後藤ひとりが虎杖悠仁とただ話すだけのお話   作:助5103

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一話

 

 

5月は新転機から一ヶ月経つ頃である。入学・入社・人事異動などによる新生活に少しずつ慣れてきた人が増え、生活に落ち着きが出やすいタイミングを迎える。反対に下旬から訪れる五月病によって身体が思うように動かない憂鬱な日々を迎える時期もあるが春の温かい期間がそれを優しく慰めてくれる。もう徐々に仲間との交流が深まっている頃であるのだが、人によって一ヶ月程度でそこまで進展出来る訳がないとソロライフを充実する人間もいる。

 

5月二日は金曜日だった。学生のみならず全社会人にとって休日到来のハッピーデーである。“この一日が終われば”という思いで満杯な人々が迎える夕方の五時頃はいつもより賑やかに感じている。学校帰りの元気な小学生はランドセルを家に置いてからは少人数で公園に集まってははしゃいで遊んでいた。それとは正反対に高校一年生のとある女子は陰鬱な雰囲気を漂わせては冷たい飲料水を口に含んでベンチに座っている。

 

彼女は暇だったのか、背負っていたギターケースから取り出し音を鳴らす事もなく練習をし始めた。誰も話しかける事もなく過ごす三十分間、好青年の声質で唐突に話しかけられる

 

「え、もしかしてバンドマン?」

 

 

彼女は顔を三十度上げると、そこそこ身長のある同い年の少年が立っていた。パーカーを下に学生服を着ているので彼女は彼が不良なのかと怯えていた

 

 

「あ、はい」

 

 

 

「俺バンドマンって見た事ないんだよなぁ。今までここには来てたけど」

 

 

こうガツガツこられるタイプの人間には非常に近づけ難い。ましてや純粋無垢なこの笑顔。こういう態度で近づけられると会話を辞めづらい。おまけに隣の方へと座ってきた。紙袋に大量の景品のようなものを抱えているのだが何かで当てたのだろうか。そんな快活な少年が単調な返事をする彼女を無視し質問を続ける

 

 

 

「俺虎杖悠二ね、名前は?」

 

 

「後藤です」

 

「もしかて俺らってタメだったりする?」

 

 

 

「ちなみに高一だけど」と話を続ける虎杖の言葉にドキリと鼓動が加速する。奇しくも自分も同じく高一であったからだ。もしタメで話すとなると自分半強制的に敬語抜きで話さなければならない。いや、だかしかし彼と今後会う事はないのかもしれない。この話一通り終わった後彼が「アイツノリが悪いな」と陰口を言われるのかもしれない。こういう想像力は誰よりも高い。

 

「わ、私も高一です」

 

 

「やっぱり!俺見るだけでも分かっちゃうんだよねー、外れる事多いけど」

 

 

「それで、話変えるけどバンド名とかあるの?ソロ?グループ?」

 

「グループです」

 

「名前は?」

 

「結束バンドです」

 

 

「今何してんの?」

 

 

「集合時間早め出来てしまったので今待ってます」

 

 

単調な返しが続く会話に自分でも情けなくなる。一つの話題を広げる能力が自分にはないのだど自負しているのとはいえ…

 

「待ってるって?ここでやんの?」

 

大体なら向こうはここで会話をやめるが虎杖は気に留めない様子は態度を変えず質問を投げかける。

 

「いや、普段はライブハウスでやります」

 

 

「じゃあ入ってもいんじゃない?まぁ今日はあったかいからいいんだろうけど」

 

 

「えーと、一応みんなが先に入ってから行こうかなって…」

 

 

これに関して嘘偽りがない。実際に一人であの空間に止まってはいられない…知り合いが一人でも来なければ自分はその空気押しつぶされうな気がしているからだ。こうして早めに来てしまった時はここである程度時間を潰してメンバーの一人でも来た場合にタイミングを合わせて入るのがいつものやり方だ

 

「なるほどね」

 

 

と、短い言葉で虎杖は返したが彼は後藤が重度の人見知りである事は何となく察していた。しかしそういまた事は無闇に足を踏み込まない。

 

 

 

「じゃあ、今どれくらい待ってるの?」

 

 

「二十分くらいです」

 

 

「そっか…」

 

 

ここでコミュ強虎杖もそろそろ会話の弾数が切れ始めてくる。

 

 

「演奏っていつもカバー曲なの?オリジナル?」

 

 

「カバー曲は…前までやってました」

 

 

「へー、何弾けんの?」

 

 

「…有名な曲ならだいたい」

 

 

「a◯koとか椎◯林檎の曲とかも?」

 

 

 

「はい」

 

 

マジか!と目を点にしながらも彼女の言葉に驚愕する。今挙げたのは彼が好きなアーティストなのだろうか。まぁ間違いなくアニソンが好きな感じではなさそうだ。

 

 

「今は流石に出来ねぇもんな。別に無理しなくていいよ」

 

 

 

やれと言わんばかりな雰囲気にさせしまったと思っていたのか虎杖は後藤に向かってそんな言葉を投げかける。所々気遣う所からそのおっかなさそうな佇まいからは裏腹に案外優しい一面があるのか。屋上でポテチ食べながら授業をサボってそうな偏見を持っていたのだが意外と普通の高校生なのかもしれない

 

 

「あの、く、クラブハウスで練習に行くんで…良かったら見てもいい…んですけども」

 

 

「ん?あ、あー」

 

 

 

行くと即答しそうな雰囲気を感じたのだが虎杖は予想とは違い少し気まずそうな感じで目を逸らし始める。

 

 

「あと二十分待つんだろ?ごめん、今から用事あるから見れねぇわ」

 

 

「あ、そうですか…」

 

 

人を誘うには莫大なエネルギーが必要になる。柄にもなく振り絞ってその言葉を出したのだが、残念ながらそのか弱い誘いは断れて終わりになった。

 

 

「あ、ごめん。ちょっと電話来た」

 

 

そう言い立ちあがる虎杖は電話主と少し喋った後後藤に振り返ってこう言った

 

 

「ごめん、俺もう帰るよ。じゃあな!頑張れよ」

 

 

 

「あ…はい」

 

 

 

すぐさま彼の方へ視線を向けると風のように消えていった。足があまりにも速かったのか砂埃が少し舞っている。あのように連続して話しかけられたことがなかったのか後藤は会話の充実感をひしひしと感じていた。異性とここまで話すのは初めてだったものもあり終始あっけにとられていたのだが、話していてそこまで嫌な気はしなかった。しかしどうしたものか、話し相手がいなくなると彼女でも少し寂しさを感じていた。と、虎杖が座っていた方に目を向けると彼が持っていた紙袋がちょこんとのっていたままだった。

 

 

「あ」

 

 

 

気づいた時には既に遅いが、不思議とまた彼と会えるように気がしていた。明日、またちょっと早くここに来よう。そうすれば偶々会えるかもしれない。と、いつもとは少し違う理由でこの公園に訪れようと後藤は出していたギターをケースにしまい始めた。

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