ほろ酔いろっく!   作:蟻広

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ほろ酔いろっくというタイトルなのに、今回は諸事情で酒を飲めずに、素面で書きました。大変申し訳ありません。

素面の私はやたらかっこつけたがると云う悪癖があるので、酒を飲んで素直な文を頑張って書いていたんですが...
今回、まだまだ酒の勢いを借りないと素直な文は全然かけないと分かりました。
世の先生たちは凄いですね。


哀しみも 辛さも流し 友も去り 更に尽くすは 一杯の酒

「うう…」

 窓から降り注ぐ光線と冬の寒風に瞼を叩かれ、無遠慮に起こされた私は、スマートフォンで時刻を確認しながら起きたくないなと漫然と思う。だが身の熱はかえって寝ている方が、床に吸収されると云う事に気付いて急いで跳ね起きる。ああ、寒い。

 

 いつの間にやらもう朝である。7時だ。宿酔しているのか頭が痛い。その癖余計な考えばかりが浮かび、それにも頭を使わねばならん為どんどん頭ばかりが痛くなっていく。昨日は、ああ、そうだ。昨日は旧友であるほろ酔いと再会し、酒を飲みあかし、適当に二人でセッションしてからも飲み続けて、二人同時にとうとう酔い潰れたのだ。

 ほろ酔い。彼女の新しいあだ名だ。元のあやちゃんと云うものは、私にとっては内気で本好きの少女が連想されるものだったから、何となく違和感があったのだ。由来としては昨日、飲み始めのころから二人で潰れたころまで彼女はずっと変わらなかったからとかその程度。ついでに、彼女は仕事中もばれない様にほろ酔いにとどまる範囲で飲んでいるらしい。職場では絶対にバレているが、それは言わぬが花だ。

 先にほろ酔いが起きていたようだ。彼女はリビングで私たちの酒宴の跡を見ながら、何たる死屍累々! と叫んでいる。私にはただ、瓶とパックの散乱している様しか見えないが、彼女には何か違うものに見えているらしい。歌詞には使えるだろうか。

 彼女はどうやら朝食を作ってくれたようだ。食卓にはオートミールがふたつ並んでいた。オートミールはかつては「スコットランドでは人が食い、イングランドでは馬が食うもの」等と云われていたが、最近は専ら人が食うようである。きっと人が馬に近づいたのであろう。スコットランド人は元から馬に近かったのだ。義経公の馬は崖を下るのだから、日々山を登り降りする彼らが馬に近いのは道理である。

 

 愚にもつかないことを考えながら私は食卓に着く。ほろ酔いが歯は磨いたのかなどと問いかけてくるが、私は朝食で磨く派だと自分でも良く分からない答えを返して、一人さっさと飯を食う。流石に無遠慮かとも思ったが、空腹感が酷い。鬼ころはカロリーが高いはずなのにここまで空腹とは、記憶のないうちにまた何回か吐いたのだろうか。

 ほろ酔いちゃんは私のすでに食べているのを見て、ほな呼ばれよかと席に着く。その手にはワインの瓶だ。昨日の今日でもう飲むと云うのか。私が云うのもなんだが阿保じゃなかろうか。

 

 私が震える手でオートミールを食べながらほろ酔いの様子を窺っていると、彼女は適当に取り出したマグカップに、これまた適当にワインをぶち撒け、それに口を付けた。

「凄い飲むじゃん〜。死ぬのとか怖くないの?」そんな風に聞いてみれば、アルコールで体内を殺菌消毒してるだけやでと冗談めかされ、次の瞬間真顔になったかと思ったら、また冗談めかして、酒を飲んだら死ぬ、飲まなくても死ぬと云う言葉があるんやでと返って来た。なる程確かに、と一瞬納得したが、生憎とそれは答えになっていない。私の聞きたいのはそこまで飲んだら若死にするんじゃないのかと云う事だ。それも聞いてみると、不惑までが人生、そっからは消化試合。それに私よりも飲んべえな爺様は、従心の時まで生きたからね。それよりも、私が心配してるのは、君だよ。と、完璧な標準語で返され、心配までされてしまった。ここまでの呑兵衛に心配されるほど酷いだろうかと思ったものの、確かに私が四十まで生きる未来が想像できない。三十くらいまでは辛うじて生きれるような気がするが。

 

 私の暗い将来に思いを馳せ、ほろりと涙すると私の手はいつの間にか鬼ころを持っていた。なあんだ。人の事を云えないじゃないか。そんな風に思ってからヘパリーゼを口に放り込んで鬼ころで流す。

 私が、薬を酒で流すという行為のもつ、何とも言えない背徳感に酔いしれていると、ほろ酔いはもうワインを飲み干していた。彼女は食卓の上にあったジョニーウォーカーの黒ラベルと、ジンジャーエールをマグカップに合わせて入れ、実に不味そうにそれを飲み、やはり不味い不味いと喚いている。それ程不味いのならば、飲むのを止めればいいのにとも思ったが、こういうのは味ではないのだろう。かくいう鬼ころも、味はお世辞にも良いとは言えないものなので、彼女の気持ちは少しわかる。

 

 私が彼女に勝手な同類意識を抱いていると、彼女は今時珍しいパカパカ電話を開きながら、そういえば、もう丸一日は居るわけやけど、その、大丈夫なん? と少し歯切れ悪く訊いてきた。やっべ。完全に志麻の事を忘れてた。そう焦ったとき、実に都合よくスマートフォン君が、その最後の一%の力を振り絞って二三度痙攣し、志麻からの連絡の存在を示してくれた。急いで確認した内容を大約すると、お前はどこで迷惑をかけているのか、更なる迷惑をかける前にさっさと帰ってこいと云った所だった。

 

 私の心配に関する記述がないのは記述がないのは、私が読み落としたのか信頼されているかのどちらかだろう。さっさと返って安心させてやるとしよう。

 まあただ、確かにほろ酔いにとってはさぞ迷惑だったろう。丸一日以上この家に居るのだ。彼女の予定などもぶち壊してしまったに違いあるまい。

 

 何となくいたたまれない気持ちになって、迷惑じゃなかったかと聞いてみる。我ながらめんどくさい奴だなと頭の冷静な部分が、私の事を非難するが、云ってしまったからには仕方がない。彼女の返事を待つ。彼女は実にどうでもよさそうに、パカパカ電話を見ながら、「確かに迷惑やったけど、ゴミ捨て場で拾った時から迷惑になんのは分っとったからかまへんよ」と事もなげに言い切った。適当に彼女を囃し立てながら、ゴミ捨て場で拾われるとは、私は馬でなく猫だったのだろうかなどと、酒にやられた考えを脳に浮かばせる。

 

 私は飲み干した鬼ころを握りつぶしてゴミ箱に投げ入れながら、ベースを引っ掴んで「おっけ~、じゃあそろそろ退散するね~」とふらつく足取りで玄関に向かう。

 駅の場所は分かっているのかと聞いてくるが、今のご時世、パカパカ電話とは違い、スマートフォンがあればその程度直ぐに分かるのだ。そんな事を云ってみると、彼女はパカパカ電話をしまい、オルゴールを鳴らしながらぶすっとした表情で、そりゃすごいと吐き捨てた。オルゴールがかすかに立てる、スキール音のようなきしんだ音が耳障りである。

 彼女は殆ど惰性であの電話を使っていると思っていたが、それは誤りであったようだ。私は彼女に謝罪しながら、玄関を開ける。

 無駄に流暢な発音で、ほろ酔いが私の背中に「Good luck」と声をかける。

 私もそれに、「じゃあね~! ほろ酔いちゃん。また飲もうね~」と手を振りながら返し、音楽家らしくかっこよく外に出る。

 久しぶりの日が目にしみる。窓越しとはいえ、日も降り注いでいたあの家は、かなり明るかったと思うのだが、やはり直接の日光と云うものは喩え冬であっても脅威なのだろう。

 

 残り一%の充電が消え去る前に、駅までの道を頭に叩き込む。彼女は道は分かるのか等と云っていたが、駅までは一本道だった。これでは少しうろついただけでも直ぐに分かったのではなかろうか。きっと彼女は心配性なのだと思うことにして、その雑念を振り払う。

 最寄り駅は武蔵小金井駅のようだ。地図を見る限り非常に近いうえ、新宿へも中央線で一本だったはずだ。運がいい。

 駅へ向かう道中のコンビニで鬼ころを補給する。それとついでに、0Kcalだという食物としての在り方を否定するゼリー飲料があったので買ってみる。

 

 それを腹に入れながら、もう目前となった駅への道を急ぐ。駅に着いた頃には、丁度電車が到着するところだった。

 駅で路線図を見ながら、新宿までの料金を券売機に投入する。

 出てきた切符を取って改札に入れ、急いでホームへ向かい、何とか電車に滑り込んだ。

 運が良いことに電車は空いていた。席に座って鬼ころを口に含み、一服する。

 

 宿酔しているのにその上から重ねて飲み、さらに運動したため非常に気分が悪い。それをどうにか誤魔化すため、席の上でじっとして、鬼ころをあおる。

 そしたら少し楽しくなる。苦しさを少し忘れられる。気分が良くなるからまた飲む。するともっと気分が良くなり、体の不調などどうでも良くなる。

 そうこうしているうちにもう新宿だ。世の中の人はみな電車の中でスマートフォンを見て暇をつぶしておるようだが、なぜ酒を飲んでつぶさないのか非常に不思議である。

 

 私はもう一度鬼ころをあおってから、電車から降り、改札を潜り抜ける。

 酷い人だったが、慣れがある上、酒に酔って気が大きくなっているので問題ない。

 私はそのまま、鬼ころ片手に新宿FOLTへ向かってぶらぶらと歩いていく。

 

 さて、もうそろそろで新宿FOLTだというところで、私の背筋に悪寒が這い回る。

 目を凝らしてみてみると、志麻がFOLTの前に居るのが見えた。

 仁王立ちをしている。なぜだかその後ろには鬼が見える。

「ひっ…」思わずひきつった声が出る。

「た、助けて鬼ころ」

 パックを握りしめ、最後の一滴まで飲み干すが、それで勇気が出る筈もなし。

 ゴルゴダの丘へ十字架を背負って向かうような心持だ。当然私はキリストではない。その横にいる盗人だ。

 重い足取りで、顔を青ざめさせながらFOLTへ向かう。

 今まで祈ったことのない神に祈る。そのすぐ後に、それなら鬼ころに祈った方が良いやと思い直して、鬼ころを握りながら祈りをささげる。

 

 そんな馬鹿な事をしていると、ついに志麻が私の事を見つけた。

 彼女は私の方へずかずかと歩を進めると、無言のままむんずと私の腕をつかみ、FOLTの中へ連行する。怒りのあまり声も出ないと云った有様だ。私に出来る事はもはや、中にいるだろうイライザが取りなしてくれることを祈るのみであった。

 




今年の初夢は、新幹線の窓に張り付いてライトセーバーを振り回す悪役っぽい奴と見方っぽい奴を観戦していると、悪役が味方を倒して車内に乗り込んできて、私もライトセーバーで応戦していたら、スターリーのオーディションでジャズをやって「えぇ...」みたいな反応をされると云うものでした。
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