「◾️◾️◾️────!!!」
「う、うわあああああ!!」
「キレすぎじゃろ!」
《獣》が腕を振れば、森が削れる。
ふざけた話だが、《獣》の腕力を持ってすればこの程度容易く出来る。
怒りに身を任せ、全てを薙ぎ払わんとする《獣》を神達はなんとか宥めようとする。
「落ち着け!自然を壊しすぎだ!」
「あっちにいい姉ちゃんがおったぞ!」
「それで釣られるのはゼウスだけだ!」
必死の説得に《獣》は耳を貸さない。ただ衝動のまま破壊を続ける。
「そうじゃ!魔法を使えアルケイデス!」
「··········」
《獣》が止まる。
「··········《余は人ならざるもの。全知全能なりし神々の王。全ての父、天空を統べる者。すなわち、至高なる神である》
魔法を詠唱し、《獣》が『神』となり────
「――ゥゥウウウォォオオオ――!!」
あまりの自我に『神』が塗りつぶされた。
「ゼウス!?なぜか悪化しているぞ!?」
「気のせいじゃ!」
「オオオオオオォォォォォォッ!」
「雷を纏い始めたぞ!?本当に気のせいなのか!?」
「ヤッベ〜〜!」
「·······ふう。今日も、なんとかなった······」
《獣》は朝と昼は暴れ、夜が近づくにつれて凶暴さがなくなっていく。時間が経つごとに怒りを忘れているのだ。
このままあと一週間も経てばある程度自制が効き、いつものアルケイデスに戻るだろう。
「水浴び、するか·······」
ここ数週間とんでもない《獣》の対処に追われ、アルテミスは疲れていた。
自分の眷属達にゼウスが覗きをしないように見張らせ、水浴びをしようと川に入った。
「────」
先客が、いた。
自分の眷属は全てゼウスを見張っているはず。《獣》ならば怒気がここまで伝わってくるはず。
つまり、この先客は自分の知らない誰かなのだ。女神は警戒心を強め、月明かりしかない薄暗い夜の闇に潜む先客の正体を知ろうとした。
「────」
それはまるで、燃え尽きた灰のようだった。
昼間の、まるで災害のような姿とは全く違う《獣》がそこにいた。
「──女神アルテミス。独り言を、聞いてくれないか」
「独り、言?」
「月しか聞いていないような、ただの独り言だ」
「··········聞きましょう」
疲れもあり早く休みたいだろうに、委員長気質と言われる生粋の真面目さ故に女神は独り言を聞くことにした。
「俺は、夢の中で毎日『英雄』と戦っている。
そういうスキルを持っている」
「あと、少しなんだ。毎回あと少しで負ける」
「毎日、毎日、毎日」
「ずっと『あと少し』が続く」
「技を使うことにした。力で勝つことを諦めた」
「魔法を使うことにした。自分以外のものに力を求めてしまった」
「ここまでやっても『あと少し』だ」
「あまりにも勝てないから、こうやって八つ当たりをして、また誰かに迷惑をかけている」
「こんなことをしているようじゃ『英雄』にはなれない」
「だが··········」
「··········少し、疲れた」
「疲れたんだ」
それは、当然のこと。
睡眠時は毎回夢の中で戦っていると考えれば一年で300回以上戦うのだ。
しかも、戦ったあとの敗北感が起きてからも残り続ける。気が狂わない方がおかしい。
それは、彼があまりにも強大であった為誰も気が付かなかったこと。
彼は、孤独だったのだ。
故に、『愛』を求めた。
しかし、戦っても戦っても勝てない。『英雄』にはなれない。『英雄』になる事が『愛』を得る条件なのに、その途中で『愛』が必要なのである。
端的に言えば、彼は疲れていた。
「··········」
懺悔のような独り言を聞いた月の女神は───
「··········貴方は一度、別のものを頑張ってみませんか?」
「別の、もの··········?」
新しい道を、提案した。
「確かに下界の子の寿命は短く、生き急いでしまうでしょう。しかし、それらが生きるということの全てではありません」
「一つの道を行くのもいいですが、たまには他の道を進んでみるのも大切です。視野が広がります」
私も知り合いの女神にそう言われただけですが。と女神は言った。
「別の道といっても、何をすれば···········」
「手探りで良いのです。その思考が、苦悩が、貴方を成長させてくれるでしょう」
ですが、そうですね。
「自分で何も思い付かないというのであれば、私が『狩り』を教えましょう」
このあと互いに裸ということに気付いて気まずくなった。