「初めまして、女神アルテミス様。私はアルケイデスと申します。あなた様の狩りの技術を教えていただきたく御身の前に姿を晒しました。」
ゼウスに似た彼は、跪いてそう言った。
アルテミス・ファミリアはオラリオの外で活動するファミリアで、野生に解き放たれているモンスターを狩ることを中心に活動している。
主神のアルテミスが『貞淑』の女神なので、男女の交際を固く禁じているファミリアであり、男子禁制である。
その日は、いつも通りの狩りだった。いつも通り罠を仕掛け、追い込み、狩る。そのはずだった。
モンスターたちは、一斉にどこかへ逃げてしまった。
明らかに異常な行動に、原因を探ろうとして──
「初めまして、女神アルテミス様。私はアルケイデスと申します。あなた様の狩りの技術を教えていただきたく御身の前に姿を晒しました。」
これだ!この男がモンスターたちが逃げ出した原因だ!
滲み出るこの『圧』は隠しきれていない。
女は、問う。
「なぜ、狩りの技術を求めるのですか?あなたほどの力があれば、大抵のものには勝てるでしょう」
男が、口を開く。
「私は、生まれつき力が強く、それ故に人に馴染めない男でした。それも当然の話です。
私は昔から自らの力を制御出来ませんでした。見かねた村の老人が力の使い方を教えるまで、私は《獣》でした。ただ力を振るうだけの、醜い獣。
そんな私を人にしてくれた恩人のためも、二度と《獣》になるわけにはいかないのです」
無言。男も、女も、何も言わない。
男は、言うべきことを終えたが故に。
女は、男の願いを叶えて良いか決めるために。
(今の言葉に嘘はなかった。本当にただ技術を求めている?)
「これから幾つか質問をします。
包み隠さず、真実を述べなさい。
あなたは、私達に危害を加えますか?」
「いいえ。我が恩人に誓って、あり得ません」
「あなたは、私達に危険を齎しますか?」
「いいえ。我が師に誓って、あり得ません」
「あなたは、私達に、その、」
女は言い淀む。
「恋愛的な目的で、近づいてきましたか?」
男は、真っ直ぐ
「いいえ。我が血と力に誓って、あり得ません」
アルケイデスは、誠実な青年だった。
「ではまず、狩りの基本を教えます。狩りの基本は『追う側』です。
あくまでこれは『狩り』であり、戦闘とは違います。実際にやってみせるので、しっかり見学してください」
「分かりました」
物覚えがよく、人の話をよく聞く、善なる人だった。しかし───
「獲物を追うときに殺気を出しすぎです。それではどこから襲ってくるかがすぐに悟られてしまいます」
絶妙に狩りの才能がない。いや、ないわけではないのだ。弓はうまい。罠を仕掛ける場所も優秀だ。しかし、どうにも殺気が抑えられていない。
「どうすれば良いのでしょうか·····」
水浴びをしながら、女は考えていた。
殺気を抑える方法。あるいは、隠す方法。何かしらの対策を考えなければ、『狩り』の腕は上がらないだろう。ここは多くの人間がぶつかる壁である。しかし、ここまでのものは今までなかった。
「·····おそらく、自分の中で無意識のうちに、命のやり取りは全て『闘争』であると思っているのかもしれません」
そう言った彼の姿は、少し小さく見えた。彼自身、一向に改善しないことに焦りと申し訳なさを感じているのだろう。
ぽちゃ、と音がした。音がした方向を向いても、何もいなかった。気のせい、だろうか。