ロリータコンプレックス、略してロリコン
一般的には幼い少女に対して恋愛感情や性的感情を抱いている大の人間を指す
そして、折川酒泉という少年は身体の小さな少女を推しているせいでそのロリコン疑惑を掛けられている哀れな男である
だが誤解しないでほしい、折川酒泉の推しである空崎ヒナという少女は確かに身体は小さい。だが、年齢は間違いなく酒泉より上である
酒泉が転生者である事を考慮して精神年齢で考えたとしても、彼の心は前世の男子高校生メンタルで止まっている為、やはり実質推しより年下である
つまり折川酒泉はロリコンではない────と断言するにはまだ早い
なるほど、確かに年齢で考えればそうなるだろう。しかしこれが容姿の話になるとどうだろうか
そこには〝大人とあまり背丈の変わらない男〟が〝女子小学生とあまり背丈の変わらない少女に好意を寄せている〟という事実だけが残るではないか
……折川酒泉の好意が〝推しに対する好意〟なのか〝女性に対する好意〟なのかは置いておいて
まあ、つまり何を言いたいのかというと────
「あのね?イブキね?酒泉のことが好きなの!だから……お願いします!イブキとお付き合いしてください!」
────この状況で告白を受け入れた場合、彼は間違いなくロリコンの烙印を押されるだろう
え?元々押されてるって?それはそう
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「んー……しょ!」
テレビ画面の前で大きく背伸びをしながら両腕をあげるイブキ、そんな彼女の様子をイロハは複雑そうに見つめる
その隣で顔を白くして倒れ伏している議長を無視しながら
「あら?イブキちゃんは何をしてるの?」
「万歳体操ですよ、身長を伸ばしたいからってずっとあの体操ばかりやってるんですよ」
「そういえばちょっと前から牛乳を沢山飲んだりちょくちょく背伸びしたりと身長を気にしてるような行動をするようになりましたね……よっと!」
何も事情を知らないサツキは微笑ましそうにイブキを見守る、隣で顔を白くして倒れ伏している議長を無視しながら
チアキはシャッターチャンス!とばかりにイブキが頑張って背伸びをしている姿をカメラに収める、隣で顔を白くして泡を吹きながら倒れ伏している議長を無視しながら
「いや、それがですね……イブキ、最近好きな人が出来たらしいんですよ」
「え!?イブキちゃんに!?」
「おお……もうそんなお年頃に……」
「私達がそれを知る前に既に告白まで済ませていたらしいのですが……その……どうやら〝幼い子とは付き合えない〟と断られたらしく」
「こ、告白までしてたの!?」
「ああ!だから身長を伸ばしたがってたんですね!」
「……で、それを断った人がいると」
「その通りだぁ!!!」
「あ、起きた」
顔色が戻るや否や突如飛び起きる羽沼マコト、その表情は怒りに燃えていた
ちなみに彼女が倒れていた原因はイブキに〝好きな人ができたんだー!〟と報告されたショックによるものである
「どこぞの阿呆があのイブキからの告白を断るという不躾な真似をやらかしてくれた!この罪は死にも値する……否ッッッ!!!死を与えるだけでは生温いぞ!!!」
「じゃあもしその人がイブキの告白を受け入れていた場合は?」
「死罪に決まっているだろう!!!」
「どっちにしろ殺すつもりじゃないですか」
イブキの告白を受け入れる=イブキを汚す
イブキの告白を断る=イブキを悲しませる
マコトの過保護過ぎる愛情はその双方を許せず、ショックから立ち直るや否や早速イブキの告白を断った何者かに対して殺意を実らせた
「まあまあ、イブキは賢い子ではありますが精神性はまだまだ幼いですしここは彼女の成長を素直に祝ってあげましょうよ」
「そうですよ!それにもしかしたら相手はシャーレの先生みたいに色々頼れる人かもしれませんよ?」
「……そういえばマコトちゃん、イブキちゃんの好きな人については詳しく聞いたの?」
「い、いや……まだだ……情けないことに〝好きな人が出来た〟と言われた瞬間に力が抜けてしまってな……」
「本当に情けないですね」
怒りをぶつけるのは相手が発覚してからでも遅くはないと、マコトはふらふらと立ち上がりながらイブキに近寄る
そして、なるべく穏やかな笑みを浮かべるよう努めながら優しい声色で尋ねた
「イ、イブキよ……一つ聞きたいのだがイブキの好きになった相手というのは……」
「んー?……酒泉!えへへ……」
「なあイロハ、巡航ミサイルってゲヘナでも作れないか?」
「各学園の主勢力に命を狙われてもいいなら好きにしたらいいと思いますよ」
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「みてみてー!イブキね、ちょっとだけおっきくなったんだよー!」
「そ……そっかー、それはよかったなー」
苦笑気味に返事をするとイブキさんの後ろで仁王立ちしている羽沼さんの睨みが鋭くなる
そんな後ろから漂うドス黒いオーラとは正反対にイブキさんは太陽の様な笑みと共に光のオーラを放っている
「他にも酒泉を〝ゆーわく〟する為に色んな事を覚えたんだよ!見ててね!」
「なっ……ま、待て!イブキ!一体何を────」
「んー……ちゅっ!」
羽沼さんが止めるより先に自身の口に片手を押し当てると、イブキさんは片目を瞑った状態で〝ちゅっ〟と音を鳴らした
投げキッス、これがイブキさんが幼いなりに覚えた〝ゆーわく〟とやらだった
「どう?ドキドキした?イブキ、もう〝幼い子〟じゃなくなったよ!これでお付き合いしてくれる?」
「え、えーっと……それは……」
「すまないイブキ、この男は今から私と〝ド突き合い〟する予定なんだ」
「しねーよ帰れ」
剥き出しの殺意を俺にぶつけながら歩み寄ってくる羽沼さん、この人が怒ってる理由は何となく察しが付いている
でもお付き合いもド突き合いもするつもりはありません、特に後者に関しては相手にするのも馬鹿馬鹿しいので本当に帰っていただきたい
「むー……駄目!酒泉はイブキのなの!マコト先輩には渡さないもん!」
「なっ!?」
おお……これは何とも珍しい……イブキさんぐらいのお利口さんなら〝皆で仲良く〟って返すかと思ったけど、実際の返答は予想とは裏腹に独占欲丸出しの言葉だった
これが恋する乙女の直情か、なんて他人事に思ってるけどその相手って俺なんだよな
「そ、そんな……イブキが……イブキが反抗期に……」
「ねえ酒泉!どう?イブキのこと好きになってくれた?」
「あー……元々好きではあるけど……その……正直まだ恋愛対象としては見れないかなーって……」
「そっかぁ……」
イブキさんの素直な想いに対し此方も素直な感想を伝えると、イブキさんは肩を落として露骨にしょんぼりしてしまった
すると案の定、過保護すぎる保護者が背後から鬼の様な形相で掴みかかってきた
「貴様ああああああああ!!!イブキの告白を断るとはどういう了見だあああああああ!!?」
「じゃあ受け入れちゃってもよかったんです?」
「……っすぞ……!」
「なんだこいつスゲー面倒じゃん」
この反応を見る限り受け入れたら受け入れたで明らかに事態が悪化するだろう、主に万魔殿の人間のせいだ
……と言っても俺が告白を断ったのは面倒事を避けたいからとかそういう訳ではなく、先程も伝えた通りイブキさんを恋愛対象として見れないからというのが正直な理由だ
いや、確かにイブキさんは可愛いよ?でもさぁ……この年齢の子に魅力を感じてしまう様ならそれはもうアウトでは?
「……分かった!じゃあイブキ、もっと素敵な〝レディ〟になってからまた告白するね!」
「お、おう……分かっ「駄目だぁ!!!」うわ……起きた……」
「いかん!それはいかんぞイブキィ!この男のクソボケっぷりはやがてイブキの心を傷付ける!そうなる前に諦めておいた方が────」
「やだ!マコト先輩の言うことなんて聞かないもん!」
「ミ゜」
頬を膨らませながらぷいっ、とそっぽを向くイブキさん
そんな態度を取られたことにショックを受けたのか、羽沼さんは変な声を出しながらがくりと項垂れてしまった
「イ、イブキ!今からでも遅くない!考え直すんだ!他の奴が相手なら私も応援してやる!だから風紀委員だけは……その男だけは止すんだ!」
「もう!マコト先輩ってばさっきからずっとイブキの恋を邪魔するようなことばかり言って!」
「ち、違っ……私はイブキの為を思ってだな……」
「じゃあどうして邪魔しようとしてくるの?マコト先輩には関係無いのに」
「そ、それはぁ……」
ただ単にイブキさんが自分の元から離れてほしくないから……なんて理由をそのまま話せば嫌われてしまうと思ったのか、羽沼さんはぐぬぬと言葉を詰まらせる
此方側としては娘さんに〝パパきらい!〟って言われてる全国のお父様方を見ている気分だ
「……そ、そうだ!折川酒泉!確か貴様には既に付き合ってる女が居たよな!?」
「え?いや、別に────」
「そうだよなぁ!?」
全く心当たりの無い話を振られ、咄嗟に否定しようとした……が、それに被せるかの様に羽沼さんが大声で詰め寄ってきた
羽沼さん的には〝折川酒泉には彼女がいるんだから諦めろ〟という流れにしたいのだろうが……多分、それ無駄だと思うぞ
「そんなことない!だって私、告白する前にお付き合いしてる人がいるかちゃんと確認したもん!」
「な、なにィ!?」
告白される前の話だったので特に疑問も感じずイブキさんからの質問には全て正直に答えてしまっている、だから下手な誤魔化し等は通用しないだろう
何よりイブキさんは賢い子だし、下手に理由付けて後から〝やっぱ彼女居たわ〟って話にするとそんなに私と付き合いたくないのかと変に傷付けてしまうかもしれない
……だからこそキッパリと告白を断ったんだけどさ
「き、貴様……余計な事を……!」
「いや無理ですって、予知夢がある訳じゃあるまいしそんな先の展開まで予想できませんって」
ムフフッ未来予知擬きができるのは原作知識内まで、それ以降はただの役立たずに変身するの……なんて事はさておき、この状況はどうしたものか
ぶっちゃけこのまま勝手に羽沼さんがイブキさんからの好感度を下げ続けて自滅したところで何も思わないが、かと言ってイブキさんからアプローチを受け続けるのもなんかなー……
別に嫌だという訳じゃないけど、でも応える気も無いのにこのままずるずると好意を引きずらせ続けるのも悪いしな……いっその事もっとハッキリ断るべきか?〝悪いけど俺がイブキさんの好意を受け入れる事は絶対に無いので二度と告白しないでくれ〟って
「だから私、酒泉に認めてもらえるまで頑張るね!」
「ぐ、ぐぬぬぬぬっ……!」
……こんな幼い子相手にそんな酷いこと言えんよなぁ
「じゃあ酒泉!早速イブキと〝デート〟してくれる?」
「はいよー」
「……は?デートだと!?どういう事だ折川酒泉!そんな話、私は聞かされてないぞ!?」
「そう怒らないでくださいよ……ただ一緒に学園周りを散歩するって約束しただけですから」
「貴様ああああああああ!!!散歩と称してイブキに何をするつもりだあああああああああ!!!」
「これでもアウトなのかよ……」
散歩をデートと思うなんて子供らしくて微笑ましいじゃないか、そう思って羽沼さんに事情を説明すると普通にキレられてしまった
なんでやと思いながら身体をぐわんぐわんと揺さぶられていると、イブキさんが羽沼さんの腕を掴んでそれを制止してくれた
「やめてよ!酒泉に酷いことしないで!」
「えっ!?い、いや……私はコイツから話を聞こうとしただけであって決して危害を加えるつもりじゃ……」
「私が誰を好きになろうとマコト先輩には関係無いでしょ!?もうあっちいって!」
「げぶらぁ!?」
で、出たあああああああああ!?全国の父親を完全に沈黙させる娘からの一言〝あっちいって〟が決まってしまったあああああああ!?
前世で俺が後輩ちゃんのお父さんと話してた時に後輩ちゃんが放った一言、まさかこの世界でも効果があるなんて……その時の後輩ちゃんお父さんの寂しげな背中は今でも記憶に残っている
「もう行こっ!酒泉!」
「お、おう……なあ、羽沼さんは放っておいてもいいのか?」
「知らない!」
「イ、イブキ……折川酒泉は……やめておけ……」
「やだ!」
「た、頼むから戻ってきてくれ……幾らでもおんぶしてあげるから……!」
「酒泉にしてもらうからいいもん!」
「」
「彼女はもう終わりですね……」
残念!議長の目論見はここで終わってしまった!誰か片付けておけよ、そのボロクズを
……なんて、実は羽沼さんが上手い具合に説得してくれることもちょっとだけ期待してたけどこれはもう無理そうだな
「んじゃ、今日はどこ回る?」
「えっとね?実はこの前校舎裏の隅っこにちっちゃなお花が咲いてるの見つけてね?今日は酒泉と一緒にその子のお手入れしてあげたいの!」
「あいよ、校舎裏ね……ほい、背中どうぞ」
「え?」
「してほしいんだろ?おんぶ」
「……うん!」
そっと腰を下ろしてから親指でくいっと背中を指差してイブキさんに〝乗ってくかい?〟とアピールする、タクシー酒泉ですまない
イブキさんは俺に言われるがままに背中に乗る……前に、何かを思い出したかのように〝そうだ!〟と元気に声を上げて立ち止まった
「酒泉!」
「ん?どした────」
ちゅ、と
イブキさんの顔が横から近づくと同時に頬に温もりを感じた
「いってらっしゃいのちゅー!……えへへ」
「……おおー」
頬を染めながらどこか照れ臭そうに笑うイブキさん、その姿は子供らしさを感じさせながらも確かに一人の〝女性〟としての恋慕を宿していた
まあ、恋に恋するお年頃と思えばこれぐらいはやってのけるか。案外こういう行為は大の大人より恥じらいの少ない子供の方が大胆に行うのかもしれない
……ん?待てよ?そう考えるとイブキさんが俺に向けてる感情って子供ながらの〝憧れ〟とかそういう系統の好意なんじゃないか?ほら、例えるなら少年少女が近所のお兄さんお姉さんに一目惚れする的な……
てか今になって思い出したけど昔親戚の子に〝しょうらい酒泉おにいちゃんのおよめさんになる!〟って言われた経験あったしもっと早く気付くべきだったか
「ね、ねえ!酒泉からはしてくれないの……?」
なんだ、そう考えると対応の仕方も分かってきたぞ。俺はこのままイブキさんの幻想が解けるまでやんわりと告白をかわし続ければいいだけだ
歳を重ねていけば子供らしい幻想塗れの恋は解ける、その頃にはきっと真の意味で誰かに恋をしているかもしれない
「……そうだな、イブキさんがもうちょいおっきくなってからな」
「むぅ……酒泉の意地悪……」
「ほら、それより校舎裏には行かないのか?早くしないと酒泉タクシーどっか行っちまうぞー」
「あっ!待って!乗るからー!」
焦った様に背中に飛び乗ってくるイブキさん、その幼い両手がしっかり胸前まで回されたのを確認してからぶーんと車の真似をしながら発信する
タクシー酒泉、行き先はいつかイブキさんが辿り着く〝本当の恋〟まで
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なんて考えているクソボケはまだ知らない、その少女の想いはただの憧れでも幻想でもない事を
その日が訪れるのをいつまでも待ち続けられる程に少女の想いが大きい事を
いつかの未来、色々と大きく(意味深)成長した嘗ての幼き少女に〝あの日の約束を〟と再び迫られる事を