俺とAL-1Sはモモイ達に先導され、ある場所に連れてこられた。
そこは学校、その中の一室。扉にはゲーム開発部と掛かれたプレートが掛かっている。
室内にはゲーム機やカセット、ゲームに関する資料が無造作に散らばっている。
「ここが私達、ゲーム開発部の部室だよ!」
「ほう」
「…(キョロキョロ)」
ゲーム開発部。
前世でやっていたブルーアーカイブのストーリーを思い出しながら、この状況を考える。
あの廃墟を出てここにAL-1S、アリスを連れ込み、この後彼女に何をさせるのか。
「改めて、自己紹介するね!私は才羽モモイ、シナリオ担当だよ!」
「お姉ちゃんの妹、才羽ミドリです。イラストレーターをやってます」
「そして、私はシャーレの先生だよ」
「なるほど。モモイとミドリ、そして先生か。では1つ聞きたい。どうしてあんな場所ににいた?まともに人の出入りがあるとは思えんが」
「それは…ってあぁぁぁぁぁ!?」
「…(モグモグ))」
応答を断ち切るように絶叫するモモイ。その視線の先には、興味津々な様子でゲーム機のコントローラーを口に押し込むAL-1Sの姿が。
「うわぁっ!?それ私のWeeリモコン!ぺってして、ぺって!」
「ぺっ」
ミドリは彼女からコントローラーを吐き出させ、俺はまたおかしな事をしでかさないように抱き上げる。
「あのね、私達ゲーム開発部は今、廃部の危機にあるんだ。部員が足りないのと、新しいゲームが作れてないってのとでね。それで昔、キヴォトスにいたっていう伝説のゲームクリエイターが残したゲームマニュアル、G.Bibleっていうのを探しに廃墟に来たんだ」
「そこで、あなた達と出会ったんです」
「なるほど。で、部員はお前達だけか?」
「ううん、もう一人いるんですけど・・・」
「そういえばユズったらどこなのかな?今日は全然会っていないや」
「ふむ」
ユズ、花岡ユズ。
前世の知識では、ゲーム開発部の部長を務めている生徒。極度の人見知りで、ロッカー等の閉所に閉じ籠る癖がある。
ここに入る時、ドアの横のロッカーから生体反応があった。恐らく、そこから俺達の様子を伺っているのだろう。今は彼女を引きずり出すべきでは無い。只でさえ怖がられている状態だ。更に警戒されては話にならない。
「それで、G.Bibleとやらは見つかったのか?」
「ううん・・・でも、あの廃墟にはきっとあると思うんだ!」
「…そうか、見つかると良いな。それで、ここで俺達は何をすれば良いんだ?その様子だと、足りない部員を補填したいと言う狙いも見えるが」
「えぇっ!?何でわかったの!?」
「えっ、お姉ちゃんそうだったの!?」
何で2人して別々に驚いてるんだ。
「仕方ないよミドリ、ユウカから言われた条件を達成しないと、ここが廃部になるんだよ?部員数もそうだし、何より成果も出さないと」
「そ、それはそうだけど」
「まぁ、話は分かった。この子はともかくとして、俺の外見は大人のそれだが、俺も部員に含まれるのか?」
「う~ん、それは……」
モモイが悩んでいる。それもそうだ。どこからどう見ても大の大人な俺が、高校生ですは通らんだろうからな。
とはいえ、だ。
「…少なくともモモイ、お前が彼女をここに置くと言うなら、しばらくお前達に任せる。先生、少し話がある。来てくれ」
「うん? 私で良ければ」
俺は先生を部室から連れ出す。そして人通りの無い場所を選び、単刀直入に聞いた。
「先生から見て、俺は生徒に見えるか?少なくとも、俺はこの外見であいつ等の同年代と言っても受け入れられないと思うが」
「…うーん、確かにそうだね。少なくとも私と同年代、もしくはもう少し上、かな?」
「だろうな」
やはり、俺は生徒では無理らしい。なら、俺が出来る事は…
「先生、一つ頼みがある」
「ん?」
「俺をゲーム開発部の顧問にするのはどうだ?それなら、恐らく外見年齢は問題無い筈だ」
「えっ!?」
先生は驚くが、これが一番現実的だろう。俺が教師か顧問としてこの学校にいれば、この容姿も問題にはならない筈だ。
「君は、それで良いの?」
「問題ない、俺は彼女を、AL-1Sを守るために作られた存在だ。あいつ等が彼女をここに置いてくれるのであれば、顧問になる事で一番近くで何の疑問も抱かれずに世話が出来る。
それに何より、モモイはAL-1Sに居場所を用意してくれるつもりだ。ならば、何か恩に報いるべきだと思う。
そもそも、先生も立場的に、現状の問題が解決すれば、他の生徒の下へと向かうだろう?」
「…うん、そうだね。あくまでも私は一時的な顧問でしか無い。なら、問題が解決したら、彼女達の事を任せようかな」
先生は真っ直ぐ俺を見つめる。その表情を解析すれば、抱いている感情は、俺への信頼。君がそこまで言うなら、責任を果たして欲しい、と。
「ああ、任されよう」
俺はそう答え、部室へと戻る。部室の扉を開けて、眼に入った光景は・・・
「エラー発生!エラー発生!」
「うーん、やっぱりここ入れたのまずかったかな…」
「だからあれ程こんなの入れないでって言ったでしょお姉ちゃん!」
ゲームのコントローラーを手に、頭から湯気を噴きショートしているAL-1S。その後ろには喧しく騒ぐモモイとミドリがいた。
「…」
「うわぁ…」
先生はそのあまりの惨状に若干引き、俺は今しがた自分で言ったことを後悔しかけた。
いや、知ってはいた。シナリオとして、こうなる事は知っていた。
モモイ達は自分達の作ったクソゲーをやらせて、アリスに教育を施している。知識として分かってはいたが、まさかここまで悲惨な状態になるとは。
「あっ先生、マホロビ!今ね、アリスに私達のゲームをやらせてるんだ!言葉遣いとか覚えられるかなって!」
「アリス?」
そこへ、ミドリが説明する。
「はい、最初はAL-1Sちゃんの事を、お姉ちゃんが間違えてそう呼んじゃって。でもそっちの方が名前っぽいし、本人もそれで良さそうだったので、私もアリスちゃんと呼ぶことにしてるんです」
「ふむ、そうか。ミドリ、ローマ数字表記では1はIだ。モモイのネーミングはそこまで悪くない」
「ほら、だから言ったじゃんミドリ!お父さんなマホロビもこう言ってくれてるんだから良いんだよ!」
「そんな事よりモモイ。アリスにゲームで言葉遣いを教えてるのは理解したが、何故アリスはエラーを起こしている?」
「えーっと、これはその・・・」
「…マホロビさんも、隣で見てみますか?」
「ふむ」
ミドリに勧められて、アリスの隣に座りプレイしてるゲームを見る事にした。そうして、何時間も経過した頃。
「こ、ろ、し、て…」
「はぁ…はぁ…っ!」
トゥルーエンドを迎えた頃には、プレイしていたアリスは痙攣し、見ていただけの俺の頭にも激痛とアラートが鳴りっぱなしの状態となっていた。
アリスはそれ以上だろうが、このゲーム。テイルズ・サガ・クロニクル。言葉を飾らずに言えば、あまりにも理不尽過ぎた。
「凄いよ2人とも!開発者2人も着いてるとはいえ、3時間でトゥルーエンディングだよ!」
「そ、それもそうだけど…元から言葉が流暢なマホロビさんはともかく、ゲームをすればするほど、アリスちゃんの言葉のパターンが多彩になってきてる…!」
「…あぁ」
ミドリの言葉に俺は頷きながらも、アリスを見る。彼女は涙目になりながら頭をグワングワンと揺らしていた。あまりにもクソゲー過ぎて、何度もエラーが発生してショートしてしまったんだ。かく言う俺も同じ。アリスの隣で見ていただけなのに、理不尽かつ理解不能な展開が立て続けに押し寄せ、演算処理システムがエラーを起こして、警報が鳴り止む事が無かった。
大体何だあれは。
チュートリアルからプレイヤーを騙し、敵が明らかに外見にそぐわぬ武装で此方を瞬殺。誤字誤植も多過ぎる上に、纏まりと言う概念を振り切りスパゲティコードもかくやと言う支離滅裂さを内包した設定の数々。
正気で作れるモノでは無い。そう結論付けざるを得ない。
しばらくすると、アリスはハッと我に返ったように目を開いた。
「勇者よ、汝が望むのであれば、私はそれを肯定しよう」
「た、確かにそうだけど」
「ゲームの言葉をそのまま覚えちゃったから、まだちょっと不自然なところはあるかもだけど、言葉を羅列してた時よりも大分良くなったと思う!
…と、所で・・・こう言う事を、面と向かって聞くのは結構緊張するけど・・・」
「「私達のゲーム、どうだった?面白かった?」」
モモイとミドリは、俺達に期待と不安の入り混じった目を向けてくる。
そんな二人に、まず俺が口を開いた。
「俺は見ていただけだが、このゲームはあまりにも悲惨だ。理不尽、理解不能、意味不明。ロジックが通るモノを見つける方が大変だった。
行動、選択、発言。それらが内包する意味を履き違えていると思われる部分も無数にある。
寧ろ、人の悪意を如何に掻き立てられるかをテーマとして作ったと言われた方が腑に落ちる程だ」
「うぐぅっ!?」
俺の言葉に、モモイは目の端に涙を浮かべる。だが事実だ。これは酷いとしか言いようが無い。
この手のゲームに慣れていない俺でもそう思うのだ。子供だったら尚更だろう。
「…だが、無意味では無かっただろう。苛つきはするが、ある意味退屈はしないゲームだ。
さっきの理不尽な展開も、その場その場で面白そうと思ったモノを詰め込み過ぎた結果だろう」
「「えっ」」
モモイとミドリが、驚いた表情を見せる。予想していなかった答えに、呆気に取られていた。
「あぁ、これは言っておこう。
俺達がロジック崩壊を引き起こしそうになるゲームだ。ここにはさぞ、機械をバグらせるクラッカーがいるらしい」
「そんなのいないよ!?」
「それで、アリスちゃんは?」
ミドリは今度はアリスに振る。
「──説明不可」
「ええっ、何で!?」
「類似表現を検索、ロード中…」
彼女は水晶のような瞳を閉じて、思案する。
「「(ごくり)」」
「…」
俺達が見守る中、10秒と少しの自己分析を終えて、再び口を開いた。
「…面白さ、それは明確に存在。
ゲームをプレイをすればするほど、まるで別の世界を旅をしているような気分…
出来れば、もう一度…」
と、アリスは一度言葉を区切る。
それは歯切れの悪さを感じるというか、まるで感情を押し留めてるような、そんな様子だった。
「?」
「……もう一度」
そんな言葉を紡いで、しばらくすると・・・
「…(ポロッ)」
「ア、アリス?」
「えぇっ!?」
僅かながら、アリスの目から、涙が溢れる。
「ア、アリスちゃん!?どうして泣いてるの!?」
「決まってるじゃん!それだけ私達のゲームが感動的だったんだよ!」
「そ、そうかな…?このゲーム、ギャグ寄りのRPGのはずなんだけど」
そうだとしても。記憶がない真っさらな彼女からすれば、何もかもが新鮮なものなのだろう。
それにモモイの予想も、あながち間違ってはいないかもしれない。彼女の表情からは、少なくとも嫌悪等の悪意は一切見られない。
「いや〜、これの大元になったゲーム作ったのユズだけど、今の感想を聞かせたかったなぁ〜」
そこへ、部室の隅のロッカーが勝手に開く。
その中から、赤毛で前髪を上げた少女がオドオドした様子で出て来た。
「あ、ありがとう…楽しかったって…またやりたいって…泣いてくれて…」
「ユズ、そこにいたの!?いつから!?」
「み、皆がさっき、ここに来た時、から」
「最初からじゃん!?」
「君がユズか。そこからずっと、俺達の様子を伺っていたな。気付いてはいた」
「えっ、マホロビわかってて黙ってたの!?」
「俺には高精度のセンサーが搭載されている。ロッカーのスキャン程度は簡単だ。だが、いきなり探りを入れては警戒される。敢えて黙っていた」
「あ~、確かに…」
俺の話に、モモイが納得する。
「えと、その、2人とも、さっきはありがとう…
ゲーム、楽しかったって、またやりたいって、そう言ってくれたのが、とても嬉しかったの…」
ユズは、アリス見つめながら言う。
「あぁ、色々と酷かったのは事実だが、それでも欠片程度の面白さ、その要素はあった。改良すれば、もっと面白くなりそうだ」
「そ、そうでしょうか……?」
俺の言葉に、彼女は少し安堵している様子だった。
「あっ、そう言えばさ!先生とマホロビ、一旦外に出てたけど、何の話してたの?」
「あぁ、それか」
モモイの言葉に俺は思い出す。
「えぇとそれについては…」
「先生、ここは俺が説明する」
こほんと、軽く咳払いをして口を開いた。
「今後についてだ。俺とアリスはここに来たばかりで、他に行く宛てが無い。お前達はアリスをここの部員にしたい。そして俺
も、アリスを守る為に、出来るだけ側にいたいと考えている。
それに、先生はここには一時的にしかいられない。
だから、俺はこの部活専門の顧問になろうと考えているのだ」
「えっ!?マホロビがここの顧問に!?」
「あぁ。だが、ゲーム作りはお前達には到底敵わないだろう。
基本的にゲーム作りはそちらに任せ、俺はアリスを含め、お前達がちゃんと活動出来るようにサポートをしようと思う。何か困った事があれば、俺に相談してくれ」
「マホロビさん……」
ミドリが、少し驚いた様子で俺を見る。
「先生、俺はこの部活の顧問として、部員に迷惑をかけないように尽力するつもりだ。
問題が解決して、ここからいなくなっても安心していられるようにな」
「……マホロビ、先生」
モモイは俺たちを交互に見つめる。
「私も問題解決するまでいるから、しばらくは2人で顧問するからね」
「そういうことだ」
「……うん、ありがとう。2人とも」
モモイは俺たちに笑顔を向けた。
すると、アリスが満面の笑みを浮かべて両手を振り上げる。
「パンパカパーン!マホロビがパーティーに加わりました!」
「ア、アリス?」
「これで、アリスのパーティーも6人になりました!たくさん冒険出来ます!楽しみです!」
アリスのはしゃぎようを見ると、やはり彼女はモモイ達と一緒にいた方が嬉しそうだな。
それに、彼女の笑顔を見てると。
「……ふっ」
俺は思わず笑みが溢れる。俺としても、存外コイツらを気に入っているらしい。