に縛っておきたいと、そう思ってしまう感情の正体は〝独占欲〟だと」

 

「誰かと密着している時に体温が上昇するのも、そんな危機的状況でも相手の方と離れたくないと思ってしまうのも、全ては自分がその方を愛しているからだと」

 

 

マルクトの言葉は否定しようが無い程に正しく、彼女にとっての〝恋〟は酒泉にとっての〝恋〟と全く同じ意味を持っていた

 

彼女自身がそれを恋と定めたのならば他者にそれを否定する権利などある筈もなく、酒泉に出来る事と言えば精々彼女の覚悟を正面から聞くことのみ

 

 

「……ずっと疑問に感じてきました、我は家族全員を愛している筈なのに、何故酒泉に対してだけこの様な危険な想いを抱いてしまうのかと」

 

「我は確信しました、我が酒泉に向けているこの醜くも捨てがたい感情の正体は〝恋〟なのだと」

 

「故に、我は妹達に向けている愛とはまた別種の愛を酒泉に向けているのだと」

「あ……えと……じゃ、じゃあマルクトは俺のことが好きって事で……いいんだよ、な?」

 

「はい、我は酒泉を〝共に一生を過ごしたい一人の男〟として認識しています」

 

 

その瞳には一切の迷いがなく、態度もつい先日までの弱り切っていた姿を感じさせない程に堂々としていた

 

だが、マルクトの急激な変化に思考が追い付いていない今の酒泉は、しどろもどろになりながらも何とか口を開くだけで精一杯だった

 

 

「そして、そんな貴方と〝本当の家族〟になりたいと……我はそう思っています」

 

「っ……」

 

 

酒泉は疾うに〝本当の家族だ〟と思っているが、マルクトが言いたいのはそういう事ではないとも理解している

 

彼女の言う〝本当の家族〟というのは恐らく夫婦等の関係の事を指している、それを理解してしまっているが故に酒泉はより悩む羽目にあっていた

 

 

「……ま、待ってくれ……もしマルクトの思いが本当に〝恋〟だったとしても、ここで告白するのは早急すぎやしないか?」

 

「……どういう意味でしょうか」

 

「マルクトはまだ目覚めたばっかだし、知識としてはキヴォトスの事を知っていても実際にその身で生活し始めたのは最近の事だろ?つまりは長い人生の中で俺なんかより素敵な人を見つける可能性だってある訳だ」

 

 

折川酒泉は自己肯定感が低い人間ではないが、相手の為を思いすぎるあまり過剰に気を遣ってしまう節がある

 

もしマルクトが既に十数年以上人生を経験してきた女性であったならば酒泉の余計なお節介も発揮される事はなかっただろうが、ここに来て肉体の稼働時間の短さが告白の邪魔をしてしまった

 

 

「……成る程、確かに酒泉の言う事も一理あります」

 

「だ、だろ?だからさ、もう少し時間が経ってからでも───」

 

「では、その〝素敵な人〟とやらは何時現れるのでしょうか」

 

「え?……そ、そりゃあ……」

 

「明日でしょうか、それとも明後日か明々後日でしょうか、何日後、何週間後、何ヵ月後」

 

「マ、マルクト?」

 

「何年後後、何十年後、何百年後、我は何時まで待てばよいのですか?」

 

 

元より妹絡みの事になれば穏やかな笑みを浮かべる性格ではあった、それでも関わりの薄い者からすればマルクトは感情の起伏が少ない者に見えているだろう

 

しかし今のマルクトは相変わらず無表情に近いながらも、初めてマルクトを見る者ですら〝怒っている〟と明確に感じ取れる程にそういう雰囲気を醸し出していた

 

彼女にしては非常に珍しい、明確な〝怒り〟が恋心と同時に沸き立った瞬間であった

 

 

「教えてください、酒泉。〝いつか〟とはいつなのです」

 

「……すまん、ちょっと……いや、大分無責任だったな」

 

「……その〝素敵な人〟に出会うのが我が目覚めたあの日だった、そういう解釈は出来ませんか?」

 

 

管理された平和と自由な平和、互いに譲れぬものを懸けて戦ったあの日こそがマルクトにとっての運命の出会いだったのだと

 

そう告げたマルクトは酒泉の首に回していた手を背中まで降ろすと両手に力を込め、酒泉の体温を求める様により強く抱擁した

 

 

「酒泉、我に好かれるのは御迷惑でしょうか。もし今後互いの関係が気まずくなるのが嫌だというのなら我はすぐにでもここを去ります……ですが、せめてこの想いだけは残させていただけないでしょうか。酒泉が目の前に居なくとも、酒泉とどれ程距離が離れていようとも、せめて〝好き〟という想いだけはずっと抱き続けていたいのです」

 

「っ、違う!迷惑なんかじゃない!」

 

 

折川酒泉はあまりにも鈍すぎる

 

戦闘事に関わっている時の鋭さとは正反対、日常に身を置いている時の彼はあまりにも鈍感すぎる

 

しかし、告白までしてくれた目の前の女性が傷付きそうになっているのに何も思わないほど愚鈍という訳ではない

 

 

「俺だって嬉しかったさ!マルクトがこんなにも想ってくれていたなんて!こんなに心を許してくれていたなんて知れて!ただ……その……展開が急すぎてなんて答えればいいのか……」

 

 

正実の彼女の様に他人という関係から告白された訳ではなく、災厄の狐の様に露骨に好きだと態度に出されていた訳でもなく、家族という最も身近な存在からの唐突な告白

 

彼に石を投げられる者が存在するとしたら、それは家族に告白されても一切動じる事なく冷静に対処できる者だけだろう

 

 

「その……俺もマルクトの事は好きだけど、でもそれがどういう感情なのかは自分でも────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、いえ……我は今すぐに答えを欲している訳ではなく……これでは言葉足らずですね、失礼しました」

 

しかし、ここでまさかの告白者本人が巨大な一石をぶん投げた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……うぇ?」

 

「〝想いを伝えにきただけ〟と、始めからそう説明するべきでしたね……気持ちが先走ってしまうとは、これも恋の恐ろしさなのでしょうか」

 

 

梯子を外された様な気分に陥った酒泉は口を半開きにして頭にクエスチョンマークを浮かべる

 

そんな酒泉の様子を見てマルクトは〝申し訳ありません〟と謝罪を口にし、冷静に自身の目的を話し始めた

 

 

「我はただ、我が酒泉を好いているという事実を酒泉に知っておいてもらいたかっただけです」

 

「えっ……じゃあ、答えとかは特に求めていないと……?」

 

「はい……今は、ですが」

 

「今は?……えっと、つまりお互いに結婚できる年齢になってからとかそういう意味か?」

 

 

改めて告白された際の言葉を思い出す酒泉、確かに彼女は〝本当の家族になりたいと思っている〟とは言っていたが〝本当の家族にしてほしい〟と頼んではいなかった

 

しかしその考え方だと目覚めた日がマルクトの誕生日だとしたら自分が答えを出すのは18年後だと頭を抱えるが、どうやら酒泉が思っていた意図は違っていたらしくマルクトは首を横に振った

 

 

「そういう意味ではありませ……いえ、かなり低いですがその可能性もありますね。結局のところは彼女次第ですから」

 

「か、彼女……?」

 

「我もある程度〝恋〟を理解できるようになりましたが……その中で一つ分かった事があります、それは〝彼女は意外と奥手〟だという事です」

 

「その彼女ってのは誰の事で……」

 

「酒泉、我が答えを求めるのは〝彼女〟も想いを伝えてからです」

「いや、だからその彼女ってのは一体───」

 

「そうでなくては……〝フェア〟ではありませんので」

 

「だから〝彼女〟ってなんなの!?」

 

 

怖いよぉ!?と叫ぶ酒泉をスルーしてにっこりと微笑むマルクト

 

恋を知ったその瞬間から〝彼女〟とマルクトの関係はライバルに変わった……そう、敵ではなくあくまでライバルである

 

故に借りた物は返す、そうでなくては〝彼女〟の言った通り〝フェア〟ではないから、それがマルクトに出来る最大限の譲歩である

 

 

「酒泉、そろそろ玄関に向かいましょう。これ以上外に居ると夕飯の支度中のシロコさん達に怪しまれてしまいます」

 

「ま、待ってくれ!本当に答えなくていいのか!?すぐには無理だけど、それでもちゃんと考えさせてくれたら……」

 

「先程も御伝えしましたが、それは〝彼女〟も我と同様に御自身の気持ちを解放してからでお願いします」

 

「もしかして見えない誰かでも見えていらっしゃる!?」

 

 

一向に〝彼女〟の正体を明かそうとはしないマルクトに不気味さを感じた酒泉は〝帰りにお祓い用の塩でも買ってくるべきだったか〟と後悔する

 

一方でマルクトは憂いが晴れた様な清々しい笑顔をしており、上機嫌のまま酒泉の手を取って玄関まで半ば強制的に酒泉を連れ帰ってきた

 

……その手が僅かに濡れていたのは、彼女と密かに緊張していたからだろうか

 

玄関の扉を開けて廊下に上がれば、その音を聞き付けたのか三姉妹がリビングからひょこっと顔を覗かせて二人を出迎えた

 

「あ、お姉様!戻ってき……ああなんだ、クソボケも帰ってきてたんですね」

「お、お帰りなさい!お兄様!」

「お、おお……ただいま……」

「失礼しました、台所に籠った熱で少々顔が暑くなってしまいまして……少々、外の冷気に当てられてきました」

「確かに……お姉様の顔、ちょっと赤いかも」

 

 

ソフの目にはほんのりと赤いマルクトの顔が映し出されるが、その顔の赤らみは何が原因であるかまでは突き止められない様子

 

その事に言及される前に酒泉は姉妹達の間をスタスタとすり抜け、ぐぬぬ顔で厨房に立っているシロコの元へと逃げ込んだ

 

 

《お帰りなさい、酒泉さん》

「酒泉?……ん、おかえり」

「おう、ただいま……調理中か?」

「……ん」

《正確には二度目の調理です》

「二度目?」

《一度目の調理の際、シロコさんが中華鍋でも入りきらない程の大量の野菜と肉を同時に焼こうとした結果……》

「全体に十分に火が行き届かず、外面だけよく焼けた中身真っ赤の肉が大量生産されたと……まだ誰も腹壊してないよな?」

《肯定、オウルさんが焼けている部分を少し齧った段階で発覚したので大事には至りませんでした》

 

 

危うく自宅のトイレに列が出来かけるところだったと安堵の溜め息を吐く酒泉

 

〝銀行を襲う様な輩に繊細な作業をやらせるべきではなかったか〟と後悔するが、即座に〝いや肉を焼くだけなんて繊細でも何でもないだろ〟と考えを改めた

 

しかし酒泉の呆れ眼からそう考えていたのが伝わってしまったのか、シロコはむっとした顔で酒泉をしっしと酒泉を追い払う手振りをした

 

 

「ここは私一人で十分、酒泉はさっさと退くべき」

「はいはい、後はお願いしますよー」

「お、お兄様!それでしたら先にお風呂に入るのはどうでしょうか?わ、私がピカピカにしておきましたので!」

「……その方がいいかもな。ありがとな、アイン」

「い、いえ!……あ、あの」

「……?」

 

 

実際、アインの申し出は酒泉にとってありがたく、湯船に浸かりながら先程の出来事を整理するには丁度良いタイミングだった

アインの申し出に感謝して早速入浴後の着替えを用意しに行こうとする酒泉だが、目を閉じて少しだけ背伸びをするアインに困惑して足が止まる

 

 

「……ああ、そういう事か」

 

「!……えへへ」

 

 

何かを待っているかの様な姿に首を傾げるも、突然思い出したように酒泉がアインの頭を撫で始めるとアインは顔を少し上げたまま笑い出した

 

まるで〝当然〟の事の様に撫でられ待ちをしていたアインを微笑ましく思う酒泉、そんな彼の着替えの用意を手伝うべく後ろをちょこちょことついていくアイン

 

そんな二人の背中を見守っていたマルクトが酒泉がリビングから居なくなるのを確認すると、台所で作業中のシロコに近付きひっそりと耳打ちした

 

 

「シロコさん」

「何?」

「我は先程、酒泉に想いを伝えてきました」

「……!?」

 

 

無言で目を見開くシロコ、その顔からは容易に驚愕が読み取れる

 

だが、マルクトもそのリアクションを最初から予測していたのか〝落ち着いてください〟と一言添えるのみ

 

 

「〝今すぐに答えを欲している訳ではない〟と、そうも伝えました。……我は、シロコさんが想いを伝えるまで酒泉から答えを聞き出すつもりはありません」

「……どうしてそんな事を?折角のチャンスだったのに、態々私に塩を送る様な真似を……」

「それでは〝フェア〟ではありません」

「……ん、後輩の癖に生意気言うようになった」

「いひゃいれふ」

 

 

真顔で頬を引っ張るシロコ、真顔で〝痛い〟と告げるマルクト

 

なんとも言えないシュールな光景、それを生み出したシロコが手を離すとふと笑いながらも鋭い目付きで呟いた

 

「……負けないから」

 

 

以前のマルクトであれば〝何の事でしょうか〟と聞き返していたであろう発言

 

だが、今の彼女ならばシロコの言葉を理解できる、それに対し何と返答すべきかも

 

何故なら彼女は────

 

 

 

 

「ええ、我もです」

 

 

 

 

────恋を知ったのだから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

今はまだ答えは要らない、シロコを立てる為に現状維持を望んだマルクト

 

しかし彼女の心境に変化が訪れようと、告白された酒泉が複雑に気持ちを抱えようと、世界の時間はそんな事などお構い無しに進み続ける

 

 

「という訳でアインはミニトマト大臣、ソフはナス大臣、オウルはきゅうり大臣に就任してもらいます」

「何が〝という訳〟ですか」

「……まあ、偶にはこういうのも良いんじゃない?」

「わ、私達が大臣ですか……!?」

 

 

麦わら帽子を被りながら庭に並ぶ三姉妹、彼女達の前には手拭いを首に掛けた白い半袖姿の酒泉が立っていた

 

右手には四人分のスコップが入ったバケツが、左手には家庭菜園用の肥料が詰められた袋が握られていた

 

 

「何で私達がそんな面倒な事をやらなきゃならないんですか、野菜なんてスーパーで買えばそれで十分でしょう」

「ふーん、オウルは自分で作った採れたて新鮮野菜をお姉様に食わせたくないんだな……ああ、もしかしてあれか?美味しく育てる自信が無いからとか?」

「は???それくらい余裕ですが???」

「わ、私も頑張ります!」

 

 

スコップをぶん取ったかと思えば〝うおおおおおおおっ!!!〟と叫びながら猛スピードで庭の土を掘り進めるオウル、ビックリするくらい簡単に挑発に乗ってきたそのチョロさに酒泉は思わず将来が心配になってしまう

 

因みにアインがわたわたしながらも着実に土を掘っている横でオウルは既に息切れを起こしていた

 

 

「……でもさ、オウルの言う通りどうして家庭菜園なんて始めようと思ったの?」

「ん?……特に理由は無いけど?」

「ふーん……それ本当?」

「さあ?」

 

 

わざとらしく首を傾げ誤魔化す酒泉にジトッとした視線を向けるソフ

 

酒泉としても特別農業に拘っている訳ではなく、ただ単純に〝子供達が家に居る間の良い暇潰しになればいいなー〟程度の理由でしかない

 

家に居る間ゲーム漫画等は禁止にしている……という訳でもないので暇潰しの方法なんて他に幾らでもあるのだが、一日一回くらいは外で日の光に当たる様な切っ掛けも一応は作っておいた方が良いだろうという判断だった

 

そうして酒泉が満足げに頷きながらアインとオウルを見守っていると、そんな彼にソフがそっぽを向きながらどこか遠慮がちに話し掛けてきた

 

「……その、さ……育てるのって野菜だけ?」

「いや、実は景観の為に花も育ててみようと思ってんだけどさ……何を植えればいいか分からないんだよなー」

 

 

縁台の隣に置かれている新品のプランターを指差してそう訊ねてきたソフ、それに対し酒泉は〝よくぞ聞いてくれました!〟と質問されるのを待っていたかの様に食い気味に答えた

 

いつの日だったか、テレビに映し出されたどこかの公園の特集

 

日を浴びて堂々と咲き誇った大量の白い花、それを何か思うところがある様にジッと見つめていたソフの姿

 

本人が居ない所でアインに〝ソフは花が好きなのか〟と訊ね、そして聞かされた────ティファレトが残したかった物

 

彼、或いは彼女が残した種の行方を知る術は最早存在しない、何故ならあの大陸は既に崩壊してしまったのだから

 

 

(アイツがどんな性格してたかなんて俺には分からない、けど)

 

 

折川酒泉は考える

 

デカグラマトンには〝心〟があった、それ故にマルクト達を助ける為に力を貸してくれた

 

ならば、もしティファレトが種を残そうとした理由が〝種子貯蔵庫としての役割を果たそうとしただけ〟ではなく〝ただそうしたかったから〟という一個人の感情だとしたら

 

 

(……自分を殺した相手にこんな事されても嬉しくないだろうけどよ)

 

 

それでも、折川酒泉はティファレトに花を見せてあげたかった

 

ティファレト自身が残した種はここには無いが、それでもティファレトが託してくれたソフと共に育て上げた花を

 

 

「……その種選びさ、わ…私が手伝ってあげてもいいけど」

「お、本当か?じゃあ今度の休日一緒に出掛けるとしますか」

「う、うん…………ねえ」

「おん?」

「……ありがと」

「……おお」

 

元よりソフの為に買ったつもりではあるが口には出すまいと〝あくまで景観の為〟という体で話を進めていた酒泉

 

しかし何となく意図を察せられてしまったのか、ソフはぼそりと小さな声で酒泉に礼を言った

 

 

「そして二人で出掛けた日の夜、酒泉はホテルのベッドの上でソフのお腹に手を当てて〝ぐへへ……こっちの種子貯蔵庫はどんな感じかな?〟と下衆な笑いを浮かべ、ソフも嫌々言いながら満更でもなさそうな表情で服を捲り───」

「ソフ、肥料はこのエロガキにするか」

「そうだね、こっちは私が何とかするから酒泉は人一人分の穴掘っといて」

「りょーかい」

「なっ!?二対一とは卑怯な───けばぶっ!?」

「お、お兄様!オウルが頭から地面に埋まって……!」

「気にすんな、いつもの事だ」

 

 

脚をピンと立てたまま土に埋まるオウル、しかし酒泉は穴を掘り進めながら既にソフと出掛ける日の事を考えていた

 

その買い物先でどこぞのロイヤルでブラッドなお姫様が何故花の事に関して自分を頼ってくれなかったのかと拗ねてしまうのはまた別のお話

 

 

 

 

──────────

 

 

 

────────

 

 

 

──────

 

 

 

 

 

 

『えーそしてこの1ヶ月間、ゲヘナやその近辺での抗争発生率自体は変わらないものの、事態の収束に至るまでの時間がかなり短くなっているというデータが取れた訳ですがこれに関して専門家の○○さんは────』

 

『そうですねー、私個人の見解としては────』

 

 

ぼけーっとしながらテレビを眺めていると酒泉の耳にゲヘナというワードが聞こえ、一瞬だけ反応したもののすぐにまた興味を失せてぼんやりし始めた

 

家庭菜園を始めようと意気込んだはいいものの、まずは肥料を撒いてから種を植えるのに一週間か二週間程待たなければならないと知ったのは耕した後での事だった

 

結局この日はそれ以上の作業をする事なく早期にリビングに戻り、手洗いを済ませた後は特にやる事もなく酒泉はソファーに腰掛けてだらだらしていた

 

 

『えー続いてはこちらです、トリニティ自治区の噴水広場で大勢のシマエナガちゃん達がお水を飲んでいると話題に───』

 

「……そうそう、こういうので良いんだよ」

 

 

漸く興味が湧いてくる様な話題を耳にした酒泉は視線を手元のスマホからテレビの方へスライドさせる

 

すると噴水の縁を囲んでいるシマエナガ達がちびちびと嘴を水に付けている光景が映し出され、元より小さくてモフモフしたものに弱い酒泉はその視線を画面の向こうに彼等に奪われてしまった

 

風紀委員会に所属している彼は基本的に年中不良生徒の相手ばかりしており、そういう〝悪い意味で〟変わらない日々を過ごしている彼にとっては僅かな癒しですら喉から手が出る程欲しているものだった

 

「愛らしいですね」

「マルクト……だろ?アイツらってなんであんなふわふわしてるんだろな」

「いえ、そちらではなく」

「?」

「彼等を見ている酒泉が、です」

「っ……」

 

 

そんな彼に背後から手を回し、肩に顔を乗せながら耳元で囁く者が

 

彼女の名はマルクト、つい最近まで恋の〝こ〟の字すら知らなかった少女である

 

そんな彼女が座っている酒泉に後ろから───所謂〝あすなろ抱き〟をしていた

 

そう、あのマルクトが、あすなろ抱きを、である

 

「酒泉はあの鳥類がお好きなのでしょうか」

「ま、まあな……実際触れ合った事があるけどやっぱ可愛かったし……」

「では、我の事も愛でてみませんか?」

「えっ」

「全体的に白で統一されており、そして空を飛ぶ事もできる……どうでしょう、きっと我の事も気に入ってもらえる筈です」

 

 

目を閉じたかと思えばそのまま頬を酒泉の頬にくっつけるマルクト、ただでさえ耳元で愛を囁かれたばかりだというのに容赦無い追撃が彼を襲う

 

……先程は〝変わらない日々〟と言ったが、実は酒泉の周りの事で一つだけ激変したものがある

 

それは────マルクトの態度だった

 

 

「我の事は愛でてくれないのですね……どうすれば我の事も〝かわいい〟と思ってくれますか?」

「い、いや……十分可愛いとは思ってるよ、けど……その……」

「では、その証明をお願いします」

「しょ、証明?」

「はい、言葉だけではなく行動で」

「……これでいいか?」

「ふふっ……ありがとうございます」

 

 

更に密接にくっつくマルクトの頬、離れる気配が無いのを察した酒泉は仕方なくくっついたままマルクトの髪を撫でる

 

するとマルクトは人懐っこい猫の様に目を細めながら口元に笑みを浮かべ、より身体の力を抜いて自分の全てを預けるかのように酒泉にもたれ掛かった

 

 

(……本当に変わったよなぁ)

 

 

あまりにも積極的すぎる性格へと変貌したマルクトを見てなんとなく気恥ずかしさを感じる酒泉

 

確かに告白されはしたが、それがまさかここまで好き好きオーラをぶつけられる程とは

 

 

(……なのにマルクト本人は〝まだ答えは出さなくていい〟って言ってるんだよなぁ)

 

 

どうして自分自身を焦らす様な真似をするのか、それだけが理解できなかったが一旦は本人の要望通り答えを控える事にした酒泉

 

あの日の出来事の後で一緒に生活していて全く何も思わぬ訳でもないが、想いを伝えられた事が原因で相手を避けるなど言語道断だと酒泉もなるべく平常心を保ってマルクトと接するように心掛けていた

 

それに自分が焦ったところで話が急に進展する訳でもなく世界はいつも通り回り続けるだけだ、ならば此方から下手に話をぶり返す必要も無いだろう

 

 

『また、連邦生徒会長の復帰によって各学園間で滞っていた問題が次々と解決されており────』

 

「…………へぇ」

 

「むっ……」

 

 

敢えて自ら能天気な方向に思考を振りながらテレビに映っている連邦生徒会長を見つめていると、マルクトはほんの少しだけ不機嫌そうに皺を寄せて酒泉の耳を優しく摘まんだ

 

 

「酒泉、今あの女性に見惚れていましたね……もしや酒泉はあの様な女性が好みなのでしょうか?」

「え?い、いやそういう訳じゃ……」

「言い訳は無用です、目の前に存在しない者よりも我に見惚れないと駄目ですよ、でないと我は〝嫉妬〟してしまいます」

「あの、だから」

「────なので、これは我からのお仕置きです」

 

 

あすなろ抱きを止めてそのまま背後から酒泉の正面に移動するマルクト、漸く顔が真横から離れた事で高鳴っていた心音が僅かに収まり酒泉は多少の平常心を取り戻した

 

しかしその直後、マルクトはなんと酒泉の膝の上にぽすんと正面から座り、そのスレンダーな身体を酒泉に押し付けて先程以上の力で抱きしめた

 

 

「ふおおっ!?」

「我以外の女性に目移りしてしまうのであれば、我以外見えなくしちゃいますっ」

「勝てる訳がないYO……!」

 

 

何に、と聞かれたら〝そのヒロイン力に〟と返す他ないだろう

 

ぶっちゃけ理性の半分程は既に〝もう駄目だ……おしまいだぁ……!〟と震えているのだが、残りの半分で耐えている辺り流石は歴戦のクソボケと言ったところか

 

やはりヒロイン力を限界突破したマルクトでも〝シロコが想いを伝えるまで答えは待つ〟という縛りがある以上はそう簡単には攻略できないらしい

 

因みにその縛りがなければ彼女はとっくの昔にゴールしていただろう、無論そんな勝ち方が許せないからこそ自らを縛ったのだろうが

 

 

「ですが、その間何もせず耐え続けるというのは至難ですね。心が張り裂けてしまいそうです」

「きっ、ききききき奇遇だな俺も今心臓が膨らみすぎて爆発しそうだよはははははは」

「……酒泉、首元に口付けてもよろしいでしょうか。定期的にこの想いをぶつけさせていただけるのであれば恐らく長期間耐える事ができると思うのですが」

「へぁあ!?」

 

 

迫真の悲鳴を上げた酒泉は目をかっぴろげて驚くも、視界は相変わらずマルクトの身体一色に染まっていた

 

しかしマルクトが僅かに離れた事でマルクトの表情を確認できる程度には距離が空いた……が、その行動はあくまで首元にキスする為の予備動作

 

恍惚とした表情で再び酒泉に近付くと、マルクトはゆっくりと顔を下ろして酒泉の首元目掛け───

 

 

「ん!!!!!」

《抜け駆けは折川家のルールで禁止されています》

 

「あうっ」

 

 

スパーン!と頭をハリセンでひっぱたく音と共に、誰かが持ってきたタブレット端末から咎める声が聞こえてきた

 

全く痛みは感じていないものの反射的に頭を庇いながらマルクトが振り向くと、そこにはシッテムの箱とハリセンをそれぞれの手に持ちながら青筋を立てているシロコとシッテム内からむむむと威嚇しているプラナの姿があった

 

「シロコさん、何故我に攻撃を仕掛けてきたのですか、何か不服な事でも?」

「何故?それはこっちの台詞……話が違う」

「話……ですか?」

「……〝待つ〟っていう話だった」

「ええ、ですから待っている間に酒泉の心を完全に我の方に向けさせて戦況をより磐石なものにしようと試みたのですが……」

《……納得、確かにマルクトさんは〝待つ〟と言っただけで〝仕掛けない〟とは一言も言ってませんでした》

「……変な知恵ばかりつける」

「ありがとうございます」

「褒めてない」

 

 

シロコとプラナは漸く自分達の勘違いに気付いた

 

確かにマルクトは恋すら知らぬ純粋無垢な少女だった、しかし彼女は〝純粋〟なだけであってどこぞのクソボケとは違い〝鈍感〟ではないのだ

 

世界を知らぬ生まれたての少女、そんな純粋な〝白〟に〝恋〟という色を垂らせば一瞬でその色に染め上げられてしまうのは当たり前の事だった

 

 

「そういえば酒泉、一つお訊ねしたい事があります。実はこの前ミレニアムに身体のメンテナンスをお願いしに向かった際、天童ケイに〝酒泉に可愛いと言ってもらいたいのでオシャレというものを教えてほしい〟とお願いしたのですが何故か怒らせてしまいまして……我は何か彼女を不快にさせる様な発言をしてしまったのでしょうか……?」

「え?さ、さあ……特に怒る要素はなかったと思うけど……」

《驚愕、一切の悪意を感じません、あまりにも天然すぎます》

「……ん」

 

 

このままでは全方位を完膚なきまでに粉砕する最強のメインヒロインが誕生してしまう

 

それだけは阻止せねばと危惧した現・メインヒロイン王者(自称)のシロコは覚悟を決めた表情でソファーに座る酒泉を見下ろした

 

 

「……酒泉、このシッテムの箱持って」

「え?……お、おう」

《酒泉さん、ちゃんとしっかり固定してください、もっとぎゅーってわた……シッテムの箱を抱きしめてください》

「は、はぁ……これでいいのか?」

「ん……いい、そのままじっとしてて」

 

 

何が何だか分からないまま、酒泉はプラ……シッテムの箱を強く抱きしめたまま座り続ける

 

確信は無いものの何となく嫌な予感がしてきた酒泉は何をするつもりなのかと訊ねようとしたら、何故かシロコは両手を広げて酒泉に飛び掛かり────

 

 

 

「ルパンダイブ!!?」

 

「ん、襲う」

 

 

 

────抵抗する暇もなく、久々に獣を取り戻した狼に勢いよく抱きつかれた






あー!早く〝月日が経つ事に徐々に世界が正常になっていって周囲から偽者扱いされ始めてメンタル弱り始めた頃にクソボケに「アンタだって本物だろ」的な言葉を投げ掛けられて依存し始めちゃう連邦生徒会長(仮)〟の話書きたいからロア編100話分くらい一気に更新されないかなー!!!
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