「──────」
「───いくぞ。これが最後だ」
下界最高の筋肉を持つ『英雄』が拳を振るう。
「───」
「グオオオオッッ!!」
世界の理すら無視して『勝利』を齎す『英雄』の一撃を、『英雄』の資格を持つ天才は逸らした。
これこそ『神』の技。全ての『勢い』を手中に収める超常的技術。
「がァァアァアァァァァァ───!!」
「────」
天才も負けじと拳を振るう。
単純な筋力で負けていても、『神』の技の補助があれば同じ土俵に立つことは出来る──!
「────」
「──くっ」
だが、『英雄』はこの程度で倒れない。
攻撃だけでなく、耐久であっても下界最強なのが『英雄』である。
このまま殴り合っても、『英雄』が勝つ──
「フンッッ!!」
「────!」
など、天才は知っていた。故に切り札を使った。
海を泳いでいた時に思いついた『波』。
天才がたこの怒りによって完全に開花させたこの技は、内側へ衝撃を与えることに特化している。
本来天才ならばただ殴れば勝てるが、『英雄』と戦うためだけにこの技を作った。
「────!」
「マジか………!」
しかし、それすらも『英雄』は耐える。
「………ッ!」
「────!」
『英雄』の一撃が、放たれる。
「………ぐ、がッ…」
「………またか」
男と同じベッドで寝ている女は、男が苦しむ様子を見て息を吐く。
男は『夢』で戦っている。『英雄』が、男に立ち塞がる最後の壁なのだ。
「…さっさと、勝て」
女は待っている。他ならぬ男、『英雄』を。
あの時の約束を、待っている。
「ッ……ゥ、ゥウ――ッ……――ゥゥウウウォォオオオ――!!」
「────!」
二人の男が取っ組み合っている。圧倒的な力と技の応酬。もしもこれが夢でなく下界だったら、その余波で世界は荒れ果てただろう。
「――――ウゥゥウオオオオォォォォォッッッ!!」
殴る。蹴る。掴む。投げる。
力に差はあったが、天才は食らいついていた。
「──────!」
しかし、『英雄』にはまだ少し足りない。一撃に差は
「「────────」」
『英雄』も気付いている。故に、こうなることは必然だった。
「──────!!!」
ギギギ、ギギギと音が聞こえる。『英雄』が拳を握っているのだ。
これは『英雄』の慈悲。
このままでは『英雄』の勝ちは当然。だからこそ、これを最後の一撃にする。
決着は、この一撃で決まる。
筋肉で負けた。その圧倒的な力に憧れた。だからこそ、知っている。
『英雄』が拳を握ったならば、誰も勝てない。
全ては『英雄』の一撃に沈むのだ。
「───」
ふと、唇に何かの感触があった。
理屈ではない。心で、
「――ッ……――ゥゥウウウォォオオオ――!!」
ならば、負けるわけにはいかない。
俺は『英雄』になるのだ。
『英雄』が拳を放つ。
「──────!!!」
この世で最も強い一撃。これを超えうるものは存在しない。
アルケイデスは、一撃を受け入れて────
「がァァアァ嗚呼亜阿猗婀亞――!」
『神』の技の応用。『勢い』を手中に収める御技は、『英雄』の一撃すら操った。
そして、その『勢い』をそのまま自身の攻撃へ転用する。
「──────!!!!」
当然、『英雄』はそれに気付き、再び拳を振るう。このままアルケイデスが拳を放っても『英雄』には届かない。また、負けるだろう。
『英雄』は、少し残念そうにして───
「 」
『勢い』を全て威力に変換する灰の魔女の技。
二つ名からとったその技の名を───
「『静寂』!」
拳が、ぶつかる───!
「「雄々々々々々――――圧々々々々々々々――――ッッッ!!」」
二人の【力】がぶつかる。
「アアアァァァァ噫亜嗚痾翹婀堊!!!」
「────────!」
本来、『英雄』の一撃に敵うものはいない。
しかし、これは『英雄』の腕力に『神』すら超える技を合わせたあり得ざる一撃。
この瞬間、この時だけ、『英雄』の一撃を超える【力】は成立した。
「─── アルフィアァァァァァ!」
男が、女の名を呼ぶ。
「───愛してるぅぅぅぅぅ!!!」
『英雄』が、笑った気がした。