雪の降るその日が、女の誕生日だった。
「「「メーテリア、誕生日おめでとう!」」」
「みんな、ありがとう!」
彼女の誕生日パーティーには人、神問わず大勢やってきた。
「はい!これプレゼント!」
「あ、私も!」
「俺もだ!」
誰からも好かれる彼女に我先にと皆用意していたプレゼントを渡す。
「ほら、お前も渡せ」
「い、いや、しかし···········」
「大丈夫だ。お前は上手く出来てる」
女が男に急かされている。
「···········メ、メーテリア」
「姉さん!」
姉である彼女が、意を決して話しかけた。
「その、だな。私からもプレゼントが、あるんだ」
「······!どんなの?」
「私の手作り、なんだが···········」
それは、ぬいぐるみだった。
「───これ、兎?」
「へ、下手だったか·······?」
白い体に赤い眼。まさに兎だった。
「────ううん。すっごく上手」
「そ、そうか。それなら、良かった」
「姉さん、ありがとう!」
「────ああ、どういたしまして」
「────ふう」
「良かったな。大成功だ」
「··················は?お前、何の冗談だ?」
それは、兎だった。白い体に赤い眼。
兎の着ぐるみを着た男がいた。
「俺からのプレゼントだ。お前も今日誕生日だろ」
双子の妹が誕生日ならば姉も誕生日である。
誰にも祝われなかったわけではない。しかし、妹に比べればその数は少なかった。
「はい飲み物」
「·········それを脱ぐつもりはないのか」
「今日は着てる」
「お前、時々馬鹿になるな」
呆れたように女は喉を潤す。
「───そういえば、お前はメーテリアにプレゼントを渡したのか?」
「ああ、さっきやった」
「へえ。何を渡したんだ?」
興味を持って、女は聞いた。
「別に。ただの飲み物だ」
「お前が?普通の飲み物ではないだろう。どんな危険物を渡した」
疑いの目を男に向ける。
「ただの薬水だ。ちょっと効果が高いだけで悪影響はない」
「信じられんな。お前は突如としてあり得ない行動をする事がある」
「本当だって。お前も違和感がないだろう?」
「───は?」
何を言われたのかわからない、という顔で女は固まった。
「これがメーテリアからのプレゼントだ。お前の病気を治してほしいってさ」
ほら、さっきお前に渡したやつ。と男は軽く言う。
「··········お、お前───!」
感情が追いつかなかったが、女は絡まった思いを男にぶつけて───
「───これで、一緒に居られるな」
「───」
「お願いが、あります」
白い女が話しかけてきた。俺がどう思っているのか知っているのに。
「姉さんの病気を、治してください。私にやったように」
「········あの時は、契約だった。アルフィアは対価を払った」
気まぐれのようなものだったが、それでもあれは契約だった。
「なんでもします。私にできる事なら、なんでもします。お金が必要なら、どれだけ時間をかけても私が用意します。だから········」
「お前如きの努力で、俺の望みを叶えることはできない」
縋るような声を、断つ。
「お願い、します。姉さんを、助けてください」
················。
「お願い、します」
「········なぜ、そこまでする。血が繋がっているとは言え、結局は他人だ」
「───家族、だからです」
「まあ色々あってな。メーテリアに頼まれた。『姉さんを助けてください』だってよ」
愛されてるな。と男は笑う。
「お前、メーテリアに何かしたのか?」
偽りを許さない目が男を見る。
「何もしてない。あいつは対価を払えなかったが、俺は満足できた」
「·········本当、だな」
「こんな格好してる奴が嘘言うわけないだろ」
「·········そういえば、お前の誕生日はいつだ?」
「さあ?」
「さあとは何だ」
「いや、俺親とかいないし。気づいたら森にいたから、年齢すら適当だぞ」
「───そう、だったのか」
恵まれた者。全てを持っている者。それが女から見た男だった。
男が孤独だということに、気付かなかった。
だから、これは気まぐれだったのだ。
「───なら、今日がお前の誕生日だ」
「じゃあそれで」
「お前、気にしないのか?」
「気にする。お前が決めたから今日でいい」
「·······それで、何が欲しい?」
「は?」
意識の外にあった質問に、今度は男が固まる。
「プレゼントだ。お前が私に渡した以上、私もお前に渡さなければならない」
「欲しい、もの·······」
「何でもいい。言ってみろ」
「───『愛』が、欲しい」
「──────」
「お前が妹に向けるような、妹がお前に向けるような『愛』が欲しい」
心の奥底にあった願いを、男は放った。
「───なら、『英雄』になれ」
女は、返す。
「私の愛は高いぞ?」
「········ハッ」
男は、笑った。
「お前の『愛』が手に入るなら、『英雄』くらいなってやる」
嘘みたいだろ?これ兎の顔で言ってるんだぜ?