「……」
「あ?なにガン飛ばしてんだこら」
「おおう……恋人とは思えない発言……」
ネル先輩の普通の制服姿が珍しくてつい見惚れているとチンピラヤンキーみたいな絡まれ方をされてしまった
ちなみにこんな対応されてても一応恋人です、はい
「いや、なんかメイド……メイド?姿ばっか見てたから新鮮だなーって」
「なんで疑問符付けてんだよ」
「だってメイドってより深夜のド○キ辺りにいそうな不良っぽい格好だし……」
「シバくぞてめぇ」
「ごめんなさい」
殺気混じりの視線をぶつけられ、咄嗟に謝罪の言葉を口にする
学園最強格の女性の怒りを買ってしまうと明日の朝日を拝める保証はないからね、仕方ないね
「……そんなにオシャレな女が好きならこんな可愛げねえ女なんざ無視して他の奴のとこにでもいきゃいいじゃねーか」
「嫌ですよ、それじゃあ〝毎日味噌汁作りやがれ〟っていうネル先輩との約束を果たせないじゃないですか」
「て、てめぇ!?その話はするなって前に────」
「それに俺、ネル先輩のことは可愛いって思ってるんで」
「……お、おう……そうかよ……」
別にネル先輩はヤンキーってわけじゃない、めちゃくちゃヤンキーっぽい雰囲気の姐さん肌ってだけだ
……いや、剣先さんとドンパチ楽しんでたりそこらのヤンキーより物騒なところは確かにあるんだけどさ、それ含めても魅力だし……
「……あ、そういやネル先輩。俺、呼ばれたからなんとなくでついてってるんすけど今はどこに向かってるんです?」
「ん?……あー、呼び出しといてなんだけどよ……実はまだ決めてねえんだよな。久しぶりに任務も何も無い日だったしお前に会えねーかなって……」
「そっすか……つまりただの散歩って感じですかね」
「……悪い、もしかしてこの後予定とかあったか?」
「いや、特に何も無いっすよ。それに俺もネル先輩とは久しぶりに会いたかったし」
「……そうか」
ネル先輩はC&Cとして、俺は風紀委員としての仕事がある
だからこうして互いに完全フリーな日は案外珍しかったりする
しかも通ってる学園もゲヘナとミレニアムで異なるのでその辺の問題も相まって今日突然会えたのはちょっとした奇跡だったりする
「どうします?ゲーセンにでも行きます?」
「なんだ、この辺りのゲーセン知ってんのか?」
「はい、天童さんやケイさんと遊んだことあるんで」
「……おお」
しかもこの辺りは何気に俺が天童さんと出会った場所の付近だったりする
いやぁ……懐かしいなぁ……あの頃はまさか自分がエデン条約編以降も関わることになるなんて思ってもみなかったな
しかもネル先輩とこういう関係にもなるなんて……人生というのは不思議なもんだ
「いや、まあ……ゲーセンも悪くねーけどよ、その前になんか食わねえ?近くに美味そうな飯屋あっからさ」
「そうですね……丁度小腹も空いてきましたし食事にでもしましょっか」
「じゃあ、あたしのお気に入りの洋食屋連れてってやるよ!小ぢんまりしててあんま有名じゃないけど味は確かだからさ!」
「あ、それってもしかして〝子羊の集い〟って名前の店ですか?」
「お、おう……なんだ、行ったことあんのか?よく知ってたな……」
「俺が自分で見つけた訳じゃないんですけどね」
「……誰かと行ったのか?」
「はい、調月さんと少々」
「………………おう」
最終編に向けての対策会議が終わった頃だっけか、確か珍しく調月さんから食事に誘ってきてそれで二人で行ったんだっけな
あの時は嬉しかったなー……だってよ、あの調月さんが俺を食事に誘ってくれるぐらい気を許してくれてたんだぜ?
「あ……あー!飯にすんのも悪くねえけどよ!せっかくだし遊園地とかで食わねえか!?それならほら!遊ぶついでに腹も満たせるしよぉ!」
「あーそれもいいっすね!久しぶりに遊園地デートといきましょうか!」
「おう!……因みにだけどよ、ミレニアムの遊園地って来たことあるか?」
「?はい、ありますけど……」
「……誰かと一緒だったりしたか?」
「えっと……その時は調月さんと飛鳥馬さんと……それと天童さんとケイさんの五人で行きましたね」
これまた懐かしい記憶だ、確かケイさんの心を開かせる為に四苦八苦してた時期の話だったか
あんなにツンツンしてたケイさんも今ではゲーム開発部の一員だと思うと感慨深く────
「だああああああああもうっ!!全部他の女と一緒に行ってんじゃねえか!!?」
「うおっ!?」
なんて感傷に浸っていると突如ネル先輩が頭をガシガシとかきだした
うがー!と声に出しながらキレている姿はまさにヤンキーそのもの、通り掛かる人全員が避けるように道を譲ってくれた
「お前他校の知り合い多すぎんだろ!?なんでゲヘナ生なのにそんな行動範囲広いんだよ!?」
「い、いや……天童さん絡みの件で知り合った人達に関しては向こうから接触してきたと言いますか……」
「じゃあアリウスの連中とトリニティのティーパーティーはどう説明すんだよ!?」
「そ、それもいつの間にというか……」
言われてみれば確かに他校の知り合いがやけに多い気がしてきた、しかしこれらは全て狙って築いた人間関係ではない
聖園さんや百合園さんと関わる予定なんかなかったし、当然アリウススクワッドの皆も倒してそれきりのつもりで戦っていた
本当に〝気付いたら〟とか〝いつの間にか〟という言葉しか出てこない
「コミュ力の塊すぎんだろぉ……」
「えっと……あ、ありがとうございます……?」
「褒めてねえよ……」
素直に礼を言っといたらネル先輩は座り込んだままボソリと呟く、どうやら褒められていたわけじゃないらしい
「あ、あのぉ……もしかして怒ってたりします……?」
「別に怒ってるわけじゃねえけどよぉ……なんか、嫌なんだよ」
「嫌?」
「ほら、あたしらってさ……その……恋人だろ?なのに会える機会はあんま合わねーしあたしがお前を誘って行こうとした所は彼女でもねえ奴らにとっくに先越されてたりよ……」
不満点を述べるネル先輩だが、その様子は怒っているというよりも不貞腐れている感じだった
要するに寂しいとか嫉妬とかそんなところか?……結構強気で男勝りなところはあるけど乙女な部分はちゃんと乙女してるんだよなこの人、まあそこが可愛いんだけど
「あー……その……な、なんかすいませんね……他の人と遊んじゃってて……」
「別に謝んなくていいって…………一応聞いとくけどさ、さっきの話ってあたしと付き合う前の話か?」
「はい……」
「……そうか、まあ……なら仕方ないよな」
よっこいせ、と立ち上がるや否や盛大に溜め息を吐くネル先輩
……特に浮気したって訳でもないのに何故か妙な罪悪感が沸いてくるな
「あ、あの……ネル先輩」
「ああ?どうした?」
「俺、ネル先輩のこと好きですよ」
「……はぁ!?きゅ、急になんだよ!?」
「確かに俺達ってあんま恋人らしいことはしてませんけど、それでもモモトークで〝おはよう〟と〝おやすみ〟が言えるだけでも嬉しいですし……」
「おいやめろ!変なこと言い出すんじゃねえ!」
「それにほら、ネル先輩が俺と恋人らしいことをしたいって考えてくれてるだけでも幸せですし……」
「分かった!分かったから!もう黙れ!」
なんか不安そうにしてたので安心させる為にちゃんと愛してます宣言すると、ネル先輩は顔を真っ赤にしながら俺の口を塞ごうと両手を伸ばしてきた
ちょっと強めに手を押し付けられたせいでバチン!と叩きつけられた、痛い
「なにこんな道のど真ん中でこっ恥ずかしいこと言ってんだよ!?馬鹿じゃねえのか!?」
「いや、だって落ち込んでたから励まそうと思って……」
「別に落ち込んでねえ!ちょっとモヤモヤしただけだっつーの!」
先程の様子が嘘かの様に大声で怒鳴るネル先輩、思ってたのと違う感じになったけど結果的に元気になったので良しとしよう
だから脛をげしげし蹴らないでくださ……あっ、でもそんな痛くない、優しい
「そうなんですか?てっきり他の女性と遊んだ話を聞かされてネル先輩も良い気分してないだろうって思ってたんですが……」
「だーかーらー、それは付き合う前の話だろ?だったらしょうがねーだろ、お前が昔っからあたしのもんだったって訳でもねーし」
「でも……」
個人的には天童さんと遊びに行ったって正直に答えなくても良かったかなーって後から後悔してたり、その後の二つの質問に関してはネル先輩から聞いてきた事だけどこれも適当に誤魔化してよかったかもしれない
……でもそうすると余計に浮気感強くならね?いや、何度も言うけど付き合う前の出来事だしどうしようもないんだけどさ
「……んだよ、そんなに罪悪感沸いてんのか?」
「まあ……」
「じゃあこうしろ、今後あたしを悲しませない為に幾つか約束しろ、それで手を打ってやる」
「了解です、俺は何をすればいいんですか?」
愛する者の為ならばどんなお願いも聞こう、そう思いながら気合いを入れているとネル先輩は少々言いにくそうに口をモゴモゴさせてから開いた
「まず、他の女と遊ぶ時はあたしに連絡してからにしろ」
「了解」
「それと女友達とはあんま遅くまで遊びすぎんな、泊まり込みも当然無しだ」
「了解」
「仕事とかでやむを得ずどっか長期滞在する事になったら……まあ……そん時は仕方ねーけどよ、でも泊まるにしてもなるべく女と二人っきりになんのは避けろよ」
「了解」
「あと……最後は……その……さんに……ろよ……」
「……ん?すいません、よく聞こえなかったんでもう一回────」
「だからっ!!あたしのことを必ずお嫁さんにしやがれって言ってんだよっ!!!」
およめさん、オヨメサン、OYOMESAN……ああ!お嫁さんか!
……え?マジ?お嫁さんって言った?今ネル先輩の口からお嫁さんって言葉出てきた?あのネル先輩から?
嫁にしろとか旦那になれとかじゃなく〝お嫁さんにしろ〟って?何それ可愛すぎない?
「お、おい!何か言えよ!」
「……」
「……こ、答えろよぉ……!」
……は!?いかんいかん、あまりのギャップ萌えにうっかり昇天するところだった
今は珍しく素直に気持ちを叫んだはいいものの俺が黙り込んでしまったせいで少しずつ不安そうな表情に変わっていってるこの人に応えねば
「も、もちろんです!!むしろ此方からお願いしたいくらいですよ!」
「言ったな!?男に二言はねえな!?ぜってー約束守れよ!?もし守んなかったらぶっ殺すからな!?」
「はい!大丈夫です!もし少しでもネル先輩を悲しませるような事があればその時は煮るなり焼くなり刻むなり好きにしてください!」
「い、いや……別にそこまでしろとは言ってねえけどよ……」
「それだけの覚悟があるってことなんで!」
「そ、そうかよ……」
自分なりの覚悟を言葉にして直接伝えると、ネル先輩はどこか照れ臭そうに頬をかいた
そして、時間帯的に夕焼けのせいではないであろう赤く染まった顔で俺を見上げてきた
「じゃ、じゃあさ!今の言葉忘れらんないように〝思い出〟残してやるからさ!お前ちょっとしゃがめよ!」
「え?」
「さっさとしろっ!」
「あ、はい……」
ネル先輩に言われるがまま腰を降ろしてしゃがみ込む
身長差の関係で先程まで俺がネル先輩を見下ろしていたが、今度は逆に俺がネル先輩に見下ろされる
こんな体勢で一体何をしようというのか、それに〝証拠〟っていうのも気になるし────
ちゅ
「……んえ?」
「……っ」
それは、ほんの一瞬の出来事だった
柔らかくて、暖かくて、小さい何かが、一瞬だけ唇に伝わる
「も……もしあたしを悲しませるような事をしそうになってもよ、その感触を思い出せば踏み留まれんだろ……?」
「…………」
「こ、この期に及んでまた黙り込むんじゃねえ!!」
「……あっ!?ご、ごめんなさい!」
フリーズした思考と止まった世界が再び動き始めると、まず真っ先にネル先輩の顔が視界に入った
顔は先程以上に真っ赤で、照れ臭さを隠すような怒りは相も変わらず健在だった
「その、ネル先輩からこういう事してくるのってちょっと意外だったんで……つい……」
「……お前ばっか好き好き言ってたらちゃんとこっちの気持ちが伝わらねーだろうが、あたしだって……その……酒泉の事が好きなんだからよ」
〝お前〟ではなく〝酒泉〟と、明確に名前を呼ばれて愛情を伝えられる
恥ずかしさを感じながらも一切取り繕う事なく伝えられたあまりにも純粋すぎる好意、それは俺の心臓を騒がしくさせるのに十分すぎた
「……ネル先輩」
「……おう」
「絶対幸せにしますから」
「ばーか、あたしが幸せにしてやんだよ」
「いーや、俺が幸せにします」
「ああ!?ここは大人しく先輩に花持たせろよ!?そもそもあたしが〝幸せにしてやるから黙ってついてこい〟って告白した時は素直に頷いてたよなぁ!?」
「あの時はあの時です!いくらネル先輩が相手だからってこれだけは譲れません!俺が幸せにするんです!」
「駄目だ!あたしが幸せに────」
「俺が幸せに────」
「あたしが────」
「俺が────」