これが戦艦レ級! 悪魔の力よ!! 作:ウィルキンソンタンサン
主人公は先生相手にチキンレース、私は公式相手にチキンレース。
「さーて、補給も終わったな!」
「何やり切ったみたいな顔してんだ問題児が。お前やったの最後だけだろが。」
「あだっ」
クリーニングが終わり、再び白いジャケットを装備した私が最後に船に乗って、遂にオデュッセイア海洋高等学校第五船団の出航準備が整った。
呆れた顔で私の頭をはたいた船長が操舵手に合図を出して操舵室に引っ込み、汽笛と共に錨が上がる。
「いつにも増して風が穏やかだ……」
2ノットと言ったところか?風速にして4km/h程。
市街なら少し強いが、海上ならば全くもって弱い弱い!
ゆっくりと岸から離れていき、徐々に陣形が成されていく。見送りに港湾へ地元民や業者が集まっており、それに手を振りながらこれからどうするかを考える。
なんだろうね、非日常が欲しいとは言ったけどさ。非日常と暮らしたいだなんて一言も言ってないんだよね。
「そうは思わないかい? れーちゃんよ。」
『誰がれーちャンダ。お前が大人しく身体を受けワタセバこんなメンドウな事には……』
「16年ちょっとで人生を投げ出す気にはなれないね〜」
とは言えど、私が気を抜けばいつ乗っ取られてもおかしくは無いと言うのが現状だ。
無限に水が湧く釜に蓋をして押さえ付けているような、そんな感覚。この押さえつける力を弱めればレ級と言う名の水が溢れ出て、私は乗っ取られこの前みたいになってしまう。
シンプルに怖い。どどどどどーすんの?どーすんの!?
どうしようもありません、諦めてください。一生一緒エンゲージリングです。
ぐんぐん遠ざかる港湾を眺めるのを止め、船内へ入るべく振り返って歩き出す。久しぶりの揺れない地面ももう御然らば。これからまた半年程波に揺られる船上学園生活。
これがオデュッセイア……!華の女子高生とは思えぬ……!
「レーキ! 銃の修繕終わったぜぃ。ったく、どんな使い方すればあんなぶっ壊れ方すんだよぉ。」
船内に入った瞬間、通路を歩いていたメカニックの友人が私を見つけて駆け寄り、銃を手渡す。
街中を探して交番で見つけた私の銃は見事に破損していた為に、修理を頼んでいたのだ。
「おー、ありがと──」
と、感謝の意を口にした時。その言葉を遮るかのようにけたたましい警報が船内に響く。
「んお、なんだなんだ?」
「この警報は……敵襲だね。うっしゃ、腕が鳴るねぇ!」
「あー待ちな、こっちはオマケだぜぃ」
そう言って差し出されたのは……マガジン?
だがただのマガジンではなく、なんか2つのマガジンが連結してる。それが2つ。でも弾倉は4つ。
「マガジンカプラーって奴だよ。頼むぜ、第五船団の切込隊長。」
「……へへ、まかせろい!」
弾倉2つ分の重みがひとつにまとまったマガジンカプラーを腰に装着。私の愛銃の方は───弾倉だいじょーぶ、チャンバーは……弾が入ってなかったのでコッキング。
「んじゃ行ってくるわ。お前はボイラーにでも引きこもってなっ!」
「メカニック舐めんなよボケ。」
「いって!あんたスパナは無しでしょうが!」
「ったく、ほら。早く行け!」
呆れ顔で手渡されたイヤホン型の無線機を耳に着けて回れ右で船外へ飛び出し、外の奴に現状を訊ねる。
「ういー、状況は?」
「レーキちゃんか。何てこたねぇ、ただの海賊だ! ……んだけど、ちっとデカイな。きらめきが対処してるが距離が近過ぎて砲が撃てねぇらしい、向かってやってくれ!」
「距離が近いだァ!?なんだって接近許したんだマヌケ!」
きらめき。今私がいる空母を兼ねた本船を中心とした船団の最外端に位置する、イージス艦の内の1隻の名前だ。
「どうやら速いらしい。イージス艦じゃあ追えないくらい!んじゃ任せたぜ、戦闘要員!」
この第五船団において私の役割は海上戦闘要員。
そんな大した奴じゃ無いんだけれどね。でもそれなりに強い自信がある。海上において私の名を知らない人間は……多分そんなにいない!
「おっけ、任せとき!」
端まで寄って床を蹴り、落下防止用の手すりを飛び越えて縁を走る。
よくよく見れば、やはりイージス艦が攻撃を受けてグワングワン揺れているではないか。野郎、私達の大事な子になんて事を。
『……マテ、お前いったいナニヲしようと……っ!?』
縁を思い切り蹴って海を飛び渡り、他の艦へ飛び移る。
「──ッッ届くんだなこれがァ!!」
半ば転がるように甲板へIN。こいつは戦艦"なりた"、真っ黒に光る連装砲がチャームポイント。
「どわぁビックリした!レーキか!」
「ゴメン揺らした!」
「ざけんなこちとら警戒態勢だぞ!!」
「はいはいごめんなさいっ!」
飛び移った衝撃で戦艦が揺れ、それに驚いた乗組員が垂らす文句を軽く聞き流す。
『戦艦ネェ……ワタシもだけれド』
「あんたみたいなアホ性能を携えた戦艦なんざ無いっての!!」
お前資料見たぞコノヤロウ。副砲と主砲はいいとして、なんでお前は雷撃戦も航空戦も出来るんだ。そんな戦艦あってたまるか。
段差を飛び越え一際大きな艦砲へ取り付き、砲塔を走る。
「ん……? あっ、レーキ!!おまっ何してんだ!歪んだらどうする!」
「うるせー!しらねー!!」
先端まで走って、赤色がトレードマークの配管工のおっさんもニッコリするくらいの大ジャンプで、更に他の艦へ。
「どっこいしょー!」
『……ココハ?』
「重巡"はるかぜ"!さーてあともうちょっと、よっと!」
再び隣の艦へ飛び移る。
この子は軽巡"はなみ"。もっかい大ジャンプできらめきへ!
もう既に足が痛いけど1回くらいなら跳べる!行ける!
「ふんっ!!」
思い切り蹴ってジャンプ。やっぱりなんだけどさ、これ船団ってより艦隊だよねぇ?ボブは訝しんだ。
そんなこんなで何とかきらめきに届き、着地───
「んあぁ!アシクビヲクジキマシター!!」
『……。』
失敗!勢い余って捻ってしまった。
『お、レーキ!いいとこに来たわ、アイツらやっちゃって……何してんの?』
きらめきの艦長が倒れ伏してる私に気づいたのか無線で声をかける。
「まぁ任せときなぁ、旦那」
『旦那じゃないし足引きずってるけど』
「んじゃ行ってくるぜ」
『顔引き攣ってるけど』
「うるせぇ!黙って見てろ!!」
『息上がってるけど。昔っから体力無いわよね』
「(乗組員時代の黒歴史)!!!!」
『ウグッ……』
『か、艦長ーー!!?!?』
馬鹿め。せっかく格好良く決めようとしていたのに、グダグダ言うからこうなるんだ。
爆音と共にグラリと船体が傾く。船の反対側へ向かうと、なんと艦体に取り付くようにホバークラフトが攻撃を仕掛けているではないか。
しかも1隻だけでは無い。少し離れでチクチク攻撃しているのを含めれば、3隻。視認できる乗組員の頭は赤だったり黒だったり、まーるい被り物。
「ヘルメット団か!にゃろう、第五船団に喧嘩売るたァ大したもんだ!……いや本当にね!?」
「───黒髪に白いジャケット、オデュッセイアのレイキだ!お前ら、ホバークラフトに近付けるな!!」
「うわー!出た出た出た!!!主砲斉射ーー!!!」
「出たって私はオバケか!あっぶねぇ!?」
飛んでくる砲弾がきらめきに着弾する前に蹴りで弾く。
だがやはりここに来るまでで消耗しているが故に、幾つか漏らしてしまった。しょうがないね。
『バカヤロー!!ちゃんと護りなさいよ問題児が!ダメージコントロール急げー!!』
「うっさ!あーあ、全部私のせいかこの無能艦め!」
『殺す殺す殺す殺す殺す』
『艦長黙って!レーキ、一先ずあのホバークラフトを鎮圧して欲しい!そこから先は何とかする!』
「そーだったね、了解〜」
ぶちりと無線を切る。
さっさと沈めて帰りたいところなんだけれども、そうもいかない。私達は鬼では無いのだ、このホバークラフトを全てぶちのめしてしまえば、彼女達ヘルメット団は帰る場所が無くなってしまう。
……いや、それは私達も同じではあるけれど。
彼女達は私達の様に後ろ盾が無い。奴らも好き好んで海賊になった訳では無いだろうし……まぁ、ね?
適当にあしらってお帰り願いたいのだ。
『結局ジヒか……くだらナイ……』
「やかましいなレーちゃんは。」
「次弾装填、急げー!」
「──お、やっと弾切れかい? んじゃあいっちょ派手に行こうかい」
呼吸を整え、軽くジャンプしてきらめきに取り付いているホバークラフトに飛び乗る。
「おっじゃましまーすっ!」
ご挨拶に一発。1人クリア!
「いやぁぁ来たァァァ!!!」
「狼狽えるな!数ではこっちが有利なんだ!」
一斉に銃口を向けられ、発砲される。
それを避けたり、避けられ無かったり。てか普通に息上がってる。
「オデュッセイア舐めんなよクソだらァ!!」
弾が切れたマガジンを銃身を振って捨て、問題の2連マガジンをリロード……いや重ッ!? 2つ分のマガジンの重量がある事も相まってかなり照準がつけにくい。ま、大した問題では無い。
ホバークラフトの上を無尽に飛び回り、うっかり沈めないよう細心の注意を払いながらヘルメット団を薙ぎ倒す。
そのまま船内へ転がり込み、操舵手をストックで殴って意識を奪う。
「こちらレイキ、状況終了。取り付いてたホバークラフトを鎮圧〜」
『了解、よくやった!では残り2隻は私らに────』
瞬間、ホバークラフトが爆音と共に激しく揺れる。慌てて外に出ると、なんときらめきが中破しているではないか。
「無事か? 応答願う!」
『…………』
無線からはホワイトノイズの返答。攻撃したのは言うまでもなく残った2隻のホバークラフトだ。
他の艦が警告砲を撃ってはいるが、引く気配は無い。奴ら私達の遠慮を知ってか調子に乗ってやがる。
私のARは当然ながら射程範囲外、跳ぼうにももう足がパンパンで無理。何をこれしきでとか言うな。
大体艦間距離が輪形陣でkm単位で離れてるってのにそれを連続で跳んで移動したって事は普通に褒めて欲しい。
「あー、こりゃやばいな。」
私達はキヴォトス人、あんなホバークラフト如きの砲では死なない。しかし沈んだ時は別だ。
季節は春、だが海は依然として冷たいまま。他のイージス艦も援護してはいるが、乗組員全員拾うには時間がかかるし低体温症は免れない。
沈む船に巻き込まれて水面に出られなくなったらもう最悪。だからこそ、ただ見ている訳にはいかない。
あとシンプルに、ヘルメット団如きに我らオデュッセイアが誇るイージス艦が沈められたとか屈辱そのもの。
そんな事が起きた暁には外交とか政治ごっことか全部かなぐり捨てて、オデュッセイア全戦力を持って地上海上自治区団体区別無く全てのヘルメット団を滅ぼさんとしかねない。
あと私の役割的に責任問題になりそうなんだよなぁ……。責任、私の嫌いな言葉です。
「レーちゃんや。」
『……ナンダ』
「あんたならこっからあのホバークラフトまで、届く?」
『当たりマエにキマッテる。』
「んじゃさ」
『コトワル』
「……だと思ったさ。」
まだ切れそうな手札はこの通り。だがご安心を、我に妙案有り。
少し前、レ級を抑えている感覚を釜に蓋をしていると表現した。そこで、だ!
この蓋を少しだけ開けたら、
どうだろうか。危険だろうか。
ばっきゃろ、船乗りは危険に飛び込んでナンボよ。
『上手くいくとオモウカ?』
「……どうかな。私もあんたも、乗っ取りなんて初めてでしょ?やって見なきゃ分かんないねぇ」
『──キヒッ、やってミナ。』
さーて、集中力が勝負だ。
ホバークラフトの甲板に立ち、ジャケットのフードを被って鋭く息を吐く。
イメージ。
釜の蓋を抑える力を、ほんの少しだけ緩めるイメージ───!
「ゔ……あ、ぎ、が…ッ!」
押し寄せる力の濁流。それに飲み込まれまいと二本足を踏み締める。
ミシミシと体が変質していく。肌は青白く、ジャケットは真っ黒に。髪色が白くなっていくのは前髪で分かる。
『き、シシシ……!』
自我を刈り取られそうになるのを必死で防御。
……うし、行けそうな感じ───ッ!?
そこで集中を途切れさせるような爆音。
ホバークラフトが再び砲撃を仕掛け、きらめきに着弾した音だった。
「……あ、やばッッ!」
それに気を取られ、抑える力が瞬間に弱まり力が噴き出した。マズいと思ったのも束の間、その強大な力の濁流に飲み込まれる。
『キキキ……油断しタナ?
緩やかに変化していた身体は一気に変わる。身長は縮み、目の色はブラウンから紫に。スカートを捲りあげるように悍ましい尾が生えてきた。
「あのウザッタラしいホバークラフトとやらから沈めヨウカ!」
青空の元、狂気の笑顔を浮かべ手を広げる。
『──ッ!……き……』
「五月蝿いな、ミズヲ差すナ。」
耳の無線を外して捨て、脚に力を篭めて跳ぶ。その力の勢いは、ホバークラフトが転覆寸前まで傾く程。
何kmをも距離を一飛びで越える途中にレ級が考えるのは、ホバークラフト2隻を潰した後、どのようにしてあの第五船団と言う名の艦隊を潰すかという事。
だが、その考えを上塗りする様に何かが思考を覆う。
「……痛ッ」
刺すような足の痛みがレ級を襲う。既に数回の跳躍と戦闘により限界を迎えていた足を使ったが故。更に言えば、レ級はレイキの身体の使い方を全くと言っていい程心得ていなかった事による物だ。
だからこそ、また彼女に"隙"が生まれた。
『───……………………よぉ。』
「お、前──……!」
『おいおいおい!よーやっと、
同時に、目の色が元に戻った。
「グッ!?こいつ…クソ、乗っ取れナイ……!』
「いやいやご苦労だったねアッシーちゃん!ちょっと乱暴だったかな!?」
尻尾は消え、ジャケット、肌、髪は軒並み元に戻る。
そして目標のホバークラフトに着地する時には────
「──御機嫌よう!私達が撃ってこないからって遠くからちまちまちまちま撃ってきてくれやがったヘルメット団の諸君!」
ホバークラフトが傾く程の勢いで船首に取り付いてきた、白いジャンパーを着た彼女は、そうヘルメット団達に言う。
それに対応する反応は千差万別。驚く者、戦く者、呆然とする者、絶望する者、逃げようとする者。
……なぜ、彼女はここまでオーバーな反応をされるのか?
碌に仕事をしない癖に、どうして多目に見られているのか?
いったい何故、皆から頼りにされているのか?
その理由は、彼女の肩書きにある。
第五船団所属、クソ度胸の荒くれ者が集うオデュッセイア海洋高等学校全船団において
彼女は正しく、海上の化け物であった。
輪形陣時の艦間距離──約1.5〜3海里(約2.8〜5.5km)
非日常を求めてる奴が相手からしたら1番の非日常ってやつ。
跳躍力だけならキヴォトスナンバーワン……やってます