多分ほろろという名前は、幼少期に間違えて酒を飲んだとかいうエピソードがあれば、渾名はほろ酔いちゃんになると思うんですよ。だからそういう意味でもピッタリですよね。
(サイレント修正しても…バレへんか)
私は現在あやちゃんの家でベースを鳴らして調整を行っている。彼女が音楽をやっていると云うから、一度セッションしてみようとなったのだ。
「はえ~、音楽やっとる姿だけはカッコええなぁ」
間抜けな声をあげながら、あやちゃんが私を褒める。
「『だけは』って何~!? 他はダメみたいな言い方しないでってば!失礼しちゃうな~もう!」
「いや、実際さっきゲロまみれになっとったし……」
「それはもう忘れてよ~!ね?お願いだから!」
そう、先ほどの泥酔大騒動はなかったことにしたい。いや、もうなかったことにしよう。今ここには、音楽に情熱を燃やす二人のミュージシャンしかいないのだ。
――そんなポジティブな錯覚を抱きつつ、私はベースをボンボン鳴らして軽く調律を行う。
だが、ここで問題が発生する。私の普段弾く曲はサイケデリックロックだ。他の曲も弾けるが、レパートリーの大体はロックだ。
「あやちゃん、フォークシンガーってマジ?」
「うん。ギター一本で弾き語りとかやってるで。」
「え、マジのマジ?」
「マジのマジ」
――終わった。
私はギュインギュインのエフェクト音と、グルーヴィーなリズムを刻んでなんぼの人間だ。それに対して、彼女は穏やかなアコースティックギターと優しい歌声で心を癒すフォークシンガー。
相性、最悪である。
「えーっと、何やる?とりあえず合わせてみる?」
「そうやなぁ……じゃあ『カントリーロード』とかどう?」
カントリーロード!?
私は思わずベースを取り落としかけた。
「それ、ジブリのアレじゃん!?」
「まあ、リズムは一緒やね。私は本家本元の英語版しか歌えないから歌詞は違うけど」
「安心感と引き換えに、私の魂が今にも爆発しそうなんだけど……」
ジブリなどは純粋すぎるが故に、私の様な闇属性のものが見ると心が浄化されてしまうのだ。
「まあまあ、文句言わんと。それとも他に代案とかあるんか?」
『ワタシダケユウレイ』とか駄目だろうかと思ったが、どうやら彼女はロックを聞いた事さえ無いようだ。
仕方なく、私はベースを構え直した。
「んじゃあ、ギター持ってくるから先に防音室行っといて。こう行ってこうやから」
手の動きを見る限り、廊下を突き当たりまで進んで右の扉だろうか。
ベースを引っ掴んで立ち上がる。大阪人特有の擬音だけで表現された道案内に従って、私は手当たり次第に扉を開ける。結局防音室は廊下の真ん中あたりの扉をくぐった先だった。
「おお。」
思わず私は感嘆をあげる。様々な音響機器が並んでいる様は一種壮観でさえある。アンプ、イコライザー、エフェクターといったわかりやすいものから、細々とした何だかよく分からない様な物までずらりと並んでいる。
壁面には楽器が立て掛けられている。何か民俗的な紋様が施されたヤマハのギターや、ベース、サックスまである。
我ら音楽家にとっては絢爛な御殿にも勝るこの防音室に、私が見とれているうちに後ろにあやちゃんが立っていた。「どうだね?我が愛しの宮殿は。」彼女が冗談めかして云う。彼女は革製のストラップを肩につけ、モーリスの古いギターを背負っている。彼女はそのまま、つかつかと部屋の中央まで歩を進め、アンプを思いっきり蹴っ飛ばしたかと思うと、「f*cking Christ!」と叫んで足を抱え込みながら床の上でゴロゴロと転がり始めた。私はそれを尻目に、ベースを機器に繋ぐ。いつの間にか復活した彼女が私に体重を預けながら、「おお、それあんたのベース?」と聞いてくる。「そうだよ〜、スーパーウルトラ酒呑童子EXって言うんだ〜。かっこいいでしょ〜?」
自信満々に同意を求めたもののダサいと一刀両断に否定された私は、一人落涙しながら準備を進める。彼女はアコギのため暇を持て余したといった様子で、ギターをジャカジャカ弄んでいる。
「よーし、準備出来たよ〜」
私がそう呼びかけると、彼女はニヤニヤしながらギターを構えた。
「ほんなら、御手並み拝見といきましょか」
あやちゃんはそう言って、いきなり歌い始める。
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彼女の伸びやかな声が響く。酒焼けしているが、それを感じさせないような力強い声だ。彼女はアコギ──いや、指で弾いているこの場合は、クラシックギターと言うべきなのだろうか──を弾きながら、目を瞑って集中して歌っている。
私も負けてはられぬとベースを構える。
普段とは全く違う奏法だが、やるしかない。
普段の私ならギュインギュインに歪ませて、魂を刻みつける勢いで弾くところだが、今回は違う。ここはフォークの世界。あくまで脇役として、イコライザーもエフェクターも使わずに控えめにベースを鳴らす。
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彼女の演奏は凄いな、私はそうぼんやりと思う。勿論それは、ジャンルが違う故のひいき目と云うものも有るとは思う。だが、それだけではないことも確実だ。
少なくとも、私は彼女を私と同じくらい凄いと思った。
私はそんな彼女に敬意を表するために、自分の得意な土俵に彼女をひっぱりあげる。ロックも楽しいという事を知って欲しいのだ。ポケットの鬼ころもそう云っている。
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お手並み拝見と彼女が云ったことと鬼ころの発言を免罪符に、私はエフェクターをオンにする。そう、これは彼女の為でもあるのだ。決してちょっと詰まらなくなってきたとかそういう訳ではないのだ。
デン、ボボン!!
カントリーロードでは絶対に流れる事のないような音が防音室に響く。一瞬目を見開いたあやちゃんは、すぐに私の意図を察したようでにやりと不敵に笑った。
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歌詞自体は先ほどと一緒だが、受ける印象が全く違う。あやちゃんも、先ほどまでとは一転、叩きつけるように歌い、ギターも必死に私についていこうと鬼気迫るものを感じる。
私は彼女へ笑いかけ、ベースを叩きつける。クライマックスだ。
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とりあえず覚えていた最後の歌詞だけだが、いつもライブでやるような私のやり方で歌いきる。それから二人して笑い合い、感想を伝えて褒め合った。
「いや~、あんたほんまアホやね。カントリーロードであんなに騒ぐやつおらんで?」
あやちゃんがカラカラと笑いながら云う。そのまま続けて、「まあでも、あれはあれでアリかもな」と私に親指を立てた。私はロッカーなので、中指を立てながら常識とか云うのを破壊するのがロックだからね~と偉ぶった。
しこたま飲んだ直後に思いっきり運動したからだろうか。私たちは二人そろって割れそうな頭を抱えながらおかゆを食べる事となった。レトルトのご飯を沸騰したお湯にぶち込んで塩を振っただけの簡素なものだが、酔った最中に食べるとこれがどうして非常に美味い。あやちゃんも、塩を心配になるくらい振った後に、美味い美味いと云っていた。そのあやちゃんは今、随分とご機嫌なようでカントリーロードのオルゴールを鳴らしながら歌を口ずさんでいる。
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「|Misty taste the moonshine teardrops in my eye《密造酒の仄かな香りに、僕はそっと涙するのさ》」
「そうだ、あやちゃん」
歌の境目を待って私は彼女へ呼びかける。
「おん?どうかした?」彼女はオルゴールを手で止めながらそう訊き返してきた。
わざわざ歌の境目を待つ必要があったのかどうか、少し気に入らない気分になりつつも私は彼女へ本題を切り出す。
「さっきも云った通り、私バンドやってるんだよね~。でさ、ここがバンドのホームだからまた遊びに来てよ。歓迎するよ~、具体的には鬼ころをカップに変えちゃう」
彼女は再び歌いながら、「じゃあ、次のライブの時は呼んでや」と、連絡先を差し出してきた。
「うん、呼ぶ呼ぶ~。絶対呼ぶよ~」
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歌い終えた彼女は、私に流し目をくれると、にやりと笑って「私は大体路上やけど、あんたも来てな。偶には一緒にやるのも悪ないわ」と云った。
私はあやちゃんの言葉を聞きながら、鬼ころのカップをくるくると回した。
「私も路上ライブかぁ~……いいじゃん、それ!酔っぱらって寝なければ……うん、たぶん……いや、まぁ、行けるっしょ!たぶん!」
「いや、多分かい。もう一人きますとか云って来おへんかった場合、私どうすりゃいいん」
あやちゃんは笑いながらツッコミを入れる。もうこの時間が何時間続いているのか分からない、すでに私は何杯飲んだかも覚えていなかった。ただ、カントリーロードは、まだ私たちの頭の中で流れ続けている。
「真面目な話に戻るけどさ」と前置きして、私は次のライブの日時とバンドの名前を伝える。
あやちゃんはぶつくさ言いながらも、スマホを手に取りカレンダーを確認する。
何故か残念そうに空いてると云った彼女はまたギターを鳴らし始めた。
「Country road~♪」
私もベースを抱えて音を合わせる。もうエフェクターは使わない。たぶん。
更新が遅れた理由は、横浜を観光してたのと何故かいきなりパソコンが使えなくなったからです。許して
後、もうネタとストックが無いので、これからは不定期更新となります。
もしネタがあったら、どんなくだらない事でもいいので教えてください。