「デートに誘うか?しかし見たこともない。そういうものは今まで無関心だったからな」
悩んでいるのはこの男。今まで強さだけに興味を持ってきたが故にどうすれば他人に愛されるのかわからない孤独な生き物である。
「
デートのなんたるかを知らない彼は手本を求めた。そして、閃いてしまった。
「────あ」
変神魔法。
魔法には集中力が必要である。もしも途中で魔法の発動を投げ出したりしたら不完全な発動となり、本来の効果には及ばない結果が残る。
では、この魔法の場合、どうなるのか。
「《余は人ならざるもの。全知全能なりし神々の王。全ての父、天空を統べる者。すなわち、至高なる神である》
答えは────
「────フ」
「フハッ」
「フハハハハハ!」
「いい気分だ。素晴らしい!」
「
不完全な変神。人と神の意識が混ざり合った、若かれしゼウス。奪い、犯し、征服した頃の大神が、下界に生まれた。
「飯だ!戦いだ!女、女はどこだ!」
本能が求めるままに、全てを得ようとして───
「いや、いや。今回は女だけにしよう。ただしとびきりいい女だ。妥協して何が神か」
少し本来の目的を思い出した。人としての意識が残っているが故の修正。虚な夢の中のような気分ではあったが、アルケイデスは意識を保っていた。
「───お。超いい女発見♡」
「ゼ〜〜ウ〜〜スゥゥ!!」
「ひえ〜」
ヘラがゼウスにキレている。相変わらずゼウスがセクハラをしたようだ。
「絶対逃さない!草の根かき分けてでも見つけて『お仕置き』してやる!」
そんなヘラに話しかける勇者が現れた。
「なぁ姉ちゃん。
「はあ!?お呼びじゃないのよ!誰だか知らないけど、今忙し、い········」
言葉が、途切れる。
「まあまあそう言わずに。
「え!?あ、あなた、アルケイデス!?若い頃のゼウスにも変神できたの!?」
結婚した頃の
「あれ、
姉ちゃんみたいな美人さん、忘れるはずないんだけど」
しかし男は女神を
「まあ知ってるなら話が早いな。退屈はさせない。
しかしそんなことはどうでもいいと言わんばかりにデートに誘った。
まるで若返った旦那のような男からのデートの誘いに、女神は──
「──退屈、させないでよね」
「すごいだろ。これ一から人の手で作ったんだぜ?信じらんないよな」
「へえ!なかなかすごいわね·······」
街を歩く。ただそれだけでも男は話のネタを見つけ、女神と話をする。目的地に着くまでの道のりも思い出に残るように。
「お。着いた。ここが目的地だ」
やがて、目的地に着いた。しかし······
「·······ここ?ただの家じゃない」
そこはただの家。
デートに向く場所では無さそうだが······
「それは入ってからのお楽しみだ」
中に入ると、そこは工房になっていた。
「これは······」
「手癖でな。時々なんか作りたいなぁって思った時に好きなものを作ってここに置いてるんだ」
剣、槍、盾、鎌、鎧など、戦いに使うものや······
「ねえ、これって······」
「ああ、機織りをした時の布だな。とりあえずタオルとして完成させたんだが」
タオルやアクセサリーなど、様々なものがあった。
「この、刺繍してある鳥────」
「ああ、郭公だよ。なんかビビっときて郭公の刺繍にしようって思ったんだ」
「···········」
女神は思い出す。結婚した時のことを。
あの時も、郭公が···········
「···········ねえ。これ、貰えないかしら」
「え?いいけど、そんなタオルでいいのか?今の
「これでいいの。これが、いいのよ」
「···········へえ。気に入ってくれたならよかった」
「あ、ジャガ丸君の売店やってるじゃん。ほら、一緒に食おうぜ!」
「女神に食べ歩きさせるなんて、罪な男ね」
「とか言って、結構楽しんでんじゃん」
家から出た彼らは昼になったので食事をしていた。
「やっぱり人の営みは見てて面白いよな。世代を経て積み重なっていく技術、想いは『不変』の神ではあり得ないものだ」
「ええ。私も結構好きよ」
『超越存在』故の会話。天上から人を見ていた神だからこその視点。
感性という面で、彼らは近しいものがあった。
「あ、やっぱり?他の遊びに来た神とはなんか違う感じするんだよね、姉ちゃん。人の輝きとか好きそう」
「それも好きよ。特に、伴侶の為に命懸けで戦う夫とかは応援したくなるわ」
「乙女だねぇ。顔は美人だけど、中身は少女って感じだ」
「あら、悪い?」
「全然。むしろより魅力的に見える。········ん?」
「どうしたの?」
突然、男が止まり、頭に手をかざす。
「··············いや、俺は大丈夫。ちょっと目眩がしただけ。気にしないで」
「体調管理、ちゃんとしてるの?」
「いや、俺は風邪とか引かないし········」
「駄目よ。しっかり食べて、夜更かししないで寝なさい!」
「········ははっ。なんかお母さんみたいだな」
「まったく········」
昼が過ぎ、辺りが暗くなってきた。
「今日は意外と楽しかったわ」
「そう?それなら良かった」
二人は、別れようとして········
「───なあ、ヘラ。俺と結婚してくれ」
突然の、告白が男から飛び出した。
「貴方のことが好きだ。欲しい」
正直過ぎる告白に、女神は───
「───おい」
『神』が現れた。
「
『神』を気にせず、男は女神の返答を待ち·········
「───ごめんなさい。私は、この人の妻なの」
「···········あーあ。振られちゃった」
「········これか?いや、しかし··········」
「アルフィアちゃんじゃん。何してんの?」
「··········お前、そんな喋り方だったか?」
「あれだよ、魔法。ゼウスに変神するっていうやつ」
「いや、それにしては前と雰囲気が······」
「いろいろあって、不完全な変神なんだ。それより、なーに悩んでたの?」
「··········もうすぐ、妹の誕生日なんだ。そこで、プレゼントを用意しようとしたのだが··········」
「良いのが見つかんなくて困ってるってことか」
「このこと、妹には··········」
「言わないよ。俺、口は固いんだ」
「どうだか。それで、何か案はあるか?」
「うーん。··········あ、そうだ。アルフィアが自分で作ってみれば?」
「自分で?」
「その方がメーテリアも喜ぶだろ」
「······しかし、何を作る?」
「······あ、いいこと思いついた」
「おー。結構出来てんじゃん」
「当然だ。この程度、私が出来ないはずがない」
「スッゲー自信。まあいい出来だし、メーテリアも喜ぶと思うぞ」
「なら、いいが。······その」
「ん?」
「··················ありがとう」
「······俺、お前の笑ってる顔、好きだぜ」
じゃあな。と言って、男は何処かへ行った。
「まったく。············そういうことは魔法を使っていない時に言え」
女は、笑った。
ヒント:彼は魔法を使っている時と使っていない時で一人称が絶妙に違う