ベルテーンと呼ばれる小さな国があった。
そこは生命の泉を擁する霧の国と呼ばれ、ポーションのような効力を持つ水が溢れる土地だった。
しかし、ある一匹のモンスターによって環境が激変。毒のヘドロと瘴気が漂う、過酷な国となってしまった。
毒は『耐異常』のアビリティを持ってしても防ぎきれない。
『沼の王』と呼ばれるモンスターに生贄として特殊な魔法を発現させた巫女を捧げることで辛うじて滅びを回避してきたこの地は、間違いなく滅びに向かっていた。
『沼の王』に対抗しようとしたものはいた。
しかし、『沼の王』は『生命の泉』により斬っても焼いてもすぐ治る回復力を持っていた。
『沼の王』の核は『生命の泉』の源泉にある。
いかなるものも、地中深くにあるこの核を壊さなければ、『沼の王』は殺せない。
「ウオオオオオオオオォォォォォォ!」
突如として現れた筋肉は沼を殴る。
あまりの衝撃に沼は消し飛び、『生命の泉』の『源泉』が剥き出しになる。そして────
「とったどぉぉぉぉぉ!!」
『沼の王』の核を、握り締めていた。
アルケイデスの一日は筋トレから始まる──
わけではない。
まずはゆっくりとストレッチ。寝ていて使わなかった筋肉を起こすための、『儀式』。
頭、首、肩。両腕、胸、背中、腹、両脚に至る全ての筋肉を起こす。
ストレッチが終わったら、いよいよ筋トレである。
彼の筋肉はもはや人の域を超えている。山ほどの重量でも無ければ、筋肉の負荷にはならない。
故に──
「フン!フン!」
彼は彼自身を殴ることで、鍛えている。
より疾く、より堅く、より強く。叩いて鍛える。それはさながら鍛冶のようで。
「アル、おはよう。ご飯だよ」
「お、もうそんな時間か。いつもありがとな、ベル」
「『福音』」
「ぐわー!」
家族みんなで朝食を食べ、
「うーん、この野菜はまだまだだな。お、こっちは結構いいな」
本業である農業を行う。彼の作る作物は良い出来で、かなり好評なのだ。
「美味しい!やっぱりアルはすごいね!」
彼自身、料理は得意である。普通に昼食を作るくらいはできるのだ。
「でね!この英雄はね!」
夜は、ベルと一緒に寝る。アルフィアもベルと寝ている。
「儂も混ぜてくれー!」
「『福音』」
「おやすみ、ベル」
「うん。おや、すみ」
「はい。なんかいい感じの水」
「····お前は、本当に雑だな。」
「結果が伴ってて手段が善ならなんでもいいだろ。ジジイも『幸せならオッケー』とか言ってたし。」
「最近本当にあの助平爺に似てきたなお前」
「やめてくれ」
とんでもない不名誉である。あんなものと一緒にされたくない。
「ヴェーラとかいう神が言うには、『怪我や毒、病を癒す神の水』らしい。実際効果はあるぞ。その水飲んだモンスターは俺の一撃に耐えたしな」
「お前の、一撃に?」
「まあ耐えたって言うか、死ななかった?当たってなかったのか?核となる部分が地中に埋まってたから大丈夫だったのかも」
まあ事実はどうあれ『沼の王』は一撃では倒せなかった。
「俺もまだまだだな」
「····まだ上を目指すのか」
「当たり前だろ。俺まだ10歳だぞ。肉体の全盛期はまだまだ先だ」
フッ、と、火をつける。
「やっぱ便利だなこれ」
一年経って完璧に『火』を制御できるようになった。ただ火をつけるだけでなく、毒や病、呪いの浄化、モンスターを寄せ付けないなど、便利な能力である。
「なぜ、私を気にする。お前はベルのことが好きなのだろう?」
「答え言ってんじゃん。あんたがベルの母親だからだよ」
急にどうしたのだろうか。
「というか、俺があんたを助けるのはこれが初めてじゃないだろ。今更じゃね?」
「ああ、ああ。そう、だったな。お前は、そうだった。」