「フッ!」
「あっぶね」
下界最高の技を持つ者たちが組み手をしている。
「ふー。結構強いな」
「なにが強いだ。汗ひとつ掻いていないくせに」
「そりゃあ俺最強だし。お前には負けないぞ」
「本当にイラつくなお前は」
「事実だろ」
「クソガキが」
男と女が言い合っている。
男は200cはある長身かつ鍛え上げた筋肉を備えた超人。
女は170cあるかどうかという、女性にしては背が高いが、男と比べると子供のようである。
「───本当に、行くのか?」
「行くよ。行かなきゃいけない」
「お前はまだ14だ。肉体の全盛期はまだまだ先だ。お前はまだ強くなれる。なのに、行くのか?」
責めるような声で、女は言う。
「『黒竜』は待たない。約束の時間が来た。これ以上は無理だ」
諭すように、男が言う。
「·····ベルを泣かせたら殺すぞ」
「分かってる。絶対勝つ」
「アル!誕生日おめでとう!」
「ありがとう、ベル」
今日は俺の誕生日。この『聖夜』に俺は生まれた。今年もベルが俺のためにケーキを用意してくれている。
「うおでっか」
年々ケーキは大きくなっている。今では広さだけでなく高さもある。
ゼウスは『ウェディングケーキ』とか言っていたか。
今日、俺は『黒竜』と戦いに行く。
負ければ俺は死に、誕生日と命日が同じ日になる。祝う時に便利かも。みんな覚えてくれそうだし。
なんて、くだらないことを考えていたら。
「アル」
「················」
気まずい。ベルがなにを言いたいかわかる。
俺に、行って欲しくないんだろう。
「帰ってきて」
────。
「待ってるから。信じてるから。だから、帰ってきて」
────。
「アルは、絶対勝てるから、行かないでとは言わないよ。でも」
「でも、帰ってきてね。絶対、帰ってきて」
────ああ、本当にいい女だ。俺を信じてくれている。俺の勝利を疑っていない。俺を『英雄』だと思っている。
俺は、ベルの『英雄』になれていた。ああ、本当に────
「────ありがとう」
「それで、その、プレゼントが、あるんだけど」
「プレゼント?なになに?」
「み、耳貸して」
「ん?」
────。
「帰ってきたら、もっとあげるよ」
────。────。
「僕、アルのこと、好き!」
『竜』は目覚めた。
己を縛っていた風の大精霊の封印も、もはや止めることはできない。
元々封印などいつでも突破出来たが、わざわざ約束の時間まで待った。
時は来た。『英雄』は現れた。
今こそ、下界の終末を告げよう。
「行くぞ。これが、最後だ──」