剣戟の音が響いた。
200c以上ある黒い戦士が猪人を一撃で下した。
側にはそれ以外にも大勢の被害者がいる。もはや原型がわからないほどやられているものもいる。
「失望」が、黒い戦士に刻まれる。
……こんなものだったのか、と。
確かに自分はこの場の何よりも格上である。膂力、技術どちらを取っても自分に勝てるものは人類ではほんの一握りだろう。
しかし、それでも。格上に挑戦、否、《冒険》するのが冒険者だ。そして、自分程度に負けるようではあの『黒き終末』には勝てない。
終末を乗り越えるほどの英雄を、強者を生み出す必要があるのだ、と。そう再認識した。
「なんだよこれ。ヤバいって聞いてたけど想像以上だな」
若い、黒い戦士と比べれば『弱者』であろう少年が、呟いた。
「……なんだ、小僧。わざわざ死ににきたのか?」
「違う。俺はさっさと用事を済ませて村に帰りたいだけだ」
でもまあその前に人助けか。周りの様子が見えていないように少年が独り言を言う。
気でも狂ったのだろうか。打ち捨てられる無惨な死体たち。年若い少年が狂うのにも納得がいく。
だが……
「じゃあまずはあんたをぶん殴る。あとのことはそれから考えることにする」
圧が、少年から出た。戦士の周りの闇派閥達は泡を吹いて倒れる。
「……なかなか、捨てたものではないなぁ!」
この少年は間違いなく、『英雄』になる。
戦士は少年の強さを感じ取っていた。
「いくぞぉ!」
黒い戦士が剣を振る。それは竜すらも切断するほどの一撃。
膂力だけでなく、技術も最高峰の戦士が振るう一撃。喰らえば深層のモンスターですら致命傷になりうるだろう。
猪人の戦士を下した一撃が、少年に振るわれ……
「フン!!」
筋肉が、その一撃を凌駕した。
驚く戦士が次の一撃を繰り出す、その前に。
「――――ウゥゥウオオオオォォォォォッッッ!!」
筋肉は一手を繰り出した。それはまさに竜の咆哮のような声だった。
ありとあらゆるものを自分の都合がいい方向に捻じ曲げる筋肉の一撃は、戦士に当たり、
「グオオオオオオオオオオォォォォォォッッッッッ!!」
しかし、戦士は「英雄」だった。
確かに強力な一撃だった。自分に迫るほどの。しかし、そこまでだ。
毒に冒されているとはいえ戦士は「英雄」。たった一撃で敗れることはない。
「ガァッッ!!」
先の筋肉の一撃で剣がどこかへ飛んでしまったことも気にせず、戦士は拳を繰り出した。大剣より破壊力は劣るが、出が早い。
パンッ と、音がした。拳が当たったその瞬間、少年は弾かれたように空を飛んだ。
この感触は――――
「強いな」
「それはこっちのセリフだ。まさかお前のような奴がいるとはな。今のは技術だな?」
確信を持ったように戦士はあの感触の正体に迫る。
「まぁ技術だな。全身の筋肉を脱力させ、柔らかくする。そうすることで打撃の衝撃を分散させた。剣じゃこうはいかなかった」
単純なことだ、とでもいいたげな少年だが、戦士は気づいていた。
――――できるかそんなもん!こいつがおかしいだけだ!
「はは………はははは!面白い!まだ失望するには早かったかもな!」