クソボケのことが大大大好きな生徒達   作:あば茶

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イマカノモトカノ(アコ)

 

 

 

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

 

現在時刻15:48分、折川酒泉は絶賛地獄を満喫していた

 

 

「……酒泉、ネクタイが乱れてますよ」

 

「え?あ、はい……すんません……」

 

 

酒泉の隣に座っている少女の名は天雨アコ、なんと酒泉の恋人である

 

本日外回りの仕事を終えた二人は珍しく追加の仕事も急ぎの仕事も無かったのでどこか適当な店で食事でもしようかと酒泉お勧めのカフェに入っていったのだった

 

 

「相変わらずアコは堅苦しいね……別にそれぐらいいいでしょ、学園内って訳じゃないしここで視線を集めてるって訳でもないんだから」

 

 

そんな二人の前の席に座っているのは鬼方カヨコ、なんと────酒泉の元カノである

 

この日、カヨコは偶々〝そういえば昔はよくこの辺りのカフェに酒泉と二人で行ってたな〟と思い出して立ち寄ってみただけである

 

しかしこの日に限ってカフェは混雑しており、カヨコも酒泉達も店員からは相席でもよろしいかと尋ねられていた

 

どこぞのセクシーフォックスじゃあるまいし誰と相席になるかなんて予知できる筈もない酒泉達は快く相席の提案を受け入れ、 そして……今の状況に至る

 

 

「はい?私はただ恋人として酒泉の身嗜みに気を遣ってあげただけですが?」

 

「ネクタイが乱れてるなんて戦闘の多いゲヘナじゃ日常茶飯事でしょ、今更気にすることないじゃん」

 

「服装の乱れは心の乱れ、こういうのは日頃のだらしなさから生まれるものなんですよ……分かったら〝昔の女〟は口を挟まないでください」

 

「……〝今の女〟は面倒で大変だね、酒泉」

 

「い、いや……」

 

 

俺に話を振らないでくれ、それが酒泉の切実な願いだった

 

一体前世でどんな罪を犯したら今カノと元カノのギスギスに巻き込まれという罰を受けさせられるのか、恐らく周りの人達を置いて先立った罰だろうと酒泉は勝手に自己完結した

 

 

「お、お待たせしましたー……こちらパンケーキでーす……」

 

「ど、どうも……」

 

 

ごゆっくりどうぞー、と嫌な空気を察知してそそくさと立ち去る女性店員

 

彼女の行動は正解である、そもそもこんな空間に自ら飛び込みたがる人間など余程の修羅場好き以外存在しない

 

 

「へー、やっぱりパンケーキ頼んだんだ。酒泉ってこの店来たら必ずそれ頼んでたよね……昔から変わらないね」

 

「……カヨコさん、申し訳ありませんが人の恋人に対して彼女面しないでくれませんか?」

 

「別にそんなつもりはなかったんだけど……アコが知らない酒泉の事を話しただけでどうしてそんな睨まれなきゃならないの?」

 

 

カヨコの繰り出すこの元カノムーブ、クール顔を貫いている故に実際にマウントを取ろうとしていたのかただ思い出話に花を咲かせようとしていただけなのか判別がつかない

 

しかしアコにとってはそんな疑惑など関係無く、今カレの昔の女が今カノの目の前で思い出話をしようとしている事実だけで不快になるのに十分すぎた

 

 

「あ、あのー……もうちょい仲良く会話したいかなーって……」

 

「酒泉は余計な事は言わなくていいです、カヨコさんからの問答は全て私が受け答えしますので貴方はパンケーキでも食べててください」

 

「知らないの?酒泉はいつも一緒に注文したバニラシェイクが届いてからパンケーキを食べ始めるんだよね、今回もそのパターンでしょ?」

 

「あ、はい……その通りです……」

 

「あ、あのー……こ、こちらバニラシェイクでーす……」

 

「ふふっ……ほら、やっぱり」

 

「……っ!」

 

 

店員がバニラシェイクを届けると同時に懐かしそうに微笑むカヨコ、それとは正反対にアコの表情は苛立たしそうに歪むばかり

 

ギリリと歯噛みする音が鳴ろうとお構い無しにその視線をカヨコにぶつける

 

 

「あの時から本当に何も変わってないんだね、お揃いのピアスを着ける為に空けた耳たぶのその穴も」

 

「……耳たぶに残された跡程度で喜ぶなんてカヨコさんも可愛いところがあるんですね、まあ私は彼の薬指を予約していますが」

 

「……」

 

 

ピアス穴の話をしていた筈が酒泉の胃に穴が空きそうになっている

 

おかしい、自分は確かにバニラシェイクを飲んでいる筈なのにどうしてこんな苦味を感じるのか。そんな思いがずっと酒泉の中で渦巻いている

 

 

「本来なら私より先に酒泉の薬指を予約している女性が居たはずなのですが……その人物が突然酒泉から離れてくれたお陰でこうして私に順番が回ってきましてね」

 

「……ふーん、じゃあその〝女性〟に感謝しないとね」

 

「ええ、本当に感謝しかありませんよ」

 

 

鬼方カヨコは折川酒泉が空崎ヒナという女を敬愛している事は知っていた、それを知っていて尚自分から告白した

 

酒泉がヒナに向けているのは恋愛感情とは別の好意だとカヨコは理解していた。だというのにヒナを慕うその姿に耐えられなくなり、告白した時と同じように自分から────別れ話を切り出した

 

もしあの時別れ話を切り出さなければ、今頃アコの座っている場所には私が座っていたかもしれない

 

そんな後悔とあの日の自分への恨みが今もカヨコの胸を締め付ける

 

 

「でもさ、アコは大丈夫なの?」

 

「何がですか?」

 

「風紀委員長のこと」

 

 

具体的に何を差しているのかも分からない一言、しかしアコはたったそれだけの言葉でカヨコが何を伝えたいのか理解した

 

要するにカヨコは自分と同じように〝ヒナを慕う酒泉の姿に耐えられなくなるのではないか〟と尋ねていた

 

 

「ご心配なく、私も酒泉もヒナ委員長の事が大好きですので」

 

 

それに対して笑みを崩さず余裕綽々と答えると、カヨコはつまらなそうに〝ふーん〟とだけ返事を返す

 

ヒナに対する忠誠心、それこそが酒泉のヒナ愛を間近で見せつけられてもアコがメンタルを保てている理由の一つだった……とはいえ、それでも嫉妬心を抱くには抱いているが

 

 

「お、お待たせしましたー……こちらムニエルにボンゴレビアンコでーす……ご、ご注文は以上で……」

 

「は、はい……ありがとうございます……ほら!お二人の分も届きましたしさっさと食事を済ませちゃいましょ!?ね!?」

 

「……そうだね」

 

「……ふん」

 

 

酒泉はこんな空間に割り込まなければいけない羽目になった女性店員に心の中で〝ごめんなさい〟と謝りながら、自分の席の近くに置いてあったフォークを二人に手渡す

 

 

「はい、鬼方さん」

 

「ありがと」

 

「アコさんもどうぞ」

 

「ありがとうございます」

 

「……ねえ、酒泉」

 

「はい?なんですか?」

 

「これは単純な疑問なんだけどなんで私の呼び方変えたの?」

 

 

瞬間、じめじめとした空気が周囲に漂う……ような感覚を酒泉は覚えた

 

心なしかパンケーキの上に乗っていたアイスも蒸し暑さで溶け始めているような気もするがそれは多分気のせいだろう

 

 

「前まで〝カヨコさん〟呼びだったのに今じゃ〝鬼方さん〟だし、アコに関してはいつの間にか〝天雨さん〟から〝アコさん〟になってるし」

 

「そ、それは……ほら、もう恋人じゃないのに名前呼びするのは馴れ馴れしいかなって……」

 

「別に恋人じゃなくても名前呼びくらいよくない?私は気にしないし今から呼び方戻しても構わないけど」

 

「酒泉、聞かなくていいです、カヨコさんの我儘に付き合う必要はありませんから」

 

 

場の空気が再びギスギスしたものに戻ってしまうと、酒泉は冷や汗を流しながら苦笑いを浮かべる

 

今の酒泉に出来ることはどちらの機嫌も損ねずどちらも傷付けないようにその場その場を誤魔化すことぐらいか

 

そんな酒泉に対して痺れを切らしたのか、アコが眉間に皺を寄せながらずいっと詰め寄る

 

 

「……酒泉、いい加減にしてください。これは貴方がカヨコさんを突き放せばすぐに終わる話なんですよ?」

 

「酒泉にそれが出来ると思ってるの?自分の我儘の為だけに酒泉の意思をねじ曲げるような事を押し付けるのはやめなよ」

 

「昔の恋人に対して未練を残したまま新しい恋人を作る方が失礼なのでは?」

 

「もしかして私が元カノだから酒泉が突き放せないって思ってる?だとしたらそれは間違ってるよ、もしこの場にいるのが私以外の女友達だったとしても酒泉はきっと冷たく突き放すような真似はできないはず」

 

 

カヨコの言葉は正しい、もしこの場にいるのが恋愛のあれこれ関係無しの純粋な女友達だったとしても酒泉は似たような対応をしただろう

 

そもそも相席相手に向かって〝恋人と二人きりでイチャつきたいから他の店に行ってくれ〟と我儘を言えるほど自分勝手な人間でもないのでこの対応もやむ無しと言えるだろう

 

……とはいえ優柔不断ということでもなく、もしカヨコが寄りを戻さないかと迫ったところでそれはキッパリと断るだろうが

 

 

「……ていうか、アコだってもし酒泉がそんな冷たい人間なら好きになんかなってないでしょ?それとも何?こういうところだけは嫌いみたいな?」

 

「はあ!?嫌いとまでは言ってないじゃないですか!?」

 

〝嫌い〟という言葉が出た途端に声を荒げるアコ、それだけで如何に彼女の酒泉に対する想いが強いのかが窺える

 

 

「私はただ他の女性より私の事を優先してほしいだけですが!?」

 

「私が酒泉に呼び方戻されたところでアコの事を疎かにする訳じゃないんだし別によくない?」

 

「そ、それは……そうですけど……!」

 

 

他の女を名前呼びするようになるのが嫌だ、自分だけが酒泉の特別でいたい、それがアコの想い

 

しかし変に意地になってしまったせいでイマイチ正直な気持ちを出し切れず、カヨコ相手に口を濁そうとしてしまう

 

 

「あの……鬼方さん?」

 

「なに?」

 

「えっと、申し訳ないんですけど俺は呼び方を変えるつもりはありませんよ。アコさんもそれを望んでそうですし……まあ、モモイさんとか姉妹の居る人達は話が別ですけど」

 

「……そっか、なら仕方ないね」

 

「……それでいいんですよ、それで」

 

 

だが、そんなカヨコとアコの会話に酒泉が割って入る

 

折川酒泉は全ての人間を平等に扱うような善人ではない、今カノと元カノのどちらを優先するかと聞かれれば当然答えは決まり切っている

 

 

「そ、それよりそろそろ食べません?俺はいつまでお預けされてりゃいいんですか?」

 

 

腹減ったー、と強引に話を切り上げてパンケーキを口に運ぶ酒泉

 

結局、食事を終えるまで店の空気はずっと重苦しいままだったとか

 

あと後ろの席の子供が〝ままー!このみせむしあついー!〟と叫んでいたとか

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「……」

 

「あ、あの……アコさん……」

 

「……なんですか」

 

「その、すいませんでした」

 

「……それは何に対しての謝罪ですか」

 

「今日の事っていうか……女性関係のトラブルというか……」

 

「……別に貴方に非があった訳ではないでしょう」

 

 

見るからに不機嫌オーラを醸し出しながらつかつかと歩くアコの後ろを小走りで酒泉が付いていく

 

今回の件はカヨコが狙って酒泉と同じ席に座った訳ではないし酒泉もカヨコだと知ってて相席を了承した訳ではない、途中の会話こそギスギスしていたものの切っ掛けは本当に偶然だった

 

それを理解しているからこそアコも酒泉を責めようとはしない

 

 

「それに、貴方が元々カヨコさんとお付き合いしていた事は私だって知っていましたし……その上で告白したのですから」

 

「アコさん……」

 

 

敵が多いのは理解している、その上で想いを抑え切れなかった

 

天雨アコという女が一番に苛ついているのは昔の女の影でも今も酒泉を想う女達でもなく────

 

 

(嫌になりますよ……ちょっとしたことでもすぐ嫉妬心を抑えられなくなる私自身が)

 

 

アコは酒泉なら浮気など絶対にしないと信じている、それでも他の女に言い寄られる彼の姿を見る度に最悪の想像をして勝手に機嫌を悪くしてしまうのは未だ真の意味で彼を信用できていないからではないか

 

そんな自己嫌悪がアコの心中を支配し、そこからマイナス的な感情が延々と生み出され続ける

 

 

「えっと……この後の予定はどうします?どこか行きたい場所とかは……」

 

「いえ、当初の予定通りこのまま別れて帰宅しましょう。明日も仕事がありますし、いつも通り問題を起こすであろう不良生徒に備えて身体を休ませておいてください」

 

「……了解です」

 

「……」

 

 

アコを怒らせてしまったと勘違いした酒泉は落ち込みながら頷く

 

お分かりの通りアコは酒泉に対して怒っているわけではない、ただ愛情が強すぎるあまりすぐに嫉妬心を抱いてしまい、そんな自分に対する負の感情が表に滲み出てしまうが故に誤解されやすいだけだ

 

 

「じゃあ、その……また明日ですね」

 

「……」

 

 

どこか寂しそうな笑顔でその場を去ろうとする酒泉、アコからの返事はないが聞こえてはいるだろうと判断してアコとは別の道に足を向かわせる

 

その直後、突如自身の身体の動きが止められる

 

後ろから何かに引かれるような感覚を覚え、顔だけ振り向かせるとアコが俯いたまま酒泉の服をギュッと掴んでいた

 

 

「……」

 

「……アコさん?その、何か────」

 

「やっぱりまだ帰らないでください……まだ一緒にいたいので」

 

 

途中から無言だったアコが再び口を開くと、ボソボソと控えめな声量で自身の想いを呟く

 

先程まで不機嫌だった恋人からの頼みに酒泉は顔を明るくさせながら二つ返事で頷く

 

「ええ!もちろん!アコさんの頼みでしたら何でも聞きますよ!」

 

「……本当に?どんな我儘でも?」

 

「はい!」

 

 

酒泉の力強い返事を聞くと、アコはゆっくりと顔をあげてぽすりと酒泉の胸元に顔を埋めた

 

 

「じゃあ……これからもずっと私を愛し続けてください、面倒な女だなとか束縛強いなとか思っても絶対に離れないでください」

 

「カヨコさんのことが忘れられなくてもいいので最後には必ず私のことを思い浮かべてください、どんな女性と親しくなろうと最終的には必ず私の元に戻ってきてください」

 

「ヒナ委員長を支えるのは構いませんが、当然私だって嫉妬するのでその分ちゃんと私の事も構ってください」

 

「女友達と遊びに行ってもいいですが、その週には必ず私とデートできる時間を作ってください」

 

「もし他の女性と親しくしすぎたと自覚する事があれば必ず私の機嫌を取りに来て下さい、それと私の嫉妬も私からの無茶ぶりも全部受け止めてください」

 

「……これからもどんどんめんどくさい女になっていくと思いますが、それでも途中で逃げ出さず最後には同じ墓に入ると誓ってください」

 

「できますよね?だって貴方は私の恋人なんですから」

 

 

我ながら本当に面倒な女だ、アコにはその自覚があった

 

しかしそんな面倒な女に対して酒泉は屈託のない笑みで頷いた

 

恐らく酒泉はアコが何を言っても全てを受け入れただろう、ペットのようにルールという首輪を押し付けられてもそれが当然だと喜んで首を差し出していたはず

 

だって自分は天雨アコの恋人なのだからと、どこまでも一途を貫いて

 

「……よろしい、これはご褒美です」

 

 

そんな彼に褒美を与えようとアコがちょっとだけ背伸びすると、酒泉の唇に柔らかな感触が伝わった

 




店員(おっも)
店長(おっも)
後ろの席の子のお母さん(おっも)
パンケーキ(おっも)
通りすがりのスイーツ部(おっも)
バニラシェイク(おっも)
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