絶対に笑ってはいけない連邦生徒会二十四時   作:蒼乃黄色

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その三

 

 9:50 a.m。連邦生徒会待合室。

 次の呼び出しがあるまではこの部屋で自由に過ごせと言われた七人は、コの字に並んだ作業机に座って少し手持ち無沙汰に時間を潰していた。

 

「皆さんお茶は要りますか?」

 

 シズコは自分の茶を汲むついでに聞いて、全員がお茶を希望した。流石に量が多い上に年上を小間使いにしては申し訳ないと、セリカとコハルも用意を手伝う。

 その間、なんの気無しに自分の作業机の引き出しを開いたネルは、中に何かある事に気がついて調べ始めた。

 そうやってゴソゴソしている様子をイオリが見ていると、ネルは神妙な面持ちで一枚のBDを机の上に置いた。

 

「なんじゃそれは?」

 

 キサキも気づいて尋ね、マリナも顔を上げた。

 

「なんか、あたしの机に入ってた。」

 

 BDは透明のプラケースに入っており、表面には特にタイトルも書かれていなかった。

 

「お前らの机にも何か入ってるんじゃないか?」

「えぇ……なんか嫌な予感するから見たくないんだけど……。」

 

 そう言いながら自分の引き出しを開けたイオリは、目に飛び込んできたアルバムを見てフンッと思わず鼻から笑いを溢してしまった。

『イオリ、OUT!』

 突然の警告音に、全員は驚きイオリを見る。

 

「クソっ、やっぱり嫌な予感が当たった! っていうかこれ提供したの先生だろ!? 絶対裏方に先生いるよな!? 覚えてろ——だぁあぁあああ!!」

 

 イオリは転げ回るが、もう罰を受ける様子に慣れたシズコ達は、訝りながらもお茶を配って回る。

 

「どうしたんですか?」

「あたしの机の引き出しにBDが入っててな。皆んなはどうだって聞いたらイオリが開けた瞬間に笑ったんだよ。」

「何が入っておったのじゃ。」

 

 キサキとネルは立ち上がりイオリの引き出しの中を見る。

 

「アルバムか?」

「どうやらイオリの子供の頃の物のようじゃな。」

「えっ、私にも見せて下さいよ。わっ、可愛い〜!」

 

 アルバムに収められた写真を見ながら、セリカとシズコは特に盛り上がっている。

 

「おい、あんまり見るなよ……。」

「え〜、もうちょっと見せて下さいよ!」

 

 シズコは言いながらページをペラペラめくる。

 すると、先のページほど写真には成長したイオリの姿が映っていた。

 

「あれ、こんな写真撮った覚えは……。」

 

 怪訝そうにしているイオリをよそにシズコがページをめくっていると、明らかに今のイオリよりも年を重ねた大人の姿が写真に写り始める。

 そして次第に顔に皺が刻まれ、腰が曲がり、手足が細くなって、最後のページでは棺に収められて幸せそうに目を瞑るイオリが居た。

 全員はそれを見た後、今のイオリをじっと見つめる。

 

「……。」

「……。」

 

 そして沈黙に耐えきれなくなって何人かがクツクツと身体を揺すって笑ってしまった。

『セリカ、シズコ、ネル、キサキOUT!』

 

「なんか、ちょっとしんみりしちゃった。普通に良いアルバムじゃない。」

「多分AIの加工なんでしょうけど、びっくりするくらい違和感がないですね。」

「ヴェリタスの仕業だろうな……。」

「妾もこれやって欲しいのう。」

 

 四人は穏やかな笑顔を浮かべていたが、尻にショットガンを受けてすぐさま顔を引き攣らせていた。

 

「ちょっとこれ、他のも見てみたいわね。皆んな引き出しを確認してみない?」

 

 痛みに挫けずにセリカが提案し、全員は恐る恐るといった様子でそれぞれの机の引き出しを開けていった。

 結果、イオリ以外の全員の机からやはり何も書いていないBDが一枚ずつ出てきた。

 

「なんか、アルバムと違って中を確認するの怖いんだけど……。」

 

 コハルは警戒していたが、他のメンバーは渋った態度をとりながらもおおよそ中を確認するべきだという空気になっていた。

 

「確認しないとそれはそれで気になるし気持ち悪いだろう。」

「そういえば再生機器はあるんですか?」

「ああ。私の背後にあるぞ。」

 

 マリナはキャスター付きの椅子に座ったまま移動して棚の上を指す。

 

「じゃあコハルから入れてくれよ。」

 

 ネルに言われてコハルは肩を跳ね上げる。

 

「え、な、なんで私!?」

「いや、多分イオリのアルバムみたいに、それぞれ自分に関するイジリが映ってんだろ。だったら最初の方が気楽だし後の奴らのを楽しめるだろ。」

 

 それは、もしまたコハルが泣いてしまった時に、他のメンバーの笑い話を挟むことですぐに立ち直ってもらおうというネルの気遣いだった。

 それをセリカも察したのか、コハルを後押しする。

 

「まぁ、こういう場合は後輩から行くものよね。コハルが嫌なら私から入れても良いけど?」

 

 セリカに言われて、コハルは逡巡の後に意を決した。

 

「わ、わかったわよ。私のから観るわ。」

 

 そしてコハルは机越しにマリナにBDを渡して再生をしてもらった。

 再生機器の上にかけられている大型のモニターに、内容が映し出される。

 BDの中身は一般のビデオカメラで撮られた動画のようだった。

 恐らく良いカメラを使っているのであろうやたらと綺麗な画質の映像には、一人のトリニティ生が映っていた。

 

「初めまして皆さん。トリニティ総合学園の阿慈谷ヒフミです。この度は私たち補習授業部のコハルちゃんが年末の特番に出られるということで、コハルちゃんのご紹介をさせていただきたいと思います!」

 

 ヒフミはお嬢様学校にしてはやや質素な作りの教室を背景に少し紅潮した顔で挨拶をした。

 

「因みに映像を撮ってくれているのは同じく補習授業部のアズサちゃんです。」

 

 ヒフミが言うと、画面手前から白く華奢な手が出てきてピースサインをフリフリとして引っ込む。

 

「普段コハルちゃんは正義実現委員会という、トリニティでも有名な部活に所属しているのですが、ここ最近はテストの点数がふるわなくて私達と補習を受けているんです——。」

 

『イオリ、OUT!』

 途中でイオリが笑ってしまい、映像が一旦停止された。

 

「え、何に笑ったの?」

 

 セリカの問いにイオリは笑いながら答える。

 

「いや、そりゃあ性別の欄に処女って書くくらいだから赤点もとるだろうなって納得——があぁあぁあぁッ!!」

 

 もんどりうつイオリを尻目に、コハルは必死に言い訳をした。

 

「いや、その、違うの! 私だけ上級生のテストを受けたから、本来の実力じゃなくて、正義実現委員会はエリートの部活なんだから、赤点なんて普通ならとらないんだから!」

 

『キサキ、セリカ、OUT!』

 

「待て、自尊心を守る為とはいえ嘘をつくのはあまり感心せんぞ。」

「背伸びして赤点とってたら結局意味ないし、嘘にしてももう少しそれらしい言い方にしないと……!」

「嘘じゃないもん!!」

 

『イオリ、ネル、シズコ、OUT!』

 

「わかった、笑った私が悪かった! だから一旦落ち着いてくれ……!」

「みんなもコハルを揶揄うな! 頼むから!」

「ちょっと私は我慢しましたよ!? ねぇ、判定がちょっとガバガバ——ヴッ……!!」

 

 皆は尻を押さえながら興奮するコハルを宥めて、映像の続きを見ることに集中した。

 

「補習授業部は本校舎からは少し離れた場所にあるので、私達は期間中はここで寝泊まりしてテスト範囲を勉強し直しています。ちなみに、今はまだ朝早いので、コハルちゃんは寝ていると思います。なのでこっそりコハルちゃんの可愛い寝顔を皆さんにお見せしちゃいます!」

 

 コハルは驚き抗議の声を上げるが、当然画面の中のヒフミには届かない。

 そして、ヒソヒソとした声でヒフミは寝室らしき部屋の扉を開ける。

 

「おはようございまーす。あ、ちなみに、こちらで寝ているのは学園一の才女と名高いハナコちゃんでーす……あ、アズサちゃん、これ後で編集お願いしますね。」

「任せておけ。」

 

 画面に映るハナコはどうやら裸で寝ているらしく、ほぼ全身にモザイクが施されていた。映像を見ていた数人は口を開けたり閉じたりしながら、天井を仰いで必死に笑いを堪える。

 

「そしてこちらがコハルちゃんです。昨日は人一倍お勉強を頑張っていたのでぐっすりですねぇ。」

 

 そう言いながらヒフミがコハルのほっぺを優しくつつくと、コハルはカプリと指を咥えてチューチューと吸い始めた。

 

「あ、アズサちゃん見てください……! 凄く可愛いです!」

 

『イオリ、セリカ、ネル、OUT!』

「赤ちゃんかよ!!」

「あはははは、可愛い……!」

「愛されてんなお前。良い仲間じゃねぇか……。」

 

 三人が尻を撃たれるのを、コハルは顔を真っ赤にしながら睨んでいた。

 

「あ、アズサちゃん見てください……! 凄く可愛いです!」

「まるで赤ちゃんみたいだな。ハナコはどうだろう。」

 

 カメラを持っているアズサが全裸で寝ているハナコの方を向き、ヒフミがやったようにツンツンとハナコの頬をつつく。

 すると、ハナコも同じようにアズサの指にしゃぶりついた。

 

「ぐっブポッ! ジュブ、じゅっぽじゅっぽ、ぶっ、ズロロロロロロロロ!!」

 

 生々しい音を出しながら指をねぶるハナコに、アズサはふっくらと笑い声を上げた。

 

「ふふっ、見ろヒフミ。ハナコも赤ちゃんみたいだな!」

「そんな赤ちゃんいたら嫌です。」

 

『全員、OUT!』

 ハナコの指吸いとアズサの純真無垢な感想とヒフミの冷めたツッコミに、全員は膝から崩れ落ちて笑った。

 

「アイツら何やってるのよ、恥ずかしい! ホントに最悪!!」

 

 全員、尻にショットガンを受けた後もしばらくヒィヒィと呼吸が整わなかった。皆が笑っている中、ヒフミが補習授業部として簡単な締めの挨拶をして動画は終わっていた。

 

「あーくそ、しんどい。」

「でも、BDの中身は多分、身内の紹介動画ってことよね。」

「そういえばお互いちゃんとした自己紹介もしてませんでしたからねぇ。」

「であるならば、全て目を通しておいた方が良いじゃろうな。」

「まぁな。今さら改まって自己紹介しあうとか嫌だし、その代わりになるなら見ておくか。」

 

 お互いに頷き合って、次はセリカがBDを差し込んだ。

 

 BDの中身はやはり動画のようだが、先ほどのコハル達のような素人の撮影ではなく、やたらと画質が良く丁寧な編集が施されていた。

 セリカが学校に通う場面から始まり、ナレーションでセリカの生い立ちからアビドス高等学校の説明が入る。楽しそうに学生生活を送るセリカだが、アビドスに多額の借金があることや、年々進行する砂漠化などの映像と共に悲壮感の漂う音楽が流れていた。

 しかし、セリカがアルバイトをいくつも掛け持ちして懸命に働くシーンから、アビドスの生徒たちが学校を守ろうと真剣に生きている映像と共に音楽は徐々に壮大なものへとフェードインしていく。

 そして、アビドスで生きる人たちの生活や笑顔が映し出され、最後にセリカがメインで働いている柴関ラーメンを背景に爽やかな幕引きとなる。暗転の後、新入生を募るテロップが流れて動画は終わった。

 

『セリカ、OUT!』

 

「ボケなさいよ!!」

 

 やたらと金がかかった真面目な動画を見せられ、セリカは苦笑しながら大声で叫ぶ。

 

「いや、良い動画だったぞ。」

「アビドスって大変なのね。あんなに働いてて身体壊さない?」

「いや、すまん。ちょっと泣いてしまった。」

「私もです。憐れみなんて良くないとは思いますが、なんだか胸にくるものがあって……。」

 

 目尻を拭うマリナに、他の生徒たちも神妙に頷いた。

 その横でセリカはショットガンをくらって一人絶叫をあげていた。

 

「そっ、そういう趣旨じゃないじゃん! なんで? アビドスにだけ違う番組のオファーと勘違いした伝達があったの? ねぇってば!!」

 

 セリカは部屋の天井に複数ある撮影カメラを睨みながら怒鳴り散らすが、当然のように返事は返ってこなかった。

 

「なんか私だけスベったみたいになってんじゃん……もう!」

 

 顔を赤くしながらセリカが席に戻ったのを確認して、シズコが席を立った。

 

「それじゃあ次は私の番ですね。」

 

 BDを入れ替えて、シズコは少し緊張気味に席に戻る。

 動画が始まると、そこにはミレニアムの校舎と生徒たちが映っていた。

 

「あ、あれ? ひょっとしてネルさんのと入れ替わってました?」

 

 シズコとネルは顔を見合わせるが、そもそも無地のBDなので中身を全部見てみないことには判別がつかない。仕方なくそのまま観ることにすると、画面前に立った生徒の一人が爽やかな笑顔で話し始めた。

 

「どうも、河和シズコ君。いつも贔屓にしてくれてありがとう。ミレニアムサイエンススクールの白石ウタハだ。」

 

 その台詞からやはりこれはシズコのBDだと判断出来たが、何故ミレニアムの生徒がそれを請けているのか、シズコは困惑した面持ちで動画を見守る。

 

「シズコ君は百鬼夜行連合学院でお祭り運営委員会を務めていて、賑やかなお祭りが滞りなく、そして皆んなに楽しんでもらえるように日々奔走している人だ。表舞台に立つことなく、人々に良い物を届けようという姿勢は、我々エンジニア部も見習うべきものだと尊敬しているよ。」

 

 人選の割にはちゃんとした紹介動画で、シズコは少し照れ臭そうに頬を染める。

 

「そんなシズコ君と私達エンジニア部は、お祭りを盛り上げる小道具——例えばプロジェクションマッピングだったり——の発注を受けて良く取引をする間柄なのだが、今回はこちらから商品のプレゼンを行いたくてこの場をお借りさせて貰ったんだ。」

 

 そしてウタハは画面端から一体のロボットを登場させた。

 

「こちらは私が愛用している雷(いかずち)ちゃんの姉妹機、雷(らい)ちゃんだ。普段はコンパクトな椅子に擬態し、お祭りの際に粗相を働く輩がいたらすぐさま制裁をくだす最高の一脚だ。ということで、是非ともその威力を体験して、気に入ったなら購入を検討して欲しい。」

 

 ウタハはエンジニア部の皆んなと目配せをして、せーので宣言した。

 

「シズコ、雷キック!」

 

 その動画が終わった途端、警告音が鳴り響いた。

『シズコ、雷キック!』

 

「はぁっ!?」

 

 突然の話にシズコが立ち上がろうとすると、シズコの座っていた椅子が変形してシズコの身体を拘束する。

 

「え、何何何!? なんですかこれ! ねぇ!?」

 

 変形した椅子の足の部分が後方に伸び、ギリギリと内蔵された極太のバネが軋む。そして、目にも止まらぬ速さでしなる椅子の足は、シズコの尻を思いっきり強打し鈍い音を響かせた。

 

「あぁあああぁああああああああああああ!?」

 

 蹴りと同時に拘束が解かれたシズコは、顔を歪ませながら床を転げ回る。

『セリカ、ネル、イオリ、マリナ、キサキ、コハル、OUT!』

 それを見ていたメンバーは我慢出来ずに腹を抱えて笑った。

 ショットガンで六人は撃ち抜かれるが、それよりもシズコの方が重体らしく全く立ち上がろうとしない。

 

「大丈夫かよ、おい。」

「ほ、骨が……お尻の肉を貫通して骨にまで衝撃が……!」

「ちょっと、放送出来る顔じゃないわよそれ。」

 

『セリカ、コハル、マリナ、OUT!』

 涎と鼻水でぐちゃぐちゃなシズコの顔に、続け様にセリカ達は笑ってしまう。

 ネルは備え付けのティッシュをシズコに渡してやるが、シズコは受け取る気力も無さそうだった。

 その時、またしてもモニターに同じ動画が流れ始めた。

 

「こちらは私が愛用している雷(いかずち)ちゃんの姉妹機、雷(らい)ちゃんだ。普段はコンパクトな椅子に擬態し、お祭りの際に粗相を働く輩がいたらすぐさま制裁をくだす最高の一脚だ。ということで、是非ともその威力を体験して、気に入ったなら購入を検討して欲しい。」

 

 皆んなが驚き顔を上げると、キサキが操作してBDを後半から再生したらしい。

 

「ちょっと、キサキさん何やってんですか!?」

 

 シズコが慌ててキサキに走り寄るが、

「せーの、シズコ、雷キック!」

 先ほどと同じように警告音が鳴ってしまう。

『シズコ、雷キック!』

 

「待って待って待って! おかしいでしょ!?」

 

 困惑するシズコの叫びも虚しく、椅子は再び変形してシズコに迫る。

 

「うわぁあこっちくんなぁっ!!」

 

 もはや体裁を取り繕う余裕もなくなったシズコは暴言を吐き散らかしながら逃げる。

『セリカ、ネル、イオリ、マリナ、キサキ、コハル、OUT!』

 

「シズコさん、口調が……!」

 

 その無様な姿に他のメンバーは抱腹し尻をしばかれる。

 

「キサキお前、悪い奴だなぁ!」

「いや、どういう仕組みなのか気になったんじゃ。」

 

 ネルとキサキが悪い笑顔を向け合っていると、雷ちゃんは恐るべき速さでシズコを再び捕らえた。

 

「やだ! ホントにやだって! 私だけおかしいでしょ! ねぇやめ——ゔあぁあぁあああああっ!!」

 

 またしても強烈な蹴りがシズコの尻を爆ぜさせ、他の生徒たちは一瞬も堪えることなく笑ってしまう。

『セリカ、ネル、イオリ、マリナ、キサキ、コハル、OUT!』

 ショットガンを受けたメンバーはもはや慣れた様子でショットガンの痛みを乗り切るが、シズコだけは床に突っ伏したまま尻を押さえ続ける。

 

「ちょっと、早く起き上がってよシズコさん。」

 

 セリカが肩を貸そうとするが、シズコは悶えたまま床を転がっている。

 

「あぁあぁあぁああはっ! あぁああああはああああああ……あああああぁあぁあ……はぁあぁん!!」

 

『セリカ、ネル、イオリ、マリナ、キサキ、コハル、OUT!』

 シズコのしつこい悲鳴に、キサキ達はまたしても笑ってしまう。

 何度もショットガンを受けて流石にこたえた彼女達は、シズコを嗜めようとする。

 

「ちょっとシズコさん、いい加減痛みも引いたでしょ。」

 

 セリカはティッシュで顔を拭ってあげながら抱き起こそうとするが、シズコは駄々をこねるように床を転がる。

 

「そもそもそんな痛いのかよ。」

 

 しかしネルがそう呟くと、シズコは口角をひくつかせながら顔を上げた。

 

「は、はぁ……?」

 

『シズコ、OUT!』

 しっかりと笑い判定がくだされ、寝ているシズコの尻に容赦なくショットガンが放たれる。

 シズコはそれを気合いで堪えつつ、ネルに恨みのこもった目を向けた。

 

「痛いに決まっているじゃないですか! 頭おかしいんですか!?」

 

 そのやり取りを見ていたキサキは、ネルの悪いノリに便乗してくる。

 

「しかし、最後の情けない悲鳴は少しわざとらしかった気がするのう。」

「だよな。あたしらを笑わそうとして演技してる気がするんだよな。」

「演技……ふふっ……!」

 

 あまりの言いがかりに、シズコは思わず笑ってしまう。

『シズコ、OUT!』

 またしても死体蹴りのような銃撃を受けて、シズコはバンバンと床を叩いて怒りを露わにする。

 

「じゃあ貴方達が受けてみて下さいよ!」

「そんなこと言われてもあたしらに判定が向かないからどうしようもないだろ。」

「もう一度受けてみて、それでちゃんと痛そうな反応であれば妾らも納得するんじゃが。」

 

 キサキはそう言って再生機器を弄ろうとする。

 

「ちょっ……触るなバカ!!」

 

 シズコは勢いよく起き上がり、キサキの前に鬼の形相で立ち塞がる。

『セリカ、ネル、イオリ、マリナ、キサキ、コハル、OUT!』

 

「シズコさん流石に暴言がすぎるわよ……!」

「相手は山海経のトップだぞ?」

「うるさい!!」

 

 シズコは皆が罰を受けている隙にBDを排出して膝で叩き割った。

 

「あーあー、番組の備品を壊して大丈夫なのか?」

「せっかくミレニアムの人達が手間をかけて作ってくれた応援動画なのに。」

「なんで贔屓にしてる取引先からこんな目にあわされなきゃならないんですか! おかしいでしょ!!」

 

 シズコの必死で至極真っ当な抗議に、全員頷きながら笑いを堪える。

 

「次はマリナさんでしょ早くして下さい!!」

「わかったわかった。私にまで怒鳴らないでくれ。」

 

 マリナはシズコに急かされて自分のBDを用意する。

 

「もう少し落ち着く間が欲しいんだけど……。」

「我慢しなさい!!」

 

 先ほどまで後輩に優しかったシズコは、コハルにまで強い口調で指図する。全員これ以上怒らせてはいけないと察して、大人しくシズコに従うのだった。

 

 マリナのBDには、レッドウィンターのトップであるチェリノと、もう一人の生徒が対談している様子が映っていた。

 

「わあ、チェリノ様と……もう一人は誰だ?」

「あれは山海経の薬師サヤじゃな。」

 

 首を傾げるマリナにキサキが答える。

 自分の所属する学校とは別の生徒が登場して、シズコの前例がある為にマリナは顔を強張らせた。

 

「それで、レッドウィンターのお偉いさんが、今日はぼく様に一体どんな薬を作って欲しいのだ?」

 

 画面の中のサヤはチェリノに訊く。

 

「聞けば貴様、若返る薬などの秘薬妙薬を作り出す才があるらしいな。」

「ふーふっふっふ、その通り! 偉大なぼく様にかかればどんな望みであっても叶える薬を作り出せるぞ。」

「素晴らしい。それでは一つ、レッドウィンター連邦学園書記長であるおいらの権威や雄志をより一層高めるような、そんな薬を作ってみせるがいい!」

「権威や雄志……。」

「よもや、いまさら作れないなどと言うまいな!」

「具体的に、きみにとっての権威とは一体なんなのだ?」

「ふむ。良い質問だな。まず一つは、この豊かな髭だ!」

「髭。」

「そしてもう一つは、全てを見下ろすたくましい肉体である。どうだ、作れるのか?」

 

 チェリノが尋ねると、サヤは尊大な笑みを浮かべながら胸元から液体の入った試験管を一本取り出す。

 

「わざわざ作るまでもないのだ。ご希望の薬なら、ここにある!」

「おお!!」

 

 チェリノは試験管を期待と不安のないまぜになった表情で矯めつ眇めつ眺める。

 

「これは、飲めば良いのだな?」

「飲み薬なのだ。」

「……ご飯の後の方が良いか?」

「食前食後に関わらずいつでもどうぞ!」

「味は……?」

「良薬口に苦し。正直言って不味いよ。だけど効果は保証するのだ!」

 

 チェリノは毒々しい色の液体にかなり怖気付いた様子だったが、祈るようにして自分に何かを言い聞かせながら薬を飲み干した。

 次の瞬間、チェリノは悲鳴を上げながら身体を強張らせる。

 筋肉が膨張し、骨がゴリゴリと音を立てて太くなる。肥大化した肉体に押されて服が裂け、口元のつけ髭がとれてそこから本物の髭がニョキニョキと生える。

 しばらく肉体の変化に苦しんでいたチェリノが顔を上げると同時に、サヤが誇らしげな表情で手鏡を手渡した。

 チェリノは自分のゴツくなった手と鏡に映る自分の顔を見ながら、野太い声で呟く。

 

「す、素晴らしい……!」

 

『全員、OUT!』

 

「怖い怖い怖い! これCGだよね? CGでしょ!?」

「最初から最後まで意味がわからない上に、マリナに一言も触れてないから本当になんの動画だよ! 何を見せられてんだ私達は!」

「いやでもギャップで思わず笑っちまったが、なかなかカッケェよな。ちょっと羨ましいぜ。」

 

 全員お尻を撃たれて悲鳴を上げながらも、停止画面のチェリノを見て笑いを引きずってしまう。

 

「マリナさん、学校に帰ってチェリノさんがこのままだったらどうするんですか。」

「いや、チェリノ様が望まれたお姿であれば私は何も言うまい。ただ、出来れば皆に私の紹介もして欲しかったな……。」

「どんまい。」

 

 皆が席に着いて動画の一時停止が解除されるが、その後チェリノがサヤを褒め称えてすぐに再生が終了し、結局マリナについては一言も話されなかった。

 

「こういうパターンもあるのか。」

「結果を予測して耐えようとすると、別の角度から笑いが込み上げてくるからダメですね。」

「とにかく忍耐力が大事ね。ちょっと笑う回数が増えてるし、気を引き締めましょう。」

 

 セリカに言われて皆は頷く。

 そして、次はネルがBDをセットした。

 すると開幕からモニターいっぱいにミレニアムの生徒の顔が映し出される。

 

「どうも皆さん! ミレニアムサイエンススクールの天童アリスです!」

 

 彼女は元気いっぱいに無垢な笑顔で話し始めた。

 

「アリスはゲーム開発部に所属しているのですが、今日は皆さんにゲームセンターでのマナーをお伝えさせていただきたいと思います!」

 

 アリスが画面から一歩引くと、背景には賑やかなゲームセンターが映っていた。

 

「ゲームセンターは楽しいゲームがいっぱい置いてありますが、時にゲームに熱中するあまり周りが見えなくなってしまう事があります。特に対戦ゲームに多いことなのですが、人気なゲームは順番を待っている人がいる場合は基本的にはワンプレイが終わったら交代するのがマナーです。」

 

 説明をしながらアリスが歩いていると、その後方から荒々しい怒声が飛んでくる。

 

「ッだよ今のコンボ!? ハメだろふざけやがって!! ンニャロ舐めた起き攻めしやがって反撃——ちゃんとガード押・し・た・だ・ろ! 壊れてんじゃねーかこの筐体!?」

 

 そこには筐体を台パンしながらCPU相手にマジギレするネルの姿があった。

 

「……アレは最悪です。」

 

 アリスは顔を歪めながら両手で大きくバッテンを作る。

『セリカ、イオリ、ネル、OUT!』

 

「ネルさん何やってるのよ……!」

「不良じゃん!」

「違ッ、たまたま熱くなった瞬間で……なんで撮ってんだあのやろう!」

 

 三人は罰を受けて痛そうに机を叩く。

 

「ほら台パンをするな。コハルが怖がってるだろ!」

 

 マリナは怯えるコハルを抱き抱えながらネルを注意する。キサキは笑いを堪えるのに必死で、口を半開きにしながらプルプル震えていた。

 

「ちょっとネルさん、本当に良くないですよ。ちゃんとアリスさんからマナーを教わってください。」

「くっそぉ……!」

 

 ネルは何も言い返せず、顔を真っ赤にしながら席に戻った。

 

「アレは最悪です。」

 

 アリスはすぐさまカメラマンと共にネルから離れてヒソヒソ声で話す。

 

「ああいうマナーの悪いお客さんを見かけたら、直接注意するよりもお店の人に報告をしましょう! 口論になって自分も怒ってしまっては本末転倒だからです。」

 

 そう言いながら、アリスは受付へと小走りで向かう。その途中で、メガネをかけたメイド姿の生徒を見つけてアリスは駆け寄る。

 

「良いところに居ました! あの人は先ほどのチビメイド先輩の保護者さん——アカネ先輩です。なので、彼女に言いつけましょう!」

 

 アリスはカメラにそう告げてからアカネに声をかけてヒソヒソと耳打ちする。

 アリスに対して和やかな笑顔で接していたアカネだが、話を聞いているうちに表情がどんどん曇っていった。

 

「アリスさん、ご報告ありがとうございます。」

 

 アカネは会釈すると、ツカツカと早足でネルの方へと歩いて行く。

 カメラは遠方からアリスの頭越しにアカネとネルの様子の撮影を続けている。

 しばらくネルは背後に立つアカネに気づかずゲームに熱中していたが、アカネが何か呟いた瞬間、顔面蒼白になって固まった。

 その後、何か言い訳らしきことを身振り手振りで話していたが、アカネは表情一つ変えずに無言の圧力をかけ続ける。そして、アカネはむんずとネルの奥襟を掴み、そのまま筐体から引き摺り落とす。

 ネルはまだ途中だからとか駄々を捏ねていたが、アカネは問答無用でそのままネルをゲームセンターの外へと引っ張っていった。

 

「ふぅ……ミッションクリアです! それではチビメイド先輩が残していったワンプレイはもったいないのでアリスがプレイしましょう。その後で続きのマナーをお伝えしますね!」

「アリスちゃん流石に利益窃盗にはならないと思うけど、それはあんまり宜しくないよ! あ、え、えっと、皆さん、アリスちゃんはネル先輩と普段は仲良しですし、ネル先輩は怖いけど良い先輩ですので! お、終わります!」

 

 最後にカメラマンのおでこが映って動画は終わった。

『セリカ、イオリ、キサキ、OUT!』

 

「しっかりした後輩たちじゃのう。」

「うるせぇ! あたしがしっかりしてないみたいに言うな!」

「してないじゃない!」

「さっきの映像見る限りはそうだよなぁ。」

 

 三人は生暖かい笑みを浮かべながら罰を受けた。

 その後、怖かったネルの子どもらしい一面を見て少し和んだ空気の中で、終わったと思ったネルの動画の続きが再生された。

 七人は驚いて動画の続きを見ると、先ほどネルに注意をしていたアカネがミレニアムの教室を背景に喋り始める。

 

「皆さん、この度は我々C&Cの美甘ネルが無作法を見せてしまい申し訳ございません。その後、ゲームセンターでのマナーやルールを我々からしっかりと説明し、ネルもこれ以降問題を起こすような行為はしておりません。その証拠に、ミレニアム近郊のゲームセンターではどれだけ負けても再戦を凄むもののマナー違反はしないということで『リトルタイラント』の異名を賜り愛されているようです。少し態度は良くないようですが、先ほどのような台パンやリアルファイトは一切しておりません。なのでどうか、これからゲームセンターで見かけても温かく見守ってくださいますようお願い致します。」

 

 もちろん、もしまた暴れたら私に連絡をくださいと告げて、アカネの動画は終わった。

 その後、しばらくの沈黙の後、キサキは震える声で尋ねた。

 

「……リトルタイラント?」

 

『キサキ、イオリ、シズコ、マリナ、セリカ、コハル、OUT!』

 

「り、り、リトルタイラント……!」

「あはははは腹痛い! 腹痛い!」

「良いプレイヤーになってるみたいで安心した。」

「ネルさん、良い人だったんだね。」

「あーっ! うるせぇうるせぇ!」

 

 罰を受けた後、ネルは足を踏み鳴らし歩き、キサキのBDを引っ掴んで自分のBDと入れ替えた。

 

「お前の動画で絶対笑ってやるからな!」

「趣旨が違ってるぞ。」

 

 マリナのツッコミは届かず、ネルが興奮したまま動画が始まった。

 真っ白な部屋を背景に、マットの上にキサキともう一人の山海経の生徒が立っている。

 

「ココナちゃん、もう少し左に。」

 

 カメラマンからの指示でココナはキサキに一歩寄る。

 

「それでは、バンザイ体操を始めましょう。私が手を叩くリズムに合わせて、両手をバンザイからおへその辺りへ往復させて下さい。その際、肘は曲げないよう、ピンと張ってくださいね。さらに、両手を下げると同時に片方の膝を上げて下ろした手にくっつけましょう。その際にも腰が曲がったりしてはダメです。いきますよー?」

 

 カメラマンは合図と共に、ゆっくりと手を叩く。

 キサキとココナは両手をピンと上げてバンザイし、プルプルとその姿勢を維持する。

 また手が叩かれて、キサキ達は手をゆっくり下げながら足を上げてへその辺りで膝と手をくっつける。

 ココナは少しぐらついていたが、キサキは体幹の強さが見てわかるほど美しく乱れない動作を見せた。

 カメラマンは手拍子をしながら解説を入れる。

 

「このバンザイ体操は、肋骨や肩甲骨周りの筋肉のストレッチになります。また、大腰筋やお腹周りの筋肉も使うので、ダイエットにも最適です。とくに運動不足な方には、テレビを見ながらご自宅でも出来るので大変オススメとなっております。」

 

 キサキもココナも、真剣な眼差しで体操を続ける。

 

「さらに、肩甲骨がしまって腰椎の前弯も出来るので、姿勢が良くなり身長も伸びるとされています。」

 

 説明の間、一分以上バンザイ体操をしたキサキ達は少し汗ばみ呼吸も大きくなっていた。見た目以上にエネルギーを使うらしい体操が終わると、キサキ達はそそくさと壁際に立て掛けられた身長計に駆け寄る。

 そして、ピンと背を伸ばしたキサキの頭にココナはゆっくりとメモリを当てる。

 

「ど、どうじゃ?」

「の、伸びてます! 0.1cm身長アップです!」

 

『マリナ、セリカ、イオリ、シズコOUT!』

 

「嘘つけぇ!」

「伸びるわけないでしょそんなすぐに!」

「だからなんの動画を見せられてるんだ私達は!」

 

 四人はヒィヒィ笑っていたが、ネルやコハルは真剣な眼差しで動画を見ている。

 

「動画もですけど、これを真剣に見てるネルさん達がチラッと視界に入ってダメでした……。」

「笑ってやるんじゃなかったのかよ。」

「いや、ごちゃごちゃ言ってねぇで早く席につけよ。動画が始まらねぇだろ。」

「変な詐欺とか通販に引っかからないか心配だな。」

 

 マリナ達のツッコミも虚しく、ネル達待望の動画は続く。

 

「の、伸びてます! 0.1cm身長アップです!」

 

 ココナはウキウキとしながらキサキと場所を変わる。

 今度はキサキがココナの身長を測ってやった。

 

「わ、私はどうですか?」

「……0.5cm。」

「!?」

「縮んでおる……。」

「……。」

 

 キサキの無慈悲な宣告にココナは口をあんぐり開けて固まってしまった。

『マリナ、セリカ、イオリ、シズコ、OUT!』

 

「か、かわいそう……!」

 

 四人は笑っていたが、ネルとコハルは画面の中のココナと同じような表情をして固まっている。

 

「だから見入りすぎなんですって!」

「ダメだぁ……私達は気合い入れて乗り越えるぞ!」

「そ、そうだな。」

 

 マリナ達は顔をゴシゴシと揉みしだき、深呼吸をして心を落ち着けようとする。

 

「縮んでおる……。」

「……。」

 

 茫然自失のココナの顔のアップが映り、四人は腹に目一杯の力を込めて耐え抜く。

 

「あー、ココナちゃんはちょっと体操の途中で腰が曲がったりしていたから、姿勢に負荷がかかったのかもしれないわね。」

「な、なるほど!」

「丁寧にやれば、妾のように伸びる筈じゃ。そして、それを毎日やれば36.5cmは身長が伸びる訳じゃな。」

「や、やったりましょう!」

 

 キサキとココナが拳を突き上げ意気込む背後で、カメラマンは「皆さんも是非試してみてくださいね。」と動画を締めた。

 なんとか後半を耐え切った四人は、深いため息を吐く。

 その横でネルがキサキに尋ねた。

 

「で、どうなんだ? この動画を撮ってから続けてんのか?」

「うむ。一ヵ月ほど続けて、0.2cm縮んだ所で辞めた。」

 

『マリナ、セリカ、イオリ、シズコ、コハル、ネル、OUT!』

 

「縮んだのかよ!」

「だからそんなの誤差でしょ!」

「よく一ヵ月も続けたな……!」

「あーもうせっかく動画は耐えたのにぃ!!」

 

 六人の絶叫と共に、時刻は十二時を回った。

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