切り裂くような流星が『夜』を襲った。
それはまるで夜空に輝く星々のようで·········
「ガァァァァ!ガァァァァァ!」
しかし、『夜』は滅びない。夜空に星があったところで『夜』が消えるわけではないのだ。
『夜』はいまだに際限なく広がり続けている。
弓はあくまで貫通に重きを置いた武器であり、
無限にも思える『夜』は相性が悪かった。
そもそも本来無形である『夜』には物理的接触が出来ないはずである。『狩人』の技が神に迫っているからこそ『夜』を切り裂けたのだ。
このままでは下界が『夜』に飲み込まれ、滅びるのは時間の問題だろう。
『夜』は多くの生命にとって休息の時。
活動をする時間ではない。
『夜』に飲まれた場所では生命の動きが鈍化し、停止に近づいている。それは『狩人』ですら例外ではなかった。
「ヌンッ!!」
しかし、『狩り』の本質とは耐え忍ぶ事。獲物が罠にかかる瞬間をただ待ち続けることもあるのだ。
忍耐力という面で『狩人』に勝てる存在はこの下界には存在しない。
「ハッッ!!!」
矢が放たれる。
「ガァ!ガァァァァァ!!」
先ほどよりも密度が増し、『夜』の一部を塗り潰すことが出来た。しかしそれも一時的なものであり、致命傷には至らない。
致命傷には至らなかった。しかし、面倒だ。
いちいち貫かれるのも気に入らない。
『烏』は、すぐに『終わらせる』ことにした。
「·········!――ガッ!グオオオォォォ!!」
それは、概念的な攻撃。『神の力』だからこそ為し得たこと。
『烏』は広げたその
今『狩人』の肩には広がった『夜』の重みが掛かっている。
『狩人』は動きを鈍化させられながら、そのうえ『夜』を背負って戦わなければならない。
そうこうしているうちにも『烏』はその
『狩人』ならばこの重みを投げ出し、『烏』と戦い続ける事が出来ただろう。
しかし、『狩人』が背負わなければこの重みが下界に降り注ぐ。それすなわち下界の滅亡である。
「アルケイデス!詠唱をしろ!魔法を使うんじゃ!」
大神は最適解を『狩人』に伝える。
確かに、魔法を使えばこの『夜』を掌握することも出来るだろう。
「少し、黙れ·········!」
『夜』にその身を潰されかねないこの時に至っても、『狩人』は自身に『魔法を使う』という選択肢を与えなかった。
『狩人』が、『空』を支えている。このままでは勝てない。この『夜』は日が出ても関係なく続くだろう。持久戦に意味はない。
故に、もう一人の『狩人』がこの行動に走るのは当然だった。
「───カリスト!『矢』を
「は、はい?」
「急ぎなさい!一刻の猶予もないのです!」
「わ、分かりました!」
「さっきアルケイデスが踏んだ『蠍』は使えるぞ。加工に時間はかかるだろうが··········」
「儂も手伝おう。アルケイデスが『空』を支えているうちに『矢』を完成させなければ下界の滅亡じゃ」
『矢』の完成。それこそが勝機だと『狩猟』の
女神は看破した。
さらに重みが増した。『夜』はもはや大陸全土に及んでおり、『狩人』は『空』を背負っている。
「グ、グウウゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!」
あまりの重みにもはや弓を持つ事すらままならなくなり、『空』を支えることで精一杯だった。
「出来たぞ、アルケイデス!」
ここで女神達が『矢』が完成させた。
それはまるで『槍』だった。女神の腕よりも太く、明らかに『矢』として使う事を考えられていないような形だった。
しかし、ここでまた問題が起きた。『狩人』が『矢』を番える事が出来なかったのだ。
そもそも弓を持つ事すら出来ていない。『空』を背負ったままでは弓を引くことは出来ない。
このままでは··········
「アルケイデス。私を、信じてくれるか?」
───当然だ。《獣》に新たなる道を示した女神に対して、『信じない』などという恥を晒すことは死んでも出来ない。
「私が狙いを定める。お前が『夜』に届かせろ」
言葉も、合図も、必要なかった。
「――ゥゥウウウォォオオオ――!!」
『狩人』が勢いよく『空』を押し上げる。
「ハァァァァッ!」
『狩人』が弓を引き、狙いを定める。
『空』が再び落ちてくるまでの、ほんの一瞬。
「「──────」」
『狩人達』が、『矢』を放った。
「ガァ!ガァ!ガァ!」
『烏』は嘲笑う。
チクチク自分を貫く『矢』は鬱陶しかった。
しかし、そこまでだ。自分の命には届かない。
下界にこの身が降り注げば、そのまま───
ギギギ、ギギギと音がした。まさに『異音』。
『烏』は異音の原因を探した。
───これだ。この『穴』が異音の原因だ。
この、
·········?なぜ、穴が開いている?
「知らないのか?『夜』の星の中で、最も大きく見える『月』を」
『月』?『月』だと?そんなもの、『夜』の一部に過ぎない。『夜』が滅びることは───
「まだ気づいてないのか?」
「お前、もう消えかけだぞ」
───消える。消える。『夜』が消える。
「ガァ!ガァ!ガァ!ガァ!」
いやだ!消えたくない!いやだ、いやだ!
「うるせえな。囀るな」
いや───
アルケイデスが『烏』の頭を殴って潰した。
これにて、一件落着───
「───いやいやいや、何じゃ最後の!?明らかにおかしいじゃろ!?」
「なんだよゼウス。なんか文句でもあんのか」
「あるに決まっとるじゃろうが!さっさとどうなってたのか言えい!吐け!」
ゼウスは明らかに取り乱している。
「何って··········ただの『月』だけど?」
「ハァァァァ???共通語で話せよおいィ!」
「落ち着けゼウス。ヘラにキレられてる時よりおかしくなってるぞ」
「おかしいのはお前じゃい!」
場が混沌としてきた。先ほど下界を救ったばかりとは思えない光景である。
「アルケイデス!貴方は私を上回る弓の名手です!貴方は間違いなく下界最高の狩人です!」
「いえ、あれは貴女様が狙いを定めてくださったおかげです」
負けず嫌いな
知神が知れば間違いなく信じないだろう。ましてや弓の巧さで負けを認めるなど、天が落ちてくるほどあり得ない。
「女神アルテミス。貴女に最大の感謝を。道を示してもらったばかりか、命まで救われました」
「私も鼻が高いです!私が弓を教えた子が人の身でありながら『神の力』すら超えるだなんて!」
気が狂ったゼウスをよそに、『狩人』達は会話をしている。
「あれは貴女様の協力があってこそでした。それに武器の性能もありました。私だけの力ではありません」
「だとしても、貴方がとても、とても優れた弓手であることに変わりはありません!私ですら『神の力』を使ってもあの一撃は再現出来ません!」
女神は興奮している。数億年生きて初めて見た弓術に、『未知』に興奮が抑えきれていない。
「あれはあの時思いついたのですか?!」
「はい。
『最強』ではなく『最高』。『最強』に繋がりはするが、今まで追い求めていたものとは別物。
あの時の女神の提案がなければ無かっただろう考え方が、彼を成長させた。
「オラ!結局なんなんだよアレ!!」
「あの一撃は全ての道理を無視し、結果を出す『最高』の一撃だ。夢に出てくる『英雄』は、素手でこれが出来た」
自分の思い通りの結果を出す『英雄』の力を、彼は再現してみせた。
「一歩近づいた、かな?」
「お前やっぱおかしいよ··········」
これがなくちゃ『英雄』にはなれない。