絶対に笑ってはいけない連邦生徒会二十四時   作:蒼乃黄色

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その一

皆さんこんばんは! クロノススクール報道部のアイドルレポーター、川流シノンです。さぁ今年も残すところ後数時間を切りました。皆さんはどんな一年を過ごされましたでしょうか? 今年は特に連邦生徒会長の失踪から立て続けに事件が起こり、我々クロノススクールもネタに困らな……報道機関としての真価が問われる一年でありました。来年はどうか、皆さんが笑顔で過ごせるような平和な世界になることを願っています。……本当ですよ? さて、去年のこの時間、先輩から急遽番組の埋め合わせを押し付けられた私はとある特番の制作に携わらせていただきました。嬉しいことにその番組は皆さんから大変ご好評を頂き、近年稀に見る高視聴率を叩き出したのですが……そう、その企画が、なんと、今年もやらせていただけることになりました! 今夜はパワーアップした伝説の企画『絶対に笑ってはいけない二十四時、連邦生徒会編』をお届けさせていただきます! 年の瀬を粛々と、笑顔を禁じて過ごすことで、新年を目一杯の笑顔で迎えようと始まったこの企画。去年はあのゲヘナ学園の羽沼マコトさんと、トリニティ総合学園の羽川ハスミさんに出演していただきました。いがみ合う二校の二人が、最後は肩を抱き合いながら地雷原を駆け抜けていく姿は見ている人の胸を打ちましたよね。今年は予算の方もしっかり組んでもらい、我々の情報力で各学校に圧力を——熱烈なオファーをさせていただき、なんと今回は七校から、七人の生徒に出演してもらえることになりました。政治的な立場と笑顔を取り去った時、そこに残るのは果たして友情かそれとも……。視聴されている皆さんも、是非口に牛乳でも含みながらご覧下さい。それでは、VTRスタート!!」

 

 

 

 8:00 a.m。D.Uシラトリ地区、某公園。

 

「お、おはようございます……。」

 

 トリニティ総合学園一年、下江コハルは公園の人集りに恐る恐る近寄りながら会釈する。

 

「おう。今日はよろしくな。」

 

 ミレニアムサイエンススクール三年、美甘ネルは気さくに挨拶を返したつもりだったが、派手なスカジャンと鋭い威圧感にコハルは怯えてしまったようだった。顔色を悪くして、後退りしていく。

 

「大丈夫よ、ちょっとガラは悪いけど良い人そうだから。」

 

 アビドス高等学校一年、黒見セリカはコハルを背後から優しく支えて宥める。

 

「ンだよ普通に挨拶しただけだろーがよ!」

「だからそういう声出すから怖がられるんだってば!」

「いや、さっきは気さくに挨拶したはずだぞ!」

「トリニティの子だし、もっと気さくさよりも上品な挨拶の方が良かったんじゃない? ご機嫌よう、みたいな。」

「あたしがンななよなよした事言えるかよ。」

 

 ネルとセリカが騒ぐ横で、コハルは居心地が悪そうにしながら他の面子を見渡す。

 

「どうかしたのか?」

 

 レッドウィンター連邦学園二年、池倉マリナはコハルの様子に気がついて尋ねた。

 

「えっ! いや、これで全員揃ったのかなって……。」

「いえ、確か山海経からも一人来られる筈ですよ。」

 

 百鬼夜行連合学院二年、河和シズコは柔らかい物腰でコハル達に答える。シズコとマリナに対しては、コハルもあまり怯えた様子はみせなかった。

 

「っていうか、クロノスの音響やカメラマンは居るけど、いまだに進行が居ないのはどうなんだよ。」

 

 ゲヘナ学園二年、銀鏡イオリは寒そうに身震いをしながら悪態を吐く。

 その時、公園の入り口に黒塗りの柄の悪い高級車が一台停まった。

 

「あれ、進行の人が来たんじゃないか?」

「いや、違うだろ。なんかブラックマーケットのマフィアでも乗ってそうなイカつい車だし。」

「シラトリ区の復興作業で出入りが多いですし、治安もまだ安定していないのでしょうか。」

「ちょっと、皆んなで見てたら絡まれちゃうんじゃないの!?」

 

 コハルがビクついていると、車の運転手が降りてきて恭しく後部座席を開ける。

 そこから、山海経高級中学校三年、竜華キサキが堂々と現れた。

 

「待たせたな。妾で最後か?」

「えぇええええっ!?」

 

 気さくに挨拶をしてくるキサキに、その場に居た生徒たちは恐縮しながらも思わず笑ってしまう。

 

「ちょっと待って下さい、山海経はキサキさんが出られるのですか?」

「うむ。本来ならウチの二年のミナが出演する予定であったのじゃが、張り切り過ぎて風邪をひきおったのでな。責任者として代役を承った。」

「頭がこんな汚れ仕事に出て大丈夫なのかよ。」

「なに、春節のお祭り騒ぎじゃろうて。政治的立場など気にせず、今日は一生徒として接してくりゃれ。」

 

 キサキの登場に皆が浮き足だって居ると、公園の入り口の方から自転車がチリンチリンとベルを鳴らしながら近寄ってきた。

 

「皆、お揃いのようね……。」

 

 連邦生徒会二年、扇喜アオイはハンドルをグラグラさせながら、甲高いブレーキ音を響かせてややドリフト気味に皆の前で停まった。

 

「危ないな下手くそ。自転車乗り慣れてないのかよ。」

「どうも。本日、あなた達の引率を行い、連邦生徒会のご案内をします。ざい……生徒会二年、財務室の扇喜アオイよ。」

 

 イオリのツッコミを無視して、アオイは自転車から降りて急に進行を始めた。アオイの自己紹介に対して、皆はそれぞれ目配せをしながら辿々しく頭を下げる。

 

「あなた達には今日一日、連邦生徒会の仕事を体験して頂くということで、いくつか守ってもらうたいルールがある……あり、守ってもらうルールがあります。」

「あの、台本の読み込みが甘いんじゃないですか。」

 

 シズコが笑いながら突っ込み、アオイは少し顔を赤らめながら先を続けた。

 

「一つ、あなた達にはこれより二十四時間、連邦生徒会の一員として過ごしてもらいます。その間は各学校のいかなる政治的問題も持ち出してはなりません。」

「全然レスポンスをくれないな。緊張してるのか?」

 

 マリナが訊くが、アオイはやはり無視をして続ける。

 

「一つ、生徒会の衣装を纏ってからは、どんなことが起こっても絶対に笑ってはいけません。」

「あ? 着替えんのかよめんどくせぇ。」

 

 ネルが呟く。

 

「一つ、笑った場合は、罰としてその場でお尻にショットガンを受けてもらいます。」

「バカじゃないの!? 流石に死ぬわよ!」

 

 コハルは慌てて叫んだ。

 

「弾丸は特殊なゴム弾を使用するから安心して頂戴。何十回受けても傷跡が残らないことは実験済みよ。ただし当然罰なので、それなりに痛いけどね。」

「……どうせかなり痛いんでしょうね。不安だわ。」

 

 セリカは陰鬱なため息を吐く。

 

「それでは、あそこにある更衣室でそれぞれ着替えてもらえるかしら。その後一人ずつ呼ぶから、名前を呼ばれた人から出て来て頂戴。」

「あー……もう帰りたい。」

「そんなに嫌なのか?」

「キサキさん、去年の放送見てないのですか?」

「ハスミ先輩ですら満身創痍だったのに、私なんて……どうなっちゃうんだろ。」

 

 七人は困惑と文句を抱えながら、それぞれのネームプレートが書かれた簡易更衣室に入って行った。

 それから数分後、アオイが着替え終わったか確認すると、全員から返事があった。

 アオイは再び、今後は笑ってはならないことを前置きしつつ、それぞれの名前を呼んだ。

 

「それでは、ゲヘナ学園二年、銀鏡イオリさん。」

「……はい。」

 

 紺色のネクタイに白を基調とした連邦生徒会の制服に袖を通したイオリは、やや不貞腐れた表情で更衣室から出てきた。ミリタリー調の硬めのジャケットに、タイトなミニスカートのデザインは、イオリの健康的な褐色の肌と強気な銀髪に良く似合っている。

 

「良いわね。ただ、スカートが少し短いように思うわ。全校放送でその美脚を見せつけたいという欲望が透けて見えるわよ。節度は守って頂戴ね。」

「お前らが用意した服だろ。ぶっ飛ばすぞ!」

 

 唐突なアオイの挑発に、イオリは危うく笑いそうになる。全力のツッコミも緊張気味のアオイに無視されてしまい、これ以上文句を重ねたら自爆して笑ってしまいそうで、イオリは悔しそうに歯噛みしながら推し黙った。

 

「次、ミレニアムサイエンススクール三年、美甘ネルさん。」

「おう。」

 

 ネルはシンプルな白いハイレグのレオタードの衣装で出てきた。

 

「……。」

「……。」

 

 ネルとイオリはお互いの衣装を見比べる。イオリは危うく笑いそうになり、咄嗟に明後日の方向を眺めて口を開けたままプルプルと震えた。

 

「ちょっと待てみんな同じ格好じゃないのか! なんであたしだけレオタードなんだよ!?」

「ガラの悪いチンピラ感をなくそうとしたら、それくらいインパクトのあるデザインじゃないとダメなのよ。全校放送に反社が映って居ては問題になるでしょう?」

「あたしは反社じゃねぇし、このふざけた格好の方がよっぽど不健全だろうが……!」

「そのツッコミは着る前にするべきでは?」

「みんなも着ると思ったからあたしは仕方なく……ふざけんなクソ!!」

 

 ネルは顔を真っ赤にして、更衣室から自分のスカジャンを引っ張り出して羽織った。

 

「そのスカジャンは指定の物ではないようだけれど。」

「あ? なんか文句あんのか? あぁ?」

 

 喧嘩腰なネルに、アオイは困ったようにクロノスのスタッフを見る。そのままで大丈夫だとカンペが出て、アオイは頷いた。

 

「……まぁ良いでしょう。次、トリニティ総合学園一年、下江コハルさん。」

「は、はい。」

 

 コハルは少しだけ丈の大きな学生服と制帽に、高デニールのもっさりとした黒いタイツを穿いている。他のメンバーよりも柔らかい生地を使っているのか、少し暖かみのある印象を受けた。

 更衣室の中で先ほどのアオイの罵倒を聴いていたコハルは、自分もどんな悪口を言われるのかと涙目で警戒している。

 しかし、アオイはコハルに柔らかい表情を向ける。

 

「とても可愛いと思うわ。——次!」

 

 さっさと次に行こうとしたアオイに対し、イオリとネルが盛大に吹き出した。

 

「待て待て、そいつにだけ甘くないか!?」

「おかしいだろテメェ!」

 

 その瞬間、けたたましい警告音と共に、録音らしきアオイの音声がスピーカーから響いた。

『イオリ、ネル、OUT!』

 その放送と共に、黒ずくめの生徒がどこからともなく現れてイオリとネルを後ろに向けて頭を下げさせる。

 

「痛い痛い、ちょっと待て!」

「なんだテメェら……クソ……!」

 

 困惑しながら半腰になる二人のお尻に、ショットガンが容赦なく撃ち込まれた。

 

「づぁあぁああああ!?」

「いッッはぁッ……あ、ダメだこれっ……あぁっ……!!」

 

 二人は悲鳴を上げながらその場で蹲ったり転げ回ったりした。

 

「え、ほんとに撃たれたのか?」

 

 更衣室の中からマリナが訊く。

 

「ちょっと、これ本当に大丈夫なの? 怪我してない?」

 

 コハルは心配そうに二人に駆け寄る。

 

「これは、ちょっと本気で気合い入れないとヤバそうね。」

「そうみたいですね……。」

「どうなっていたか見たかったのう。」

 

 二人の痛々しい悲鳴に、セリカ達も更衣室で気を引き締め直した。

 しばらくして満身創痍な様子の二人が立ち上がると、アオイは半笑いになりながら次の生徒を呼んだ。

 

「つ……次。アビドス高等学校一年、黒見セリカさん。」

 

 セリカはスタンダードなブレザータイプの生徒会服で、色の変化以外は普段とさほど印象は変わらなかった。

 

「次、百鬼夜行連合学院二年、河和シズコさん。」

「えっ、私の感想は?」

「おい、頼むから今は些細なツッコミもやめろ……。」

「ご、ごめん。」

 

 尻を押さえるネルに凄まれて、セリカはアオイの塩対応に抗議するのをやめた。

 そして、更衣室から出て来たシズコは、ハイウエストのロングプリーツと軽やかな羽織り姿を見せる。

 

「ちょっと、私とキャラが被っているんじゃないかしら? 許せないわ。」

「えっ? そ、そんなことは全然ないと思いますけど。」

 

 アオイの理不尽な言いがかりにシズコは困惑する。

 

「スカートだけだろ。さっさと進行しろよもう!」

 

 イオリはお尻を押さえながら怒鳴った。

 

「では次、山海経高級中学校三年、竜華キサキさん。」

「うむ。」

 

 キサキはパンツスーツのような装いなのだが、全てのサイズがキサキの小さな身体よりも二回りは大きく、袖も裾も折っているのにまだダボダボとしていた。

 

「どうやらサイズが合っていないようですね。」

「まぁ、元はミナが来る予定であったからの。これくらいは仕方あるまい。」

 

 少しだけ歩きにくそうだが、そこまで支障はなさそうなのでアオイはそのまま進行する。

 

「次、レッドウィンター連邦学園二年、池倉マリナさん。」

「はい!」

 

 マリナは一際元気な返事と共に更衣室から出て来た。

 そして、寒空に警告音が響く。

『コハル、キサキ、イオリ、ネル、セリカ、シズコ、OUT!』

 六人は腹を抱えてその場に崩れ落ちていた。

 

「服のサイズが小さ過ぎるだろ!! 殆ど尻も出てるしミニスカってレベルじゃねぇぞ!」

「しかもなんでそんな堂々と出てこれるんですか!?」

「い、いや。みんなもなんだか癖のある服を渡されていた感じだったから……。」

「ひょっとして、妾と逆だったのではないか……?」

「あっ、そういうことか!」

 

 それぞれが状況を把握しようとする中、黒ずくめは容赦なく笑った者達を屈ませて尻にショットガンを撃ち込む。

 横並びになった六人が順番にテンポ良く悲鳴を上げながら仰け反っていく。

 

「があぁあぁあやばい! やばいってこれ!」

「うわ、本当に痛そうだな。」

 

 マリナは一人気の毒そうにしながら皆の様子を見守る。

 

「では、バスが待っているので移動するわよ。」

「ちょっと待って、マリナさんはこのままの姿なんですか!?」

 

 シズコは痛みに涎を垂らしながら必死に抗議する。しかし、マリナとアオイは一顧だにせず歩いて行く。

 

「指定された服装なのだから仕方あるまい。」

「ええ。時間も押しているから早くいくわよ。」

 

 遠ざかるマリナの半ケツを睨みながら、六人はこれから二十四時間もこんなことに耐えなければならないのかと戦慄した。

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