クソボケのことが大大大好きな生徒達   作:あば茶

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多分これで終わりです、大分先になるであろうクソボケの強化形態ネタバレしちゃった感あるけど後悔はしてません

仮面ライダーのオモチャだって音声バレとかあるし多少はね?


戦いは続くよどこまでも(マルクトその14)

 

 

 

合同火力演習の的として頑丈に作られた人形、脚部はバネで出来ており、多少強い程度の衝撃ならただ身体を揺らすだけに抑えられてしまう

 

そんな人形が一人の男を取り囲む様に設置されており、更に青い閃光が人形から人形へと飛び移り続けながら中心の男に銃口を向けている

 

常人では目で追う事すら不可能な圧倒的機動力を誇る閃光、その正体である飛鳥馬トキはただひたすらに加速を続ける

 

だというのに男は────折川酒泉は一歩も動く気配を見せない

 

 

(────舐められているのでしょうか)

 

速度と機動力に特化したその姿は獲物に狩られた自覚すらさせる暇も与えず獲物を狩る事が出来る、今の彼女は所謂〝臨戦形態〟と呼べるものだった

 

だというのに酒泉は何ら反応も見せずただじっと周囲を見渡すだけ、撃つ素振りも逃げる動作も一切しようとしない

 

その姿はトキにとってまるで〝赤信号前でぼーっとしながら待機している歩行者〟にしか見えず────

 

 

「────ちょっとムカつきました」

 

 

クールを気取っているクソボケに吠え面をかかせてやろう、そんな思いを込めて強めに人形を踏みつけた

 

人形の脚部に組み込まれていたバネの力を利用して人間砲丸の如く弾き飛ばされるトキ、しかし一度では飽きたらずそれを何度も繰り返す

 

酒泉の後ろの人形を利用して加速、次は右、前、左、後ろ、四方八方を飛び交う青い閃光はついに円の形となり、酒泉を完全に包囲した

 

 

「次の───着地位置───」

 

酒泉の視角外の的に着地したトキ、最後は〝トドメだ〟と言わんばかりに酒泉目掛けて飛び込んだ

 

間違いなく今日一番のトップスピード、しかも視角から外れての一撃、これを完璧に見極められる者など〝最強〟と称される一部の生徒達くらいだ

 

最強という言葉と共に〝約束された勝利〟の姿を思い浮かべながら、トキは酒泉の斜め後ろに着地───

 

 

「多分ここだろ」

 

「なっ……」

 

 

────それより数手も先に、彼の愛銃であるデストロイヤーの銃口がトキの額に向けられていた

 

その瞬間、確かに彼女は感じていた

 

先程例に上げた〝最強〟と呼ばれるトキの先輩、彼女と同じ空気を目の前の男から

 

 

「…………何故」

「見れば分かる」

「完全に視角外でした」

「あの速度で確実且つ安全に着地したいなら揺れていない安定した場所……つまりまだ使用していない人形を足場にしたい筈だ、だから周囲を見渡した時にその条件に当てはまりつつ最も俺に接近しやすい人形の場所を記憶しておいた」

「……ただ目が良いだけでそこまで予測できる筈がありません」

「視界から外れる直前、飛鳥馬さんの視線の方向と身体を動かすのに必要な全人体パーツの動きを視てどの方向どの距離まで移動するのか予測した」

「ムカつくので一発ぶん殴っていいですか」

「駄目に決まってんだろアンタの負けだ」

 

 

ぽこっ、とデストロイヤーの銃口で軽く頭を叩かれながら渋々降参の意を示すトキ

 

棒読みで〝参りました〟と言ってはいるものの、少しだけ頬が膨れているのでもしかしたら割と本気で悔しがっているのかもしれない

 

 

「未来予知が出来なくなったとは言っても予知擬きはまだ可能なんですね」

「前々から言ってるけど俺は未来予知してたんじゃなくて未来を〝知っていた〟だけだよ、百合園さんと違ってそこまで大層な力を持ってる訳じゃないからな」

「そうですね、ショボいです」

「ぶっ飛ばすぞてめぇ」

「なんと、女性にそんな乱暴な口を……しかしDV夫を健気に支える美少女メイド妻というのも中々絵に……」

「俺初めて飛鳥馬さんのこと見た時もっと無口でクールなキャラだと思ってたよ」

「無口クール美少女だなんて……そんな……」

「なんか最近明星さん要素増えてきてない?普通に調月さんと暮らしてる筈だよな?」

 

 

〝美少女〟とまでは口にしていないにも関わらず勝手に付け足したトキを見て全知アイマスクを思い浮かべる酒泉

 

ちなみに彼の〝初めて〟というのは前世で画面越しに見た時の話だが、当然それは言わず

 

 

「しかし以前にも増して眼のスペックが上がりましたね、完全にモノにしたという事でしょうか」

「いや、これじゃ駄目だ、これだと必要の無い計算までやっちまう」

「計算……」

「〝この状態〟の俺の眼は視界内の全部の動きを見極め、脳でその全ての〝未来〟を予測できる」

「それは良い事なのでは?」

 

トキからの問いに首を横に振る酒泉、確実に強くなっているというのにその表情はどこか険しかった

 

 

「駄目だ、例えば三発中二発の弾丸が〝避ける必要の無い弾〟って明らかに分かる様な温い攻撃だとしても、その発射位置や弾道を脳が勝手に最後まで計算しちまいやがる、そんな事にリソースを割くぐらいなら対応が必要な攻撃にだけリソース回してもっと計算処理速度を向上させた方がいい」

「しかし、油断して避けようとしなかった一手が形勢の逆転に繋がってしまう……なんて事も考えられると思いますが」

「そういう攻撃ならそもそも初動の時点で〝対応が必要だ〟と一瞬で見破れるから問題無い」

「自信満々ですね」

「実際〝この状態〟ならイケるから……っ、とぉ……」

 

 

言葉の途中で眼に違和感が走りこめかみを押さえる酒泉、咄嗟にスマホを取り出してカメラを自撮りモードにすると、赤く染まっている瞳が更に充血してきている事に気付く

 

そこから少しずつ眼に痛みが走り出すが、酒泉が自ら集中を途切れさせると痛みが引くと共に瞳の色が黒に戻った

 

 

「……これも課題だ、自力で出来るようになったのはいいけど今んとこ最高で2分11秒までだから最低でも5分は保てるようにならないと」

「……」

「それと肉体の強弱の切り替え速度とスムーズな移行も……でもこっち強くしすぎると視力が普通になっちまうからその調整も……後はデストロイヤーの使い方を空崎さんに学んで……ああ、あとはステゴロも……」

 

今後の課題をぶつぶつと呟く酒泉、その姿が最近読んだ漫画のとあるシーンに重なったトキはポツリと呟いた

 

 

「酒泉は最強になった、とでも言うべきでしょうか」

「は?」

「私が闇堕ちしたら連れ戻しにきてくださいね、酒泉」

「やだよ、ドーナッツでも釣竿にぶら下げてりゃ勝手に戻ってくんだろアンタ」

「最低でも四個は要求します」

「餌はそのままでいいのか……」

「酒泉だってそれで釣られると思いますが」

「当たり前だろ糖分だぞ糖分」

『二人とも訓練は終わりよ、戻ってきて』

「あ、はい」

「了解です」

 

 

雑談を切り上げて出口の方へ向かう二人、いかにも頑強そうな機械式の扉に近付くとガコン!という重たそうな音を鳴らしながら扉の解錠が始まった

 

完全に開き切った扉の向こう、待機室ではリオが何かの操作盤を操作しながら〝お疲れ様〟と二人に声を掛けた

 

 

「酒泉は自分の課題を自分で見つけられているようね、私が何も言わずとも長所や短所を理解しているわ」

「まあ、長年付き合ってきた〝眼〟ですからね」

「トキも以前より新装備に慣れているわね、元々完璧に使いこなしているとは思っていたけど、あの時以上に戦い方が洗練されていたわ」

「リオ様、それはつまり装備を使いこなして尚も埋められない程の実力差が酒泉と私の間にあったと言いたいのでしょうか」

「そ、そういうつもりで言った訳ではないのだけれど……」

「冗談です、ちょっとからかってみたくなっただけです」

「……お宅のお子さん、ちょっと明星さんに似てきたんじゃないですか?ほったらかしにしてると他の人の真似ばかりしちゃうんだからもっと構ってあげないと駄目ですよ奥さん」

「そうね貴方、今度時間を作ってどこか出掛けましょう」

「是非そうしてあげ……貴方?」

「?」

「なんと」

 

 

妙な呼び名が聞こえたような気がするが、酒泉はそれを気のせいだと咳払いして聞かぬフリをした

 

一方でリオは自分の発言に何ら違和感を抱かず、何らかの方法で訓練データを空中に投影しながら話を続けた

 

 

「でも、残念な事に酒泉の方は……」

「分かってます、まだデカグラマトンと戦った時の状態には届いていないんですよね?」

「……ええ、あの時の貴方を100%とするなら今の貴方は38%、その眼を活性化させて漸く65%と言ったところよ」

「……嘘やん」

「せっかくスーパーサイヤ人に成れそうなのに今度はスーパーサイヤ人2の壁が見えてきてしまいましたね」

「…………」

「……そう悲観しなくても、貴方は今でも十分に────」

「自分の限界が見えなすぎて怖い」

「そ、そう……」

 

 

黙りこくってしまった酒泉を見て落ち込ませてしまったと思ったリオは即座にフォローを入れようとする

 

しかし酒泉は落ち込むどころか自分自身の可能性に期待を抱いており、リオの考えは結果杞憂に終わった

 

 

「それより酒泉、今日はどうして〝思いっきり暴れても平気な場所を知らないか〟って訊ねてきたのかしら」

「んー、俺もそろそろ〝切り札〟の一つでも用意しておこうと思いましてね、戦術対抗戦も近いですし……でも、まさか調月さんが兵器のテストで使っていた場所をそのまま使わせてもらえるなんて」

「気にしないで、貴方の為ならこの程度造作もない事よ。……それで、手応えの方はどう?貴方の〝あれ〟は切り札として活用できそうかしら」

「今のところ順調っすね、後は日常生活の中でも定期的に〝あの状態〟になる事で負荷も軽くしていきたいですね」

「悟空が常時スーパーサイヤ人状態で生活していたあの特訓でしょうか」

「飛鳥馬さん、さては最近ドラゴンボール読んだな?」

「よくぞお分かりで」

 

 

ピースピースと謎に指をちょきちょきさせながら肯定するトキ、趣味が読書というより趣味探しが趣味になっている彼女らしく、最近取り入れたネタを早速話題に上げる

 

実際酒泉も自身の訓練方法を思い付いた際に〝これあのアニメでやってたな〟とうっすら思っていたらしく、トキの出した例えをその通りだと肯定した

 

 

「火力面はデストロイヤーで解決済み、防御面も肉体の強弱の切り替えに慣れればいずれ解決できる、対格上用の切り札も少しずつ実ってきている。後は小さな課題を見つけていって、それらを仕上げていくだけだ」

「……戦闘能力だけに限ればだけど、貴方も随分と超人染みてきたわね」

「クソボケぢからに関しては最早超人を越えていると思われます」

「そんな訳分からんステータス先生の中にしか存在しねーよ……それよりお二人ともそろそろ小腹空いてきませんか?ちょっとおやつにしません?」

 

 

さりげなく第三者に罪を擦り付けてから壁掛け時計を見上げる酒泉、時刻が午後の三時を刺しているのを確認するとクーラーボックスが置いてある場所まで向かいそのまま蓋を開けた

 

中には氷袋と共に透明のケーキボックスに保管されているチーズケーキが入っており、そしてその隣にいちごミルクが三本分横に寝かされていた

 

 

「実は今日、礼用にチーズケーキ作ってきたんですよ」

「おや、これまた見るからに美味しそうな……」

「そこまで気を遣ってもらわなくてもよかったのに……でもありがとう、折角だしここは御言葉に甘えて頂こうかしら」

「ありがとうございます……ちょっと待ってくださいね、今取り分けるので」

「ナイフとフォーク、それに紙皿まで用意していたのですね……一応お聞きしますが、そのナイフはもしや戦闘用の……」

「プラスチックナイフでどう戦えってんだよ、ちゃんと新品のナイフだから衛生面は心配すんな」

「安心しました、てっきり鉛味が伝染したチーズケーキを食べさせられるものかと」

「飛鳥馬さんの分だけ必要無いな」

「美少女メイドジョークです」

 

 

〝あーはいはい可愛い可愛い〟と適当に流しながら食事の準備を進めるその態度が気に入らなかったのか、トキは無表情で拗ねるという器用な事をやってのける

 

しかし酒泉がそれすらスルーしてしまった事でトキは(全く顔に出ていないが)より一層不機嫌になる……が、チーズケーキが切り分けられた紙皿を手渡された事で一瞬で元の機嫌に戻った

 

 

「ところで、さっき戦術対抗戦が近いと言っていたけれど……今回も相手はトリニティなのかしら」

「……と、アリウスもですね」

「おや、サバイバル形式ですか」

「いや、ゲヘナvsトリニティ&アリウスですね」

「……2対1?」

「はい」

 

 

一つの学園として徐々に力を取り戻しつつあるアリウス、しかしそうなれば学園間での揉め事が起きた時に事件の規模が大きくなってしまう可能性もある

 

それを未然に防ぐべく、三校それぞれのトップがこれまで以上に連携を深める事を提案、今回の戦術対抗戦はそれが主な目的の筈

 

……だった

 

 

「さて、ここで問題です。一体何故2対1なんて状況になってしまったのでしょうか

 

①ゲヘナ側が強すぎるから

 

②アリウスも元々はトリニティだったから

 

③うちのゴミクズカス無能IQサボテン以下クソバカ議長が〝キキキッ!猫の手でもアリウスの手でも何でも借りるがいい!少し前まで路地裏で暮らしていたネズミと手を組もうがどうせトリニティごときに負けはしないのだからなぁ!〟と聖園さんや秤さんが居る前で堂々と言い放ったから」

 

「③ね」

「③ですね」

「正解です」

 

 

最後の選択肢の時だけ妙に感情を込めながら喋っている酒泉を見て二人は一瞬で答えに辿り着く

 

しかもこの話、格派閥の反ゲヘナ派にまで話が行き届いた結果トリニティ的には面子の為に絶対負けられない戦いとなってしまい、結果過剰に戦力を投入せざるを得ない状況になってしまったとか

 

桐藤ナギサの胃は今日も死んでいる

 

 

「んで、その結果相手側の戦力が……こんな感じっすね」

「剣先ツルギ、聖園ミカ、錠前サオリ、梯スバル、蒼森ミネ、羽川ハスミ……全体的に戦闘タイプばかりね」

「なーんか聖園さんガチでプッチンしたらしく、あっちこっち頭下げにいってメンバー揃えてきたらしいっすよ」

「成る程、それでゲヘナ側のメンバーは……」

「とりあえず俺と銀鏡さんと空崎さんは確定として、こっちも残りの三人はごりごりの戦闘タイプで揃えようかなって思ってます」

 

 

総合力ではチナツやアコに劣るものの戦闘という一点のみに置いては二人より勝る、風紀委員にもそんな生徒は居なくもない

 

だが、それがトリニティ&アリウス連合側のメンバーにタイマンで勝てる程かと言われたら微妙な話だ

 

 

「うーん……どうすっかなー……」

「向こうも手を組んでいる事ですし、ここは一つゲヘナも外部の者の力を借りるというのはどうでしょうか」

「良いアイディアね、先ずはトリニティにハッキングして敵の作戦を探るところから始めましょう」

「諜報活動は私にお任せを」

「マルクトの出力調整も進めておきましょう、それと貴方の所で暮らしている方の砂狼シロコの力も借りられないかしら」

「リオ様、どうにかシッテムの箱とやらを完全に修復する事はできないでしょうか」

「その前にアリスの装備も空中戦仕様に変更して……」

「言っておきますけどアリウスとトリニティ滅ぼしに行く訳じゃないですからね?」

 

 

相手側の過剰戦力を更に上の過剰戦力で押し潰そうとする二人に引きつつ〝結構です〟と断る酒泉

 

するとリオが目に見えて落ち込んでしまい、酒泉は罪悪感を抱いてしまうが、それでも全滅戦争が始まるよりかはマシだとハッキリ拒絶するのだった

 

 

「本当にお気持ちだけで十分ですから!」

「でも……羽沼マコトの不始末の為に貴方が苦労する必要なんて……」

「どうしてもって言うなら当日は心の中で応援してほしいです!それが一番の励みになりますから!」

「……そうね、当日は直接応援に行こうかしら」

「え?い、いや……別に直接は来なくても……」

「……はっ!リオ様、少々よろしいでしょうか」

「どうかしたの?」

「当日……着て……きっと……」

「で、でも……似合わなかったら……」

「きっと……喜び……」

 

トキに耳打ちされこしょこしょと何かを話し合うリオ

 

一通り話が済んだかと思えば、妙にもじもじして顔を赤らめながら酒泉に向き合った

 

 

「そ、その……貴方はレースクイーンとチアガールのどちらが好みかしら……?」

「今なら可愛いうさぎさんもついてきますよ、ぴょん」

「もし来るのであればお二人とも普通の衣装でお願いします」

 

 

 

 

 

 

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イカれたメンバーを紹介するぜ!

 

実力可愛さ共にキヴォトス最強の女!空崎ヒナ!

 

 

「も、もう……そう思ってくれてるなら、もっと意識してよ」

 

 

銀髪ツインテ褐色美少女!銀鏡イオリ!

 

 

「だ、だからぁ!美少女とか余計な言葉付け足すなって言ってるだろぉ!?……勘違いしちゃうじゃん」

 

 

奴にスイッチを押させるな!まずけりゃ即キラークイーン!美食テロリストの黒舘ハルナ!

 

 

「……私の時は特に可愛い等は仰らないのですね?」

 

 

もう一生温泉に浸かってろ!そしてプレミアム殿堂に入ってくれ!温泉テロリストの鬼怒川カスミ!

 

 

「あ、あそこに空崎ヒナが居るが本当に何もされないんだよな……!?」

 

 

脳焼き性能EX!お前なんでアウトロー目指してるん!?

ハーフボイルドの陸八魔アル!

 

「ハードボイルドよ!今すぐ訂正しなさい!」

 

 

「そして俺だ」

 

 

ルールは何でもい「ハードボイルド!ハードボイルド!」うるせぇ!!!(桐生ちゃん並感)

 

 

肩を揺らすな!神経が苛立つ……!

 

どうしてこんな〝うぁぁぁ、テ…テロリストがトリニティを練り歩いてる〟な状況になっているか、それは俺達風紀委員がこいつらを戦術対抗戦にエントリーさせたからだ

 

鬼怒川さんは悪さしたところを俺と空崎さんで脅して、黒舘さんには今度手作りで鯛焼き作ってあげるのを報酬にして、そして陸八魔さんは便利屋の凍結された口座と指名手配を解除するのを条件に協力してもらった

 

……まあ、便利屋に関しちゃどうせまたすぐ指名手配食らう様な事やらかすだろうけどな

 

少なくとも一度はちゃんと約束を守って指名手配解除してやったんだ、その後の事は知らん

 

 

「そ、それにしても意外だな……まさか君達風紀委員が私の力を借りたがるなんて……」

「こんな大勝負で負けたらあのタヌキに何言われるか分かったもんじゃないっすからね……つーかそんな怯えなくても空崎さんは何もしませんよ、アンタが変な事企てなけりゃ」

「ていうかいつまで私の背中に隠れてんのさ!人のこと盾にしないでよ!」

「そういうな!私とイオリちゃんの仲じゃないか!」

「誰が!」

 

 

銀鏡さんの背中でガクブルと震えながら縮こまっている鬼怒川さん、その視線の先にはキョトンとしている激かわ空崎さんが立っている

 

だーかーらー、空崎さんは元々優しい人なんだって!厳しくなるのは悪さする奴等に原因があるんだよ!

 

 

「相手側のチームにミネさんがいらっしゃるとは……これは厳しい戦いになりそうですね」

「あれ?黒舘さんも蒼森さんと知り合いだったんですか?……ああ、そういやアンタ愛清さん絡みで一回ボコられてましたね。どうします?蒼森さんとの会敵避けます?そうなると試合始まっても蒼森さんの位置が判明するまで後方で待機しててもらう事になりますけど」

「いえ、お構いなく。何もせずジッとしてるというのは私の性に合いませんので、それに……」

「それに?」

「報酬が報酬なだけに、今なら彼女にも負ける気がしませんので♪」

 

 

笑いながらそう呟く黒舘さん、残念ながら俺の手作り鯛焼きにそんなバフ効果は存在しないのだが……てか、まだ作ってすらいないし

 

でもまあ、本人がそういうのであれば信じるとしよう、俺だってこの人の強さは知ってるしな

 

 

「……ところで、先程〝黒舘さんも知り合いだったのか〟と訊ねてきましたが、酒泉さんも彼女と面識が?」

「まあ、俺大怪我負った時何回かトリニティのお世話になってるし……それとちょっと前にアリウス自治区行った際、そこそこ話す機会があって───」

 

 

……そっか、今回はアリウスから梯さんと錠前さんも参戦してるんだもんな

 

この二人は最強格という程ではないが、だとしてもかなりの実力を有している上に戦略型の側面もある

 

ただ単純に暴で捩じ伏せてくるだけじゃない、そんなタイプが二人も居るのか

 

 

「ふふふ……さっきと比べて随分大人しくなったわね、酒泉。そんなに彼女達が恐ろしいのかしら?」

「ん?……まあ、はい」

 

 

別にビビってるとかじゃないが全員強い人ではあるので警戒はしている、そういう意図で適当に頷くと陸八魔さんはドン!と胸を張って急にドヤ顔してきた

 

なんだこのポンコツラーメン

 

 

「陸八魔さんは何ともないんですか?……まあ、アンタ程の実力者なら相手が誰だろうと問題無いですもんね」

「な、何よ?急に褒めたりしてきて……でもその通りよ!アウトローたる者は皆如何なる状況如何なる相手でも己を貫き通すだけの力を持っているのよ!」

「そっかー、そんな陸八魔さんは誰と当たろうとアウトローにかっこよく無双して勝っちゃうんだろうなー」

「当然よ!こんな戦い、私一人で十分よ!」

「じゃあ試合始まったら俺達全員後ろで待機してるんで、陸八魔さんは一人で敵陣突っ込んで全員倒してきてくださいね」

「ええ!任せなさい!便利屋68の社長であるこの私が華麗に勝利をなんですってええええええええ!?」

 

 

チッ!調子に乗ってるからこのまま騙し通せると思ったが……流石に無理があったか

 

敵が良い感じに〝絶対に許さんぞ……陸八魔アル……!〟してるところを他のメンバーでまとめて叩く作戦で行こうとしたが、それだと流石に可哀想なのでやめておこう

 

 

「感謝しろよ海八魔ナイ」

「誰よ!?」

「アンタのことだ」

「別人よ!」

「はいはい、下らないコントやってないでそろそろ作戦の最終確認に移りますよ」

「皆さん装備の点検の方は既に完了していると思いますので、行政官のお話にちゃんと集中してくださいね?」

 

 

そんなこんなでガヤガヤしていると、天雨さんと火宮さんがホワイトボードを引いてきて注目を集めた

 

今回この二人は戦術対抗戦には参加しないが、代わりに作戦の立案や必要な装備の用意等を重点的に行ってくれた

 

 

「今回のフィールドは市街地、それもトリニティ側が用意した場所です。つまり地形に関しては向こうの方が詳しい……と、相手チームは勝手に思い込んでいる筈です」

「ですが此方にもトリニティの地形に〝何故か〟詳しいゲヘナの生徒が居ます……ねえ?ゲヘナだけに留まらずあちこちで掘削しようと駆け回ってたカスミさん?」

「はーはっは!任せたまえ!今回のフィールドは偶々私達が温泉の気配を感知して事前に調査を進めていた場所だからね!誰にも気付かれず罠を仕掛けられそうな場所も当然把握済みだ!」

「……もしトリニティで温泉を掘り当てようとしたら」

「そん時は代わりにアンタの身体に穴空けるからな」

「ぴぎぃ!?」

 

 

空崎さんと二人でデストロイヤーを突きつけると鬼怒川さんから面白い悲鳴が上がった

 

天雨さんが言った様に今回は鬼怒川さんの力が役立ちそうだった、これが温泉開発部の中で一番強い下倉さんではなく鬼怒川さんを選んだ理由だ

 

 

「作戦の第一段階ではまず敵を爆薬等のトラップに掛けて多少の傷を負わせてから一気に追撃する事を想定しています……が、これはこの二人がトラップに掛かってしまった場合は別の話です」

 

 

火宮さんがボードに二枚の写真を張る、写っているのはそれぞれ剣先さんと聖園さんの写真だった

 

 

「傷の再生速度と肉体の頑強さ、それぞれ別の理由でトラップを力押しで突破できてしまいそうな人物です。彼女達が掛かった場合には〝敵が負傷している〟なんて前提は一気に崩れ去ってしまいます」

「……そして、先陣を切るのはまず間違いなくこの二人になる筈です」

「そこに一つ付け加えさせていただくなら、ミネさんも多少のトラップ程度であれば簡単に突き抜けてくる筈です」

 

 

ただでさえ厄介な脅威が二人も、そこに黒舘さんが蒼森さんを加える事で脅威が三人になってしまった

 

便利屋、美食研、温泉開発、いずれも組織としての強さは間違いなくピカイチだが……やはり個人個人の戦闘能力ではトリニティのリーダー陣には劣るか

 

 

「更にゲリラ戦に持ち込もうとすれば、そこもやはり錠前サオリと梯スバルが壁になってくるでしょう。正面切っての戦いであればヒナ委員長一人で完勝できるでしょうが……」

「……でも、それやると剣先ツルギと聖園ミカが完全フリーになるよね」

「そうなった場合はイオリの出番ですね」

「無茶言わないでよチナツ!挽き肉にされろっての!?」

「そう?私は次期委員長としてイオリがどっちかの相手をするのは適任だと思うけど」

「い、委員長まで!?」

「私も同意です、イオリなら実力的に問題無いと思ったからこその発言だったんですよ?」

「私もイオリなら問題無いかと……罠を仕掛けた際に敵ではなく自分が引っ掛かってしまいそうなのだけが心配ですが」

「試合中にそんな大ドジやらかす訳ないって!?……うぅ……わかった、やるだけやってみるよ……」

 

 

涙目になりながらトホホと項垂れる銀鏡さん、しかしここに居る全員銀鏡さんに負荷を押し付けた訳ではなく、むしろ〝銀鏡さんならなんやかんやでどうにか出来る〟と信頼しての事だった

 

結局本番になるまで誰が何処で誰とぶつかるかなんて分かる筈もないので全て〝過程〟の話だが

 

 

「じゃあ私はトラップを仕掛け終わったらフィールドを散策して次の掘削地候補を……冗談だ酒泉頼む銃口を此方に向けないでくれ本気で泣き叫ぶぞ」

「だったらサボろうとすんじゃねえ、アンタには常に戦況を把握して適したタイミングで狩場作ってもらわなきゃいけないんだからな」

「場合によっては戦闘にも参加してもらいますからね」

「うぅ……私だけ仕事が多いぞ……」

 

 

場合によっては撤退したり逃げる敵を追い込んだりする事もある、その為にも鬼怒川さんには常に動き回ってもらわねば

 

もしその最中に敵と鉢合わせた場合だが、羽川さんと鉢合わせた場合はお得意の挑発術と逃げ足で逃げ切れるだろうな、羽川さん自身も対ゲヘナって事ですぐに平静を保てなくなりそうだし

 

ただ、それ以外の相手と出会した場合は……サンドバッグになってでも時間を稼いでくれると嬉しいかな、うん

 

 

「さて、次に危惧している事が実際に起きてしまった場合の対策ですが……」

「あー……確か剣先さんと聖園さんがペアで突っ込んだきた場合でしたっけ?」

「はい」

 

 

暴走機関車が二台、それをどう止めるかが問題だ

 

二人別々に別れて先陣を切ってくれるなら理不尽度も減るのだが、同時に来られた場合は俺と空崎さんじゃないと対処できないだろう

 

……自惚れてるようで悪いけどな

 

 

「……もし、その二人が俺の居る方向に来てくれるのなら多少は時間が稼げます」

「無理はしないで───とは言わない、今の酒泉ならそれが可能だから。でも……もし〝眼〟を使うなら絶対〝制限時間内〟に収めて」

「はい、分かってます」

「ちょ、ちょっと?何の話をしてるのよ?」

 

 

俺の言葉を肯定してくれた空崎さんに頭を下げると、陸八魔さんが何がなんやらといった様子で訊ねてきた

 

俺の切り札を知っているのは風紀委員を除けば一部の人だけ、それをある程度なら自在に使える様になったのを知ってる人となればかなり限られる

 

 

「2分11秒だ」

「……?」

「2分11秒経つまでなら俺は剣先さんと聖園さんを二人同時に相手しても圧倒できる。そこに蒼森さんが加わって3対1になったとしても問題無いし、なんなら向こうお得意のステゴロ勝負に持ち込まれたとしても……まあ、今ならそこそこ戦える筈だ」

「おや、大きく出ましたね……食い意地を張って自分の胃の限界値以上の物を食べようとすれば後で後悔しますよ?」

「アンタは美味いもんを食い過ぎた後に後悔した事があんのか?」

「ふふ……そうですね、これは失礼しました」

 

蒼森さんの実力はその身で直接味わって知っているからか、黒舘さんが忠告をしてきた

 

しかし黒舘さん風に言うのであれば、今の俺は相手がどれだけ大きな食材だろうと全て食い切る自信がある

 

それが例え────過去に敗北した相手である剣先さんだったとしても

 

……こう見えて結構負けず嫌いなんでね

 

 

「……出来れば剣先さんとやりてぇな」

 

「酒泉?」

 

「ひっ……な、なんすか!?」

 

「……さいてー」

 

「……雑食過ぎるのもどうかと」

 

「……酒泉君、試合が終わってもお怪我は自分で治してくださいね?主に味方からの誤射ばかりになると思いますが」

 

「もう先程までの作戦は全部無かった事にしてこのクソボケを盾にくくりつけて突撃するというのはどうでしょう」

 

「へ?やる?……何をやるのよ?」

 

「まあ、なんだ……言葉遣いには気を付けた方がいいぞ?」

 

 

空崎さんに圧を掛けられ、銀鏡さんにジロッと睨まれ、火宮さんに物騒な事を言われ、天雨さんに人柱にされかける

 

陸八魔さんは普通にキョトンとしてるだけだから良いとして、鬼怒川さんに常識を説かれるのだけは凄くイラッとした

 

 

「クソボ……酒泉の発言は後で問い詰めるとしてそろそろ行こっか」

「空崎さん、どうしてクソボケって言い掛けたんですか?」

「頼りにしてるよクソボ……酒泉、今じゃすっかり委員長に並ぶ戦力なんだからさ」

「皆さん、頑張ってください!クソボ……酒泉君も肉体を〝切り替えられる〟ようになったとはいえ、あまり無茶はしないようにしてくださいね?」

「クソボ……酒泉!トリニティの生徒に……特に羽川ハスミに負けるのだけは許しませんからね!?」

「まあ、私はあまり表立って戦うようなスタイルではないからな!その辺りのフォローは頼んだぞシュセボケ!」

「クソボ……酒泉さん、再び共に肩を並べて戦えることを光栄に思います」

「酒泉!何も心配する事はないわ!最強のアウトローと最強の風紀委員が手を組めば敵無しよ!」

「陸八魔さん、俺アンタのこと好きだわ」

「え、ええ!?急に何言い出すのよ!?こ、こういうのはもっと順序っていうのが……」

「絶対に許さないわよ、陸八魔アル」

「なんですってええええええええええ!!?」

「おお、本日二度目……」

「はははは!なかなか良いチームじゃないか!」

 

 

 

 

 

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『さあ入場してきました!怪物が!数多の戦を一騎当千してきた歴戦の怪物達が!』

 

 

両校の生徒がフィールドに入っていくのを映し出すカメラ、無関係者を巻き込まない為の人払いは既に済ませてあるので周囲には誰もいない

 

市街地戦とは言ってもトリニティにしっかりと管理されている戦術対抗戦用のフィールドではあるため、試合を観る為の観客席はちゃんと用意されている

 

(……来てくれたんだな)

 

 

顔を上げて視線をあちらこちら向け、ある存在に気付く

 

常人の眼では〝五つのちっちゃな白〟にしか見えないそれだが、俺の眼にはハッキリと映った

 

両手をメガホン代わりにして何かを叫ぶアイン、ソフ、オウルの姿を

 

俺が存在に気付いた事に気付き、シッテムの箱を持ったまま無言で親指を立ててきたシロコさんの姿を

 

シッテムの箱の中から黄色いボンボンを持って振っているプラナの姿を

 

……シロコさんの隣の席が空いているが、マルクトは離席中なのだろうか

 

 

(ん?あれ小鳥遊さんじゃ……いや、それ以外にも)

 

 

よく見ればシロコさんの後ろにはアビドスの皆の姿も、そして先生も一緒に居た……さてはシロコさんが呼んだのだろうか

 

それ以外にもよくよく見れば調月さんと飛鳥馬さんが、明星さんと和泉元さんが、ゲーム開発部にエンジニア部、C&Cも……ははっ、美甘さん変な鼻眼鏡かけてらぁ

 

親しい人やあまり絡みの無い人まで、他にもチラホラとこれまで出会ってきた人達の姿を発見していく途中、とある人物が視界に入った瞬間一気に自分のテンションが落ちていくのを感じた

 

 

(……あんのクソタヌキ)

 

 

万魔殿幹部軍で(主にイブキさんと)わちゃわちゃしてる所を見つけると同時、奴と目が遭ってしまった

 

するとクソうんこタヌキはトリニティ側の観客席を親指でクイッと差した後、その親指で自身の首をかっ切る動作をした

 

……殺し合いと勘違いしてんじゃねえだろうな、あのクソうんこ排泄物タヌキ

 

 

(テメェで話大きくした癖によぉ……)

 

 

唯一感謝出来る点と言えば剣先さんにリベンジできる機会を与えてくれたぐらい、それ以外全てにおいて戦犯と言えるだろう

 

決めた、この試合勝ったらあのゲヘナバカマコトの両角をへし折ってやろう、そしてその折った角を削ってナイフを作ろう

 

いやー懐かしいなー前世で小学生だった頃謎の石削ってナイフを作る授業やったっけなー

 

……マジで覚悟しとけよテメェ

 

 

「ぬぉお!?」

「どうしたんですか、急に目暮警部みたいな声出して」

「い、いや……何故かは分からんが急に寒気が……」

 

まあそんな事はさておき、今は試合開始後の流れでも頭の中でおさらいしておくと……ん?

 

 

『まずはトリニティ側の選手紹介から……おおっとぉ!?ミカ選手、なんとゲヘナ側のカメラに向かってピースをしたぁ!これは友好の証でしょうか!?それともただの挑発かぁ!?』

 

 

散々煽られてきた俺には分かる、これは挑発しているだけだと

 

この試合を見ているゲヘナの不良共は今頃きっとぶちギレているだろう、テレビの前で、スマホの前で、ショッピングモールの外側に取り付けられている巨大中継モニターの前で

 

……さて、あれにはどう返事をするべきか。カメラ前で中指を立てる訳にもいかないし、こっちは〝裏ピース〟で返してやるべきか────

 

 

『────』

 

「────っ」

 

 

 

そんな俺の思考は、一瞬で塗り替えられた

 

聖園さんがカメラを通り過ぎた後、猫背で剣先さんがその後ろを通過した

 

剣先さんは聖園さんと違って何かアピールをした訳じゃない、だからすぐカメラ内から外れ、その後ろを羽川さんがすぐに通っていく

 

だが、俺は切り替わるその瞬間を見逃さなかった

 

 

(〝来い〟……か)

 

 

たった一瞬だけカメラを見つめた剣先さんが、並外れた視力を持つ者にしか伝わらない程小さく口元を動かしたのを

 

 

「……上等」

 

 

気付けば聖園さんの事は頭の中からも眼中からも居なくなり、思考は〝剣先ツルギと戦わせろヤらせろ〟に染まっていた

 

……責任持てよ、誘ってきたのはアンタからだからな

 

 

『これに対してゲヘナの反応はいかに……あれ?何やら入場口から人が……』

 

「……え?」

 

「ですから!何度も言ったようにここは関係者以外立入禁止なんです!忘れ物でしたら私が代わりに届けてきますから……力強っ!?」

「だ、ダメです行政官!びくともしません!」

 

 

等と内心ワクワクしているとここで突然トラブル発生か、メンバーはもう既に全員入場口から出てきた後なので何事かと驚き振り向いてみる

 

するとマルクトの腰にくっついて何かを叫ぶ天雨さんと火宮さんが、そしてそんな二人を意にも介さず引きずりながらフィールドに上がってくるマルクトの姿が────ん?

 

 

「…………はぁ!?マルクトォ!?」

「間に合ってよかったです、酒泉」

 

 

一歩遅れて漸く状況に気付き、驚愕が声に出た

 

どういう事だ?何故マルクトがこんな所に?逃げたのか?自力で脱出を!?

 

そんな疑問を込めて観客席のシロコ達に向けてみれば本人達も完全に想定外だったらしく座ったまま眼を丸くしていた、もしかして家族にも理由を伝えてないのか?

 

 

「えっと……酒泉さん?そちらの美しい方とはどの様なご関係で?」

「え?ああ、えっと……この人は───」

「初めまして、我はマルクトと申します。関係としては……家族というのが一番正しいのでしょうか、後にもう一度家族になる予定ですが」

「もう一度?……と言いますと……」

「ええ、今は共に生活を営む者として、二度目の時は───」

 

二度も家族になるという謎の発言に困惑し、首を傾げる黒舘さん

 

するとマルクトはニッコリと微笑みながらさも当然の事である様に答えた

 

 

「───酒泉の妻として」

 

「────は、」

 

 

その〝は〟に疑問符が付いている様に感じなかったのは、黒舘さんの中で困惑より驚愕の方が勝ったからか

 

周囲の空気は一瞬で凍り付くのを感じ、周囲を見渡せば案の定全員俺の方を向いて固まっていた

 

そんな中で、真っ先に口を動かしたのは空崎さんだった

 

 

「酒泉、これはどういうこと?」

 

 

その声はあまりにも空崎さんの容姿から掛け離れており、羽沼マコトをガチで脅してる時ですら聞いた事がない声色だった

 

そんな恐ろしい声が、俺に向けられている

 

 

「彼女はただの同居人じゃないの?酒泉の言う〝家族〟っていうのはその延長線上でしかないと思っていたのだけれど」

「その通りです、酒泉にとって我は恋愛の対象ではありません、妻としてというのは我の勝手な願望に過ぎません」

「……勝手に?」

「我は将来的に酒泉の妻になりたいと、先程の発言はそういう意図で発したものです」

 

 

俺の代わりに空崎さんからの疑問に答えるマルクト、こんな空気下でも彼女は堂々と受け答えしている

 

だが、それを傍らで聞かされている俺は少しだけ気恥ずかしくなり、視線が自然と地面の方へ降りてしまっていた

 

 

「つ、つつつつつ妻!?それってつまり……その……夫婦になりたいって事なの!?」

「はい、我は恋を自覚した瞬間からその未来しか考えていません」

「こ、恋……ですか……で、でも!まだ結婚を考えるには少々早すぎるのでは?酒泉君もまだ学生ですし、お互いもう少し時間が経ってからでも……と、途中で酒泉君よりも素敵な方に出会う可能性もありますし!」

「そ、そうですよ!だいたい貴女正気なんですか!?こんなクソボケに恋するなんて余程の物好き以外有り得ませんよ!」

「火宮さん?天雨さん?俺だって人の子だし傷付くんですからね?」

 

 

いや今世誰の子なのかは知らんけど、なんなら出生も知らんし突然キヴォトスにリスポーンした人の子ですらない生き物の可能性すらあるけど

 

 

「素敵な方、ですか……これは酒泉にも御伝えしましたが、酒泉と出会ったその日こそ我が〝素敵な方〟と出会う日だったのです」

「……よく本人が居る前で堂々と告白紛いの事ができるわね」

「はい、告白なら疾うに済ませております」

「っ!?……そ、それで?酒泉はなんて答えたの?」

「いや……それが───」

「それは……我と酒泉だけの秘密という事で」

 

 

すっ、と真っ白な手が俺の口を後ろから塞いで言葉を止める

 

すると空崎さんはカッ!と眼を見開き、まるで何かに怯えているかの様に声を震わせ始めた

 

 

「な、なんで……なんで告白された事を私に教えてくれなかったの……?しかも家族に告白されたなんて……」

 

 

マズイ、何故か分からんが空崎さんの髪の毛が水気が抜けた様にシナシナになり始めた、

 

なんかヘイローは高速で回転してギュイイイイイン!って音立ててるし……待って?なんかミシミシ言ってない?これ皹割れてね?

 

 

「……そ、それよりさぁ!マルクトはどうしてこんな所に来ちまったんだ!?」

「そうです、危うく目的を忘れるところでした……実は、酒泉に忘れ物をお届けしようかと思っていて」

 

 

なんとなくこの空気のままだと状況が悪化する様な気がして咄嗟にマルクトに要件を訊ねる、早いとこ会話を切り上げて戦闘に移ろう

 

試合が始まっちまえば空崎さんだって思考を切り替えるだろうし……でも、忘れ物ってなんだ?財布とスマホなら待機室のロッカーにしまった記憶があるし、昼食の弁当だってもうとっくに食い終わってるし

 

プレ先のカードとシッテムの箱だってシロコさんが持ってるし、特に大切な物は────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んっ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────忘れていないはず、そう考えていた俺の頬に〝ちゅっ〟と柔らかい何かが当てられた

 

すると空崎さん達の声や実況の声、果てには観客席からの声すら静まり返ってしまった

 

そして俺自身も状況を整理するので精一杯で、呼吸という行為すら行うのを忘れてしまっていた

 

 

「〝いってらっしゃいのちゅー〟とやらです」

「ど……どこで……それを……?」

「この間アイン達と視聴していた〝ひるどら〟で、妻が愛する夫にしていたのを見掛けました」

 

 

まだ妻にもなっていないのにそれは早すぎるだろう、そんなツッコミを思わず投げそうになってしまったが、これも彼女なりの〝宣誓〟なのかもしれないと言葉を飲み込んだ

 

しかし昼ドラでやってたキスシーンとやらが頬へのキスでよかった、もしこれがお口とお口のぶっちゅーだったらとんでもない事になっていただろう

 

いや観客席用のカメラに思いっきり映された時点でとっくにとんでもない事にはなってるんだけどさ、でも頬へのキスとかならまだ〝そういう文化圏の人なんだな〟で済む話だし

 

 

「その……ありがとう、なんかちょっとだけコンディションが上がったような……気がする」

「気にする事はありません、愛する者への口付けは当然の行為だと我は理解していますから……いえ、少々訂正します。やはり気にしてください、酒泉には我を意識してほしいです」

 

 

幸いなのは俺達の会話を聞き取れないくらいにはカメラの位置が遠かった事か、こんな甘々な告白をキヴォトス全域に報道されたら何処の誰に好奇の眼差しで見られるか分かったもんじゃない

 

「え、えっと……これから試合始まるからさ、出来ればこれ以上意識が逸れる様な事をされるのはちょっと困るというか……」

「ご安心を、次の〝おかえりなさいのちゅー〟は試合後にするので」

 

 

いやもうその発言自体を意識しちゃうのよ

 

これじゃあ俺戦術対抗戦中ずっと〝これ終わったらちゅー迫られるんだよな〟って考えちゃうじゃん

 

……はっ!?ま、まさかそれ含めての作戦という事なのか!?マルクト……恐ろしい娘……!

 

 

「?」

 

 

……な、訳ないか

 

此方からジロジロと視線をぶつけてみてもマルクトはにこやかにキョトンとするばかり……どころか徐々に視線を下ろしていき、少しずつ恥ずかしそうにモジモジし始めた

 

この人見つめられるっていう行為にここまで弱かったか?……恋を自覚したからこそか?

 

自分で言うのはむず痒いどころの話ではないけど、ただの〝家族〟から〝好きな人〟に見つめられる様になった事で知らぬ内に意識の変化が……みたいな

 

……ええい!ごちゃごちゃ考えるのはやめだ!どうせ家でもドキドキさせられるんだから恋愛云々について考えるのは試合が終わった後だ!

 

 

「……んじゃ、行ってくるわ」

「祈る必要もありませんが……それでも、家族と共に貴方の勝利を祈りながらお待ちしております」

 

祈らずとも勝利を掴んでくるだろうという最上級の信頼を背に受けながら再び地を踏み始める

 

待たせたなゲヘナ生、テメェらが日頃から喧嘩売ってる相手がどんな奴なのか再認識させてやるから覚悟しとけよ

 

悪いなトリニティ生とアリウス生、アンタらの信じる実力者達今から全員ボコボコにしてゲヘナとの戦力差分からせちまうけど許してくれよ

 

さて……アリウスとトリニティ潰すゾ───『こ、ここで緊急速報です!なんと今回の戦術対抗戦の参加メンバーだった錠前サオリ選手が突如泡を吹いて倒れたそうです!』───へ?

 

 

「……錠前さんが!?急に!?」

 

 

『情報によればヘイローから割れる様な音が聞こえたと同時に突然倒れたと───ああっとぉ!?なんとサオリ選手の隣に居た梯スバル選手まで!?その隣ではミカ選手が笑っているぅ!一体何が起きたんだぁ!?』

 

 

困惑しながらカメラの映像を確認すると、なんと梯さんが膝から崩れ落ち、そのまま自身の顔を両手で覆って涙を流し始めてしまった

 

そしてその隣では聖園さんがバッドエンドスチル的な笑みを浮かべてカメラを見て……モニター越しなのに目が合ったんだけどこえーよ

 

 

「なんだなんだ、相手チーム側の昼食に毒でも混入してたのか?……鬼怒川さん、まさかアンタ試合前から仕掛けに行ったんじゃ……」

「真っ先に私の名前が出てくるあたりよっぽど信頼してないらしいな……安心したまえ、君と空崎ヒナの前でそんな自殺行為する訳がないだろう?」

「だよなぁ……」

「……それより君、もう少し周囲にも目を配った方がいいぞ?」

「ん?何が───」

 

 

「エンッ!!!」

『おっとぉ!?なんと空崎ヒナ選手、急に痙攣し始めたかと思いきや鼻血を出して倒れてしまったぁ!』

「……えっ!?」

『その後ろでは控えのチナツさんとアコさんが包帯で救護活動の準備をしております!』

「とりあえず今身近にある物で酒泉君を縛れそうなのはこれだけです」

「十分です、一旦拘束したら後で私も首輪を持ってきますので」

「え゛っ!?」

 

 

何やら物騒な言葉が聞こえてきたので天雨さんと火宮さんに話し掛けようとしたが、ハイライトの消えた二人の目があまりにも恐ろしかったので一瞬躊躇ってしまった

 

その一瞬を狙ったかの様に誰かが俺の背中をトンと力弱く叩いた、そして振り向いてみれば俯いて表情の確認ができない銀鏡さんが

 

 

「し、銀鏡さん!銀鏡さんは大丈夫か!?どこもおかしくなってないか!?」

「……の」

「もし体調に異変が無いなら空崎さんの手当てを手伝ってくれ!天雨さんと火宮さんはなんかよく分からんが頼れそうにない!」

「なんで……私じゃ駄目だったの……?」

「えっ」

 

 

ゆったりと顔を上げる銀鏡さん、その表情は何か死にたくなる様な事でもあったのかと言う程に絶望に染まっていた

 

尻尾は後ろの方でしなだれており、その両目の端からは涙が零れ出ていた

 

 

「私だって……家族だったじゃん……一緒に子供だって育てたのに……」

「あ、あの……銀鏡さん……?今はそれより……」

「私の方が……私の方が先に〝家族〟だったのに……!」

 

 

少しずつ背中を叩く力が強くなっていく銀鏡さん、そこまで落ち込まなくても……と口にしたら何故か背中を刺される様な気がしたのでやめておいた

 

くそっ!なんだこのカオスな空間は!?急に相手チームがボドボドになったかと思えばこっちのチームにまで被害が出たぞ!?

 

 

「ここで一体何が起こって……はっ!?そ、そうだ!他の人達は!?黒舘さん!陸八魔さん!」

「妻……そうですか……胸部を揉んでおきながら他の女性を妻に……ふふ…うふふ……」

「な、何よ!家族が出来るなんておめでたい事じゃない!……そう……おめでたい……ことなのよ……」

「なんか駄目そう!!!」

 

 

漏れなく全員気絶してるかどす黒いオーラを放ってるかのどっちか、唯一平常心を保ってそうな鬼怒川さんは〝阿鼻叫喚だな!〟と爽快そうに笑っている

 

 

『ま、またまた緊急速報です!なんとトリニティ側の観客席で百合園セイア代表の持病が突然悪化したようです!混乱に陥る生徒達を今、桐藤ナギサ代表が落ち着かせようと指揮を……溢れてます!紅茶がカップから溢れまくってます!』

 

『彼女は何故こんなにも動揺して……えっ!?また速報!?こんな一辺来られましても───はっ!?今度はミレニアムの会長が倒れた!?』

 

『その横で白髪の生徒が光る銃を構えてる!?ツインテの生徒が空を飛んでる!?特定の席の湿度が上昇中!?百花繚乱の委員長がカメラに縋り付いてる!?アリウススクワッドが勝手に参戦しようとしてる!?……あ!?マズイ!カメラ切り替えてください!ミレニアムの会長らしき人の隣でメイド服着た人がカメラに中指立ててます!』

 

『ちょ、ちょっと待ってください!一個ずつ!一個ずつ報道させて……あ、ああ!ここでミネ選手が自陣の選手の救護活動を開始しました!これで少しは落ち着───擦られてます!サオリ選手とミカ選手とスバル選手の頭がめちゃくちゃ地面に擦られてます!』

 

『何故あの人は病人の足を掴んで運んでいるのでしょうか!?……いやよく見たらミネ選手もめちゃくちゃ震えています!理由は不明ですがミネ選手もめちゃくちゃ動揺しています!』

 

『え!?なに!?今度はセミナーから来た二人の生徒が〝解釈違いです〟って抗議を!?酒×先って何!?』

 

『慈愛の怪盗と災厄の狐が同時に───』

 

『玄龍門の門主が大量の怖いお姉さんを引き連れて───』

 

『酒泉選手に大量の蟹鋏が投げつけられて───』

 

 

 

「はーはっはっはー!心地好い騒がしさだな!なんだ、どの学園も実質ゲヘナみたいなものじゃないか!」

「……そっすね」

「しかしだ、この一件で私は確信を得たぞ?……酒泉!君を手に入れる事ができれば、今後私達の活動を妨害する厄介な組織が現れようと簡単に突破できるとな!」

「……そっすね」

「ふむ、ここは一つ私も本気で狙って───痛っ!?蟹鋏痛っ!?誰ださっきから蟹鋏を投げ込んでくる野蛮な輩は!せめて身が詰まってるのを投げてこい!」

 

 

こうしている間にも次々と会場に流れ込んでくる速報、続々と増え続ける医務室に運ばれる生徒達

 

何が原因かも分からぬパンデミックの中心で俺と剣先さんはカメラを通して目配せし、互いにガッカリした様に肩を落としながら事態の鎮圧に向かった

 

 

「成る程、これが戦術対抗戦というものですか……とても賑やかなのですね」

 

「……賑やかさのベクトルがちょっと違うかな」

 

 

 

 

 

 

 

──────────

 

 

 

 

────────

 

 

 

 

 

──────

 

 

 

 

「このクソボケはっ!お姉様にっ!何を吹き込みやがったんですかっ!」

 

「ケツを!蹴るんじゃ!ねえ!」

 

 

尻を全力で蹴ろうとするオウルの脚を一回一回腕でガードしながら帰路を歩く、途中でマルクトが〝暴力はいけませんよ〟と俺を庇う様に腕を伸ばせば、オウルはぐぬぬとお姉様……ではなく俺の方を睨んだ

 

……会場があんな様で戦術対抗戦を続けられる筈もなく、結局試合後のイベントも含め全て中止になり、俺達は体調を崩してしまった人達の搬送を手伝った後帰宅する事となった

 

 

「……ん!ん!」

「それとアンタはいつまで顔近付けてんだ!」

「マルクトだけずるい、私ともするべき」

「ずるいってなんだ子供同士のオモチャの取り合いじゃねえんだぞ」

 

 

いつも通り〝先輩家族〟としての対抗心が出たのか、シロコさんまで俺にキスしてこようとするので片手でほっぺを掴んで押さえつける

 

〝あっちょんぷりけ〟みたいな顔になっててちょっと面白い……が、何故かマルクトと違って頬ではなく正面からやろうとしてくるので必死に食い止める

 

頬への口付けは通す、首元に噛みつくのも通す、でも口へのキスは通さない

 

 

《因みに酒泉さんと私は既に接吻を交わした事があります》

「プラナ……お前まで変なこと言うようになって……」

《事実です、あれは酒泉さんがシッテムの箱を持ったまま眠りに落ちてしまった日の事です》

「先に言っとくけど俺が寝落ちして画面に唇くっつけただけじゃキスにはならんからな」

《……》

「そのパターンだったんかい」

 

 

ていうか、そのパターンだとしてもプラナ側からも画面に唇当てないとキスした事にはならんだろ

 

プラナが態々自分からそんな事するとは考えにくいし、きっと珍しいプラナなりの冗談なのだろう

 

 

「……ねえ酒泉」

「ん?」

「もしかしてお姉様となんかあった?」

 

くいくいと俺の袖を引っ張って何があったのかと訊ねてくるソフ、あんな光景を見せつけられたら気になるのも当然か

 

 

「いや、その……」

「あー内容までは言わなくていいよ、大体察しはついてるから」

「……だよなぁ」

 

 

あそこまで露骨にベタベタしてきておきながら気付かないなんて余程のクソボケでない限り有り得ない話だ、ソフだって余裕で勘づいている事だろう

 

それでも尚マルクトが押せ押せ作戦を辞めてこないって事は〝バレても別に構わない〟と思っているのか、それとも単純にバレている事に気付いてないだけか

 

 

「……で、どうするの?」

「……まだ分からん、マルクト自身も〝答えはまだ出さなくていい〟って言ってるし」

「はぁ?どうしてそこで即答出来ないんですか?普通お姉様程の美女に迫られたら額を地べたに擦り付けながら喜んでOKするべきでしょうに」

「いやだからその本人が……」

「つまりはお姉様の器の大きさに甘えたという訳ですね……はぁ、これだから頭に糖分しか詰まってない男は」

「でへへ……」

「褒めてませんが?」

 

 

なんだ、てっきり折川酒泉の存在その物がスイーツだって褒めてくれてるのかと……

 

しかしなんだ、当たり前の様にオウルまで気付いてたんだな、となればアインも当然……

 

 

「シロコさん、口付けをしたいと申すのではなく口付けをしたい〝理由〟を申さなければ効果はありませんよ」

「……言われなくても分かってる、さっきのは軽くジャブを放っただけ。今頃酒泉は奥歯をガタガタ言わせながら私の魅力にノックダウン寸前になってる筈」

「それはきっとシロコさんの勘違いです、我の目には大型犬に舐められるのを嫌がっている者にしか見えませんでした」

「ん(憤怒)」

「ご安心ください、この分野では我の方が〝先達〟です、きっとシロコさんのお役に立てる様な助言ができる筈です」

「……本当に生意気言うようになった」

 

 

「……」

「……アイン?」

 

 

俺達から数歩分引いたところでシロコさんとコソコソ会話しているマルクト、アインのお姉様を見る目には何か重たい感情が宿っている様な気がした

 

どうかしたのかと訊ねようとしたが、そこは流石のお姉様。マルクトは俺が動くよりも早く妹からの視線に気付いて自ら近付いていった

 

 

「アイン、どうかされましたか?」

「ぁ……なんでも……ありません……」

 

 

明らか可笑しな様子だが、皆の前で理由を問い質して良いものかと悩み口を紡ぐ

 

もし悩み事があるのならマルクトの時の様に二人きりの時間を作ってその時に聞くべきだろうか……などと考えている内にマルクトがしゃがみ込み、アインと目線を合わせてから口を開いた

 

 

「アインは我にお伝えしたい事があるのですね、それはどういった内容なのでしょうか」

「い、いえ!本当に些細な事なので気にしないでください!」

「そうでしょうか、我の目にはアインが何か重大な悩みを抱えている様に映りましたが」

「あ……うぅ……」

 

 

自分が責められていると勘違いしたのか、アインはたじろぎながらマルクトから一歩遠ざかってしまう

 

しかしマルクトは一切困惑する様子もなく、むしろ何かを察しているかの様にアインに微笑みかけた

 

 

「アイン、我は貴女達の〝お姉様〟です、そして〝姉〟という存在は妹の願いや我が儘を受け止めるのが仕事だと……我はそう考えています。それが例えどの様な願いであったとしても、人の道を逸れる様な事でさえなければ」

「……で、でも」

「アイン───我に気を遣う必要はありません」

「……!」

 

 

その言い方から考えるにマルクトは自分がアインの悩み事に関係していると予測している、そしてアインの反応を見るにそれは正しいのだろう

 

目をキョロキョロさせながら慌てふためくアイン、それから少しした後に覚悟を決めた様な目で再びマルクトと向かい合った

 

 

「あ、あの……私、お姉様が幸せだと嬉しくて……だ、だからもっと幸せになってほしくて……」

「……はい」

「で、でも……我慢しなきゃって分かってるのに……どうしても抑えられなくて……!」

「……」

「……わ、私も……やっぱり私も欲しいです!」

 

 

「なんだ、欲しい物でもあったのか。俺に言ってくれたら買いに言ってあげたのに……んで、アインは何が───もごっ!?」

「はいはーい、口にチャックしてくださーい」

「クソボケは黙ってようねー」

「ん、邪魔」

《酒泉さん、今は空気を読むべきかと》

 

 

アインの欲しい物を聞き出そうとしたら突然複数の手が俺の口を塞いできた

な、なんだ?アインには何か欲しい物があって、それをどうにかして手に入れられないかずっと悩んでいたって訳じゃないのか?

 

口を塞がれたまま目の前の光景を眺めているとマルクトがそっと手を伸ばした

 

するとアインは怯える様にビクリと身体を震わせるが、当然マルクトが妹を傷付ける様な真似をする筈もなく、伸ばした手をアインの頭に置いて優しく撫でた

 

 

「アイン……ありがとうございます、よくぞ勇気を出して打ち明けてくれました」

「お、お姉様……怒らないのですか……?」

「アインが抱いているその感情は全ての人間が平等に有する権利です、それを管理する資格など我にはありません」

「……い、いいんですか?」

「当然です……これからアインは我の〝妹〟であり我と対等の〝らいばる〟でもあるという事になりますね」

「ラ、ライバル!?私なんかがお姉様と対等だなんてそんな……!?」

「何ら不思議ではありません、我等はこの〝分野〟において実戦経験がなく、皆が0から学んでいく事になります。つまり……ここから先は競争ですよ、アイン」

「!……は、はい!」

 

 

……なんだ?マルクトとアインは何を競い合っているんだ?

 

もしかしてその〝欲しい物〟とやらは生産数が少ない限定品なのだろうか、それなら確かに二人とも手に入るとは限らないが……

 

 

「勿論、アインだけではなく貴女達もですよ。シロコさんは当然として、プラナさんも……それにソフとオウルもです」

《……脅威、鋼鉄大陸で相対した時からは考えられないほど好戦的になっています》

「おかしい、私の方が先輩なのに先輩面されるなんて」

「ま、待ってよお姉様!?アインはともかく私達はそういうのじゃないから!?……多分」

「そうですよお姉様!私がこんなクソボケのルートを走るなんて例え世界が滅びる事になろうとも有り得ません!」

「なんで今罵った?」

「ふふ……遠慮する事はありません、我はオウルとソフの奥底の本心にも気がついております」

 

 

なんかよく分からんがどうやらアインの悩みは解決したらしい

 

それがどうして家族全員でのレースに繋がるのかは分からないが……家族仲睦まじいのは良い事だ、うん

 

てことで────

 

 

「よーし!俺もレースに参加───」

 

「「「「「《酒泉(さん)(お兄様)は駄目(です)》」」」」」

 

「…なんでそんな事言うの…?」

 

酒泉、泣いた!!

 

なんだろう、母親と娘は仲が良いのに父親だけ二人から避けられたり無視される、そんな冷たい家庭が思い浮かんでしまった

 

いいもん……家中の皆から冷たくされたって俺にはレドアカのカラサキシナちゃんと寝る時毎回枕代わりにしているスカルマンがいるもん……

 

 

「酒泉が酒泉を手に入れると時空が歪んじゃう」

「そうそう、優勝トロフィーが優勝トロフィーを狙うなんて訳分からないでしょ?」

「ソフ、貴方今さらっとこのクソボケを優勝トロフィー扱いしましたけどそれはつまり参加表明という事で───」

「……はぁ!?ただの例え話なんだけど!?」

「……そういえば競技大会では金メダルを取った時にそれを噛るっていう風習があるらしい、つまり酒泉に噛みついた事のある私は実質優勝者って事になる」

《否定、それは無効試合どころかまだ開始の合図すら鳴っていない時でした》

「フ、フライングは無しだと思います……」

「おや、我の知識が正しければ大会等でのフライング行為が発覚した場合は仕切り直しか失格というのが基本でしたね、つまりシロコさんの理論に合わせるならば────」

「……!?」

《策士策に溺れるとはこの事でしょうか》

「策士が墓穴掘ってただけでしょう」

 

 

(……まあ、ちょっと離れた所からこの光景を見るのも悪くないか)

 

 

家族の温もりというのは自分の心を満たしてくれるが、偶にはこうして遠目から見守る事も大事だろう

 

今じゃ〝当たり前〟になった家族と過ごす日常、そんな〝当たり前〟の尊さを再確認する為に、そんな〝当たり前〟を絶対に守り通してみせると改めて決意する為に

 

特にキヴォトスなんか前世と比べて圧倒的に不幸が起こりやすい世界だ、最悪の場合その不幸は世界そのものを巻き込むほど膨大なパターンもある

 

そんな不幸、災害、事件から家族を守る為なら、俺はどんな事にだって首を突っ込んでみせよう

 

「……けどまあ、何事も起きないのが一番ではあるんだけどな」

 

 

そう呟きながら、帰路の途中にあるショッピングモールの大型モニターに視線を向ける

 

そこに映し出されていたのは連邦生徒会長が戻ってきた件についてクロノスの生徒が市民の方々にインタビューしている映像だった

 

そしてその映像の右上には小さく金髪の女性の写真が貼られており、その写真を見て俺は〝偶には退屈させてくれてもいいんだぜキヴォトスさん〟という感想を抱いた

 

……絶対なんかあるよなぁ

 

 

《……酒泉さんは〝あの女〟についてどうお考えですか?》

 

「あの女……まあ、優秀だけど俺達の知ってる連邦生徒会長ではないよなーって。髪色も雰囲気も何もかも違うのに生徒達が当然の様に〝あの人は連邦生徒会長だ〟って受け入れてるのも疑問だし」

 

 

俺は直接連邦生徒会長と会った事は無……いや、あの謎の電車空間では会った事あるけど、でもそれを覗けばテレビとかスマホの画面越しでしか見た事がない

 

別に俺も向こうも自分から会いに行くほど親しい関係だった訳でもないしな

 

……俺だけ認識改変の影響を受けていないのはもしかしたら〝前世の記憶〟があるのが理由かもしれない

 

〝ブルーアーカイブ〟のストーリーを知っている俺が〝あんだけ周りを大騒がせした連邦生徒会長がぬるっと帰ってくる〟なんて展開を簡単に受け入れる筈がないからな

……ただ、あの人が何者なのかまでは当然分かる筈もなく

 

現状、唯一判明しているのは〝今、この世界で何かが起きている〟という分かり切った事だけだ

 

 

「……いやぁ、ほんと────」

 

 

変わり始める日常、新たな戦いの匂い

 

それらを感じ取りながら俺は────

 

 

 

 

 

「────すみません、少々お時間を頂けないでしょうか」

 

「……退屈しねえなぁ、キヴォトス」

 

 

 

 

 

────俺の腕を力強く掴んで引き留めてくる七神さんの方に振り向き、そう呟いた

 

 

 

 

 






ヒナ「アリウスは潰します、理由は酒泉を殺そうとしたからです。トリニティは潰します、酒泉の搬送を妨害したからです。ミレニアムは潰します、酒泉の理解者面をするからです。万魔殿は潰します、トップが無能な上に酒泉を傷付けたからです。先生は隔離します、男性なのに時々湿度が高くなるからです。ゲマトリアは潰します、残してもろくな事にはならないからです。最後に、このメッセージは私の意思で読んでいる訳ではありません、陸八魔アルに脅されて仕方なく読んでます」



映画〝空崎〟

絶賛後悔……公開中

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