「見てくださいこのワンピース……オシャレで可愛いですねぇ……」
「カイドーが可愛いとか頭沸いてんすか」
「そっちのワンピィスじゃなくてですね……」
ヒヨリさんが何やらオシャレそうな雑誌の見開きページを見せてくる
なんだ、俺が今読んでるワンピの話じゃなかったのか……
因みにこの世界だとワンピースじゃなくてワンピィスだしカイドウじゃなくてカイドーだからな、火炎拳のエイスは挑発に乗って死んだ
「真っ白でヒラヒラしてて……まるでウェディングドレスみたいですね……」
「ですね」
「私みたいな日陰者には一生着る機会なんて訪れないんでしょうね……」
「ですね」
「うわあああああん!!!肯定しないでくださいよおおおおおおお!!!」
漫画を読みながら適当に相槌を打っていると横からヒヨリが泣き叫びながら身体を揺さぶってくる
なんだなんだ、何をこんなに怒って────なにぃ!?ギガ5登場だとぉ!?盛り上げてくれんじゃねえかワンピィ!!
「うぅ、すっかり漫画に夢中です……慰めてすらもらえないなんて……」
「慰める?何が?」
「話すら聞いてなかったんですか!?……で、ですから……私のような身分の人間ではこんな可愛いお洋服なんて一生着る機会が無いんだろうなって……」
ああ……そういえばそんな事言ってたような気もするな、後はウェディングドレスが云々とか
ったく、あんな環境で育てられた割には結構厚かましさ残してた癖に……なんでこういうところだけは未だにネガティブ思考なんだよ
「まあ、ウェディングドレスの方はそんなに悩んではいないのですが……」
「ん?なんでだ?」
「だ、だって……いつか必ず酒泉さんが私に着させてくれますから……なんちゃって」
「……言うようになりましたね」
「えへへ……」
照れ臭そうに笑うヒヨリさんの頬に向かって少々強めに人差し指を押し込んでやるとあたふたしながら顔を逸らそうとしてきた
一見引っ込み思案に見えるこの人は突然スイッチが切り替わって押せ押せモードになったりする……かと思えばまた卑屈になったり、お前忙しい奴だな
「そ、それで……実際のところはどうなのでしょうか……?」
「心配しないでください、ちゃんと責任は取りますから」
「……よ、よかったです」
不安そうな表情で尋ねられたのではっきり答えるとヒヨリさんは心底安心したかのように盛大に息を吐く、もしやこの人は俺の事を責任を取りそうにもない最低男だとでも思っていたのだろうか
確かにヒヨリさんは厚かましいし煩いし喧しいしそんな彼女に対する俺の対応は雑に見られるかもしれない、だが俺とヒヨリさんの距離感なんて元々こんなもんだ
付き合ったからって何が変わる訳でもないし、変に接し方を変えようとして逆にギクシャクするのも嫌だしな……いや、でもやっぱもうちょい分かりやすく愛してるって伝えた方がいいのか?
「なあ、ヒヨリさん」
「は、はい。なんでしょうか……」
「なんかしてほしいことあります?」
「うぇ?き、急ですねぇ……」
ヒヨリさんは保護という名目でトリニティに監視されている身、毎日毎日そう簡単に会えるような間柄じゃない
だからこうして実際に行動する事によってヒヨリさんへの想いを伝えるとしよう
「し、してほしいこと……それはどんな事でもよろしいのでしょうか……?」
「はい、なんでも構いませんよ」
「で、では……ちょっと失礼しますね……」
ヒヨリさんはワンピの単行本を持っている俺の手の下に潜ると、そのままよいしょと腰を降ろして膝の上に居座り、さっきから読んでいたファッション雑誌を再び開き始めた
体勢的には俺が座ったまま両腕でヒヨリさんを抱き締めているような感じになっている
「じ、実はこうして大好きな人と一緒に本を読むってことがやってみたかったんですよね……」
「でもヒヨリさんが雑誌広げてると俺がワンピ読めないんだけど」
「わ、私よりそっち優先するんですかぁ!?」
だってめっちゃ気になるところで止まってるし……ルヒーがギガ5に到達した直後の戦闘とかワクワクするに決まってんだろ
……とまあ、実際楽しみなのは事実だけど流石に落ち込んでる恋人を放ってまで漫画を優先するほど俺だって鬼畜じゃない
「冗談ですよ、冗談」
「ふあぁ……えへへ」
漫画を閉じて頭を撫でてあげるとヒヨリさんはだらしなく口元を緩ませる
……なんだろう、この人間違いなく俺の先輩だし恋人でもあるんだけどどうも手の掛かる妹感が抜けないんだよな
なんて思いながら撫で続けてるとヒヨリさんの口元がにへらとより情けなくだらしなく緩んできた
「えへ、えへへへへへ」
「どうしたんすか急に、ヒヨヒヨしだして」
「ヒヨヒヨ!?」
説明しよう!ヒヨヒヨというのはヒヨリさんがヒヨリさんっぽい笑い方をしたりヒヨリさんっぽいムーブをした時とかに醸し出すオーラのことである!
ヒヨってる奴いる!?ここにいたぁ!!!
「その……なんだかとっても幸せだなぁと思いまして……今私達を取り巻いてる環境は辛いことも苦しいこともあまりなくて、そんな世界でサオリ姉さんは外の世界の色んな事を学べて、ミサキちゃんは少しずつ怪我も自傷も減っていって、姫ちゃんは自由にお喋りする事ができて……」
「……」
「わ、わたしは……こうして大好きな酒泉さんと一緒に雑誌を読むことができて……いつか覚めてしまう夢なんじゃないかって勘違いしてしまうほど幸せなんです」
どんな些細な事でも、どんなありふれた日常でも、アリウスの生徒達にとっては彩りに溢れた美しい一時に感じるのだろう
それほどまでに彼女達は過酷で悲惨な生活を強いられてきた、しかも全てベアトリーチェの目的の為だけに
そしてそんな事情を知っていながらアリウスへの怒りを抑え切れなかった愚かな男もまた、理不尽を押し付けるベアトリーチェと大して変わらない存在だと言えるだろう
「……ごめん」
「え?な、なにがですか?」
「気にしないでください、独り言なんで……それより他にしてほしい事はないんですか?まさかこれだけって事はないでしょう?」
「えっと……じゃあ……今度は両手をお腹に回して強めに抱き締めてもらえると……嬉しいです……」
「あいよ……ん?」
ヒヨリさんに従って両手をお腹回りで組ませて少々強めに押し込む
すると、何やらもにゅって感触が……んー?これはまさか……
「…………ヒヨリさん」
「な、なんか凄く嫌な間を感じたので何も言わないでくれるとありがたいのですが……」
「また太っ「うわあああああああん!!!言わないでって言ったのにいいいいいい!!!」悪かった冗談だ多分俺の気のせいだうん」
ちょっと太ったからってなんだ、むしろアリウスでの食生活をかんがえると多少肉が付いた方が健康だと言えるだろう
……いや、ヒヨリさんの場合はアリウスにいた頃から肉付きが良かった気がするけど
「いや、でも実際ポッチャリとかそういう方向ではない気がするな。肌がモチッとしただけっていうか……だからまあ、そんな気にすることはないんじゃね?」
「ほ、本当ですか!?本当に太ってません!?」
「太ってない太ってない、服越しでも感じられるほど肌が柔らかすぎて俺が勘違いしただけだ」
「そ、それならよかったです…………しゅ、酒泉さんの前ではかわいい女の子でいたいですから……なんちゃって」
「……そっすか」
「な、なんですかその微妙そうな反応は!?せめて〝慣れないこと言うなよ〟ってツッコんでくださいよぉ!?」
思わず素っ気ない態度を取ってしまう程度には今のは効いた……今のは痛かったぞおおおおお!!!
ていうか普通にドキッとするようなこと言わないでほしい、マジで反応に困るから
「……それにしても要求が抱き締めてほしいだけなんてヒヨリさんにしては控えめでしたね、雑誌やら食べ物やらもっと色々ねだられることを覚悟してたんすけど」
「い、いえ……私も本当は一番欲しいのをいただこうとしたのですが……これをねだると流石に酒泉さんにご迷惑をお掛けしてしまうので……」
「別に今更気にすることでもないでしょう……ほら、さっさと言ってくださいよ、何でも叶えますんで」
「ほ、本当ですか?では……そ、その……」
さっきも言ったがこれはヒヨリさんへの想いを示す為の俺なりの愛情表現なのだから何も遠慮する必要は────
「酒泉さんとの……そ、そのぉ……子供をぉ……なんて……」
「…………」
「え、えへへへへへ……」
「……すいません、やっぱ稼ぎが安定してからでいいですか?」
「だ、大丈夫です……こ、こどもが生まれる前に出来る限り酒泉さんの愛情を独り占めしたいので……」
「……だからそのムーブズルいって」