クソボケのことが大大大好きな生徒達   作:あば茶

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子連れ狼ならぬ狼連れ子供(ちびシロコ)

 

 

 

 

空のバケツが満杯になるまで水を注ぎ、その中央に葉っぱを一枚乗せ、その後は完全無風の部屋に放置する

 

するとどうなるか?───どうもならない、水が溢れる事はないし葉っぱが大きく揺れ動く事もない

 

ならばそのバケツの中に水を新たに一滴だけ垂らしてみるとどうなるか、答えは単純

 

水滴が水面にぶつかると同時にほんのちょっとだけ波が立ち、ほんのちょっとだけ波紋が広がり、ほんのちょっとだけ葉っぱが揺れて、ほんのちょっとだけ葉っぱが移動する……うん、それだけだ

 

では今の話のスケールを少しだけ大きくしてみよう、まずは満杯に水が入ったバケツを────世界そのものに例えてみよう

 

中央の葉っぱは生まれるのが確定している命、垂らされる一滴は後から混入した命

 

するとどうでしょう、本来無風で辿る歴史が確定していた世界は後から混入してきた一滴のせいで揺れ動いて不安定に、生まれる場所が決まっていた葉っぱは別の場所で生まれてしまいました

 

……まあ、散々下手くそな例え話をして何が言いたいのかというと

 

 

────……マジで?

 

「…………」

 

 

ボロボロな状態の砂狼シロコがゲヘナにスポーンしたのは俺のせいかもしれない

 

いや、分かってる、考えすぎだって言いたいんだろ?俺だってそう思ってるよ

 

でも、俺みたいな世界の不純物の前に原作ブレイクの影響をもろに受けてる存在が現れたら変に思い悩んでしまっても無理はないだろう?

 

 

────俺、悪くないよな?

 

「……」

 

 

返事はない、機能してるかも分からない虚ろな瞳で俺の顔を見つめるだけ

 

それも当然か、これだけ身体が衰弱しているのだから返事をする余裕なんて残されていないだろう……赤の他人に返事をする義務も無いけど

 

 

────……さて、どうすっかなぁ

 

 

ここで俺が助けるか、それとも原作通り小鳥遊ホシノと出会うのを期待してスルーするか

 

ただでさえ目の前でバタフライエフェクトが発生したばかりだというのに、これ以上余計な手出しをして更に原作を崩壊させるのは少々気が引けるというか

 

そうだな、やっぱここは小鳥遊ホシノと……そうじゃなくてもアビドスの誰かしらと出会うのを期待してスルーしよう

 

もしかしたらここからアビドスまで流れ着いて原作に繋がる可能性だってあるしな、きっとそうだ

 

だから余計な事をするなよ折川酒泉、お前がやるべき事は今すぐスーパーに向かって特売品を買い漁る事だ……おいおいおい待て待て待て、なんだその手は

 

おい止めろ俺、なんで砂狼シロコに上着を掛けている、なんで口を開いている、何を言うつもりだ?今すぐ帰れ原作が狂ったらどうす────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────……一緒に来るか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…はぁ…」

 

「ま、撒いたか……?」

 

「ここまで来れば……もう大丈夫だろ……」

 

 

薄汚れた格好で何かから逃げる様に路地裏を必死に走るスケバン達

 

怯える様に何度も背後を確認してから立ち止まり、暫くしてから漸く呼吸が整い始めた

 

 

「そ、それで?例の物は手に入ったのか?」

 

「おうよ!ちゃんと全部持ち帰ってきたぜ!」

 

 

スケバンの一人が背負っていた大きめの黒いリュックサックを降ろすと、リーダー格の少女が焦る様に強引にジッパーを開く

 

その中には大量の紙幣が詰め込まれており、何枚かは小学生のランドセルに雑に突っ込まれたプリントの様にぐちゃぐちゃに丸められている

 

しかし肝心なのは質より量、破れてさえいなければ通常通り使用できる大金を前にスケバン達は口元を歪に歪めた

 

 

「す、すげぇ……これ全部本物なんだよな!?」

「当たり前だろ!?ATMにぶっ込んでる最中の奴等からパクってきたんだから本物に決まってんだろ!?」

「そ、それでよぉ!この金どうすんだ!?やっぱ豪遊か!?」

「馬鹿っ!んな事したらすぐ失くなっちまうだろ!?この金使って兵力集めて、そんでまた別のとこ襲って金稼ぐんだよ!……で、でもこんだけ金あるなら打ち上げくらいはパーっとやってもいいかもな……」

「だよなだよな!アタシ飲み物と菓子買ってくるわ!」

 

 

他者から奪った金で明るい未来を想像する若者達、それを叱責できる大人が居ればいいのだが、生憎彼女達は言葉程度で自分等の行いを反省できる程賢くはない

 

ならば力ずくで……と行こうとしても、質の悪い事にキヴォトスの生徒は正規の軍人ですら太刀打ちできない程に身体のスペックが高い為、まともに相手取れる者は限られている

 

ではどうすれば彼女達を止められるのか、その方法は至ってシンプル

 

キヴォトスの生徒相手でも押し潰せてしまう程の数の暴力を仕掛けるか、或いは────彼女等の様な無法者を捕らえる為に設立された組織に属する者がそれ以上の暴力で押さえつけるか

 

 

「じゃあ私は馬鹿みたいに高い肉を買って───痛っ!?」

 

「狙撃!?方角は真後ろ……一体誰だ!?」

 

────ワシじゃよ新一

 

「本当に誰だ!?」

 

 

紙幣を雑に掴んだまま叫ぶ少女、その方角には一人の人間の姿が近づいてきていた

 

しかし大勢の風紀委員が現場に到着した訳ではないと分かった彼女達は〝たった一人か〟と安堵の息を吐いた

 

 

「んだよ、脅かしやがって……一人でアタシ達をどうにかできると思ったのか!?おい、こいつ囲んじまおうぜ!」

 

「あ……あぁ……!」

 

「アイツだ……アイツらが来たんだ……!」

 

「お、おい?何震えてんだよ……さっさとアイツやっちまおうぜ!?」

 

 

周囲の仲間達が震える中、一人だけ堂々と吠える不良生徒

 

彼女が目の前の少年を知らないのも無理はない、何故なら高校に上がる前はゲヘナから離れた場所の中学に通っていたのだから

 

彼等の持つ異名を一切知らぬまま吠えてしまったのは、彼女が生きてきた人生の中で最大の不幸と言わざるを得ないだろう

 

 

「馬鹿言ってんじゃねえ!?〝ハンドラー〟がここに居るって事は〝猟犬〟もきっとどこかに────」

 

「────何回も言わせないで」

 

 

焦りや怯えを含めた不良達の声とは対照的な、とても落ち着いた物静かな声が一童の耳に響く

 

しかし次の瞬間、緩急付ける様に今度は爆発音が不良生徒の背後で鳴り、反射的に後ろを向いてみればリーダー格を含めた仲間達が全員倒れ伏していた

 

そして、倒れ伏す彼女達を見下ろす様に一人の少女が中心に立っており、その顔の横では────

 

 

 

「私は犬じゃない、狼」

 

 

 

────ミサイルを搭載したドローンが、運悪く気絶し損ねた少女に照準を合わせていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ですからっ!今回の任務では爆発物は使うなと何度も説明したでしょう!?お札が燃えてしまったらどうするつもりだったんですか!」

 

「ん……」

 

 

正座しながらも不服そうな顔で視線を横に逸らすシロコ、それを見た天雨さんは更に青筋を立てた

 

それだけなら別に良かったのだが、天雨さんはシロコだけじゃ飽きたらず俺にまで怒りをぶつけてきた

 

 

「酒泉!貴方にもちゃんとお伝えしましたよねぇ!?〝手綱はしっかり握っておけ〟と!」

 

────いや、俺だってちゃんと〝絶対にミサイルは使うなよ?いいか?絶対だぞ?絶対に使っちゃ駄目だからな?絶対にだぞ!?〟って何回も注意したんすけどね

 

「絶対それが原因でしょ」

 

 

ちゃんと言い聞かせましたよアピールしたら何故か銀鏡さんに呆れられてしまった

 

そんな……本当に気をつけてほしい事だからこそ俺は何度も〝絶対にやめろ〟って伝えたのに

 

 

「とにかく!これからは作戦を説明する度にキチンとメモを取り、実行に移す前に一度そのメモを再確認する事!いいですね!?」

 

「戦場でそんな事をしている暇はない、少しでも動きを止めればそこを狙われる可能性がある」

 

「ですから戦場に飛び込む前に再確認しろと言ってるんです!!!」

 

「……うるさい」

 

「ああああああもう!!!」

 

「……シロコ、貴女が行動型の人間なのは理解しているけど、そのままだといずれ罠に掛けられて致命的なミスを犯すかもしれないわよ。私を倒せるくらい強くなりたいのなら、敵を倒す事だけじゃなく周りの状況も考えられる様になりなさい」

 

「それに、爆発物は使用する場所によっては余計に被害を拡大してしまう可能性もありますからね?先週便利屋を追っていた時、廃工場に追い詰められたメンバーの一人が爆弾を使った結果どうなったのか覚えていますよね?」

 

「……放置されてた油に火が移って大変な事になった」

 

 

発狂する天雨さんを放置して冷静に言い聞かせる空崎さんと火宮さん、するとシロコは驚く程素直に〝ごめんなさい〟と頭を下げた

 

 

「これからは気を付ける……」

 

「……でも、事件を早期解決したのは流石ね」

 

「はい!無傷で敵を制圧できたのは間違いなくお二人の力です!」

 

「ん、この程度なら余裕、もっと難しい任務でも全然よかった」

 

 

二人に褒められた途端、ショボくれていたシロコの耳が急にピン!と立つ

 

その辺りのフォローもしっかり欠かさないとは……流石、ゲヘナでは珍しい常識人枠

 

 

「な、納得いきません……何故私とそれ以外でこうも態度が違うんですか!」

 

「ヒナとイオリは私より強いし、チナツは……怖いから」

 

「こ、怖い!?私がですか!?」

 

「あー、それちょっと分かるかも……チナツって怒らせると何してくるか分かんないっていうか……」

 

「……イオリ?」

 

「あ……い、いや!みたいな評判をどっかで耳にした事があってさ!?別に私がそう思ってる訳じゃないからな!?」

 

 

これぞ〝口は災いの元〟よ、恨むなら自分の口の軽さを恨みなぁ!……だからそんな助けを求める様な眼で見られても俺は知らんぞ

 

ちなみにキレた火宮さんが怖いってのはガチ、ソースは怪我が完治してない状態で自主トレしようとした事のある俺

 

 

「な、なんですか!つまり私は強くもないし怖くもない人間だと!?」

 

「うん」

 

「こ、この駄犬……ハッキリと……!」

 

「アコは私より頭が良くて作戦立てるのが上手いし事務能力も優れているけど、強さはそこまでではないから」

 

「……な、なんですか急に!人を煽てる様な事を言って!」

 

「アコちゃん照れてる?」

 

「照れてますね」

 

「照れてません!!!」

 

 

シロコからの率直な評価を聞かされた天雨さんは急な褒め殺しを前にしどろもどろになってしまう

 

聞いての通りシロコは誰かを見下す様な人ではない、ただ少し正直すぎるだけだ

 

 

『ん!ん!これ私の!私の肉!』

 

『野菜も食えつってんだろうがクソガキィ!』

 

『早い者勝ち!遅ければ追い付かず、弱ければ全てを奪われる!』

 

 

……それと〝弱肉強食〟という野性味溢れる考えがこびりついてるのも問題ではあるか、これのせいで夕飯で野菜炒めを作る度に肉の争奪戦へと発展してしまう

 

しかも風紀委員会に入ったばかりの頃は事ある毎に空崎さんに勝負挑んでたし……まあ、全試合完敗だったけど

 

そのお陰?って言っていいのかは分からんが今ではすっかり空崎さんの言葉には従うお利口さんに、尚天雨さんへの態度は入学当初から変わらない模様

 

 

「くっ!チナツにまで彼等の態度が感染してしまうとは……酒泉といいシロコといい、どうして優秀な一年に限って私に生意気な口を……!」

 

「……服装に威厳を感じられないからじゃない?」

 

「むしろ……その……引かれてもおかしくない様な……」

 

「はい?これの何処に引かれる要素があるというのですか……どこからどう見ても普通の格好でしょう!ヒナ委員長もそう思いますよね!?」

 

「……皆、今日の仕事はもう終わりだから帰る準備していいよ」

 

「委員長?」

 

「今日は随分とお早いですね……委員長、つかぬことをお聞きしますがまた皆が帰宅した後お一人で残業するつもりでは?」

 

「安心して、今日は本当に運良く何も事件が起きてないだけだから。私も今から帰宅の準備するし」

 

「あの、委員長?」

 

 

何故か天雨さんの問いに答えないまま会話を進める空崎さん、きっと本当の事を言って天雨さんを傷付けてしまわない為の配慮なのだろう

 

……にしても

 

 

────一年、か

 

「一年?何が?」

 

────いえ、別に……調印式の日にゲヘナとトリニティで一年戦争が起きないか心配になっただけです

 

「急に物騒なこと言い出さないでよ……万魔殿の奴等が余計なことしない限りは大丈夫でしょ」

 

 

ぼそっと呟いた言葉を銀鏡さんに聞かれてしまったので咄嗟に誤魔化す……そう、俺もシロコもなんと〝一年生〟なのだ

 

ゲヘナの三年生である空崎さんや天雨さんの容姿は完全に俺が原作で見たままだというのに、シロコの見た目は原作で見た姿より一回り幼い様に見える

 

俺が生まれた時点で原作が狂い、シロコが目覚める場所だけでなく年代まで狂ってしまったのか?……まあ、幾ら考えたところで俺の知能レベルで納得行く答えなど導き出せる訳もなく

 

「ね、ねえ酒泉……久々に同じ時間に帰れるし、もし良ければ帰りにどこかで食事でも───」

 

「今日の夕飯のおかずはもう買ってある、だから寄り道しちゃ駄目」

 

「……貴女には聞いてない」

 

────あー……すみません空崎さん、シロコの言う通りなんすよ。しかも半額で買った肉なんで早い内に食べとかないと期限もまずくて……

 

「そ、そうなんだ……それなら仕方ない、よね……」

 

───すみません、今度必ず予定埋めますから……

 

「委員長!私が御供します!そこのクソボケより完璧にエスコートしてみせますのでご安心ください!」

 

 

落ち込む空崎さんに心の中で更に謝罪を重ねながら帰り支度を進める、己の自己満足で頼みを断ってしまった事に罪悪感を抱かずにはいられない

 

 

───シロコ、フォローありがとな。お前は先に帰ってていいから……

 

「嫌、私もついていく。断るなら今すぐここで本当の事をバラす」

 

───……わぁったよ、でも戦闘には絶対参加しないでくれよ?それだけは絶対に守ってくれ

 

「……毎回それ言うけど、どうして?」

 

───……自己満に付き合わせたくないから

 

 

 

でも、どうしてもこれだけはやらなくちゃならないんだ。それが俺なりの〝責任〟の取り方なのだから

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「くそっ……いてぇ……いてぇよ……」

 

「な、なんなんだよコイツ……!」

 

「小鳥遊ホシノ以外にこんな強い奴が居るなんて聞いてないぞ……!?」

 

「た、助け───ごおっ!?」

 

 

怯え震えている少女の胸ぐらを掴んで無理矢理立たせた後、その口にグレネードを突っ込む

 

ピンに指を掛ければよりガタガタと震えが強くなり、モゴモゴと何かを伝えようとしていた

 

 

───二度とアビドスに手ぇ出すんじゃねえぞ、いいな

 

「んん!?んん゛んん!!!」

 

───……嘘くせぇな、やっぱ歯ぁ何本か行っとくか

 

「んんんん゛んんん゛んんっ!?」

 

 

恐怖のあまり気を失ってしまったのか、カクンと首が落ちたのを確認してからグレネードを口から取り出す

 

唾液まみれのグレなんざ持ち歩きたくないが、金が勿体無いのでハンカチで拭き取ってから再びポケットにしまい込んだ

 

 

「ん……やっと終わった、弱いのに数だけは多い」

 

───弱いから数だけは揃えるんだろ

 

 

シロコと雑談しながら同じ帰路を歩く

 

最初は慣れなかった砂の上も今ではすっかり馴れたもんで、戦闘中に足を取られる事はもうなくなっていた

 

靴に砂が入り込んでくる不快感も今では全く気にしなく……というのは流石に嘘だ、砂をよーく落としてから玄関に上がるのだけは未だに面倒だ

 

 

───シロコ、何度も言うけどついて来なくていいんだぞ?夕飯ならちゃんと作ってからアビドスに行くし、わざわざ面倒な戦いに首突っ込まんでも……

 

「やだ、酒泉と一緒に〝いただきます〟したい」

 

───……愛い奴め

 

「んっ」

 

 

柔らかな頬を片手で挟んでみれば親指と人差し指がぷにっと沈む、しかしシロコさんは嫌がる素振りを一切見せない

 

それどころか嬉しそうに獣耳をピョコピョコし出したので期待に応える様に頭をわしゃわしゃと撫でてやれば、もっともっとと言わんばかりに頭を更に押し付けてきた

 

 

「んー……」

 

───はい、終わり

 

「駄目、早すぎる」

 

───これ以上は時間が避けん、あの人と出くわしちゃうかもしれんしさっさとアビドスから離れないと

 

 

俺あの人からかなり警戒されてるっぽいからな……まあ、他校の生徒が自分達の自治区でうろちょろしてたらそりゃ気にするだろうけど

 

特にアビドスみたいな超少人数な学校だとな……

 

 

「……やっぱり分からない」

 

───ん?何が?

 

「どうして酒泉はアビドスを守ろうとしてるの?……ゲヘナの生徒なのに」

 

 

心底不思議そうに首を傾げて訊ねてくるシロコ、アビドスの事などあまり気にしてなさそうなその様子に少しだけ寂しさを感じてしまう……なんて

 

シロコから〝アビドス〟を奪ってしまった俺にそんな事を思う資格など無いだろう

 

 

「毎日自分の時間を使ってアビドスを監視して、ヒナにも内緒で放課後も休日もアビドスの事ばっかり……あそこに何かあるの?」

 

───……ケジメってやつさ

 

「ケジメって……一体何の───」

 

「それ、私にも聞かせてほしいんだけど」

 

「っ!?」

 

新たな声の登場に驚き、咄嗟に振り向くシロコ

 

気配を消すのが上手いな……小鳥遊さんは。流石は〝アビドス最強〟と言うべきか

 

 

「さっき巡回中に気絶してるヘルメット団見つけたんだけどさ……あれ、君だよね?」

 

───……はい

 

「そっか、じゃあまた知らない間に借りを作っちゃってたんだ……ありがとね、酒泉────なんて、言うと思った?」

 

 

やはりと言うべきか、穏やかそうな声色から反転して一気に声色が険しく

 

目付きも、雰囲気も、態度も、何もかもがピリピリとしたものへと変化していた

 

 

「前にも言ったよね、余計なこと事はするなって……なのにどうしてまた来たの?」

 

───それは……言えません

 

「また黙り?……ああ、もしかしてゲヘナの上層部から〝アビドスの情報を探ってこい〟って命令でもされた?こんな何もない土地を調べさせるなんて暇なんだね、ゲヘナの風紀委員は」

 

「っ……謝って、酒泉はアビドスを守───」

 

───シロコ!!……すみません、以後気を付けます

 

 

俺を庇おうとしてか、初対面の小鳥遊さん相手にも食って掛かろうとするシロコ

 

しかし彼女が何を言おうとしたのか察した小鳥遊さんは冷たい眼で俺を見てきた

 

 

「〝アビドスを守ろうとした〟って?……だから、それが怪しいって言ってるの。君、今のアビドスがどういう状況か知ってる?」

 

「……借金が沢山あって、人口も減ってるって聞いたことがある」

 

「なんだ、ちゃんと理解してるんだ……そんな〝何も見返りを求められないような場所で暮らしてる人達〟を無償で助けるなんて、何か企んでいるって考える方が普通だと思わない?」

 

 

小鳥遊さんの言葉に対して何かを言いたげにピクリと口元を動かすシロコ、しかし俺が口の前に手を置いた事でシロコはむすっとしながらも大人しくしてくれた

 

 

「ハッキリ言って迷惑なんだよね、得体の知れない子が目的不明のままアビドスで暴れるなんてさ」

 

───すみません

 

「また〝すみません〟で誤魔化すの?やっぱり目的を答えるつもりはないんだね」

 

───……すみません

 

「……はぁ」

 

 

〝貴女達から大切な人を奪ってしまった罪滅ぼしです〟……そう言ったところで納得はしたもらえないだろう、そう判断して同じ言葉を繰り返す

 

すると小鳥遊さんは諦めた様な溜め息を吐いて背中を見せ、そのまま俺達の顔も見ないまま語りかけてきた

 

「とにかく……もう二度とアビドスに来ないでね、次余計な事をしたらそっちの風紀委員長に報告するから」

 

────っ……分かりました、でもせめて俺に出来る範囲で弾薬の提供を……

 

「それも必要ないよ、目的を一切話そうとしない怪しい奴に借りを作る訳にはいかないから」

 

────……

 

「アビドスも、大切な後輩達も…………全部、私が守る」

 

 

そう言い残して去っていく小鳥遊さん

 

後ろで結ばれた髪を見て、彼女は〝おじさん〟ではなく〝暁のホルス〟なのだと改めて理解した

 

 

 

 

──────────

 

 

────────

 

 

──────

 

 

 

 

「……どうして言い返させてくれなかったの」

 

───……あの人の言ってる事は全部正しい

 

「……ん、あの人好きじゃない」

 

 

不機嫌そうに文句を言ってくるシロコにそう返すと、シロコは自身の感情を一切取り繕う事なく正直に吐き捨てた

 

 

───ごめん

 

「違う、酒泉に言ったわけじゃない」

 

───……ごめん

 

「……聞いてる?酒泉、私は───」

 

───ごめん、ごめんなさい、本当にごめん、ごめん

 

「……しゅ、せん?どうして……泣いてるの……?」

 

 

シロコの口から小鳥遊さんへの嫌悪が溢れたのを聞いた時、心がどうしようもなく張り裂けそうになってしまった

 

本来ならシロコはそんな感情を抱くことなく、むしろ小鳥遊さんを大切な人だと思っていた筈で

 

 

「も、もしかしてさっきの人に悪口言われたのが辛かったの……?」

 

───ごめん、出会ってごめん、話しかけてごめん、手を差し出してごめん

 

それを壊したのは俺なんだ、あの日俺が出会ったせいで未来は変わって、そもそも俺が生まれた時点で原作なんてものが壊れてしまったのかもしれなくて

 

偽善心で余計な事をして、そのせいで小鳥遊さん達の仲間を一人奪って、だから今の小鳥遊さんにも影響が出て

 

 

「酒泉、酒泉、泣き止んで」

 

───中途半端でごめんなさい、偽善者でごめんなさい、この世界をめちゃくちゃにしてごめんなさい、異物の癖に生まれてきてしまってごめんなさい

 

「違う、何もごめんなさいじゃない。酒泉が生まれてきてくれたお陰で私は酒泉と出会えた、酒泉が手を差し伸べてくれたお陰で私は救われた、酒泉は偽善者なんかじゃない」

 

 

違う、違うんだ。手を差し伸べるのは俺じゃなくてアビドスの皆で、シロコが出会う筈だったのもアビドスの皆で

 

俺は本来在るべきシロコの場所を奪っただけじゃなく、シロコの仲間まで奪ってしまった

 

本来ならさっきの人の隣に立っていた筈なのに、本来ならアビドスの皆と一緒に戦っていた筈なのに、俺の勝手な行動でそれを消して、小鳥遊さん達の負担を増やして

 

 

「酒泉……私は酒泉と一緒に食べるご飯が好き。お風呂に入ったあと酒泉に髪を乾かしてもらうのも、寝ている酒泉の布団に潜り込むのも全部大好き。〝ただいま〟だって酒泉と一緒に言いたいし〝おかえり〟だって言いたい、だから……〝生まれてきてごめん〟なんて言わないで、自分の生を否定しないで」

 

 

だというのに、彼女の小さな手はこんな俺を抱き締めてくれる

 

たったそれだけの事で全部許された様に思えてしまうのは、俺の罪の意識が低すぎるからだろうか

 

気付けば、俺の両手も彼女の優しさに応える様に抱き締め返していた

───ごめん、しばらくこのままでもいいか

 

「ん……良い。いつもは私が酒泉を抱き枕にしてるから、今日は私が抱き枕になってあげる」

 

 

ぽんぽん、と

 

赤子をあやす様に優しく背を叩かれる

 

いつもなら幼子扱いするなと返していたであろうその行為が、今は無性に嬉しかった

 

 

「いつだって、どこだって、何回でも抱きしめてあげる。だって、私は───」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「酒泉が大好きだから」

 

 

 






ん、おっきい私も普通の私も恋愛弱者

一番強いのはちっちゃい私
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