聖域 オリンピア
その都市は、『火』に包まれていた。燃えているわけではない。
『火』がその都市を護っているのだ。護って、いたのだ。
どういうわけか『火』は穢れ始め、モンスターを呼び寄せる様になった。
このままでは瘴気が溢れて下界に満ち、
『火』は呪いとして下界を滅ぼすだろう。
これが、神々の負債。
下界に『神の力』で干渉した代償。
火を司る神の献身によってのみ、この『火』は浄化されるだろう。
「うおおおおおお!燃えろ燃えろぉ!」
そんな都市に、なんかいた。
それは自ら、穢れた『火』の中へ飛び込み、叫んでいる。
「こんなぬるい火じゃあ俺は焼けないぞ!もっと燃えろ!」
はっきりいってバカである。
『火』は『デミ・アルカナム』とも言える、反則ギリギリの『神の力』
呪いに変質しているとはいえ天上の神焔である。
「神の炎も大したことないな!俺の筋肉にひれ伏せ!」
そんな理屈も、この筋肉には通じない。
筋肉が『発火』した。『火』によるものではない。
ただ単純に体温を上げる様に、『発火』したのだ。
発火した筋肉は穢れた『火』に呼応し、負けじと温度を上げていく。
そのまま筋肉と『火』は合わさり、そして··········
「感じるぜ、『流れ』を!」
筋肉に『火』が流れ込む。
『火』は単なる炎ではなく、『呪い』も筋肉に流れ込むが──
「清濁合わせ飲んでこその『英雄』だ!」
『呪い』が流れ込んだ筋肉も、単なる筋肉ではない。
年齢を重ねて、成長をしている。『蛇』との戦いから二年。
アルケイデスは9歳となり、身長は180c、体重は100kgほどになった。
まさに筋肉の塊であり、下界最高の筋肉はその力を日々高めている。
二年前に物理法則を無視した筋肉は、ついに神の力さえ超えてみせた。
「ふー。結構熱かったな」
「いや、熱いとかそういう話じゃないんじゃが」
「なんだよ。あんたが『火』について教えたからなんとかしてやったんだろうが。フン!」
あ、なんか出た。
「うおおおい!?儂が『火』に当たったら送還されるんじゃが!?」
「しょうがないだろ。まだ慣れてないんだから」
でもこれでいつでも火が使えるのか。便利だな。
「よし、帰るぞ」
「待て!」
··········?なんだこいつ。『神の恩恵』とは違う。『火』の加護か?
「エピメテウス··········」
ジジイが憐れむように名を呼ぶ。
確かその名は、3000年ほど前の英雄の名前だ。
数多の国や人を救ったが、黒いモンスターに負け、仲間達を失ったという、神が下界に降りる前の英雄。
『火』の加護で生き延びていたのか。
「この下界を救うのは、俺だ!」
「無理だろ。あんたは『最後の英雄』にはなれない」
流石に無理がある。
「な、なんだと!どこが無理なんだ!」
エピメテウスは怒りを露わにし、問い詰めてくるが──
「だってあんた、『最初の英雄』じゃん」
まあ最初の英雄が最後の英雄でした、というのは神々が好きそうなことではあるが。
「は··········?」
何をいってるのかわからないという顔をしているので教えてやるか。
「あんた『アルゴノゥト』より古い英雄なんだろ?じゃあ『最初の英雄』だ。この下界を救うのは『最後の英雄』だ。あんたは後輩を見守ってればいいんだよ」
「··········だとしても!俺が下界を救えない理由ではない!」
「言わなきゃわかんないのかよバカが」
「何ィ!?」
これは、言いたくなかったんだが。
「あんた、自分の力を信じてないだろ。自分が他の誰かを助けられると、自信を持てないだろ。
そんなんじゃ駄目だ。『英雄』ってのはな、誰よりも自信過剰で、誰よりも強くて、誰よりも、自分を信じてる奴のことだ。」
俺の聞いた英雄譚の彼ならば、まさに『英雄』だっただろう。
ただ自分を信じるのではなく、仲間と共に戦っていた彼ならば俺とは違う形の『英雄』だっただろう。しかし──
「仲間を失ったあんたは、同時に『英雄』でなくなった。それは周りからの評判のせいではなく、あんたが仲間と共にある『英雄』だったからだ」
「俺のように、自らの筋肉のみを頼りにしていたら、あんたはまだ『英雄』だっただろう。」
エピメテウスは、かつて『英雄』だった男は──
「だからなんだというのだ!だからどうしろというのだ!奴らは、俺の仲間を愚弄した!墓すら、建てることを許さなかった!俺は、奴らへの復讐のために、下界を──!」
「どうでもいいだろ民なんて。」
「────」
それは、英雄を否定するような──
「民衆なんて好き勝手に『助けてくれ』とか、『ああしろ、こうしろ』と言ってきやがるぞ。
いちいち聞いてたらきりがねえ。あいつら自分の怠慢を棚に上げて他人の失敗を叩くんだぞ?それも死ぬほど頑張ってる他人を、だ。
あんたも『英雄』ならば無視するべきだった。黙らせるべきだった。『うるせえ!黙ってろ!怠けているお前らが囀るな!』とでも言うべきだった。あんたは他でもないあんたの仲間のために、声を上げるべきだった」
「あんたは真に大切なものを、守るべきだった。他の誰かを捨てても」
「あんたと、あんたの仲間のために」
彼は、見ていた。
オラリオでの『流れ』の鍛錬の最中。
『正義』を為さんとした者に、石を投げた者がいたことを。
彼は、一生忘れないだろう。
裏話/あの時シルが声を上げなければマジで殺すところだった。
彼は怠慢が許せない。